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線状体ドーパミントランスポーターとADHA

Krause K-H, et al. Increased strial dopamine transporter in adult patients with attention deficit hyperactivity disorder: effects of methylphenidate as measured by single photon emission computed tomography. Neruroscience Letters 285: 107-110, 2000.

訳者コメント:

ADHDに関しては,疾患概念の問題が大きいことを繰り返します.ADHD成人例にリタリンを投与すると線状体のドーパミントランスポーターがリタリンに占有されてしまうようですが,これは健常者であっても同じことがおこると思います.

(概訳)

(Abstract)10人の治療歴のない注意欠陥/多動性障害(ADHD)成人例を,methylphenidate(リタリン)投与前と4週間後にsingle photon emission computed tomography(SPECT)で検討した.リタリンの投与法は5mgを1日3回の連日投与とした.SPECT検査は,ドーパミントランスポーターに特異的に結合する新しいリガンドである[Tc-99m]TRODAT-1を使用した.ドーパミントランスポーターの半定量的解析を行うために,小脳(BKG)をバックグラウンド値として線状体(STR)における特異的結合量を算出した((STR−BKG)/BKG).ADHDでは,年齢と性を適合させたコントロールと比較し,ドーパミントランスポーターへの[Tc-99m]TRODAT-1の特異的結合が統計的に有意に増加していた(1.43+-0.18 vs. 1.22+-0.05, p<0.001).リタリン内服後は,全例でこの値が減少した(1.02+-0.23, p<0.001).ADHD成人例においては,リタリンは,増加している線状体ドーパミントランスポーターの量を低下させる働きを持つことが,SPECT検査によって初めて示された.

ADHDにおける線状体構造の関与は,神経画像研究法(MRI,fMRI,PET,SPECT)により示唆されている.また,分子遺伝学的研究結果は,ドーパミントランスポーター遺伝子とADHDの関連を示唆している.さらにADHDにおけるmethlphenidate(リタリン)の効果が知られており,この効果は,主に線状体に限局しているドーパミントランスポーターをリタリンがブロックすることにより,ドーパミンのシナプス間隙濃度を増加させることによると考えられている.これまでのADHDに関するSPECT研究では,脳血流量や脳における糖代謝が検討されてきたが,今回我々は,ドーパミントランスポーターに特異的なリガンドである[Tc-99m]TRODAT-1を使って初めての研究を行った.in vivoおよびin vitroでの基礎研究により,このリガンドを使うと,線状体に選択的に集積している(他の脳部位では濃度が低い)ドーパミントランスポーターの状態を確実に評価することができる.また,このリガンドが安全で,人の画像研究にも適していることが判明している.今回の研究では,未治療のADHD成人例のドーパミントランスポーターの状態を検討するだけでなく,それぞれの対象者においてリタリンの低量内服療法がどうのような効果を持つかも検討した.

10人の未治療ADHD例(男性3人,女性7人,22歳から63歳)は,DSM-IVの基準により選定され,その内6例は注意欠陥サブタイプ,4人は混合サブタイプであった.薬物依存やアルコール依存,他の精神科疾患などを持つ例は含まれていない.ADHD群のデータは,コントロール群と比較され,コントロール群は年齢と性を適合させた10人の健常者を設定した(男性3人,女性7人,21歳から63歳).インフォームドコンセントがなされ,倫理委員会および放射線安全対策に関する権威者の認可の下に研究は行われた.SPECT画像は,ガンマカメラヘッドが3つのPicker Prism 3000 XPにより得られ,検査はリタリン投与前と5mgを1日3回投与して4週間後に行われた.投与後の検査では,検査の90分前に,その日の分の3回目の内服をしてもらった.検査対象者は全員,800 MBqの[Tc-99m]TRODAT-1を検査の3時間前に注射され,投影ドメインにおける2.11mm幅のピクセルで128×128マトリックスが得られた.再構成および減弱訂正後の最終的スライス厚は3.56mmであった.それぞれの被検者で,基底核におけるトレーサーの集積が最高である連続断面2枚においてデータを評価した.標準画像を利用し,検討すべき線状体部を決定した.標準画像のサイズと形状は,コントロール群のデータから作成し至適化した.標準画像はそれぞれのADHD例に適合させるために調整をおこない,角度,サイズ,目的構造間の距離などにおける解剖学的個人差を修正して利用した.検査者には,臨床データは知らせていない.半定量的評価のために,小脳における値をBKGとし,線状体における値をSTRとし,選択的結合量は,STR−BKG/BKGで算出した.検定は,Student' t-testの片側検定を使った.

未治療のADHD群は,健常コントロール群にくらべ,線状体への[Tc-99m]TRODAT-1の特異的結合量が有意に増加していた(1.43*-0.18 vs. 1.22+-0.05,p<0.001).リタリン投与後は,全例でこの値は減少し,有意差があった(1.02+-0.23,p<0.001).臨床的には全てのケースのADHA症候は,このリタリン投与中に著明に(markedly)改善していた.

今回の研究で,ADHD成人例においては,リタリンの内服投与は,増加している線状体のドーパミントランスポーター量を減少させることが判明した.この結果は,リタリン投与ラットにおける[Tc-99m]TRODAT-1 SPECT研究の結果と一致している.この点で,10年以上も前にLouらが,ADHD児において線状体への血流量が減少していると報告したことが想起される.Louらはこの報告で,感覚皮質領域の血流は保たれていることを至適し,また,リタリンは線状体領域の血流量を増加させ,感覚野領域の血流量は低下させる傾向があると報告している.我々のADHDケースにおけるドーパミントランスポーター量へのリタリンの効果は,一日に5mgを3回という少ない量で検出された.この検出された減少効果は29.4%もあり,これは,VolkowらがPET研究でリタリン5mg一回投与による減少効果(12%)よりも大きな変化である.この差は,今回の投与が1日投与量としてはVolkowらの3倍であることによるのかもしれないし,あるいは,4週間という投与期間のためもしれない.また,我々のケースにおけるリタリン投与前のドーパミントランスポーター結合(線状体)の増加が,リタリンによる減少効果%を相対的に大きくしているのかもしれない.リタリン投与後は,健常コントロール群よりも線状体におけるドーパミントランスポーター結合量が低下していることは強調されるべきであろう.コントロール群と同じ程度に減少させるだけで十分である可能性も考えられ,我々は,1日のリタリン投与量が10mg以下でよく効いた成人ADHD例を経験している(これ以上の投与量だと副作用がでた例であった).一般的には,ADHDの治療としてリタリンを投与する時の至適投与量は,高揚感(high)が得られる投与量に比べるとかなり少ない量である.リタリンで高揚感を得るためには,線状体のドーパミントランスポーターの50%以上をリタリンが占有することが必要であると言われている.我々のケースにおいて,リタリン投与前に線状体のドーパミントランスポーター密度が増加していたことは,Doughertyらによって報告された最初のデータに一致している.彼らは,iodine-123でラベルしたaltropaneを使ってSPECTを行い,ADHDの成人例(6例)では,線状体ドーパミントランスポーターが70%増加していると報告している.我々のデータはこの70%よりは低い増加率であるが,臨床症候の程度差や,研究方法の違いで説明できるかもしれない.我々が使用したTc-99mでラベルしたリガンドは,I-123でラベルしたものと比較すると,臨床的利点がたくさんある.これらの利点は,Tc-99mがすぐ使用可能な状態で入手可能なこと,比較的安価であること,ガンマエネルギーがより多く,また,半減期が適しているなどである.Doughertyらと我々が指摘した,ADHDにおける線状体ドーパミントランスポーターの増加は,成人ADHDにおいてDOPA decarboxylase活性が前前頭野(prefrontal)において減少しているためかもしれない.成人ADHDの前前頭野におけるこの所見は,Ernstらが報告し,彼らは皮質下にある一次変化としてのドーパミン系障害に続く2次的な変化と解釈している.

結論としては,成人ADHD例10例において,未治療の状態では増加していた線状体ドーパミントランスポーターは,4週間の少ない量のリタリン内服で,著明に減少した.この結果は,我々の臨床的印象(成人例は小児例に比べ体重比で非常に少ない量のリタリンで改善する)と一致している.[Tc-99m]TRODAT-1を使ったSPECT検査はI-123でラベルしたリガンドを使用したSPECTに比べ,臨床的利点が多く,全ての核医学施設で導入可能である.ベータ-CITなどのI-123ラベルのリガンドの方が,脳への吸収がTRODAT-1よりも高いとしても,TRODAT-1はドーパミントランスポーターへの結合選択性が高いため,ADHDのSPECT検査には適しているように思える.この新しい方法は,ADHDの診断評価や治療においていろいろな可能性を提供する.特に興味があるのは,ADHDの臨床タイプや程度とドーパミントランスポーター異常との関係である.線状体ドーパミントランスポーターへの神経刺激物質(リタリンなど)の影響をさらに研究し,投与量との関係や,投与時間や投与期間との関係を検討すれば,治療効果に関してもより深く理解が進むであろう.


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