WNT2と自閉症
:CLSA研究追補

Wassink TH, et al. Evidence supporting WNT2 as an autism susceptibility gene. Am J Med Genet 105: 406-413, 2001.

訳者コメント:

CLSA研究グループ(ゲノムスキャン研究)からの付加的論文です.候補遺伝子を予想してピンポイントで検討を進めるやり方です.連鎖不均衡の検討のために単一塩基多型(SNP)を使っており,研究方法の変遷の過渡期の論文と言えます.狙っている部分が第7染色体長腕ですので,既にご紹介しましたKE家系で同定されたFOXP2の自閉症における意義が今後報告された場合に,WNT2は単なる連鎖不均衡ということになる可能性があります.おそらくこのグループ(CLSA)も,KE家系で同定されたFOXP2の変異の有無を手持ちのサンプルで大急ぎで検討中と思います.WNT遺伝子ファミリーはプロトオンコジーンに属しており,発達(パターニング),癌化(アポトーシス),シグナルトランスダクションなどに関連していることが明らかになっています.考察の最後のところの,WNT2がSPCH1の候補である可能性は,既にないことが判明しています(この論文より後にSPCH1がFOXP2であることが報告されました).

(概訳)

概要:我々は以下の理由からWNT2を自閉症の候補遺伝子のひとつとして検討した.まず第一に,WNTファミリーは中枢神経系を含む多くの器官やシステムの発達に影響を与える.2番目に,WNT2は自閉症に連鎖していると言われる7q31-33の位置に存在しており,またこの部分は自閉症者で報告された染色体異常の断端に一致する.3番目の理由は,WNTパスウェイの機能に不可欠な遺伝子ファミリーのメンバーであるDvl1のノックアウトマウスは,社会的相互反応の欠失で特徴付けられる行動表現型を呈する.我々はたくさんの自閉症発端者においてWNT2のコーディング配列に変異がないかをスクリーニングし,家系の中で自閉症といっしょに分離されるコーディング配列の非保持的変異(アミノ酸の質的変化を伴う変化)を持っている二つの家系を発見した.我々はまた,WNT2の3'UTR部分(転写されない部分)の単一塩基多型(SNP)が,自閉症有症候兄弟ペア家系およびトリオ家系(単発家系)において自閉症と連鎖不均衡にあることを同定した.この連鎖不均衡は,検討した自閉症有症候兄弟ペアサンプルの中の重篤な言語異常を有するサブグループに排他的に由来しており,我々が以前報告したゲノム全長にわたる連鎖スクリーニングの結果の第7染色体長腕における連鎖の証拠とも関連している.さらに,発現解析によりWNT2発現はヒトの視床に見られることが明らかになった.これらの所見に基づき,我々はWNT2遺伝子にまれに生じる変異が単一コピーの場合(ホモでない場合)でも自閉症の易罹患性を有意に増加させると仮説を立てた.また一方,同定されていないより一般的なWNT2対立遺伝子(1個あるいは複数)で,自閉症により弱い程度に寄与するものが存在する可能性もある.

イントロ:自閉症は行動学的症候群であり,社会性相互関係の障害,コミュニケーションの障害,特異的儀式的反復行動,特異的な経過を含んでいる.オンセットは典型的には会話や複雑な社会的相互関係などの関連行動が見られるようになる年齢で,症候は一般的には一生続く.双生児研究は,自閉症になり易い傾向は遺伝的に規定されている部分が大きいことを明らかにし,また,兄弟相対比(一般頻度に対する倍率)は50から100で,遺伝性予想値が90%ということになる.これらの研究はまた,自閉症の遺伝モードが複雑であることも示唆している.この複雑性は,付加的,相乗的,非対立遺伝子相互的(epistatic)あるいは未知の作用のいろいろなコンビネーションで複数の遺伝子が相互に作用しているようである.予想されている遺伝子の数は3から15以上である.

このような遺伝に関するデータは,自閉症易罹患性に関与する特異な遺伝子を同定するための協調的な研究を誘導してきた.そして7q31-33部分が注目を集める部位として出現した.第7染色体長腕の広汎な部分での連鎖に関する示唆的証拠は,自閉症のゲノム全長にわたる2つのスクリーニング研究により発見された(IMGSACとCLSA).一方Phillippeらのゲノムスキャンはほとんど有意でない陽性スコアを報告した.7q部分にかなり限局した検討(Ashley-Kochら)でも,連鎖の示唆的証拠が提出され,この連鎖の部分は7q31-33で研究間で最も一致している部分である.加えて第7染色体長腕の染色体異常は7人の自閉症者において報告されており,その多くはやはり7q31-33部分を含んでいる.最後に,関連する表現型に関するデータも,この遺伝子座を支持しており,一大家系(KE)における特異的言語障害と複雑な会話表現型の両方が7q31-33における遺伝子マーカーに連鎖あるいは関連しているので,この遺伝子座は自閉症の言語障害における特徴に特異的に関連しているのかもしれない.

このような証拠に基づき,我々は自閉症候補遺伝子を探して,7q31-33部分を検討し始めた.そして我々はWNT2(wingless-type MMTV integration site family member 2)に注目した.WNT2は問題の連鎖領域にあり,一人の自閉症者においてみられた染色体異常の断端が遮断していた遺伝子RAY1(自閉症には関連していない)のすぐ隣に位置する.WNT2は,十数個以上あるWNT遺伝子の中の一つで,WNT遺伝子はいろいろな組織において発達の途中で発現する.マウス,ミノカサゴ,Xenopusにおけるノックアウトおよび発現研究は,WNT遺伝子が脊椎動物の中枢神経系の発達とパターニングに特異的で重要な関与をしていることを明らかにした.さらに我々の興味をそそったことは,disheveled 1(Dvl1)のノックアウトマウスの報告がなされていたことである.WNTシグナルの伝播は,DVLファミリーに依存しており,Dvl1の欠損マウスでは,睡眠中に体を丸める行動の欠如,おりの中の仲間との毛づくろいの消失,母性行動の消失などで特徴づけられる社会的相互作用の減退からなる表現型が記載されたのである.

WNT2が自閉症の表現型に寄与している可能性についての我々の検討は以下の内容を含む.第一に,親族関係のない多数の自閉症者とコントロール対象において機能的な配列変異を探してコーディング配列をスクリーニングする.第二に,問題の部位の単一塩基多型(SNP)を使い自閉症家系サンプル全部と,言語障害サブグループを対象として連鎖不均衡を検討する.三番目に,単一塩基多型における連鎖不均衡と我々の連鎖に関する以前の証拠の関係を検討する.4番目に,ヒト中枢神経系におけるWNT2発言を評価する.

対象と方法

対象
全ての自閉症発端者とその家族は,以前記載されたプロトコールでCLSA研究プログラムを通して集められ診断された.簡単に記載すると,家系サンプルはアメリカの3つの地域(Midwest,New England,mid-Atlantic)から4つの臨床データ収集施設(アイオワ大学,Tufts大学ニューイングランド医科センター,ジョーン・ホプキンス大学,ノースカロライナ大学)を介して集められた.全ての発端者は少なくとも3歳で,ADI-RとADOSまたはADOS-Gで評価された.有症候兄弟ペアあるいはトリオ家系が集められた.全ての兄弟ペアはADIアルゴリズムの自閉症基準を満たしている.脆弱X症候群や自閉症に関連する他の神経学的あるいは医学的状態を持つ発端者は除外された.全ての対象者あるいは適切な後見人からは本研究への参加に関して書面によるインフォームドコンセントを得た.

全サンプルを検討することに加えて,表現型で区別されるサブグループにおいても検討がなされた.7q遺伝子座の言語特異性の可能性を示唆する証拠と我々が報告したゲノムスキャンの結果に基づき,75組の有症候兄弟ペア家系は,会話および言語の特徴を基に二つのサブグループに分けられた.どちらの発端者も36ヶ月までにフレーズ会話ができない家系を言語異常グループに分類し,そうでなければ言語正常グループとした.フレーズ会話の正常オンセットの平均は18ヶ月で,ほとんどの一般ポピュレーションの子供は12ヶ月から24ヶ月の間にフレーズ会話を開始する.結局50家系が言語異常グループに分類され,残りの25家系が言語正常グループに分類された.さらに,最初のゲノムスキャンにおいて,親の表現型は不明として扱われた.しかし,言語関連解析のためには,親の言語表現型に関する情報は入手可能であり,直接質問法で集められた.会話開始の遅れが疑われたり明らかに会話開始が遅れた親,読み学習のトラブルがある親,スペリングに持続性のトラブルがある親は,言語異常グループに分類され,その他の親は言語正常グループに分類された.それぞれの発端者グループの中には言語異常の親と言語正常の親が同じ程度存在していた.(発端者で分けた)サブグループの連鎖解析では,我々の7q連鎖シグナルの全ては,言語異常家系から起こっていることが明らかとなり,言語正常グループからのシグナルは無視できるものであった.このことは言語障害が遺伝的に自閉症に関連しており,2次解析のためにより単一な家系サブグループを言語障害が定義するとする仮説を支持する.

変異スクリーニング
エクソンスクリーニングのためのDNAは,血族関係のない135人の自閉症者から集められ,比較グループは血族関係のない自閉症でないと思われる160人で民族性は同等.標準的方法で全血からDNAを抽出.2301bpのWNT2のcDNAは,1082bpのコーディング配列を(5つのエクソン)有している.イントロンとエクソンの境界は,cDNAをヒトゲノム配列とBLASTプログラムで比較して同定した.隣接するスプライス接合部の配列を含むエクソンは,全部で8つのPCR増幅産物でスクリーニングした.PCR増幅産物は全て250bp以下の長さで,スクリーニングはSSCP解析(single-strand conformational polymorphism:ゲルの条件をディネイチャーしないように設定することで単一塩基の違いをsingle-strand毎にバンド化して評価できる方法)を使用.

SSCP解析でシフトの見られたPCR産物は自動シークエンサーで両方向にシークエンスを行った.シークエンスデータはSequencher 3.1遺伝子解析コンピュータープログラムを用い報告されているWNT2のDNA配列と比較した.このような方法で検出された配列変異は,それからその発端者の家族で調べられた.

加えて,SSCPの感度は100%ではないので,全てのコーディング配列のPCR産物は,同じ自閉症サンプルの64例において完全にシークエンスを調べた.これらの64人は50例の言語障害自閉症有症候兄弟ペア家系の一人の発端者と,他の自閉症有症候兄弟ペア家系から無作為に選別した14家系の一人の発端者である.

連鎖不均衡
連鎖不均衡の検査は,75例の自閉症有症候兄弟ペア家系,45組のトリオ家系(一人の自閉症者と両親),そして自閉症有症候兄弟ペア家系を言語状態で分類した2グループにおいて行われた.3プライム端配列と5プライム端配列の多型ををSSCPを使いスクリーニングした.SSCPゲル上でバンドのシフトが観察されたPCR産物はシークエンスされ多型を確認した.それぞれの単一塩基多型のためにしっかりしたSSCPアッセイを構築し,複数発生自閉症家系とトリオ家系について,このSSCP解析で遺伝子型を決定した.この単一塩基多型で連鎖不均衡を検討するために,我々はWNT2が自閉症関連遺伝子であると仮定し,遺伝子座の非単一性を許容する見込み度比を計算した.その見込み度は2つのパラメーターからなり,ラムダはトリオ家系ではヘテロの両親が対立遺伝子1つを一人の子供に伝播する可能性で,自閉症有症候家系の場合は両方の子供に伝播する可能性である.アルファは,再配列率(recombination fraction)シータがほぼゼロである家族の比率で,1−アルファはシータが0.5の家族の比率.帰無仮説はラムダが0.5.再配列率は,WNT2がいくつかの家系において易罹患性遺伝子であると想定した場合の見込み度におけるパラメーターではない.

単一塩基多型と連鎖の証拠の関連
GreenbergとHodgeは連鎖不均衡と連鎖の関係を検討した.彼らは,もし両者が存在し,その対立遺伝子の有無を基盤にサンプル家系を分け,そして結果として生じる二つのサブグループにおける連鎖のための証拠を再評価することにより,連鎖不均衡にあるある対立遺伝子がまた易罹患性対立遺伝子でもあるのかを検証することが可能になると主張している.もしその対立遺伝子が易罹患性を持っているとしたら,この解析はその対立遺伝子と連鎖の証拠の間の関連を明らかにしていることになる.すなわち,その対立遺伝子が在ることで定義されたグループは連鎖シグナルの優位を保有しており,一方もう片方のグループはそうでないわけである.逆に,もし関連する対立遺伝子が直接的に易罹患性を持っていない場合は,サブグループ化は,結果として生じる二つのサブグループの間の比率的な連鎖シグナルを単純に分離していることになる.我々はゆえに,連鎖不均衡にあると同定されたマーカー全部を使ってこの仮説を検証した.

この解析は,言語障害自閉症有症候ペア家系に注目して行われた.なぜならこれらの家系は我々が最初に報告した連鎖の証拠の全てを実際に含んでいるからである.これらの家系は適切な単一塩基多型遺伝子型を基に二つのグループに分けられ,連鎖の証拠はそれぞれのグループで別々に検討された.我々の以前の研究結果を念頭において,我々はまず単純な劣性モデルで,浸透率を50%と仮定し,対立遺伝子頻度を0.10として,これらの2つのグループにおける全ての連鎖解析を行った.その後,我々のデータにとって最良の遺伝モデルを同定するために,同じ解析を行った.最後に,WNT2は第7染色体長腕の約125cMの位置にあるのであるが,104cMの位置で最大非単一性LOD=2.2を第7染色体長腕上の最強の連鎖シグナルとして検出されており,この場所を含む104-109cMの位置での連鎖に対するそのようなサブグループ化の効果を検討した.一方我々の検討では実際は7q31-33部位における連鎖の証拠は見いだせなかった.

ノーザンブロット解析
脊椎動物におけるWNT2の中枢神経系での発現は一貫性がなく,ヒトではまだ報告されていない.これを検証するために,我々はNCBIの遺伝子発現データベース(SAGE)を検索し,WNT2がSAGEタグを含んでおり,そのSAGEタグはヒトの視床のcDNAライブラリーにおいて高レベルに発現していた(タグ=CATCTGGTAT).この発現を確認するために,我々はClontech社のヒト脳のブロットキットを用いノーザンブロット解析を行った.このブロットにヒトのWNT2DNAプローブをハイブリダイズさせた.このWNT2プローブは,ヒトゲノムDNAをテンプレートとしてPCRで3プライム側の非転写領域の450bpである.プローブは放射性同位元素でラベルし,RNAコントロールとしてベータ-アクチンのcDNAプローブでハイブリダイズしなおした.

結果

変異スクリーニング
変異をスクリーニングした135人の自閉症発端者において,SSCPゲル上で変異が肉眼で同定されたのは3例で,塩基レベルの変異を持つことがシークエンシングで確認された.これらのうち,2つは非保持的な(異質アミノ酸への変化を伴う)アミノ酸変化をきたす変異で,残りのひとつはアミノ酸変異を伴わない変異であった.アミノ酸変異を伴う変異の両方とも,それぞれ片親が持っており,兄弟の中では自閉症有症候兄弟だけが持っていた.

(変異1) この変異はCからTへの変化(transition)で,1189番目の塩基で,299番目のアミノ酸をArgからTrpに変化させる.この部分はWNT-特異部位のエクソン5である.この変異が見つかった家族は両親と4人兄弟で,父親と2人の自閉症児がこの変異を持っており,母親と他の2人の兄弟はこの変異を持っていない.表現型においては,父親は自閉症の基準を満たさないが,小児期の会話,成人期の会話,読みに明らかな障害があり,文法言語スケールでも異常がみられた.母親は構造的な言語異常も文法的な言語異常も持っていなかった.

(変異2) この変異は14番目の塩基のTからGへの変化(transversion)で,5番目のアミノ酸がLeuからArgに変化し,これはエクソン1のシグナルドメインにおいて保持されているアミノ酸である.この変異がみられた家族は両親と2人の子供で(子供は2人とも自閉症),母親と2人の子供がこの変異を持っていた.父親はこの変異は持っておらず,この両親については詳細な表現型情報は得られていない.

これらの変異は両方とも,進化的に保持されてきた残基の変化である.160人のコントロールサンプルでは,全コーディング部位のSSCPスクリーニングではシークエンス変異は発見されなかった.64人の自閉症発端者の直接シークエンシングでもコーディングシークエンスの変異は他には見られなかった.

連鎖不均衡
非コーディング領域のスクリーニングでは,2つの単一塩基多型が明らかになり,一つは3プライム側の非転写領域の中に,そしてもう一つはWNT2から約0.5kbアップストリーム側に位置していた.3プライム側の非転写領域の単一塩基多型は,終止コドンからダウンストリーム側に783番目の塩基のCからTへの変化(transtion)で,一方5プライム側の単一塩基多型は開始コドンから519bpアップストリームの位置でのCからTへの変化であった.これらの単一塩基多型は75組の自閉症有症候兄弟ペアサンプルと45組のトリオ家系においてSSCP解析で遺伝子型タイピングが行われた.

3プライム側の単一塩基多型の伝播は見込み比が22.非対称的に,これはかい二乗値の6.2(P=0.013)に一致し,このデータは偶然で予想されるよりもより頻回にT-対立遺伝子が子供に伝播していることを示している.自閉症有症候兄弟ペア家系とトリオ家系を別々に検討した結果,ほぼ全ての連鎖の証拠は自閉症有症候兄弟ペア家系に由来しており,見込み比が21で,かい二乗値が6.13(P=0.013)であった.一方トリオ家系では見込み比は1であった.自閉症有症候兄弟ペア家系においては,言語異常家系と言語正常家系に分けて別々に解析すると,異常グループで見込み比は8.1,正常グループで見込み比は2.8となり,ほとんどのシグナルは言語異常グループに由来することが明らかになった.

対照的に,5プライム側の非転写領域の単一塩基多型は,不均衡を示さなかった.T対立遺伝子はC対立遺伝子よりも頻度が多く伝播していたが,有意差はなかった.言語で分けても連鎖の証拠は得られなかった.

我々はまた,3プライム側の非転写領域の単一塩基多型と5プライム側の非転写領域の単一塩基多型の間での連鎖不均衡も検討した.その結果,有意な連鎖不均衡の証拠は得られなかった.

3プライム側の非転写領域の単一塩基多型と連鎖の証拠の関連
自閉症と連鎖不均衡であることが示された3プライム側の単一塩基多型については,第7染色体長腕において我々が以前に示した連鎖の証拠との関連を検証した.言語障害のある自閉症有症候兄弟ペア家系(n=50)は,無作為に選んだ有症候兄弟のどちらかにおける単一塩基多型のT/T遺伝子型の有無で二つに分類した(ありが24例,なしが26例).2ポイントLODスコアを単一性と非単一性でそれぞれ計算し,T/T遺伝子型家系と非T/T遺伝子型家系で,我々の以前のデータで最も強力な連鎖があった第7染色体マーカーである D7S1813(104cM)とD7S821(109cM)の2ヶ所で検討した.両方のマーカーで,T/TサブグループにおけるLODスコアはトータルサンプルでの結果と比べてより高値で,非T/Tサブグループと比較するとかなり高値であった.

さらに,我々のサンプルにとって最良の遺伝モデルは,単純な(非遺伝性の多様性がない)劣性の浸透率100%のモデルであることがわかった.このモデルで,最大2ポイント単一性LOD値は,T/T言語異常サブグループにおいて3.7で,非単一性の証拠はなく,マーカーD7S1813の場所で再配列率は0.06と計算された.一方,非T/T言語異常家系における最大LOD値は0.14であった.

ヒト脳におけるWNT2発現
成人ヒトの大脳のいくつかの部分から分離されたポリA mRNAの解析は,WNT2発現が視床に見られることが示された.2.2kb以下と2.4kbの2本のバンドが見られ,他の組織で報告されたものと同じパターンであった.この2本のバンドは二者択一的なポリアデニル化によるものと言われている.全脳のポリA mRNAにおいてはシグナルは検出されず,このことはWNT2が視床のような脳の特異的な部位において低量しか発現していないことを示唆している.WNT2発現はまた16ヶ月から32ヶ月のヒトの全脳(胎児組織)のポリA mRNAにおいても検出されなかった(ノーザンブロッティング,Clontech社のブロットサンプル).そして胎児の視床は入手不可能であった.我々はWNT2の発現を胎児肺,成人肺,胎盤で確認した.

考察

上記のことがWNT2が自閉症の易罹患性遺伝子の候補であることを強力に示唆する.我々はこれらの情報に,WNT2遺伝子におけるまれなコーディング配列変異が例えシングルコピー(heterozygous状態)であっても強力に自閉症の易罹患性を増加させることを示唆するかなりのデータを追加する.一方より一般的なWNT2対立遺伝子があると,自閉症をより軽症にすることに寄与しているのかもしれない.

まず,我々は2つの非保持的な蛋白変化(アミノ酸タイプの変化)を伴う変異がWNT2の機能的に重要な部位にあることを発見した.この変異のある家系では,片親と自閉症有症候兄弟(両方)がこの変異を持っており,健常兄弟は持っていなかった(2家系).両変異(Arg299TrpとLeu5Arg)は進化的に保持されてきた残基の電気的状態を変化させるものであった.コントロールサンプル160例においては,このような変異は見つからなかった.

2番目に,我々は,WNT2の3プライム側の非転写領域における単一塩基多型における連鎖不均衡を明らかにした.この連鎖不均衡シグナルは,75組の自閉症有症候兄弟ペアサンプルにほぼ由来しており,45組のトリオ家系(一人の自閉症とその両親サンプル)よりも有症候兄弟ペア家系の方がより遺伝性が高いタイプの自閉症を含んでいることが予想される.これらの自閉症有症候兄弟ペア家系の中では,この連鎖不均衡はより言語障害の重症な50家系のサブグループに由来しており,我々が以前報告した連鎖の証拠に関連していることが判明した.最初のゲノム全長にわたる連鎖スクリーニングにおいては,我々は最大非単一性LODスコア2.2を第7染色体長腕の104cMの位置に報告した.今回の解析で,このスコアはT/T型の言語障害家系において3に近づき,非T/T型の言語障害家系においてはほぼゼロとなった.この相違は,100%浸透率の最良適合単純劣性モデルにおいてはっきりする.

しかし,説明を必要とする点は,WNT2の位置と連鎖の位置との間の距離20cMについてであり,この間隔は不均衡単独で説明するには離れすぎている.未知のメカニズムによって,3プライム側の単一塩基多型が,言語障害サブグループ内での非単一性をさらに減じて連鎖にとってより単一なサブグループを定義してしまったのかもしれない.しかし,この仮説では,T対立遺伝子が明らかに優位に有症候児に伝播していることを説明することはできない.他の説明としては,おそらくこの3プライム側の単一塩基多型を含むWNT2にあるいくつかの対立遺伝子が,連鎖のあるマーカー近傍にある第二の遺伝子と相互作用を有し,その相互作用の結果自閉症が表出することも考えられる.この仮説はそれぞれの遺伝子が同定されることにより支持されるであろう.

最後に,我々のWNT2遺伝子発現評価も,WNT2が自閉症の易罹患性遺伝子である可能性を支持している.WNT2の発現はヒトの視床に見られNCBIのSAGEデータベースから得られた結果が確認された.WNT2発現は胎児脳全体からは検出できず,このことは成人の全脳でも同じで,小さな部分での低レベルの発現は全体の脳を処理した検体では検出できないことを示唆している.また,マウスのWnt2の発現は中枢神経系では報告されていないが,Xenopusにおける類似体は発達途中の神経管においてその発現が同定されている.また,いろいろな脊椎動物における他のWNT遺伝子の多様な組織発現が報告されている.さらに,自閉症における脳機能の研究はほとんどないが,自閉症の病態生理の脳局在が視床である可能性はあり,視床を経由する前頭皮質下サーキットの活性が自閉症者において異常であることが報告されている.

おもしろいことに,WNT2のシグナリング経路に関与するたくさんの蛋白が,自閉症にいくらか関連する表現型に絡んで報告されている.Dvl1ノックアウトマウスが既に報告されており,また,6p21にあるNOTCH4にある多型マーカーあるいは,NOTCH4の近隣の多型マーカーが最近分裂病との強力な連鎖を持つとして報告されている.Notch蛋白グループは,直接的にWNT/DVLシグナリング経路と相互作用を持ち,神経突起の出現成長や発達を調節することが示されている.従って,この遺伝子ファミリーは精神科的および行動学的症候群の広汎な発現型に寄与しているかもしれない.

WNT2が自閉症関連遺伝子である可能性は,我々の所見を他の自閉症コホートで再現するか(and/or),連鎖不均衡の原因となっているより一般的な易罹患性対立遺伝子が同定されることによってさらに支持されるであろう.我々がコーディング領域の全体をスクリーニングした場合は,この対立遺伝子は非インスリン依存性糖尿病で最近報告されたケースのように,易罹患性対立遺伝子は非コーディング領域でみつかるかもしれない.ここで報告した3プライム側の非転写領域の単一塩基多型はそのような対立遺伝子の一つかもしれない.従って,WNT2発現に及ぼすこの単一塩基多型の影響を調べることは大事なことである.我々はまた,他の研究者も指摘するように,WNT2のイントロン部分の単一性とこの部位にWNT2発現を調節する部分が含まれている可能性を指摘しておく.加えて,自閉症に関連して報告された第7染色体長腕の染色体異常がWNT2発現に影響するかどうかを検討することを興味あるテーマである.最後に,我々のWNT2に関する所見の,自閉症における会話および言語異常に対する明らかな特異性は,WNT2がSPCH1遺伝子座および7q31-33に関連する特異的な言語障害表現型の両方の強力な候補の一つでもあることをも示唆する.


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