双生児妊娠は自閉症のリスク?

Greenberg DA, et al. Excess of twins among affected sibling pairs with autism: implications for the etiology of autism. Am J Hum Genet 69: 1062-1067, 2001.

訳者コメント:

コロンビアゲノムスキャン(論文版:文献1)とこの論文は,双生児例を含むAGREサンプルを使っており,コロンビアゲノムスキャンでは132家系中14家系(10.6%),サンプルが追加された本論文では166組中30組(18.1%)が双生児例としています.他のデータセットでの検討が待たれます.考察は結構おもしろいと思います.

(概訳)

概要:自閉症の病因においては遺伝子が役割を演じているという考えは広く受け入れられている.このことの証拠は,部分的には双生児データから得られる.しかし,遺伝子マッピング研究から集まる証拠にもかかわらず,遺伝的関与の部分ははっきりしないままである.それぞれの家系の中に2人の有症候兄弟が存在することで選別された家系のサンプルにおいて,我々は有症候双生児ペアの割合が,一卵性と二卵性の両方で著明に高いという結果を得た.166組の有症候兄弟ペアにおいて,30組が双生児ペアであった(一卵性が12組,二卵性が17組,不明が1組).予想値からのずれは統計学的に有意で(全双生児例でP<0.000001),I 型糖尿病で同じように集められたサンプルにおいては予想値からの有意な差はなかった.我々は,この自閉症における双生児例の過剰がサンプル収集時のバイアスのためであれば,非常に大きな収集時の因子が必要であろうことを示した.例えば,有症候双生児ペアは,平均すると,有症候非双生児兄弟ペアよりも10倍近くサンプルとして集まり易い必要があるようである(産み止め現象が役割を持つ場合は7倍).リスクファクター(双生児妊娠に関連するか胎児の発達に関連するもの)または親におけるその他の因子(遺伝性または非遺伝性)のどちらかが,自閉症に関与しているのかもしれない.

イントロ

自閉症は遺伝素因により強く影響を受けているということは広く受け入れられている.しかし,遺伝子マッピング研究から集まりつつある証拠にもかかわらず,自閉症のリスクにおいてどんな他の因子が役割を演じているかは明らかになっていない.特に,自閉症の病因において周産期因子が関与しているかについては議論が存在する.そして,もしそうであれば,その関与の仕方は原因であるのか付加的な因子であるのかも結論はでていない.さらにもう一つの可能性は,自己免疫や妊娠中の出血などのような母親における因子が児の発達に影響したり,あるいは(and/or)周産期の児の環境に影響する可能性である.しかし,そのような因子はほとんど注目されてこなかった.

Cure Autism Now(CAN)基金の自閉症遺伝情報源交換局(Autism Genetic Resource Exchange:AGRE)は,集中的なデータ収集を試みており,少なくとも2人の兄弟が自閉症か自閉症に関連する状態(例えば,広汎性発達障害やアスペルガー症候群)であることを基準に集めた巨大な家系コホートにおける,遺伝子型や臨床データが集まりつつある.これらのデータはヒト生物学的データ交換局(Human Biological Data Interchange:HBDI)の監督の下に集められている.これらの家計図を評価した結果,我々は,データセット中の双生児ペア数が過剰であることに気が付いた.この過剰状態は,合理的に予想される最も高いポピュレーション頻度と比較して劇的であった.有症候兄弟ペアの中で,二卵性双生児では4から5倍の増加が,また,一卵性双生児においては10倍以上の頻度が観察されたのである.このような増加は統計学的に有意であった.

このような結果が,もし確認されれば,単純には双生児が自閉症のリスクファクターということを示している.このリスクは,栄養素獲得の競合,産科的合併症,または自閉症になりやすくする母親の因子を含む子宮における環境状態に起因しているかもしれない.この母親の因子は,子宮内因子,周産期因子,免疫関連因子,または妊娠や体外受精に関連する遺伝性因子であるのかもしれない.もっとも体外受精の場合は二卵性双生児の増加のみに関連しており,一卵性多産とは関連していない.

この論文において,我々は有症候兄弟ペアにおける双生児ペアの頻度が非常に増加していることを記載する.我々は,もしこの増加が生物学的因子というよりもサンプリングの問題に起因するとした場合,必要な収集バイアス因子(ascertainment-bias factor)が非常に高くなることを明らかにした.

データ

遺伝学的研究のために,AGREおよびHBDIは,少なくとも2人の有症候血族を含む家系をサンプリングしている.多くは有症候兄弟ペア家系で,自閉症または(and/or)広汎性発達遅滞(or)アスペルガー症候群のペアである.家系サンプルは参加依頼の手紙をCANのメンバーに送る方法と,自閉症支援グループの会議やアメリカ自閉症協会での勧誘の両方で集められた.医師を通じてのサンプル収集は含まれていない.一卵性双生児を持つ家系は,意図的に集めたのではなく,連鎖研究のための家系収集が目的であり(AGRE),一卵性双生児は連鎖に関しては何の情報も追加し得ない.

家系は同定後に,熟練した調査者が家庭訪問し,自閉症診断インタビュー(ADI)を行った.有症候児は,自閉症,広汎性発達障害,またはアスペルガー症候群としてコード化した.双生児の多くは,遺伝子型タイピングを受け,親が申告した卵性は1例以外で確認された.

有症候児が2人以上の家系や,複数の有症候親戚ペアの家系もAGRE研究で集められたけれども,我々は今回の解析の対象を厳密に2人の有症候児に限って行った(つまり3人の有症候者を含む家系は含まれていない).これは,計算の単純化と確認のための扱いを単純化するためである.また,我々はまた混合双生児ペア(つまり双生児の一人が有症候者で,双生児のもう一人は健常,そしてその他の兄弟が有症候)の家系も除いた.

我々は有症候ペアサンプルを二つの診断カテゴリーに分類した.「狭義」,つまり有症候兄弟の両方が自閉症の場合と,「広義」,つまり一人あるいは両方の有症候メンバーが広汎性発達障害かアスペルガー症候群の場合である.表1は有症候ペアを,診断,卵性,性に関してまとめたものである.最後に,我々はまた1型糖尿病(インシュリン依存型糖尿病)のHBDI研究のために同様に集められた家系サンプルを,自閉症のデータと比較するために検討した.

表1 有症候兄弟ペアサンプルの内容
グループ 診断カテゴリー狭義 診断カテゴリー広義 トータル
単一症例 82(47,32,3) 54(28,21,5) 136(75,53,8)
二卵性双生児 8(6,2,0) 4(2,2,0) 12(8,4,0)
一卵性双生児 15(14,-,1) 2(1,−,1) 17(15,−,2)
卵性不詳双生児 1(1,0,0) 0(0,0,0) 1(1,0,0)
トータル 106(68,34,4) 60(31,23,6) 166(99,57,10)

かっこ中は,男性男性ペア,異性ペア,女性女性ペア

統計解析

一般ポピュレーションにおいては,公表されている双生児の率(出生あたり)は,二卵性双生児についてはデータによりかなりばらついているが,一卵性双生児に関してはかなり一致している.我々はThompsonらが報告した値を使った.その理由は,彼らはヨーロッパでのデータとして二卵性双生児が1/125,一卵性双生児が1/260としており,この値はVogelとMotulskyによって記載された巾の中では高い方の値であったからである.兄弟ペアにおける予想双生児率は,出生あたりの率のおよそ2倍である(出生あたりの双生児率をr-birthとし,兄弟ペアあたりの双生児率をr-pairとすると,r-pair = 2×r-birth/(1 + r-birth)であり,r-birthは非常に小さいのでr-pairは 2×r-birthに近似される).従って,双生児ペアである兄弟ペアの予想割合は,二卵性双生児については0.016(2/125)で,一卵性双生児については0.008(2/260),全ての双生児については0.024となる.

我々は狭義診断グループと全診断グループ(すなわち狭義+広義)に関して統計解析を行った.我々のサンプルにおいて観察された双生児率はかなりのものであり,統計学的に一般ポピュレーションから有意にずれていた(表2).

表2 観察された双生児ペア率の意義
双生児グループ 一般における率 狭義 率 狭義 危険率 狭義 A値(低95%) 全 率 全 危険率 全 A値(低95%)
二卵性 0.016 0.075(8/106) <0.001 5.9(2.5) 0.072(12/166) <0.00005 5.4(2.7)
一卵性 0.008 0.142(15/106) <0.000001 22.4(11.8) 0.102(17/166) <0.000001 15.2(8.7)
全て 0.024 0.226(24/106) <0.000001 11.9(7.2) 0.181(30/166) <0.000001 9.0(5.8)

(表2のレジェンド):危険率は,両側検定,A値=(r-observed/s-observed)/(r-population/s-population);r は兄弟ペアにおける双生児ペア率,sは兄弟ペアにおける非双生児ペアの率,全ては,一卵性+二卵性+卵性不明,全は狭義+広義

これらの結果は,双生児でない有症候兄弟ペアに比べ,双生児有症候兄弟ペアの方が優位に集め易いことで説明可能なのであろうか?この疑問を検証するために,我々は収集因子(ascertainment factor)であるA値を定義した.A値は非双生児例の有症候兄弟ペアが確認される可能性に対する,双生児例の有症候兄弟ペアが確認される可能性の率として算出される.我々の結果を説明するためには,A値は,例えば,狭義診断グループでは,全ての双生児例における11.9に等しいはずである.つまり,我々が観察した双生児例の過剰状態に一致するには,非双生児有症候兄弟ペアよりも,双生児ペアの方が11.9倍より集まり易いはずなのである.さらに,A値(11.9)の95%信頼区間の下限は7.2であり,つまり,7.2は両側検定で危険率0.05有意レベルで「有意差がない」とするための下限なのである.狭義診断グループにおける,一卵性双生児におけるA値は22.4と非常に高値で,有意差がないとするための下限がほぼ12である.

比較のために,我々はまたインスリン依存性糖尿病に関するHBDI研究における有症候兄弟ペアでの双生児ペアの比率をも検討した.このデータは,自閉症のデータ収集に使われたのと同じ方法で,過去20年にわたって集められたものである.自閉症の家系と同じ基準を使い,つまり正確に2人の有症候兄弟のいる兄弟ペア家系を検討した.649ペアの有症候兄弟ペアが確認され,双生児ペアは15ペアで一卵性が13ペア,二卵性が1ペアであった.一般における率と比較すると,これらの結果は,二卵性双生児例に関しては統計学的有意に少なく(p<0.001),一卵性双生児例に関しては統計学的有意に多かったが(p<0.01),双生児例全例に関しては有意差がなかった.

考察

我々は,自閉症の有症候兄弟ペアにおける双生児例の比率の極端な増加を報告した.この双生児例の過剰は,同じように集められたインスリン依存性糖尿病の有症候兄弟ペアにおいては観察されなかった.我々はまた,この過剰状態が生物学的な背景によるものでなくサンプリングの問題であるとした場合に,この過剰を説明するために必要とされる収集バイアスの程度を数値化した.例えば,双生児有症候兄弟ペアは,非双生児有症候兄弟ペアに比べ9倍から12倍収集し易いようである.あるいは,もし「産み止め現象:stoppage」が関与していればいくらかこの差は少ないであろう(下記).

さらに,我々は計算に以下の場合を含まなかった.(a)双生児有症候兄弟ペアと一人の非双生児有症候兄弟の場合の2件.(b)混合双生児ペアが6件.(c)三つ子ケース3件,有症候者は2人.(d)四つ子ケース1件,4人とも有症候.このような兄弟グループの存在は,双生児データと合わせて,多産が自閉症の重要なリスクファクターであることを示唆している.

我々の結果に関連していくつかの疑問が持ち上がる.もし我々の結果が収集バイアスだけで説明されるのであれば,どんな状態が背景に存在しなければならないのか?比較サンプルとしてインスリン非依存性糖尿病双生児データから得られる所見は適切であるのか?自閉症の病態を理解するために,我々の所見はどんな意味を持っているのか?

サンプル収集バイアス
もし,我々のデータにおいて双生児例の過剰を収集過程が説明するとしたら,どのようにしてそのような収集バイアスが生じたのであろうか?我々はいくつかの可能性を考察した.

1.自閉症双生児の親はおそらく,双生児でない自閉症兄弟例の親よりも,遺伝子研究に対するボランティア精神が豊富であるかもしれない.この可能性は次の場合に考えられる.(a)自閉症であることが同時にわかった2人の子供を持つことの重荷が,1年以上の異なるタイミングで親に負荷される場合(双生児でない兄弟例)よりも大きい.(b)遺伝研究に参加するための親のボランティア精神がこの重荷に比例する.この二つの因子は明らかにされるべきであろう.

2.自閉症兄弟ケースよりも自閉症双生児ケースの方が,親は自閉症の遺伝性を強く感じ,より遺伝研究へ参加するようになることが考えられる.

3.一卵性双生児は他の遺伝研究には使われない可能性がある.そのためAGRE研究に不均衡に参加しているのかもしれない.自閉症の多くの遺伝研究は現在,連鎖解析に集中しており,一卵性双生児ペアは連鎖解析には何の情報も提供しない.一方,AGREは,双生児データを集め,遺伝的連鎖研究のための家系もまた収集している.ただし前述したように双生児を故意に多く集めているのではない.従って,おそらく,もし一卵性双生児の親が研究への協力を欲しているにもかかわらず他の研究には参加を拒否された場合,そのような双生児例のAGREデータ中での比率が増加するかもしれない.しかし,二卵性双生児例に関しては非双生児例と同様に連鎖研究にも有用なため,AGREデータセットでの二卵性双生児例の増加は説明することができない.

4.収集バイアスは「産み止め:stoppage」の結果であるのかもしれない.親が最初の有症候児が生まれた後は常に子供をつくることをやめるような完全な産み止め過剰状態においては,その家族が有症候兄弟ペアをもつ唯一の可能性は有症候双生児ペアが生まれることである(または有症候三つ子).完全な産み止め過剰状態は我々のデータではない訳であるが,産み止めは考慮に値する可能性のある因子である.産み止め現象は,収集バイアスの特異な形として見るべきである.なぜなら,産み止め行為が行われると,二人目の有症候児を持つ運命であった家系が,産み止めのためにそうでなくなるからである.我々のデータでは,産み止めの率は30%であった.この産み止め率を計算に加味すると,全ての双生児例に関して,収集因子は,狭義診断グループで8.3,全グループで6.3であるので,1−産み止め率(0.7)を掛けて95%信頼区間の下限でそれぞれ,5.0と4.1となる.これでも依然収集因子は高値である.

双生児出産を自閉症のリスクファクターとみなさせる他のファクターとしては,不一致双生児例家系で,3番目の非双生児兄弟が自閉症か(and/or)広汎性発達遅滞である家系が非常に多く存在している事実がある(6/172).これらのケースは今回の検討からは除外したが,これらの家系は,双生児例が家系内に存在することが自閉症あるいは(and/or)広汎性発達遅滞のリスクファクターであることの,付加的証拠を提供する.

インスリン依存性糖尿病を持つ双生児例のデータ
その他に,インスリン依存性糖尿病双生児例のデータが,自閉症双生児データの適切な比較データになり得るかという問題がある.インスリン依存性糖尿病家系は自閉症家系を集める時に使われたのと同じ方法で収集され,基本的には同じ団体を介して集められた.自閉症は確かにインスリン依存性糖尿病よりもより大きな重荷の原因となる.しかし,問題なのは,自閉症の双生児有症候兄弟ペアが,インスリン依存性糖尿病の双生児有症候兄弟ペアよりもよりサンプルとして集まり易いかではなく,自閉症の非双生児有症候兄弟ペアと比べた自閉症の双生児有症候兄弟ペアの増加の方が,インスリン依存性糖尿病の非双生児有症候兄弟ペアと比べたインスリン依存性糖尿病双生児有症候兄弟ペアの増加よりも大きいかどうかである.証明されたわけではないが,これは事実のようである.

インスリン依存性糖尿病の有症候兄弟ペアにおける双生児の率は,自閉症の有症候兄弟ペアで示されたものよりはっきりしないものであった.一般ポピュレーションにおける率から予想される値と比較すると,二卵性双生児率はより低く,一卵性双生児率はより高かった.さらに,インスリン依存性糖尿病の有症候兄弟ペアにおける全体の双生児率は,予想値に等しかった.もしインスリン依存性糖尿病の有症候兄弟ペアが,自閉症有症候兄弟ペアの場合と同じ双生児率であるとすると,インスリン依存性糖尿病649有症候兄弟ペアの中で,全体で117か147ペアの双生児例が予想される(自閉症の狭義診断グループと全診断グループでそれぞれ予想).しかし,実際は15ペアしかいなかったのである.もし,疾患の存在が研究への参加に影響する因子の一つであるならば,インスリン依存性糖尿病のデータセットにおける双生児例数が一般ポピュレーションから推測できる数値よりも多いと予想できるかもしれない.ひとつの重篤な疾患の有症候兄弟ペアサンプルにおける双生児率が過剰でないという事実は,収集バイアスだけでは自閉症データセットの双生児率の過剰を説明しきれないことを示唆している.

自閉症病態における意義
多産が過剰であるような所見はいくつかの仮説を示唆する.第一に,一卵性双生児例の方が二卵性双生児例より多くみられ,従ってこのことは遺伝素因が自閉症において役割を持つとする仮説を支持している.しかし,もし双生児であることが自閉症や(and/or)広汎性発達遅滞にとって重要なリスクファクターであるのであれば,自閉症における一卵性双生児:二卵性双生児の比における差異が一卵性双生児のための多産プロセスと二卵性双生児のための多産プロセスにおける差異なのかが問題となる.あるいは,子宮内環境の差異のためなのかを考えなければならない.例えば,二卵性双生児は異なる卵子に由来し,一方一卵性双生児は同じ卵子に由来する.胎盤が一つの双生児の場合は有意に周産期致死率や有病率が高いことが知られており,胎盤が一つであることが,子宮内での栄養供給の競合の背景となるかもしれない.また,一卵性双生児は,単一の卵子が二つに分裂することに由来しており,卵子の体積の減少が何らかの役割を持つ可能性もある.もし,我々の研究結果が示唆するように,双生児であることが自閉症のリスクファクターであるのなら,これまでの報告における自閉症遺伝素因の予想寄与率は一卵性双生児:二卵性双生児の比から算出しており,実際より多めにバイアスがかかっているかもしれない.

二番目に,もし,一卵性双生児:二卵性双生児の比の程度が実際遺伝素因によるものであるとしたら,一卵性と二卵性のどちらでもその割合が予想値よりも多かった事実は,そのような遺伝素因が子孫における遺伝子に関連しているというよりもむしろ親における遺伝子に関連していることを示唆する.その場合,連鎖研究は自閉症児あるは(and/or)広汎性発達障害児の親に注目するか,親の兄弟に注目する必要があるであろう.そのような場合,連鎖研究に適している複数発生家系は,有症候の子供そのものよりもむしろ,有症候の子孫を持つ成人兄弟を含んでいるべきである.遺伝的影響は子宮内環境を含んでいるかもしれず,その場合自閉症あるいは(and/or)広汎性発達障害の子供の母親が有症候メンバーであるか,または子供における父親の遺伝子の発現と母親の相補遺伝子の間の未知の相互作用のどちらかが関与している可能性がある(例えば,Rh不適合の場合など).

三番目に,自閉症あるは(and/or)広汎性発達障害の診断においては,疑う余地のない非単一性が存在している.自閉症の子供において双生児が多かった結果は,かなりの割合の自閉症の子供の病態が子宮内因子か周産期因子に関連していることを示唆する.一方,もしこれらの因子が単に直接的遺伝効果を調整しているのであれば,母親からの効果か周産期の効果が重要な意味を持つ可能性のある自閉症児の比率はまだ小さいのかもしれない.どちらにしても,周産期に関連する病因と遺伝に関連する病因を区別を試みるためには重要なことである.

最後に,ここに記載した現象が事実であるのであれば,なぜ自閉症の家族の中に双生児例が多いことを誰も報告していないのであろうか?このことに関する唯一の研究は双生児研究であった(つまり,そのサンプル全てが双生児ペアである研究).そのような研究の研究者は,サンプルサイズを,適切な国における一般ポピュレーションでの双生児数予想値と比較することができる.しかし,このアプローチは研究者がその国における全ての有症候双生児ペアをサンプルとして集めたわけではないため,間違いが起こり易い.このような研究のひとつは,有意ではないがわずかに有症候双生児ペアが予想値よりも多いと報告しており,その他の研究は多くないとしている.我々の知りえる範囲では,有症候兄弟ペアサンプルにおいて,双生児ペアの数を検討した報告は我々のもの以外にはない.Philippeらの報告もRischらの報告も,彼らの有症候兄弟ペアサンプルが双生児ペアを含んでいるか,含んでいる場合何%なのかを記録していない(Rischらは2例の双生児例の卵性が疑問であると記載している).自閉症に取り組む他の研究者たちが,我々のこの興味ある発見を彼らのデータセットで再現できるのか否かを検討してくれることが待たれる.

 


(文献)
1. Liu J, et al. A genomewide screen for autism susceptibility loci. Am J Hum Genet 69: 327-340, 2001.

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