訳者コメント: 相手が意図していることを読みとることが苦手なのでうそつきのキツネに簡単にだまされたり,がまんすることができずに「見せ物小屋」や「島の遊園地」へ行ったりしたことで非常に有名な人物がおります.じゃじゃ丸自閉症研究所所長の寛くんのニックネームのひとつにもなっているピノキオです.論文のイントロにもありますようにピノキオ的な人(自閉症的な人やADHD的な人)と3歳以下の子供は,人をだましたりごまかしたりすることができません.ポーカーフェースが苦手で,うそをついてもすぐにばれてしまいます.心の理論能力と管理(統合)能力(executive function)はそれぞれ自閉症の本質的障害ドメインであることが提唱されており,この論文は両ドメインの間に正常発達を含んだ相関があることをレビューしております.管理(統合)能力の対局の一つはこだわりと考えることもできます.自閉症者の間での多面的症候統一性(社会性,コミュニケーション,こだわりなどの問題がそろって起こること)の説明にもつながる非常に重要な内容です. |
(概訳)
概要:いくつかの最近の研究結果が,3−5歳の年齢における「心の理論」の獲得と自己制御の獲得の間の発達における関連を明らかにした.このレビューでは,発達における進歩の本質を理解するための補助となるであろう5つの仮説を評価する中で,そのような関連(心の理論獲得と自己制御の獲得の間の関連)の存在について考察する.5つの仮説は以下のとおりである.(1)管理制御能力は心の理論(能力)に依存している.(2)心の理論(能力)の発達は管理制御能力に依存している.(3)関連する心の理論課題をこなすには管理制御能力を必要とする.(4)両方の課題は,同じ種類の組み合わせ条件理由付けを必要とする.(5)心の理論と管理制御能力は同じ脳領域を使っている.これらの理論的説明を簡単に記載し,それらを存在する経験的証拠に照らして評価する.現時点では,仮説(3)のみがある程度の確信をもって除外可能である.
イントロ
4歳児の頃は,いくつかの知的変化が現れる.特異的に明らかに関連している二つの変化が,精神状態の理解に関連している.その二つとは「心の理論」と自己制御(管理機能)である.心の理論は,自分自身あるいは他人が望んでいること,信じるていること,感じていること,あるいは自分の意図や他人の意図などの精神状態を,認識する能力のことである.人々が何を望んでいるのか,何を考えているのか,何を意図しているのかを知ることができれば,人々がどのように行動するかを予想することができる.管理能力(executive function)は,高度な活動制御(例えば,プランニング,抑制,協調,一連の行動の制御)を担当するプロセスを意味し,特に精神的に明示された目的を維持したり,誘惑に負けずにことを達成するために必要な能力である.
4歳頃に起こる心の理論の発達ステップの一つとして,「人は外界からの情報を誤解することがある」ことと「外見と真実を区別する」ことを理解することは重要である.その年齢以前は,モチベーションによって人々が行動することは良く理解できており,またもし希望が満たされれば人はハッピーであり,そうでなければアンハッピーであることを知っている.しかし,その段階では(4歳以前)誤解している人々がしばしば目的に合わない(ゴールに向かわない)間違った行動を取ることがあることを理解できない.ゆえにこの時期の子供達はうそをついたりごまかしたりして他人の行動を巧みに操作することもない.
このようなことができるようになる頃,子供は自己コントロール能力においても著明に進歩する.自己コントロール課題の例はカード並べ替え課題である.この課題では,それぞれのカードは色と形の二つの特性(dimension)を持っており,どちらかの特性でカードを並べ替えることが指示される.4歳以前の子供はカードの並べ替えは可能であるが,ルールが変わっても(色による並べ替えから形による並べ替え)前のルールにこだわる傾向があり,変更後のルールを口で言うことができる場合でも,前のルール(色による並べ替え)でカードをソートしてしまう.このような課題における(発達上の)進歩は,この年齢における心の理論能力の発達に特異的に相関していることが報告されており,この相関は年齢と知能レベルでサブグループ化しても有意である.さらに心の理論において特異的な問題をかかえている自閉症児やアスペルガー症候群の子供は,自己コントロール課題においても問題があることが知られている.
このレビューでは,これらの研究で使用されたいくつかの課題について概説し,正常発達において報告された両ドメイン間の相関についてまとめる.それからこの観察された相関を説明する目的で提唱された5つの仮説を紹介し,入手可能な証拠に照らし合わせてこれらの仮説を検証する.
心の理論能力を評価するための課題
4歳の頃に心の理論における変化を調べるために最も良く使われている方法は「かんちがい(誤解)課題」である.標準的な方法で使われるストーリーは,求められている対象物の場所が主人公の知らない間に変更されてしまい,主人公がかんちがい(誤解)してしまっているという設定である.主人公の誤解を対象児が理解しているかどうかを評価するために,「主人公はどこを探しますか?」という質問が成される.3歳児の場合,ほとんど全員が間違って実際の場所(変更後の場所)を解答する.一方4歳以上の子供は正解することができる.このレビューの目的にとっては,この「かんちがい(誤解)テスト」の「説明バージョン」が重要である.このバージョンでは,主人公がかんちがいしている場所(変更前の場所)を探したことを見せてから「なぜそこを探したのですか?」と質問する.かんちがい(誤解)テストのその他のバージョンを以下に示す(Box 1).
Box 1.心の理論課題および管理(統合)能力課題
誤解課題および関連する課題
管理(統合)能力課題
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表1に,心の理論課題と管理能力課題の間の相関の平均値を各研究結果毎に記載する.これらのデータのメタ解析では,強力な効果サイズ(d=1.08)と優位な非単一性が示された.これらの相関関係に影響するシステマティックな要素としては,検査時間の長さが考えられる.実際,予想検査時間は強く相関度に相関している(r=-0.68,n=12,p<0.06).検査が長時間におよぶと疲労などのパフォーマンス因子が誘導され,結果的には相関度を減じてしまう.メタ解析の所見は決定的な結果というわけではないが,発達における相関度の真の強さを同定するためのさらなる研究のヒントとしてとらえるべきである.
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著者 報告年 | 年齢(年;月) 対象児の数 | 心の理論課題 | 管理能力課題 | 相関(DCCSのみの相関) | |
Carlson 1997 | 3;3−4;11 (n=107) | 外見-実際,だまし,誤解説明,誤解自己と他人 | 10個のバッテリー (例えば昼/夜Stroop,DCCSカード並べ替え) | 0.66(0.34) | |
Davis & Pratt 1995 | 3;3−5:4 (n=50) | 誤解自己と他人,にせ写真課題 | 数字逆唱 | 0.46 | |
Fryeら 1995 実験1 | 3;1−5;5 (n=60) | 外見-実際,誤解自己と他人 | DCCSカード並べ替え,物理的因果関係 | 0.38(0.16) | |
Fryeら 1995 実験2 | 2;8−5;4 (n=40) | 外見-実際,誤解自己と他人 | DCCSカード並べ替え | 0.50(0.37) | |
Fryeら 1995 実験3 | 2;9−6;1 (n=60) | 外見-実際,誤解自己と他人 | 並べ替え課題3種 | 0.33(0.25) | |
Gordon & Olson 1998 | 3;0−6;4 (n=72) | 外見-実際,誤解自己と他人 | カウンティングとラベリング,指タッピングとラベリング | 0.56(0.46) | |
Hughes 1998a | 3;3−4;7 (n=45) | 誤解説明,誤解予想,だまし | 6個のバッテリー(手ゲームやカード並べ替えなど) | 0.49(0.30) | |
Hughes 1998b 1回目 | 3;3−4;7 (n=45) | 誤解説明,誤解予想 | 5個のバッテリー(手ゲームやカード並べ替えなど) | 0.27 | |
Hughes 1998b 2回目 | 4;2−5;8 | 二次誤解課題 | 5個のバッテリー(手ゲームやカード並べ替えなど) | 0.34 | |
Hughesら 印刷中 | 3;6−4;6 (n=40) | 誤解自己と他人,外見-実際,誤解説明,誤解予想,だまし,感情誤解 | 6個のバッテリー(手ゲームやカード並べ替えなど) | 0.31 | |
Pernerら 印刷中 | 3;0−5;11 | 誤解予想 | DCCSカード並べ替え | 0.59(0.48) | |
Russellら 1991 | 3;0−4;10 (n=33) | 誤解予想 | 窓課題 | 0.89(0.70) |
正確な予想の数 | 説明=0 | 説明=1 | 説明=2 | 説明=3 | 計 |
0 | 4 | 5 | 6 | 2 | 17 |
1 | 1 | 4 | 3 | 4 | 12 |
2 | 0 | 1 | 4 | 22 | 27 |
この研究の予備的結果は表1に示す.予想テストの両方で正確に予想できる児は,双子の片方が空の箱を見ようとする理由を説明することも可能である.27人中たった5人が誤答している.12人は一つだけ正解の予想をしているが,それより多い17人が予想課題の2問とも誤答している.誤解を理解していない子供にとっては予想ができないということは優位な反応傾向である(予想問題の方が難しい)ことを立証する結果である.予想課題が一つもできない17人の子供は説明課題3問に関しては正答が0−2個が4人から6人,正答が3つが2人であった.このことで誤解を理解できない子供は説明課題において優位な反応傾向を持っていない(説明問題の方が簡単)ことが確認できる.
しかし,これらの課題における成績が管理能力課題(DCCS課題)とどのように相関しているかをみてみると,説明(双子)課題との相関(r=0.66,危険率0.01)は予想課題との相関(r=0.65,危険率0.01)と同じぐらい高かった.さらにこれらの相関は児の年齢や言語性知能で補正してもかなり高く説明課題との相関がr=0.46(危険率0.01),予想課題との相関がr=0.43(危険率0.01)であった.我々は誤解をマスターすることと管理抑制の間の成長における関連が存在していると結論する.この関連は誤解課題に管理的需要があるという可能性よりもより本質的である.
認知の複雑性とコントロール理論の評価
提案された組み合わせ条件文(if-if-then)構造が標準の誤解課題にどのように応用されるかを理解する上で,上述した問題に加え,実際の成長データとのミスマッチが存在する.例えば,見通しにおける違いが二つの異なるセッティングを構成するような誤解課題としてはRepacholiとGopnikの課題(相違する好きな食べ物の理解)がある.認知複雑性と制御理論にとっては残念なことであるが,この問題ドメインにおいては18ヶ月の子供は主張されたif-if-then構造を応用することができることが示された.
Fryeらは,構造的にはDCCS課題と同じで誤解課題と相関している「傾斜路課題」は,条件を一つだけ提示するだけでかなり早期からマスターすることができることを示した.この傾斜路課題では,旗が挙げられている時は(セッティング1),左側の穴に落とされた玉は(条件1)斜面路を転がって左側の出口から出てくる(結果1).玉が右の穴に落とされた場合は(条件2),右側の出口から出てくる(結果2).旗が下げられている時は(セッティング2),傾斜路は交叉され,その結果左の穴からの玉(条件1)は右の出口から出て(結果2),右の穴からの玉(条件2)は左の出口から出てくる(結果1).条件を一つだけ使って課題を簡単に説明するだけで,子供はセッティング1では条件1は結果1につながり,セッティング2では条件1は結果2につながることを理解できる.誤解課題の特徴もまた,たった一つの条件を含んでいるだけである(チョコレートを探す意図).ゆえに誤解課題は単純化された傾斜路課題と同様に簡単であるはずであるが,実際は誤解課題は少なくとも2つの条件を持つ傾斜路課題やDCCS課題のように難しい.
組み合わせ条件文の解析は誤解課題と管理能力課題の間の重要な関連を発見するために確かに有益であった.しかし,示唆されたif-if-then解析を関連する課題に応用するためのはっきりとしたガイドラインがなく,経験的な問題点が存在するため,我々はこの理論が十分な説得力を持つようになるためには,さらなる改正と調整が必要であると結論する.
共通脳構造説の証拠
心の理論と管理能力課題に関連する脳領域が共通していることを示す神経精神学的証拠が存在する.Fletcherらは,機能的脳画像技術を使い,左の正中前頭皮質(Brodmannのエリア8とエリア9)が誤理解を含むストーリーの心化を理解する(understanding mentalizing stories)ための責任部位であることを,物理的イベントについてのストーリーと比較して示した.前前頭皮質のこれらの領域は,随意的行動の制御に関連することが報告されており,特に条件理由づけを必要とする課題において指摘されている.この領域は心の理論と管理能力課題の間に観察されている相関を生理学的に説明する有力な候補部位であろう.
また,アスペルガー症候群の人々は右の大脳半球の機能障害があることを示すいくつかの証拠も報告されている.アスペルガー症候群では,運動(機能)上の問題や管理能力課題における障害だけでなく,高レベルな心の理論障害が存在している.一般的には,神経精神学的証拠はいまだ特異的で一貫性があるとは言えず,自閉症の神経学的原因の首尾一貫した理論的把握には至っていない.さらに,右大脳半球の白質の成熟やBrodmannのエリア8の成熟で,4歳頃に同時にみられる心の理論と管理能力課題における進歩を説明できるという直接的な証拠も得られていない.
結語
我々は4歳頃の心の理論発達と自己コントロールの進歩の間の発達上の特異的な関連の明らかな証拠が増えつつあることを示した.これまでに示された証拠は,この関連が評価課題の方法論的共通側面だけからはおしはかれないことを示し,心の理論と管理能力が相互に機能的に依存していることを指摘した.自己の心のより良い理解は,自己コントロールの方法を提供し,自己コントロールの練習はそのような理解を構築するための基盤の一つである.どの程度この機能的相互依存性が共通する脳構造およびその成熟に基づいているのかは結論が出ていない.この相互依存性のより良い理解ができれば,心の理論障害と管理能力障害が関与しているADHDなどの発達障害の急速な増加傾向に対する対策の可能性も出てくる.
残る問題点
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