ゲノムスキャン:対象をしぼりこむことで感度が上がる

Buxbaum JD, et al. Evidence for a susceptibility gene for autism on chromosome 2 and for genetic heterogeneity. Am J Hum Genet 68: 1514-1520, 2001.

訳者コメント:

自閉症のゲノムスキャンです.第2染色体上のピークを強調しております.また,フレーズ会話の遅れを表現型として追加することで,同部位と自閉症の連鎖の程度が向上することを示し,対象をしぼりこむと感度が上がるとしています.

(概訳)

(概要)特発性自閉症においては強力な遺伝素因が存在することを示すかなりの証拠があるが,易罹患性遺伝子を探すためにこれまでに行われたいくつかのゲノムスクリーニング研究は,連鎖のある遺伝子座の再現性が部分的であり,弱い効果のたくさんの遺伝子の存在を反映していいるのか,あるいは(and/or)サンプルに非単一性があることを示唆している.サンプルの非単一性を減じることができれば,遺伝子を同定する可能性が高まるので,自閉症親族ペアサンプルをフレーズ会話の発達遅滞(36ヶ月を超えて可能)を伴うケースに限定することによる連鎖の証拠への影響を検討した.2人以上の自閉症または関連状態を伴う家族を有する95家系において易罹患性遺伝子座のための2ステージゲノムスクリーニングの2段階において,最大複数ポイント非単一LODスコア(HLOD)が1.96,最大複数ポイント非パラメトリック連鎖(NPL)スコアが2.39という値が第2染色体長腕上に同定された.サンプルを自閉症とフレーズ会話発達遅滞のケースに限定すると(49家系),この最大複数ポイントHLODは2.99に,NPLスコアは3.32になった.サンプルを制限することによるスコアの増加は,全体のサンプルに非単一性があることを示す証拠と共に,限定したサンプルが遺伝的により単一なポピュレーションより構成されることを示し,それにより易罹患性遺伝子座のポジショナルクローニングの可能性が高められるであろう.

イントロ

自閉症は発達障害のひとつで,3つのクラスの症候で特徴づけられる.コミュニケーションの障害,相互社会的関係の障害,および反復性でお決まりの(stereotyped)行動と興味である.双生児研究は遺伝素因が自閉症の病態に重要な役割を担うことを示している.一卵性双生児の一致率は,二卵性一致率よりはるかに高率である.加えて,家族研究の結果は兄弟内の再発生率(複数の報告で1%から3%)は,一般ポピュレーションにおける危険率(1000人あたり0.5人から2人)をはるかに超える.自閉症の遺伝モードは複雑であることが明らかになっており,潜在クラス解析は3から10個の遺伝子が背景にあることを示唆している.少なくとも一つのゲノムスキャン連鎖解析の報告が,背景となる遺伝子を10個以上としている.

いくつかのゲノム全長に渡る自閉症易罹患性遺伝子のスクリーニングが最近報告されている.これらのスクリーニング研究の中で,最も高い連鎖ピークに関しては再現性がない.IMGSACによって報告された最初のスクリーニング報告では,第7染色体上にピークが同定され,この部位は複数の報告の中で最もピークの結果が一致する部位である.しかし,この部位に連鎖の証拠を提供している報告においてさえも,厳密なピーク位置については一致していない.さらに,IMGSACによって報告された連鎖の証拠は,この部位において,サンプル家系を追加することにより減少することが同グループにより報告されている.IMGSACの報告でのその他のピークと他の報告での最高ピークは,16p(IMGSAC),13(Barrettら),2q,7q,16p,19p(Philippeら),そして1p(Rischら)であり,報告間の再現性はほとんどないことが示されている.このようなことから,自閉症の遺伝的非単一性が著明であるとか,相互作用があり効果の弱いたくさんの遺伝子が関与しているなどの示唆がなされている.もしそうであれば,50家系から200家系のサンプルサイズで易罹患性遺伝子座をゲノム全長に渡る連鎖解析で同定することは非常に困難であることが証明されるであろう.

自閉症に関連する遺伝子の実際の数にかかわらず,サンプルの非単一性を減じれば,遺伝子同定の見込みは増加する.より狭いサンプル基準(inclusion criteria)を使うか,家系のサブグループ間で共有している形質を同定することにより,サンプルの非単一性は減じることができる.家族のメンバーによって共有する傾向のある形質を同定することは,特に有症候兄弟ペア法によって,有益な家系サブグループを同定する手段となり,より大きな遺伝素因を持つ形質を同定するかもしれない.2つの研究報告が,50ケース以下の兄弟を使って,自閉症診断インタビュー(ADI)成分の家族性が増加していることを同定して報告した.一つの報告は,家族性は反復性行動ドメインに観察され,2番目の報告は,家族性が非言語性コミュニケーションと言語性/非言語性状態における障害で観察された.最近行われた136例の自閉症兄弟ペアでの解析では,反復性行動の程度,非言語性コミュニケーション障害のレベル,フレーズ会話の存在,およびフレーズ会話の開始年齢が,有症候兄弟ペア間で一致することが示された.これらの臨床形質は連鎖解析のための家系のサブカテゴリー化に有用であろう.これらの行動ドメインにおいてより大きな障害を示す有症候メンバーのいる家系は,自閉症の遺伝素因リスクがより大きいか,または(and/or),遺伝的により単一であるかもしれない.

自閉症発端者の家族の無症候メンバーにおける形質の研究に基づき,連鎖研究のために自閉症家系を分類する手段として,言語の使用が提案された.最近,言語障害に関連する遺伝子がいくつかの研究結果が報告した自閉症に連鎖するピークの近くの7qに報告されたため,言語に基づき家系をグループ分けすることで,この部位の連鎖の証拠を増強する可能性が示唆された.一つの例としては,フレーズ会話の遅れのある家系に限定した検討や,自己報告による話し始めの送れ,読み学習のトラブル,または連続つづり障害などがある有症候親のいる家系を含むと,実際7qにおける連鎖の証拠は増強される.フレーズ会話の開始年齢の家族性についてのエビデンスを基盤とし,フレーズ会話の遅れた者のいる家族に限定して解析すると有益なことに非単一性を減少させ,ゆえにゲノム全長に渡り易罹患性遺伝子座を同定するための感度を増すことになるであろう.

今回の研究では,自閉症診断インタビュー改訂版(ADI-R)の基準を使って,自閉症,自閉症境界例,またはアスペルガー障害の有症候血族ペアのいる95家系を同定した.自閉症とみなすためには,ADI-Rの3症候全てにおいて予め特化されたカットオフスコアを満たし,症候のオンセットが36ヶ月より前であることの証拠が存在することを必要とした.ADI-Rアルゴリズム基準を満たさなかったケースは,コミュニケーションドメインか反復行動ドメインのどちらか片方と社会性ドメインで1ポイントだけ不足した場合で,自閉症境界例とした.また,3つのドメイン全ては閾値を越えているが,オンセットの基準が満たされない場合も,自閉症境界例とした.同じカテゴリーは,IMGSACの報告でも使われている.自閉症でもなく自閉症境界例でもなく,アスペルガー障害のDSM-IV基準が満たされる場合に,アスペルガー障害とした.それぞれの家系の少なくとも一人は,ADI-Rの自閉症基準を満たしている.84家系で,2番目のメンバーが同じくADI-Rの自閉症基準を満たし,この場合をクラスI家系と呼んだ.8家系においては2番目のメンバーが自閉症境界例で,また,3家系では2番目のメンバーがDSM-IVのアスペルガー障害の基準を満たしていた.この11家系をクラスII家系と呼ぶ.家族研究の結果は遺伝的易罹患性は,他の広汎性発達障害とアスペルガー障害に広がっており,このような形質の広がりを含んでも有意な遺伝的非単一性を招来しないことが主張されている(IMGSACの報告).

遺伝子スクリーニングは2段階法で行われた.第一段階で,35家系の遺伝子型を382個のABI PRISMマーカー(Linkage Marker Set MD-10, Applied Biosystems)を使い,10-cM以下の間隔で常染色体を検討した.アナライザーは微小毛細管法のABI PRISM 310 Genetic Analyzerを用いた.2点解析を使い,第2染色体長腕上に最強の証拠を観察した.この部位はマーカーD2S364の位置であった(非単一性LODは2.25,優性モデル).隣接するマーカーもまた連鎖の証拠を提供した(D2S335で非単一性LODが1.20,優性モデル).これらのマーカーは,隣接マーカーと共に,コホート全体で検討された(n=95).全サンプルにおいて連鎖の示唆的証拠は遠位部第2染色体にあり,この証拠はパラメトリック解析(最大複数ポイントHLODスコア:MMHLSが1.96)でも,非パラメトリック連鎖解析(NPLスコアが2.39)でも示された.LODスコアとHLODスコア間の結果の相違と同様に,連鎖のある家系の推定値もサンプルの遺伝的非単一性を示唆している.

非単一性を減ずる目的で狭い診断基準を設定する試みにおいて,2人あるいは3人の自閉症(クラスI)とフレーズ会話の遅れ(36ヶ月以上で可能)を伴った者が家族にいる家系が連鎖の証拠のために検討された.このクライテリアを満たすのは49家系あり,連鎖の証拠の結果はコホート全体の結果に比べ増加した(MMHLSが2.99,NPLスコアが3.32).

さらに,この連鎖証拠の増加に寄与している家系グループにおける要因を同定するために予備的な解析が行われた.フレーズ会話の遅れを伴っていないクラスI家系(n=84)においては,連鎖解析の結果は,全体のサンプルの結果に比べほとんどMMHLSとNPLスコアへの効果がなかった.対照的に,クラスIおよびクラスII家系でフレーズ会話の遅れがある家系(57家系)は,より劇的にMMHLSとNPLスコアが全サンプルに比べ増加した.これらの結果より,フレーズ会話の遅れがある者を含む家系にしぼって解析することは,しぼりこまないよりもより大きな効果が連鎖の証拠に得られることが示された.

より厳密な基準を適用すると,非単一性の証拠は減ぜられる.従って,連鎖家系の推計値(アルファ)は,優性モデルでの複数ポイントHLODを使うと48%から69%に増加し,劣性モデルでの解析では24%から50%に増加した.フレーズ会話の遅れのあるクラスI家系におけるより大きい単一性の証拠を基に,我々は,このサンプルにおける伝統的複数ポイントLODスコア解析も行ってみた.優性モデルで,最大LODスコアは166.4cMの位置に1.52が得られた.この部位は劣性モデルではLODスコアが-1.88であった.他の全てのデータサブセットで,優性モデルでも劣性モデルでもLODスコアはゼロ以下であった.最もしぼりこんだモデルにおける陽性LODスコアの結果は,このサブセットにおける単一性が増加してることを示唆している.

非単一性を検証するために,我々は予め分割したサンプルでの検討を行った.LODまたはHLODスコアは,全サンプル,最もしぼりこんだサンプル,そして全サンプルから最もしぼりこんだサンプルを除いたもの,の三者で比較された.MMHLS解析においても最大複数ポイントLODスコア解析の両方において,これらの比較により非単一性の有意な証拠が得られた.

本研究に使ったデータは,第2染色体上の領域が自閉症に連鎖していることを示唆する証拠を提出する.第7染色体長腕上に最高のLODスコアを発見したIMGSAC報告は,総計173家系に及ぶ追加家系の遺伝子型を検討した後に,最高値が第9染色体(MLS 2.61),第16染色体(MLS 2.55),そして第2染色体(MLS 2.33)に変化したことを再報告している.この第2染色体上のピークは我々が報告したピークと同じ場所に位置する.75家系を対象とした最近の報告(Barrettら)も同じ領域に連鎖の弱い証拠を報告している.加えて,99家系を対象とした未出版の研究(Bassら)でも同じ部位にピーク(MLS 1.30)が存在する.少し遠位側にずれるものの,51家系を対象としたPhilippeらの報告では,2点MLS解析によってマーカーD2S382とD2S364の部位に,0.98と0.65のピークがある.今回の検討では,家系内の自閉症者がフレーズ会話の遅れを呈していたケースにしぼってサンプルを検討すると,連鎖の証拠が増強されることが示された.今回の解析は対象をサブセットに分けた検討に加え,2つのモデルでのパラメトリック解析も行っており,結果は示唆的と把握することができ,連鎖の証拠が説得力のあるものになるには,異なるサンプルでの再現性の検討が必要である.

ポジショナルクローニングの可能性を増やすための方法として,自閉症の研究者たちはいろいろなアプローチを考案してきた.これらのアプローチは,遺伝的により単一な対象群を定義するために有症候と判断する基準を狭くしたり(and/or),症候としてより広義の自閉症表現型を使うことで情報を増やしたりすることを含む.今回の検討では,フレーズ会話の遅れを伴ったサンプルへのしぼりこみによってLODおよびHLODスコアが増加したことと,全サンプルにおける非単一性の証拠を示す結果が,より狭い対象基準が非単一性を減じ,それゆえに自閉症における連鎖の検出の感度が増加したことが示唆された.自閉症家系内で,自閉症でないと判断されたメンバーにおいては,自閉症易罹患性遺伝子はより広義の自閉症表現型を誘導しているようなので,より広義の自閉症表現型を伴った者を有症候として扱うことにより,このしぼりこんだサンプルにおいてより高い感度が得られるかもしれない.

まとめると,今回の結果と他の研究グループの結果からすると,第2染色体長腕上に自閉症易罹患性遺伝子が存在することが示唆される.さらに,これらの結果は,もしより狭い対象基準が使われるならば,遺伝的により単一な対象グループを定義することが可能になり,推定されている自閉症易罹患性遺伝子のポジショナルクローニングを可能にするかもしれない.


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