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AD/HDの脳所見(SPECT)
:ドーパミントランスポーター密度


1. Dougherty DD, et al. Dopamine transporter density in patients with attention deficit hyperactivity disorder. Lancet 354: 2132-2133, 1999.

2. Lancet 355: 1460-1462, 2000.


(上記文献1概訳)

6人の成人ADHD例において,ドーパミントランスポーター密度を測定した.健常コントロールと比較して,(年齢で補正した)ドーパミントランスポーター密度は70%増加していた.

アメリカでは3〜5%の児童がADHDであり,多くの例は青年期および成人期もこの状態が持続する.ADHDが高頻度に起こり,深刻な問題であるにもかかわらず,現時点ではその原因や病態生理についてはほとんど解明されていない.精神運動活動および報酬追求行動におけるドーパミンの中心的役割から,ADHDに関するいくつかの分子遺伝学的研究は,ドーパミン系の機能に関連する遺伝子について行われた.殊に,ドーパミンD4受容体遺伝子とドーパミントランスポーター遺伝子(DAT1)はADHDとの関連が報告されている.ドーパミントランスポーターとADHDの関連は,methylphenidateやpemolineやdexamphetamineなどのADHD治療薬の主な作用部位がドーパミントランスポーターであるために,とりわけ重要であろう.DAT1アレルと多動-衝動性スコアの相関が報告され,我々は,ドーパミントランスポーターの過剰発現が原因でADHDが起こっているという仮説を提唱した.この仮説に関連して,我々はSPECTにより,iodine-123標識altropaneを用い,ドーパミントランスポーター密度の測定を行った.

ADHD成人例6人は(4人の女性を含む,年齢は24〜51歳,平均年齢41.33,標準偏差4.46),30人の健常コントロールデータベース(21〜30歳が6人,31〜40歳が9人,41〜50歳が8人,51〜60歳が7人)と比較して検討された.身長体重が理想値の20%範囲内であり,18歳以上のADHD者を対象とし,インフォームドコンセントを得た.薬物中毒やアルコール依存の患者は除外し,薬物アレルギーのある人やドーパミンシステムに影響のある薬物を1ヶ月以内に内服していたものも除外した.5〜7mCiのiodine-123標識altropaneを注射し,1.5時間かけて連続SPECT検査を行い,経時活性カーブを線状体と後頭葉皮質に関して作成し,結合能(biding potential:BP)を計算した.ADHD群の結合能は,年齢を適合させたコントロールデータベースの結合能と比較した.

線状体におけるiodine-123標識altropaneの集積は迅速で,注射後10〜15分で最大値に達し,1.5時間までにはバックグラウンドレベルまで減少した.後頭葉皮質,前頭葉皮質,および小脳におけるトレーサーの集積は,より低値でより早く減少した.30〜45分で得られたデータを加算したイメージ(high-count density image)では,線状体への強い集積がみられ,脳の他の部位への集積はわずかであった.線状体におけるiodine-123標識altropaneの集積を定量化するために,D2受容体へのcarbon-11標識racloprideの結合の定量のために開発され,最近iodine-123標識altropaneに標準化された方法で,結合能が計算された.ADHD者の結合能は,明らかに健常コントロールデータベースと比べADHDにおいてドーパミントランスポーター密度が高いことを示した.コントロールグループの平均値から2SD(標準偏差の2倍)の範囲内にADHD者はひとりも入っていない.

脳におけるドーパミントランスポーターは,ADHDで使われるほとんどの治療薬の主な作用部位であり,健常コントロールと比較して約70%ADHD者において増加していた.iodine-123標識altropaneを使ったSPECTは,精神刺激薬治療の 個別投与量の決定や,ADHDのための新治療薬の開発,また,ADHDの病態解明および抗-多動治療の作用機序の研究などに応用できるかもしれない.


(上記文献2について)

Doughertyらの論文に対するBaughmanのレター:ドーパミンシステムに影響のある薬物を1ヶ月以内に内服したものは除外されたと記載しているが,多くのその他の薬剤もドーパミンシステムに影響することが知られている.可能性のある全ての薬剤を1ヶ月間内服していない対象者としても,過去に内服した薬剤がSPECT結果影響しないと断言することはできない.ADHD成人例の場合は,通常は長期にわたり向精神薬を内服しており,おそらく少なくとも精神刺激薬の内服は経験があるはずである.論文では薬物療法を一度も受けたことがないケースであるとは記載しておらず,おそらく1ヶ月前までは内服していたのであるから,Doughertyらの結果は薬剤による影響である可能性が最も考えられる.1998年のNIHのADHDコンセンサス学会で,SwansonとCastellanosは,ADHD者の脳イメージ研究により,健常コントロールよりも10%の脳萎縮の存在を発表したが,彼らは全てのADHD者が精神刺激薬を内服していたと述べた.この場合も,ADHDではなく精神刺激薬療法が脳萎縮の原因であることが考えられる.ADHDは,いまだ(確定的な理学的あるいは化学的異常を伴った)病気や,症候群や,(確定的な理学的あるいは化学的マーカーを伴った)フェノタイプとして認知されているわけではないのである,

Doughertyらの論文に対するSwansonのレター:ドーパミントランスポーターへの結合能がADHD者で増加しているとしても,この結果は,ドーパミントランスポーターを作用点とするmethylphenidateなどの精神刺激薬によるADHD治療の新しい研究テーマを示すものである.報告された結果を明確にするために2つの質問を提示する.一つめは,図に示された棒グラフの誤差線についてである.図の説明に書いてあるように標準誤差(SE)であれば,文中の「ADHD者は2SD(標準偏差)の範囲内に入らない」という記載と矛盾している.二つめは,コントロールの性比についてである.対象のADHD者は6人中4人が女性で,コントロールは性別についての適合がなされていない.

著者Doughertyらの返答:対象とした6名のADHD者は,検査の1ヶ月前から向精神薬の内服は全くなく,4人は以前に精神刺激薬を内服しており,また2人はこれまでにいかなる向精神薬も内服していない.精神刺激薬の効果は,おそらく薬物とドーパミントランスポーターの迅速な相互作用の結果である.例えば,神経細胞における遺伝子の発現の変化などは薬利作用に不必要であることが判明している.また,過去に報告されたADHD者におけるドーパミン系の異常に関する所見を含み,いくつかの証拠がこれらの所見が薬剤起因性ではないことを示唆している.Baughmanは,我々の報告した所見は過去に内服した精神刺激薬の影響であると述べたが,何の科学的根拠もない.我々の研究において記載した相違は原因ではなく発現型の違い(phenotypic difference)である可能性もあるが,我々の報告は予報的なものであり,今後の研究が必要であり,現在進行中である.Baughmanは,「ADHDは病気としては認知されていない」と述べたが,いくつかの議論はあるものの,臨床的研究,遺伝学的研究,神経心理学的研究,脳イメージ研究,そして治療研究などの科学的データが,小児科的状態の症候的連続性の存在だけでなく,成人においてADHDを診断することの正当性をも強く支持している.Swansenの指摘した,標準偏差については,詳しいデータを表にして示す.性別については,コントロールグループは14人の女性と16人の男性であり,コントロールグループ内での有意な性差はなかった.今回の我々のサンプルサイズでは,性差については一般化は不可能と考える.


(解説)ADHDについては,疾患概念の点で議論が多いようです.Doughertyらは,どうやら最初の論文中の図の説明で標準偏差(SD)を標準誤差(SE)と書き間違えたようですが,返答の文中ではそれを認めずにごまかした形になっています.


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