Sorry, so far only available in Japanese.
自閉症者の脳(SPECT):小児例の検討

Ryu Y.H. Perfusion impairments in infantile autism on technetium-99m ethyl cysteinate dimer brain single-photon emission tomography: comparison with findings on magnetic resonance imaging. Eur J Nucl Med 26: 253-259, 1999.
(概訳)

(まとめ)

自閉症の神経-解剖学的基礎は,重要なテーマである.これまでの研究結果には一貫性や特異性はなく,多くの画像研究は,成人例か学童例において行われている.我々は,そこで,自閉症に共通する機能的および解剖学的異常を探すために,テクネシウム99m(ethyl cysteinate dimer:ECD)を用いた脳のSPET(single-photon emission tomography=SPECT)とMRI(magnetic resonance imaging)により,自閉症小児例におけるレトロスペクティブな検討を行った.患者は,28〜92ヶ月(平均54ヶ月=4.5歳)の23人で,DSM-IVおよびCARSの自閉症診断基準を満たしている.脳SPETは,テクネシウム99m-ECDを静脈注射後,脳用の環状クリスタルガンマカメラで行われた.MRIも,全例で行われ,軸方向のT1強像とT2強調像および歯状断のT1強調像が得られた.SPETデータは肉眼的に評価された.20例が何らかのSPET異常を呈し,その異常は局所的な脳血流の低下であった.血流低下は,小脳半球が20/23,視床が19/23,基底核が5/23,後部頭頂葉が10/23,側頭葉が7/23で見られた.対照的に全例でMRI所見は正常で,小脳虫部,小脳半球,視床,基底核,頭頂側頭皮質にも異常はなかった.結論としては,小脳,視床,および頭頂皮質を含む広範な血流障害が本研究で自閉症児に認められ,MRIに比べ,SPETの方が自閉症の病態生理を描出するには感度が高いようである.しかし,自閉症における視床や頭頂部の血流障害が有意なものなのかについては,今後の研究が待たれる.

(イントロ)

幼児自閉症は,未知のおそらく単一でない病因による神経学的異常であり,Kannerが最初に記載し,多くの高次認知機能の発達が著明に阻害される.自閉性障害の根本的所見は,社会的相互関係とコミュニケーションの顕著に異常なあるいは障害された発達と,活動性と興味のレパートリーの顕著な制限である.

自閉症で最も頻回にみつかる異常のひとつは,新小脳領域である虫部と小脳半球に著明なボリュームの減少である.皮質異常に関しては,いろいろな局所的なものが記載されてはいるが,所見に一貫性はない.Courchesneらは,難解な頭頂葉の異常を報告し,polymicrogyriaやschizencephalyやmacrogyriaなどの皮質奇形もPivenらによって報告されている.しかし,自閉症の臨床側面を十分に説明できる所見は報告されていない.

PETやSPETを使った,機能的脳画像研究は,自閉症成人例や学童期の例において,一貫した局所的異常を指摘できていない.Georgeらは,SPETにより,前頭葉および側頭葉の血流低下を一例の自閉症者で報告した.Mountzらは,側頭葉および頭頂葉に脳血流量が異常な部分があることを示唆した.PETにより,Schifterらは13例の精神遅滞を伴う自閉症児において,特に頭頂部,後頭部,側頭葉領域に局所的な異常を示した.しかし,小脳の血流量や代謝の変化は,これまでのところ自閉症では検出されていない.

これまでの研究結果は,自閉症において,一貫性がありかつ特異的な神経-画像所見を証明しておらず,多くの研究が,成人例および学童期の自閉症において行われているので,我々はSPETとMRIを使い,23例の小児例を対象としたレトロスペクティブな検討を行った.

(対象と方法)

28〜92ヶ月の23例の小児例(20人の男児と3人の女児,平均年齢54ヶ月=4.5歳).小児精神科の診察を受け,自閉症については慎重な診断を行った(DSM-IVとCARS:Childhood Autism Rating Scale).アスペルガー症候群や自閉症的でない広汎性発達遅延例は含まれていない.はっきりとした医学的状態や神経学的異常(てんかんなど)が病歴や診察でみつかった例は含まれていない.脆弱X症候群も含まれていない.周産期の仮死状態の例も含まれていない.社会性指数(SQ)も全例で算出された.親または法的後見人への十分な説明がなされ,インフォームドコンセントが得られた.

SPET・MRI:1.6mg/kgのchlorpromazine筋注を行い,沈静状態を得て検査が行われた.SPET画像は,臨床データやMRI所見を知らない二人の核医学専門家により肉眼的に評価された.SPETデータの総合的質的肉眼的グレード化は,2人の評価者の意見が一致したものを記録した.対象者内での正常部位を使った検討(semiquantitative)は,異常部位がほとんどの部位にあるため不可能であった.MRIデータも2人の神経放射線科医が臨床データやSPET所見にブラインドで行った.

(結果)

23例中20例が,異常SPET画像を呈し,局所的な血流低下を示した.20例において小脳半球の血流低下があり,視床においても著明な血流変化が両側性に17例でみとめられ,2例では左側だけの視床の血流低下があった.大脳皮質の脳血流量異常は,頭頂領域と側頭領域ではっきりしていた.10例が左頭頂領域の血流低下を呈し,両側側頭葉脳血流の低下は3例で,左側頭葉脳血流低下は4例でみられた.前頭葉と後頭葉は全例で正常であった.MRIでは,異常所見はみられなかった.

(考察)

自閉症は,人に特異的な能力(社会的行動,非社会的行動,言語,認知)の異常で定義され,ニューロサイエンスにとっては興味深く,また意義のある臨床症候群である.現在,臨床所見に対応する神経病理学的病変は知られておらず,脳の発達障害の結果と一般的に考えられている.

自閉症者の病理学的検討では,検討された全てのケースで新小脳の異常所見がみられる.異常所見は,また,辺縁系にもみられる.新小脳皮質の萎縮は,プルキンエ細胞数の減少を伴っており,顆粒細胞数の減少もみられる.詳細に検討された2例では,小脳皮質の異常に関連する下オリーブ核の逆行性細胞減少がみられないため,プルキンエ細胞や顆粒細胞の減少は,下オリーブからプルキンエ細胞までの神経線維が形成される前の時期に起こることが示唆された.

最近の研究は,小脳の形態的変化を,自閉症の特異的行動所見や認知所見の原因として位置づけた.Courchesneらは,小脳のダメージは自閉症に共通する所見であると仮説し,1988年に自閉症者における小脳虫部小葉VIおよびVIIの低形成の証拠をMRIで示した.彼らはまた,自閉症例の一部に小脳の過形成が存在することも報告している.

これまでの神経-解剖学的研究と同様に,我々のSPET研究も小脳半球における優位な血流低下を23例中20例の自閉症児で示した.しかし,これまでのところ,PETやSPETを使った機能的画像研究の多くが,小脳の異常を指摘していない.MRI所見に関する我々の検討でも,小脳における異常所見はみとめられなかった.我々は,最近,MRI所見とSPET所見の同様の解離を,脳性麻痺患者の小脳でも報告した.周産期に仮死状態であったこのような患者では,SPETで小脳の血流低下がみとめられたが,MRIでは小脳に異常はなかった.BarkovichとSargentの報告でも,MRIは小脳の病変を描出するには感度が高いとは言えないとしている.彼らの研究では,一例の剖検例において,広範な神経細胞の損失と外顆粒層,プルキンエ細胞層,または内顆粒層の消失があるにもかかわらず,小脳虫部と小脳半球はMRIでは正常所見であった.

小規模の自閉症研究では,神経細胞移動異常(発達過程における)などの皮質異常病変部位を同定するために,機能的および構造的画像属性の両面から検討された報告がある.脳血流量および脳代謝における,びまん性の区域性皮質異常は,SPETおよびPETにより報告されている.最近,テクネシウム99m-HMPAOによるSPETでの検討で,ひとつの報告は,側頭葉と頭頂葉における脳血流量の異常を明らかにし,他の報告は側頭葉と前頭葉の異常を明らかにした.PET研究の結果は一貫性がなく,ある報告では皮質代謝の全体的増加であったり,他の報告では,そのような増加はみられない.いくつかのPET研究は,自閉症において,前頭葉/頭頂葉領域と新線状体・視床との間の相互作用が障害されていることを発見した.我々の検討では,SPETによる脳血流量の変化は視床(19/23)と基底核(5/23)に限局しており,この部位にMRI異常はなかった.しかし,視床と基底核の血流低下の臨床的意味は不明である.Buchsbaumらは,視床と被殻における相対的グルコース代謝率低下所見を7例中2例の自閉症者において報告しており(FDG-PET),これらの所見は,脳幹部と視床領域の役割を強調したOrnitzの自閉症病態生理理論に一致する.しかし,これまでのところ,他のPETまたはSPET検査は,視床の変化について言及していない.現在のSPET装置の空間解像度は進歩しており,このことが我々の研究で視床における低血流所見が同定できた原因かもしれない.視床の低血流所見の他の可能性としては,皮質視床機能解離(diaschisis)や成熟遅延がある.正常では,出生時,皮質脳血流量値は,成人に比して低下しており,その後5〜6歳まで増加し,成人値よりも50〜85%高い値まで達し,その後減少し,15歳から19歳の間で成人レベルになる.2ヶ月の終わりまでは,視床の血流は皮質領域の血流より明らかに多い.小脳や視床における新生児期の脳血流量は成人よりも少し高いが,有意ではなく,1歳を過ぎると皮質の変化パターンと同じパターンになる.成人と同じ値になるまでの期間は,それぞれの皮質領域で異なっている.子供の認知発達は,対応する脳領域の血流の変化に関連しているようである.

剖検例の顕微鏡的解析は,自閉症者の脳が正常であることを示唆したが,Courchesneらは肉眼的に検出できる頭頂葉の異常が多くの自閉症者でみられ,脳梁も小さいと報告している.脳梁の変化は後部に限局しており,両側頭頂葉間を結ぶ線維が通る部分である.我々の研究では,MRI所見はないものの,左頭頂葉の低血流が比較的多かった(10/23).

ほとんどの行動学的に定義されている症候群と同様に,自閉症は,放射線医学的には異なる所見を呈するいろいろな臨床サブグループを含む,単一でない疾患である.この研究の限界のひとつは,病態が単一でない可能性があるにもかかわらず,サンプルサイズが小さいことである.さらに,年齢を適合したコントロール群を検討しておらず,このことが,本研究の最も重要な問題点である.

結論として,小脳,視床,そして頭頂皮質を含む,広範な血流障害が本研究により示された.SPETは,自閉症の病態生理を検討することにおいては,MRIよりも感度が高い.自閉症における視床と頭頂部の血流低下が有意なものかどうかを判断するには,さらに検討する必要がある.


(コメント)SPECT研究としては,コントロールや標準化がなく不完全ですが,重要な内容を含んでいます.前頭葉の血流低下例が23例の中に一例もいません.検査のためにメジャートランキライザーを筋注していますが,残念なことに,検査中被検者が寝ていたのか,起きていたのか明記しておらず,「sedation(鎮静状態)を要した」とだけ記載されています.


表紙にもどる。


ご意見やご質問のある方はメールください。

E-mail: shinji@po.synapse.ne.jp