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ピノキオ症候群:心の理論と管理(統合)能力の関連

Perner J & Lang B. Development of theory of mind and executive control. Trends in Cognitive Sciences 3: 337-344, 1999.

訳者コメント:

相手が意図していることを読みとることが苦手なのでうそつきのキツネに簡単にだまされたり,がまんすることができずに「見せ物小屋」や「島の遊園地」へ行ったりしたことで非常に有名な人物がおります.じゃじゃ丸自閉症研究所所長の寛くんのニックネームのひとつにもなっているピノキオです.論文のイントロにもありますようにピノキオ的な人(自閉症的な人やADHD的な人)と3歳以下の子供は,人をだましたりごまかしたりすることができません.ポーカーフェースが苦手で,うそをついてもすぐにばれてしまいます.心の理論能力と管理(統合)能力(executive function)はそれぞれ自閉症の本質的障害ドメインであることが提唱されており,この論文は両ドメインの間に正常発達を含んだ相関があることをレビューしております.管理(統合)能力の対局の一つはこだわりと考えることもできます.自閉症者の間での多面的症候統一性(社会性,コミュニケーション,こだわりなどの問題がそろって起こること)の説明にもつながる非常に重要な内容です.

(概訳)

概要:いくつかの最近の研究結果が,3−5歳の年齢における「心の理論」の獲得と自己制御の獲得の間の発達における関連を明らかにした.このレビューでは,発達における進歩の本質を理解するための補助となるであろう5つの仮説を評価する中で,そのような関連(心の理論獲得と自己制御の獲得の間の関連)の存在について考察する.5つの仮説は以下のとおりである.(1)管理制御能力は心の理論(能力)に依存している.(2)心の理論(能力)の発達は管理制御能力に依存している.(3)関連する心の理論課題をこなすには管理制御能力を必要とする.(4)両方の課題は,同じ種類の組み合わせ条件理由付けを必要とする.(5)心の理論と管理制御能力は同じ脳領域を使っている.これらの理論的説明を簡単に記載し,それらを存在する経験的証拠に照らして評価する.現時点では,仮説(3)のみがある程度の確信をもって除外可能である.

イントロ
4歳児の頃は,いくつかの知的変化が現れる.特異的に明らかに関連している二つの変化が,精神状態の理解に関連している.その二つとは「心の理論」と自己制御(管理機能)である.心の理論は,自分自身あるいは他人が望んでいること,信じるていること,感じていること,あるいは自分の意図や他人の意図などの精神状態を,認識する能力のことである.人々が何を望んでいるのか,何を考えているのか,何を意図しているのかを知ることができれば,人々がどのように行動するかを予想することができる.管理能力(executive function)は,高度な活動制御(例えば,プランニング,抑制,協調,一連の行動の制御)を担当するプロセスを意味し,特に精神的に明示された目的を維持したり,誘惑に負けずにことを達成するために必要な能力である.

4歳頃に起こる心の理論の発達ステップの一つとして,「人は外界からの情報を誤解することがある」ことと「外見と真実を区別する」ことを理解することは重要である.その年齢以前は,モチベーションによって人々が行動することは良く理解できており,またもし希望が満たされれば人はハッピーであり,そうでなければアンハッピーであることを知っている.しかし,その段階では(4歳以前)誤解している人々がしばしば目的に合わない(ゴールに向かわない)間違った行動を取ることがあることを理解できない.ゆえにこの時期の子供達はうそをついたりごまかしたりして他人の行動を巧みに操作することもない.

このようなことができるようになる頃,子供は自己コントロール能力においても著明に進歩する.自己コントロール課題の例はカード並べ替え課題である.この課題では,それぞれのカードは色と形の二つの特性(dimension)を持っており,どちらかの特性でカードを並べ替えることが指示される.4歳以前の子供はカードの並べ替えは可能であるが,ルールが変わっても(色による並べ替えから形による並べ替え)前のルールにこだわる傾向があり,変更後のルールを口で言うことができる場合でも,前のルール(色による並べ替え)でカードをソートしてしまう.このような課題における(発達上の)進歩は,この年齢における心の理論能力の発達に特異的に相関していることが報告されており,この相関は年齢と知能レベルでサブグループ化しても有意である.さらに心の理論において特異的な問題をかかえている自閉症児やアスペルガー症候群の子供は,自己コントロール課題においても問題があることが知られている.

このレビューでは,これらの研究で使用されたいくつかの課題について概説し,正常発達において報告された両ドメイン間の相関についてまとめる.それからこの観察された相関を説明する目的で提唱された5つの仮説を紹介し,入手可能な証拠に照らし合わせてこれらの仮説を検証する.

心の理論能力を評価するための課題

4歳の頃に心の理論における変化を調べるために最も良く使われている方法は「かんちがい(誤解)課題」である.標準的な方法で使われるストーリーは,求められている対象物の場所が主人公の知らない間に変更されてしまい,主人公がかんちがい(誤解)してしまっているという設定である.主人公の誤解を対象児が理解しているかどうかを評価するために,「主人公はどこを探しますか?」という質問が成される.3歳児の場合,ほとんど全員が間違って実際の場所(変更後の場所)を解答する.一方4歳以上の子供は正解することができる.このレビューの目的にとっては,この「かんちがい(誤解)テスト」の「説明バージョン」が重要である.このバージョンでは,主人公がかんちがいしている場所(変更前の場所)を探したことを見せてから「なぜそこを探したのですか?」と質問する.かんちがい(誤解)テストのその他のバージョンを以下に示す(Box 1).

Box 1.心の理論課題および管理(統合)能力課題
誤解課題および関連する課題

  1. だまし箱課題:対象児にスマーティ(チョコレート菓子)の箱を見せ,「中身は何ですか?」と質問する.ほぼ全員の子供が「スマーティ」と返答する.その後,実際にスマーティの箱に入っている鉛筆を対象児に見せてから,箱の中身に関して以下のように質問する.
    • 他人の誤解:対象児に「本当は何が入っているか知らない人は箱に何が入っていると思っていますか?」と質問する.
    • 自分の誤解の記憶:対象児に「あなたは最初は何が入っていると思いましたか?」と質問する.

  2. 外見-実際課題:この課題は2つの質問から成る.例えばスポンジでできた石のようなトリック物体を対象児に見せ,実際の質問としては「本当はこれは何ですか?(正解はスポンジ)」と質問する.外見の質問としては「これは何に見えますか?(正解は石)」と質問する.

  3. 2次誤解:対象児はジョーンとメアリーに関するストーリーを聞かされる.メアリーは家に向かっているが,メアリーがほしいものはA地点からB地点へ移動してしまう.ジョーンはその移動を知ってはいるがメアリーがほしいものがB地点へ移ったことを知ったことは認識していない.質問は,「ジョーンはメアリーがほしいものを探してどこにいくと思っていますか」である.

管理(統合)能力課題

  1. 昼-夜Stroop課題:Stroop効果とは文字の色を答える時に文字が色に関する単語であれば文字がその行為に干渉する効果でStroop氏が報告した.この課題は対象児に暗い絵が提示されたら「昼」と答えさせ,明るい陽の光がある絵が提示されたら「夜」と答えるように指示する.この課題では正解と逆の習慣的に定着している反応を抑制しなければならない.

  2. 窓課題:対象児は二つの箱の前に座ってもらう.箱の一つの中にはごほうびが入っている.児はどの箱にごほうびが入っているか知らないが無作為に一つの箱を選ぶよう指示される.空の箱を選んだ時は反対の箱に入っているごほうびをもらえるが,ごほうびが入っている箱を選んでしまうと競争相手がごほうびをもらう.この練習を繰り返した後,実際のテストが行われる.テストでは,箱に窓が開けられどちらにごほうびが入っているかを知ることができる.ごほうびの入っていない箱を指さすことができれば正解とする.

  3. DCCSカード並べ替えテスト:対象児は「緑の車」や「黄色い花」などが書かれた2枚のターゲットカードを与えられる.2組の属性(緑と黄色,車と花)のうち一つ(色あるいは物)に従って5枚の新しいカード(黄色い車や緑の花など)を並べることが指示される.例えば,色ゲームと指定された場合「黄色い車」カードはターゲットカードの「黄色い花」カードのそばに置かなければならず,また「緑の花」カードはターゲットカードの「緑の車」のそばに置くのが正解となる.その後ルールを変えて形ゲームが指示され,色にかかわらず車カードはターゲットカードの「緑の車」カードのそばに,花カードはターゲットカードの「黄色い花」カードのそばに置くのが正解となる.


典型的な管理(統合)能力課題は3歳児ではクリアすることができず,干渉してくる反応傾向の「管理的抑制」ができなければクリアできない.必要な行動計画(action schema)の高度な活性化を通しての反射的な抑制(automatic inhibition)が失敗した時に管理的抑制が必要となる.これは必要な(行動)計画へ集中することが,目的の計画だけでなく干渉してくるシェーマ(図式・計画)をも活性化する場合である.Luriaの手ゲームの子供バージョンもその一例である(検査者がすることの反対のことをする課題).検査者がにぎりこぶし(グー)を出せば児はパーを出さねばならず,検査者がパーをだせば児はグーを出さなければならない.しかし,自然の傾向としては検査者をまねたくなり,課題の反対行動に干渉する.課題に集中すると検査者がしていることにも集中しなければならないため,課題により強く集中することは求められている行動だけでなく模倣する傾向も強めてしまい,反射的な抑制は役に立たない.

管理能力課題は幅広いいろいろな能力を必要とするが,発達において誤解を理解することに関連する能力全ては優位な傾向を抑制することが必要である点では上述の手ゲームと共通する(その他の管理能力課題についてはBox1中に記載).例えば,DavisとPrattは数字逆読みテスト(ワーキングメモリー課題の一つ.被検者は連続する数字を逆に繰り返すことを要求される)を使った.ワーキングメモリーの「中心管理成分」の測定値は,誤解の理解と強く相関している.中心管理成分は数字の逆唱を管理能力課題として位置づけ,通常慣れ親しんでいる自然の唱え方の傾向(順唱)を制御することを必要とする.GordonとOlsonが使ったワーキングメモリー課題も同様である.

また,これらの課題は反射的抑制ではなく管理抑制を必要とすることも重要である.反射的抑制は幼児でも使うことが可能でありピアジェの「BでなくてAを探す間違い」が良く知られている.これは,対象物を隠し,場所Aから数回回収し,その後場所Bに隠す.Diamondが系統的に示したように,すぐに探させると幼児でも正確に場所Bを探す.正しい戦略は,場所Aを探すという古い戦略を抑制することである.幼児の場合は彼らが探すことを無理に遅らせた時のみ,古い戦略が優位になる.議論の余地はあるが,正しい戦略の描写的強さが弱くなり,古い戦略(場所Aを探すこと)を十分に抑制できなくなるためであろう.従って,幼児期に進歩することは正しい戦略のより長い保持であり,そのためにその他の戦略は反射的に抑制される.

心の理論と管理能力課題の間の発達上の相関(3歳から6歳)を検討した研究で,入手可能なものをBox2にまとめる.メタ解析ではこれらの研究の効果サイズはかなりのものである.管理能力課題と誤解課題をマスターすることの間に存在するこの関連はどのように説明することができのであろうか?

Box2.心の理論と管理(統合)能力の間の関連

表1に,心の理論課題と管理能力課題の間の相関の平均値を各研究結果毎に記載する.これらのデータのメタ解析では,強力な効果サイズ(d=1.08)と優位な非単一性が示された.これらの相関関係に影響するシステマティックな要素としては,検査時間の長さが考えられる.実際,予想検査時間は強く相関度に相関している(r=-0.68,n=12,p<0.06).検査が長時間におよぶと疲労などのパフォーマンス因子が誘導され,結果的には相関度を減じてしまう.メタ解析の所見は決定的な結果というわけではないが,発達における相関度の真の強さを同定するためのさらなる研究のヒントとしてとらえるべきである.

表1.心の理論課題と管理(統合)能力課題の間の相関

著者
報告年
年齢(年;月)
対象児の数
心の理論課題管理能力課題相関(DCCSのみの相関)
Carlson
1997
3;3−4;11
(n=107)
外見-実際,だまし,誤解説明,誤解自己と他人10個のバッテリー
(例えば昼/夜Stroop,DCCSカード並べ替え)
0.66(0.34)
Davis & Pratt
1995
3;3−5:4
(n=50)
誤解自己と他人,にせ写真課題数字逆唱0.46
Fryeら
1995 実験1
3;1−5;5
(n=60)
外見-実際,誤解自己と他人DCCSカード並べ替え,物理的因果関係0.38(0.16)
Fryeら
1995 実験2
2;8−5;4
(n=40)
外見-実際,誤解自己と他人DCCSカード並べ替え0.50(0.37)
Fryeら
1995 実験3
2;9−6;1
(n=60)
外見-実際,誤解自己と他人並べ替え課題3種0.33(0.25)
Gordon & Olson
1998
3;0−6;4
(n=72)
外見-実際,誤解自己と他人カウンティングとラベリング,指タッピングとラベリング0.56(0.46)
Hughes
1998a
3;3−4;7
(n=45)
誤解説明,誤解予想,だまし6個のバッテリー(手ゲームやカード並べ替えなど)0.49(0.30)
Hughes
1998b 1回目
3;3−4;7
(n=45)
誤解説明,誤解予想5個のバッテリー(手ゲームやカード並べ替えなど)0.27
Hughes
1998b 2回目
4;2−5;8二次誤解課題5個のバッテリー(手ゲームやカード並べ替えなど)0.34
Hughesら
印刷中
3;6−4;6
(n=40)
誤解自己と他人,外見-実際,誤解説明,誤解予想,だまし,感情誤解6個のバッテリー(手ゲームやカード並べ替えなど)0.31
Pernerら
印刷中
3;0−5;11誤解予想DCCSカード並べ替え0.59(0.48)
Russellら
1991
3;0−4;10
(n=33)
誤解予想窓課題0.89(0.70)

(心の理論と管理能力の間の相関を説明する説)
最初の2つの説は,心の理論と管理能力の発達の間の機能的依存性を予想している.その他の3つの説は,それぞれ異なる方法で,心の理論と管理能力が単一のプロセスの部分として把握できることを示唆している.

(1) 心の理論は管理能力の必要条件である.
Wimmerは,子供がますます洗練された精神概念を形成していくにつれて,自己の精神(mentality)をさらに理解でき,この理解が自己の精神過程や行動のより良いコントロールにつながることを示唆している.このアイデアをFrithは自己コントロールにおける問題と心の理論における問題が分裂病で同時に起こることを説明するために応用した.また,Carruthersは自閉症において同じ現象(自己コントロールにおける問題と心の理論における問題の併存)を説明するためにこのアイデアを利用している.Pernerは4歳児は誤解課題と管理抑制課題をマスターするため共通する精神因子を理解することが必要であると提案している.両課題において,精神状態は動因(人々を行動にかりたてるもの)として理解されることが必要になる.誤解のパズルは,現実に探しているものが存在する場所を探すというゴールがあるにもかかわらず,誤解しているために何もない場所を探してしまうということである.管理抑制課題のためには動因的に効果があるものとして行動シェーマを理解する必要がある.例えば,手ゲームの場合,参加者が間違ってしまう傾向を意識的に抑制する必要があると理解するためには,参加者は間違いを誘発する力に従ってしまう傾向があること自体を認識する必要がある.

これらの2つのケースはまったく異なるものである.前者は誤情報のケースであり,後者はそうではない.にもかかわらず,両方とも人間はゴールにより近づくために行動するということを理解している必要がある.この理解は通常は3歳児から可能となり,行動は内面的な状態が動因となることを理解するための補助となる.内面的な状態は,正しくない情報であったりまたは高度に活性化された行動シェーマ(抑制されるべき行動シェーマ)であるために,間違った行動(ゴールに近づかない行動)の原因と成り得る.4歳になると,そのような精神状態の動因としての理解が可能になり,それ故に誤解課題や管理抑制が同時にできるようになる.

(2) 管理コントロールは心の理論の必要条件である.
Russellは,管理コントロールの部分としての自己モニタリングは基礎的な自己認識のために必要であり,基礎的な自己認識は心の理論を構築するために必要な条件となると主張している.この提案の意味(一般的メッセージ)は明瞭である.管理コントロールなしでは心の理論はあり得ず,管理能力に障害があれば心の理論にも障害があるわけである.しかし,なぜ特異的な心の理論課題(誤解など)は特異的な管理機能課題(管理抑制)と同じ年齢でマスターされてしまうことが多いのかは未解決のままである.

(3) 心の理論テストにおける管理(能力)成分
典型的な心の理論課題は管理(能力)成分,つまり自然の反応傾向を抑制する成分を含んでいるという指摘もある.誤解課題においては,そのことに気づいていない主人公を助けるために変更された置き場所を指摘することは自然の反応傾向であり,(主人公が探す場所を解答するためには)抑制されるべきものである.探している物が無いところを指摘するようなトリッキーな指摘は,探している物がある場所を指摘する自然で使い慣れた反応と正反対のものであるので,このようなトリッキーな指摘が誤解を理解しているかどうかを調べる指標として使われる場合に特にこの説明が当てはまる.

(4) 認知(能力)の複雑性とコントロール理論(CCC理論:The cognitive complexity and control theory)
FryeとZelazoとPalfaiは,組み合わせ条件文(if-if-then)に関する関連課題の論理的解析を考案した.これは,それぞれのカードに2つの特性(例えば色と形)を持つ絵が書いてあるDCCS課題(dimensional-change-card-sorting)に最も当てはまる.組み合わせ条件文に関する典型的な例は次のとおりである.「もし色ゲームで遊ぶとしたら(セッティング1),そしてもし私があなたに緑の花カードをあげたら(状況1),その時はあなたはそれを緑の車が書いてあるターゲットカードといっしょに置く(結果1).しかし,もし私があなたに黄色い車カードをあげたら(状況2),その時はあなたはそれを黄色い花が書いてあるターゲットカードといっしょに置く(結果2).けれども,もし形ゲームで遊ぶとしたら(セッティング2),その時は・・・・(条件を逆にし,状況1であれば結果2,状況2であれば結果1とする)」.同様な解析が誤解課題および類似した心の理論課題だけでなく,関連する他の管理機能課題にも適合することが示唆されている.

Fryeらの示唆に従うと,チョコレートの場所に関する誤解課題においては子供(マックス)とチョコレートの関係がセッティングコンディションであり,チョコレートを探そうとする意図がひとつの状況コンディションとなる(状況はひとつだけ).そして青色のたな(チョコレートが今ある場所)を探すのか緑色のたな(子供がチョコレートをしまっておいた場所)を探すのかという行動が結果ということになる.しかし,彼らの解析法が適応されたDCCS課題とは対照的に,チョコレートの場所課題のような誤解課題を解くために必要なルールは,「もしマックスの視点からみたとして,もしマックスがチョコレートを探しているなら,その時はマックスは緑色のたなを探すことが予想される」というもので,これは被検者がこれまでに耳にしたことのあるルールとは限らず,同じ課題を以前にしたことがあってもその経験からルールを学ぶこともできない.

Zelazoは上記のCCC解析に合うルールは「自己の誤解記憶」課題において重要な役割を持つと主張している.この課題では被検児はまず自分の間違った反応を経験するが,標準的な誤解課題(チョコレート課題)ではマックス少年の間違いを(あらかじめ)経験することはなく,被検児はバックグラウンドとなる知識からそれを予想しなければならない.ゆえにZelazoの主張はもっともらしい主張である.CCC解析がいかに伝統的誤解課題に適応するかについての,説得力のある説明は今後の問題である.

(5) 共通脳構造
Ozonoffらは,なぜ自閉症児が心の理論障害だけではなく管理機能障害も呈するのかについての一つの可能性を示唆している.この説は,管理能力と心の理論の両者が前前頭皮質の同じ領域を介しているというものである.さらに最近Brownellら,EllisとGunter,そしてHappeは,右大脳半球の白質に影響する神経発達異常が自閉症とアスペルガー症候群でみられる心の理論障害を説明できるかもしれないと示唆している.また,自閉症とアスペルガー症候群でみられる管理能力障害もある程度は説明可能と主張している.これらの示唆は,4歳頃でのこの脳領域の成熟が心の理論と管理能力の関連の原因であると仮説することにより正常発達に対しても当てはまる.

証拠とその評価

機能上の依存理論(The functional-dependence theories)
心の理論が管理能力に機能的に依存するとする説も,管理能力が心の理論に機能的に依存するとする説も,共に心の理論と管理能力の間の機能的依存性がその発達における関連を説明し得ると考える理論であり,片方のスキル障害がもう片方の障害とペアになって現れる臨床的事実も,この機能的依存性で説明する.しかし,心の理論は管理能力の必要条件であるとする前述の(1)は,管理能力が障害されずに心の理論だけが障害される可能性を否定してしまう.反対に,管理能力が心の理論の必要条件としている前述の(2)は,心の理論障害のない管理能力障害の可能性を除外してしまう.発達障害ケースや正常発達からの知見では,心の理論と管理能力は独立していることを示す傍証が得られている.

Hughesの行った正常発達児に関する研究は,心の理論が管理能力の必要条件であるとする仮説(1)に対してある意味で反論している.経時的な研究デザインで,1回目の検査時の管理能力成績は2回目の検査時の誤解課題成績に相関しており(r=0.41),この相関は1回目の誤解課題と2回目の管理能力課題との相関(r=0.26)よりも強い相関である.この結果は管理コントロールにおける変化からその後の心の理論能力を予想することができるが,その逆はそうでもない.つまり「心の理論が管理能力の必要条件」という仮説に矛盾するわけである.しかし,この2つの相関の間の違いは小さく,伝統的な心の理論課題(誤解課題)の結果が実際の子供の心の理論を正確に反映していると仮定した場合にのみ(心の理論が管理能力の必要条件であるとする仮説に)反証を提供する.しかし誤解課題が実際の心の理論を正確に反映していることはない.管理抑制課題をこなすには因果関係を論ずるために心の可能性について理解していることが必要であるとする立場に立つと,管理能力課題は心の理論課題と同様に心の可能性についての理解の存在を評価している.従って,誤解課題における他人のとる行動の予測のためにそのような心の理解が使われるよりも,自己の行動のコントロール(管理能力課題)のために使われる方がわずかに早期に起こると考えることで,Hughesのデータは説明できる.

Williams症候群の児とPrader-Willi症候群の児は管理能力課題はできないが,誤解課題はできることが報告されている.このことは,管理能力が心の理論の必要条件であるとする仮説に矛盾している.しかし,この証拠はわずかに6人の児のデータであり,それぞれの課題の達成基準に依存した恣意的なものである可能性がある.ゆえに,我々はそのような乖離例の証拠についてはより多数例での検討が必要であることを強調したい.達成基準を設けた恣意的なデータでないようにするために,管理能力課題は誤解課題と同様に2つの特質に関して(bimodally)分布するデータ(2次元粗データ解析)であるべきである.障害度の非恣意的測定法のひとつとして,正常発達に対する障害の効果サイズを評価する方法もある.

しかし多くの入手可能な証拠は,仮説(1)と仮説(2)の両方を支持するものであり,自閉症児においては心の理論における問題も知られているが管理能力課題が極端にできないことを報告されている.同様にADHD児は管理能力に顕著な問題をかかえており,関連する問題を持つ児の一群では管理能力障害だけでなく心の理論課題にも障害があることが報告されている.

最近,我々は,仮説(1)と仮説(2)の両者を背景とした一つの予想を,「信じる」という概念にフォーカスを置かない心の理論課題を使って検証した.その予想は4歳頃に子供は因果関係の上で有効なものとして心の状態を理解するようになるというものである.Pernerは,膝蓋腱反射の不随意性(反射性)を理解するためには,反射運動の場合には存在しない意図を運動(随意運動)の原因として理解する必要があると憶測した.この課題では,検査者は膝蓋腱反射を非検者に起こし,その児に「(反射で不随意的に動いた)きみの足は自分で動かしたの?」と質問した.我々の研究では,3−6歳児において2つの管理能力課題(DCCSカード並べ替え検査とLuriaの手ゲームの小児版)と2つの心の理論課題(誤解課題と膝蓋腱反射課題)を行った.誤解課題の成績の多様性のどの程度が他の課題で説明可能かという問題に関する結果は次のとおりである.誤解課題の成績の多様性の1/4(25.5%)は年齢と言語性知能(KABCテスト)で説明可能であった.管理能力課題の2つは共に誤解課題の成績の多様性をかなり説明した(DCCS課題が41.4%,手ゲームが20.3%).しかし,膝蓋腱反射課題は誤解課題成績の多様性の半分以上を説明した(55.8%).年齢と言語性知能で補正(グループ分け)した場合でも,二つの管理能力課題および膝蓋腱反射課題は依然として誤解課題成績の付加的多様性のかなりの部分を説明した(DCCSが21.6%,手ゲームが12.3%,膝蓋腱反射課題が30.4%).

まとめると,これまでのところ心の理論と管理能力の間の機能的依存性を主張する2つの仮説を否定するような証拠を提供するデータは存在しない.実際,心の理論と管理能力の発達が相互依存しているという意味では両仮説共正しいと考えるのが適切であろう.因果関係の上で有効なものとして心の状態を理解することは,管理抑制のためにも必要であり,また,管理抑制は発達のこのステージにおいては心の理論のための主な練習基盤となっているのである.

心の理論課題における管理(能力)成分についての証拠
幼児が誤解課題を苦手としていることと彼らの抑制における問題の間の発達上の関連が最初に発見された時,最も理解しやすい説明は誤解課題そのものが抑制を必要とするというものであった.人をだます能力には明らかに管理(能力)成分が存在することが証明されているが,明らかな管理(能力)成分を伴わない課題は管理(能力)成分を伴う課題よりも簡単であることはないので,抑制は誤解課題におけるクリティカルな問題ではないことを示すいくつかの傍証がある.一つの例は,CallとTomaselloの開発したチンパンジーや小児用の非言語性ビリーフ(belief)課題である.この課題では2つの外見上は全く同じ箱の片方に目的物を入れる.被検者はどの箱に目的物があるかわからないが,一部始終を見ているオブザーバーの様子を観察することができる.オブザーバーが退席している間に2つの箱の場所は入れ替えられる.課題は,オブザーバーがもどってきたとき目的物が入っていない箱を開けようとするのを理解できるかというものである.このテストには管理障害は含まれておらず,伝統的な心の理論課題を正解できるのと同じ年齢でこの課題も正解できる.

誤解課題が管理(能力)成分を含むことでは管理機能課題との相関を説明することができないという最もはっきりしている証拠は,心の理論課題の説明バージョンが標準的に使われている予測バージョンと同じ程度管理能力と相関しているという事実である.このことはクリティカルな所見である.なぜなら,「信じる」ということを理解できない幼児は,「なぜマックスはチョコレートを探して空のたなの中をのぞいたの?」という説明を求める質問に標準的な実際的解答をすることができないからである.ゆえに説明バージョンを幼児ができないのは犯しがちな誤答を抑制することができないからというわけではないのである.

この所見は重要であるので,我々は最近RobinsonとMitchellが報告した外見的に同一な双子の状況を使って検討している.2つの箱の片方に目的物が入れられた時に1組の双子がその場に居る.それから双子の片方はその部屋から出て行き,一方もう一人は目的物が逆の箱の方へ移されるのを目撃してから部屋を出る.後で二人共目的物を探して部屋に戻って来て,一人は目的物が本当に入っている箱の方へ,もう一方は空の箱の方へ近づく.質問は「なぜ一人の少年は空の箱を探したの?」である.幼児(3−4歳以下)がほぼ誤答する予想課題とは異なり,このシナリオでは「信じる」ことを理解していない子供は単純に推測する.このことは彼らが一貫した優位な解答戦略を持っていないことを立証する.子供が推測していることを確認するために,我々は外見上同一なキャラクターを含む3つの異なるストーリー(予想するストーリーは2つだけ)を使った.

表1.心の理論課題の成績

正確な予想の数説明=0説明=1説明=2説明=3
0456217
1143412
20142227
(表1の説明)表中の数字は誤解課題に正答した子供の数.外見上同一の双子を使った課題の予想バージョンと説明バージョンの2次元解析.

この研究の予備的結果は表1に示す.予想テストの両方で正確に予想できる児は,双子の片方が空の箱を見ようとする理由を説明することも可能である.27人中たった5人が誤答している.12人は一つだけ正解の予想をしているが,それより多い17人が予想課題の2問とも誤答している.誤解を理解していない子供にとっては予想ができないということは優位な反応傾向である(予想問題の方が難しい)ことを立証する結果である.予想課題が一つもできない17人の子供は説明課題3問に関しては正答が0−2個が4人から6人,正答が3つが2人であった.このことで誤解を理解できない子供は説明課題において優位な反応傾向を持っていない(説明問題の方が簡単)ことが確認できる.

しかし,これらの課題における成績が管理能力課題(DCCS課題)とどのように相関しているかをみてみると,説明(双子)課題との相関(r=0.66,危険率0.01)は予想課題との相関(r=0.65,危険率0.01)と同じぐらい高かった.さらにこれらの相関は児の年齢や言語性知能で補正してもかなり高く説明課題との相関がr=0.46(危険率0.01),予想課題との相関がr=0.43(危険率0.01)であった.我々は誤解をマスターすることと管理抑制の間の成長における関連が存在していると結論する.この関連は誤解課題に管理的需要があるという可能性よりもより本質的である.

認知の複雑性とコントロール理論の評価
提案された組み合わせ条件文(if-if-then)構造が標準の誤解課題にどのように応用されるかを理解する上で,上述した問題に加え,実際の成長データとのミスマッチが存在する.例えば,見通しにおける違いが二つの異なるセッティングを構成するような誤解課題としてはRepacholiとGopnikの課題(相違する好きな食べ物の理解)がある.認知複雑性と制御理論にとっては残念なことであるが,この問題ドメインにおいては18ヶ月の子供は主張されたif-if-then構造を応用することができることが示された.

Fryeらは,構造的にはDCCS課題と同じで誤解課題と相関している「傾斜路課題」は,条件を一つだけ提示するだけでかなり早期からマスターすることができることを示した.この傾斜路課題では,旗が挙げられている時は(セッティング1),左側の穴に落とされた玉は(条件1)斜面路を転がって左側の出口から出てくる(結果1).玉が右の穴に落とされた場合は(条件2),右側の出口から出てくる(結果2).旗が下げられている時は(セッティング2),傾斜路は交叉され,その結果左の穴からの玉(条件1)は右の出口から出て(結果2),右の穴からの玉(条件2)は左の出口から出てくる(結果1).条件を一つだけ使って課題を簡単に説明するだけで,子供はセッティング1では条件1は結果1につながり,セッティング2では条件1は結果2につながることを理解できる.誤解課題の特徴もまた,たった一つの条件を含んでいるだけである(チョコレートを探す意図).ゆえに誤解課題は単純化された傾斜路課題と同様に簡単であるはずであるが,実際は誤解課題は少なくとも2つの条件を持つ傾斜路課題やDCCS課題のように難しい.

組み合わせ条件文の解析は誤解課題と管理能力課題の間の重要な関連を発見するために確かに有益であった.しかし,示唆されたif-if-then解析を関連する課題に応用するためのはっきりとしたガイドラインがなく,経験的な問題点が存在するため,我々はこの理論が十分な説得力を持つようになるためには,さらなる改正と調整が必要であると結論する.

共通脳構造説の証拠
心の理論と管理能力課題に関連する脳領域が共通していることを示す神経精神学的証拠が存在する.Fletcherらは,機能的脳画像技術を使い,左の正中前頭皮質(Brodmannのエリア8とエリア9)が誤理解を含むストーリーの心化を理解する(understanding mentalizing stories)ための責任部位であることを,物理的イベントについてのストーリーと比較して示した.前前頭皮質のこれらの領域は,随意的行動の制御に関連することが報告されており,特に条件理由づけを必要とする課題において指摘されている.この領域は心の理論と管理能力課題の間に観察されている相関を生理学的に説明する有力な候補部位であろう.

また,アスペルガー症候群の人々は右の大脳半球の機能障害があることを示すいくつかの証拠も報告されている.アスペルガー症候群では,運動(機能)上の問題や管理能力課題における障害だけでなく,高レベルな心の理論障害が存在している.一般的には,神経精神学的証拠はいまだ特異的で一貫性があるとは言えず,自閉症の神経学的原因の首尾一貫した理論的把握には至っていない.さらに,右大脳半球の白質の成熟やBrodmannのエリア8の成熟で,4歳頃に同時にみられる心の理論と管理能力課題における進歩を説明できるという直接的な証拠も得られていない.

結語

我々は4歳頃の心の理論発達と自己コントロールの進歩の間の発達上の特異的な関連の明らかな証拠が増えつつあることを示した.これまでに示された証拠は,この関連が評価課題の方法論的共通側面だけからはおしはかれないことを示し,心の理論と管理能力が相互に機能的に依存していることを指摘した.自己の心のより良い理解は,自己コントロールの方法を提供し,自己コントロールの練習はそのような理解を構築するための基盤の一つである.どの程度この機能的相互依存性が共通する脳構造およびその成熟に基づいているのかは結論が出ていない.この相互依存性のより良い理解ができれば,心の理論障害と管理能力障害が関与しているADHDなどの発達障害の急速な増加傾向に対する対策の可能性も出てくる.

残る問題点
  • 管理能力障害と心の理論障害の間の発達上の真の相関関係を減じるファクター(長時間の検査など)はなにか?
  • 心の理論と管理能力の間の相関は,暗黙の(潜在する)誤解の理解が検査された時にも存在するのか?
  • 心の理論を集中的にトレーニングすると管理能力課題の成績が向上するか?またその逆は?
  • 多動の子供やADHD児は明らかな管理抑制障害を持っているが,誤解課題を解くことができるのか?またできない場合は,彼らは治療によりできるようになるのか?
  • 誤解課題を解くことができない子供のグループで管理抑制能力が十分に発達している場合があり得るか?
  • 心の理論の発達が遅れていることが知られている子供のグループ(例えばorally taught deaf)では,同様に管理能力も遅れているのか?


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