Sorry, so far only available in Japanese.
セロトニン合成能と自閉症

Chugani DC, et al. Developmental changes in brain serotonin synthesis capacity in autistic and nonautistic children. Ann Neurol 45: 287-295, 1999.

訳者コメント:

セロトニン合成能の発達による経時的変化が,自閉症児ではみられないという話です.性格の違いなどでも,このようなバリエーションがみられないかどうかが注目されます.

(概訳)

まとめ:動物実験での計測結果では,セロトニン含有量,セロトニン取り込み部位,およびセロトニン結合量は,成人値と比較すると全て発達中の脳において高度であり,思春期前に減少する.さらに,思春期以前に実験的に脳のセロトニンを増減することにより,感覚皮質領域におけるシナプス結合性の崩壊を起こすことができる.本研究は,成人よりも子供において,脳のセロトニン合成能が高いのかどうか,および,自閉症児と非自閉症児ではセロトニン合成能に差異があるのかを検討する.セロトニン合成能は,自閉症児および非自閉症児において,いろいろな年齢で,アルファ[11C]methyl-L-tryptophanとpositron emission tomography(PET)を用いて測定した.セロトニン合成能の全脳値(K complex)は,自閉症児30人,その兄弟で自閉症でないもの8人(健常兄弟群),そして自閉症のないてんかん症例16例で得られた.K complex値は,成長による変化およびグループ間のセロトニン合成差を決定するために,年齢を横軸にしてプロットされ,線状に回帰し,5つのパラメーターが求められた.自閉症ではない子供達では,セロトニン合成能は5歳までは成人値の200%以上で,その後成人値まで減少する.また男児よりも女児の方が早期に減少する.自閉症児では,セロトニン合成能は2歳から15歳までの間徐々に増加し,成人正常値の1.5倍まで達し,性差はみられなかった.自閉症群とてんかん群の間,および自閉症群と健常兄弟群の間には,セロトニン合成能における年齢変化において有意な差がみとめられた.これらのデータは,人でも小児期にはセロトニン合成能は高く,自閉症児においてはセロトニン合成能の発達過程がおかしくなっていることを示唆している.

(イントロ)脳におけるセロトニン含有量やセロトニン受容体結合量は,人以外の霊長類において成長と共に変化することが示された.出生前に始まるセロトニン脳含有量の増加があり,生後2ヶ月がピークで,その後は3歳まで減少する.セロトニン受容体の量も同じ様なタイムコースで増減する.人においては,セロトニンの代謝産物である5-HIAAを脳脊髄液中で測定すると,成人よりも小児で高値であることが報告されている.セロトニンは神経伝達物質としての作用の他に,神経栄養因子または分化誘導因子としても働くことが証明されており,脳の発達の時期にセロトニンレベルが変化すると,神経系の分化に影響が及ぶ.例えば,ラットにおいては,セロトニンは,感覚皮質におけるシナプス結合形成の調節に関与している.セロトニンの免疫組織化学研究でも,セロトニン吸収部位への(放射性物質でラベルした)citalopramの脳組織への結合研究でも,出生後2日から14日のラット脳皮質のシナプス結合形成時期の間に,一次感覚皮質でのセロトニン系神経支配が一過性に存在することが示されている.2つの最近報告された研究結果は,この一過性の神経支配は,実際は高親和性セロトニントランスポーターの一過性表出と,グルタミン酸系の視床皮質神経における小胞体モノアミントランスポーターの一過性表出の結果であるとした.脳の発達期に 脳のセロトニンを増減させると,感覚皮質におけるシナプス結合が崩壊することも知られている.

自閉症では,セロトニン系神経の異常を示す証拠が示されている.自閉症は,社会的な相互関係およびコミュニケーションにおける深淵な障害と,行動や興味や活動のお決まりパターンを含む一連の異常行動で特徴づけられる神経発達障害である.SchainとFreedmanは,自閉症者の約3分の1で,血液のセロトニンが増加していることを初めて報告した.例えばトリプトファンを含まない食事などの,セロトニン系の神経伝達を減少させるような薬理学的治療は,自閉症者の症候を悪化させることも報告されている.逆に,セロトニン再吸収阻害剤を自閉症成人例に投与すると,衝動的症候や反復運動および社会的側面に改善傾向が見られることが指摘されている.自閉症においてセロトニンが何らかの役割を担っている可能性は,自閉症者やその家族においてセロトニントランスポーター遺伝子の多型頻度に一定の傾向が報告されたことでさらに支持された.一方,脳脊髄液中の5-HIAAに関する研究では,自閉症者において再現性のある脳セロトニン代謝異常を示せなかった.

最近,PETのトレーサー物質としてアルファ[11C]methyl-L-tryptophan([11C]AMT)が開発され,人におけるセロトニン合成を直接測定することが可能となった.自閉症におけるセロトニンの役割についてさらに研究を進めるために,我々は,この技術を自閉症に応用し,自閉症男児とその兄弟の間に局所的な差異があることを以前報告した.前頭葉,視床,小脳におけるセロトニン合成の非対称性が自閉症男児ではみられ,一人の自閉症女児と健常兄弟群ではみられなかった.今回の検討の二つの目的は,(1)非自閉症児において,セロトニン合成能の年齢変化が存在するか?(2)出生後の脳発達において自閉症児と非自閉症児の間に脳セロトニン合成能の差が存在するか?の二つである.

(対象と方法)

対象:30人の自閉症児(24人の男児と6人の女児,年齢2.3−15.4歳,平均年齢6.41歳 標準偏差3.3)と,その兄弟が8人(6人の男児と2人の女児,2.1−14.4歳,平均9.18歳 標準偏差3.4),および16人のてんかん症例(9人の男児と7人の女児,3ヶ月−13.4歳,平均5.73歳 標準偏差3.6)は,ミシガン小児病院の外来で集められた.対象者中の8人の自閉症児と5人の兄弟は,[11C]AMT PET検査での局所的異常所見を指摘した以前の論文で報告したケースである.本研究は,小児に対する鎮静剤投与と,放射性物質投与の両方の問題を含んでいる.故に,倫理的にも,年齢が適合した比較グループを設定する必要がある(対象者に対して有害な内容を含む検査であるので比較研究にしなければ意味がない).自閉症者の健常兄弟は,8歳以上で承諾を得られた場合だけ対象とした.8歳以下の兄弟の場合は,発達遅滞がみられた場合だけ検査を行った.また,てんかん症例は難治性で,痙攣発作の焦点を同定するために[11C]AMT PET検査が行われたケースをコントロールデータとして使用した.自閉症の診断は,ADI-R,GARS,CARS,Vineland適応行動スケールなどで行った.精神年齢が24ヶ月以下の場合は診断が困難なため,以下の4つの基準が全て満たされた場合のみ自閉症群に加えた.(1)ADI-Rで自閉的(2)DSM-IV(3)GARSで自閉症指数が85以上(4)CARSでスコアが30以上(5)これまでの診断が自閉症.逆に,これらの5つの基準のひとつでも満たしている健常兄弟やてんかん症例は除外された.検討した健常兄弟の中には除外者はいなかったが,てんかん症例では3例が除外された.てんかん症例群に属するケースは,すべて難治性であったが,結節性硬化症などの脳病変を伴う症例は含まれていない.てんかん症例は,1種類あるいは複数の内服薬を常用していた.自閉症者とその兄弟は,常用内服薬なし.研究はWayne州立大学人研究委員会の指示の基に行われ,文書で親または後見人からインフォームドコンセントが得られた.加えて,8歳以上の健常兄弟からは文書での承諾書を得た.

PET走査プロトコール:被検者は6時間食事を抜いて,検査の間,血漿トリプトファンレベルと大中性アミノ酸レベルが安定した状態になるようにした.静脈ラインを2カ所確保し,片方はトレーサー(放射性物質)の注入に使用し,もう片方は検査中の採血に使用した.検査中の採血は1サンプルが0.5mlで,トレーサー注入から0,20,30,40,50,そして60分に採取された.採取された血漿における放射線活性はガンマカウンター装置で計測し,液状クロマトグラフィー装置によりトリプトファン濃度が測定された.自閉症群の血漿トリプトファン値の平均は,トレーサー注入時に10.74(標準偏差3.19)ng/mg蛋白で,注射後1時間で10.41(標準偏差3.49)ng/mg蛋白であった.非自閉症群では,トレーサー注入時に11.28(標準偏差4.41)ng/mg蛋白で,注射後1時間では10.27(標準偏差3.93)ng/mg蛋白であった.心拍数,血圧,酸素飽和度,血液ガスデータも計測され,てんかん児では脳波もモニターされた.てんかん発作中のデータは含まれていない.必要な場合は,either nembutal(5mg/kg)かmidazolam(0.2-0.4mg/kg)の静注で鎮静状態を得た.予備実験(5人の成人)で,midazolamによる鎮静化の有無でセロトニン合成能に差がでないことを確認した.トレーサーの注入は2分以上かけてゆっくりと行われた.トレーサー注入後25分から,5分間の脳スキャン(3次元モード)を7回行った.

データ解析:動脈血インプット関数は,左室領域の経時運動曲線と[11C]AMTの血中経時変化とを組み合わせて算出した.注入後の採血の後半では,動脈血と静脈血の濃度がほぼ平衡する.左室インプット関数は報告されているように左室領域の当該部位から得られた.K complex値のパラメトリックイメージを求めるために,ピクセル毎を原則として,Patlakプロットアプローチを使用した.この際,以前記載したように,トレーサー注入後25分から,最後までの7枚の脳フレームを対象とした.我々の方法はNishizawaらのものとは異なっており,我々の方法では,血漿中のトリプトファンレベルを使った絶対的セロトニン合成率(pmol/min)を計算するのではなく,我々がセロトニン合成能と呼んでいる一方向性吸収率定数(K complex,ml/g/min)を算出する.このアプローチは以前の議論で正当化され,下記の考察でも言及した.検討すべき脳領域は,半卵円中心を含む面から始まる全てのテント上断面における,K complex値で表されたイメージ上に手で書き込んだ.K complexの平均値は,全てのテント上断面の加重平均として決定された.標準吸収値イメージ(注入された活性と量で標準化した活性イメージ)は,トレーサー注入後30分から55分の脳イメージフレームを平均することで作られた.全脳セロトニン合成能(K complex)値は,対象者の年齢を横軸にプロットされ,グループ毎に線状関数に回帰された.さらに,セロトニン合成能に関しては5つのパラメーターによる成長関数を求めた.この成長関数は,糖代謝率やシナプス密度などのようないくつかの成長プロセスが,出生後に増加し,思春期の安定期を経て,その後成人値まで減少する現象に基づいてデザインされた.

(結果)

対象となった全ての自閉症児は,ADI-R,DSM-IV,GARS,そしてCARSの自閉症診断基準を満たしており,検査前の診断と同じであった.自閉症児には他の神経学的疾患は含まれていない.自閉症の兄弟もてんかん症例も診断基準で自閉症となる例を含んでいない.兄弟群の全般IQは114(標準偏差11.4,99−130)であった.自閉症群の対象者やてんかん群の年少者においては,信頼性のあるIQ測定ができなかったので,Vineland適応行動スケールが全般的な適応行動を比較するために使われた.全般適応行動合成スコアの平均値は,自閉症グループで49(標準偏差9.3,32−92),てんかんグループで63(標準偏差21.5,33−98)であった.

自閉症児の兄弟と比較すると,自閉症男児とてんかん児において,局所的な[11C]AMT吸収の増減がみられたが,自閉症女児ではみられなかった.セロトニン合成能の全体値は,各グループで得られた.各グループのセロトニン合成能の全脳値は,年齢の関数(年齢を横軸)として線状に回帰した.健常兄弟群とてんかんグループでは,回帰した線は右下がりで.両群の傾きに有意差はなかった.対照的に,自閉症グループでは,右上がりの線で,傾きには他の2群と有意差があった.

3つのパラメーターで回帰した曲線分析では,てんかんグループと健常兄弟群との間に,パラメーターの有意差はなかった.これらの結果から,健常兄弟群とてんかん群のデータはプールされ,一つの非自閉症グループとしてあつかい,5つのパラメーターで回帰する成長曲線分析を行った.回帰した非自閉症グループでの成長曲線では,3ヶ月から3歳まではセロトニン合成能は増加し,約5歳まで成人値の2倍以上を保ち,そしてその後に成人値まで減少することが判明した.自閉症グループのデータでは減少するフェーズがないために,5つのパラメーター回帰が不可能であった.そのため,自閉症グループのデータはプラトーモデル(増加してプラトーを保つ)で回帰した.得られた経時変化では,自閉症グループのプラトー値は,非自閉症グループのプラトー値よりも有意に低かった.

非自閉症グループの漸減フェーズ(5.16歳以上)は,男女に分けて回帰解析(3つのパラメーター)を行い,女児の方が有意に早期に減少することが示唆された.自閉症グループではプラトーモデルに有意な男女差はなかった.

(考察)

動物実験で予想されていたように,今回の結果では,2歳から5歳の非自閉症児のセロトニン合成能は成人値よりも高値であり,その後5歳から14歳まで減少し,成人値におちつくことが判明した.本研究は,若年者に鎮静剤を使うことに加え,放射性物質を使うため,年齢を適合させた比較グループの選択は倫理的に必須である.そのため,我々は,てんかんフォーカスを同定するために[11C]AMT PET検査を受けた,難治性てんかんを持つ自閉症でない子供達のデータを利用した.[11C]AMT PETスキャンは,てんかん患者のフォーカス領域において,局所的に増加したセロトニン合成があることを示した.また,自閉症男児は,前頭葉皮質や視床に吸収が減少した局所領域を持つことが示された.このような局所的異常のパターンは全ての年齢でみられた.ゆえに,そのような局所的な異常が,各グループ間の全脳セロトニン合成能の違いを説明することは不可能であろう.なぜなら,5歳以下の場合,K complex値は,てんかん児でより高く,そして5歳以後は自閉症児で高くなる傾向があるからである.今回の結果でも,以前の我々の報告(3例の自閉症成人例)と同様,より年齢の高い自閉症児においては全脳セロトニン合成能はより高値であることが示された.

てんかん児の全員が抗てんかん薬の内服を受けていた.成人で,抗てんかん薬の内服を受けている場合は,脳脊髄液中の5-HIAAが増減することが報告されている.加えて,Shaywitzらは,てんかん児で脳脊髄液中の5-HIAAが減少していることを示し,抗てんかん薬の影響がないことを示唆した.しかし,これらの報告されている変化は,今回の結果でてんかん児と自閉症児の間で検出された違いと比較すると小さい変化である.8歳から14歳の健常兄弟とてんかん児を比較すると,グループ間に全脳K komplex値に有意な差がなかったことは重要である.てんかん児のデータを使うことで,これらの所見を一般化することには,いくつかの制限がでてくる.しかし,全般適応行動スコアの平均値でみれば,自閉症グループよりもてんかんグループの方がわずかに高いだけであるので,発達遅滞に関してはてんかんグループはよいコントロールを提供している.さらに,成人値と比較して,2歳から5歳のセロトニン合成能がより高値であることの発見は,過去の報告の子供の方が脳脊髄液中の5-HIAAがより高いという結果に一致する内容である.

以前我々は,自閉症男児と女児では,局所的な[11C]AMT吸収の所見が異なっていると報告したが,今回は,自閉症グループの中で全脳セロトニン合成能に性差はみられなかった.非自閉症グループにおいては女児の方が全脳セロトニン合成能が早期に減少し始めるという所見は,女性の方が思春期が早いという事実に矛盾しない.また,以前我々は,健常成人においては全脳および部分的セロトニン合成能(K complex)に10−15%の性差を報告した.成人女性では,男性に比べて,セロトニン合成能が有意に高く,このことは,これまでに報告されたたくさんの動物研究および人研究の結果と一致している.対照的に,Nishizawaらは,[11C]AMT PETで計測したセロトニン合成率は,女性よりも男性の方が50%高値であると報告している.しかし,Nishizawaらは,セロトニン合成率を,血漿中のフリーなトリプトファンレベルでK complex値を補正することによって計算しており,彼らのデータでは,血漿中のトリプトファン値は男性の方が女性より50%高く,このことが,彼らの結果と我々の結果の矛盾を説明している.我々は,トリプトファンはトレーサーである[11C]AMTと血液脳関門で競合する大中性アミノ酸プールの一部を含有しているため,Nishizawaらの方法は使わなかった.ゆえに,もし血漿中のトリプトファン濃度が大きく変化しても,[11C]AMTの脳への移行にはほとんど影響しない.

今回の結果では,自閉症児におけるセロトニン合成能の年齢変化に関しては,健常兄弟群やてんかん群でみられたような年齢変化がなかった.以前我々が報告した,自閉症男児における局所的なセロトニン合成異常の所見と合わせると,この所見は,自閉症の病態にセロトニン合成の成長に伴う制御が関わっていることを示唆している.成長過程にある動物において,セロトニンに人為的変化を与えると,BaumanとKemperが自閉症者の脳において報告したような病理所見を動物においても再現することができる事実は興味深い.例えば,BaumanとKemperは,自閉症者の海馬では,神経細胞のサイズが減少し,細胞数が増加していることを報告している.セロトニンを枯渇させる目的で,妊娠中のラットにp-chlorophenylalanineを投与すると,児の細胞分裂期間が延長し,密集したセロトニン系の脱神経が脳に起こる.その結果,海馬,上丘,いくつかの視床核においては神経細胞数が増加する.BaumanとKemperはまた,自閉症脳において海馬の樹状構造の複雑性と広がりが減少することも報告している.動物実験では,Yanらは,新生児ラットでp-chlorophenylalamineや5,7-dihydroxytryptamineでセロトニンを枯渇させると,海馬における樹状突起の数が大幅に減少することを報告している.さらにBaumanとKemperは,自閉症者の小脳のプルキンエ細胞の数が減少していると報告した.ラットの子供では,出生後2日から9日までの間は,プルキンエ細胞層におけるセロトニン5-HT 1A受容体の表出が高度であるが,成人ラットでは小脳にこの受容体が検出されないことが知られている.これらのデータは,脳の成長期における小脳のプルキンエ細胞中のセロトニンが持つ重要な役割を示唆する.また,これらの所見は,プルキンエ細胞からの神経連絡を受ける小脳歯状核において我々が指摘した[11C]AMTの局所的増加所見から考えても興味あるものである.

前頭葉皮質や視床にみられた[11C]AMTの局所的な減少もまた,動物研究で示されたセロトニン機構における成長に伴う変化の観点で説明できるのかもしれない.上述したように,ラットにおいては,生後2週間の間に,グルタミン酸系の視床皮質求心神経線維において,セロトニントランスポーターが一過性に表出する.この時期に,これらの視床皮質神経は,セロトニンを合成しないが,セロトニンを吸収し保存する.細胞体を視床の感覚核に置くグルタミン酸系の神経細胞におけるセロトニンの役割は,まだ知られていないが,セロトニン濃度はこの時期には高すぎても低すぎてもいけないことが証明されている.セロトニンを枯渇させると,ラットの体性感覚皮質のbarrel野の発達が遅延し,barrel野のサイズが減少する.逆に,成長期にセロトニンを増加させると,これらの神経軸索の接線方向の樹枝状部が増加し,皮質barrel(たる状構造?)の境界線がはっきりしなくなる.自閉症において報告されているセロトニントランスポーター遺伝子の多型は,視床皮質神経連絡のセロトニン調節に影響し,ひょっとするとこのことで多くの自閉症者において報告されている感覚認知における異常を説明できるのかもしれない.しかし,上述したように動物研究で報告されている脳セロトニン含有量の変化は,今回の結果で自閉症グループと非自閉症グループの間に検出されたセロトニン合成の差よりも,非常に高度なものであることも事実である.

まとめると,我々は,非自閉症児において示されたセロトニン合成能の年齢変化が,自閉症児においては存在しないことを示した.このことは,成長過程におけるセロトニン系メカニズムの崩壊が自閉症で起こっていることを示唆している.これらの結果は,自閉症児の出生後の薬理学的治療のデザインにも有用である(出生後の脳の発達時期にセロトニン系神経伝達を正常化する).


表紙にもどる。


ご意見やご質問のある方はメールください。

E-mail: shinji@po.synapse.ne.jp