IMGSACのサンプルを追加してのゲノムスキャン:2q,7q,16pに強力な証拠

IMGSAC. A genomewide screen for autism: strong evidence for linkage to chromosomes 2q, 7q, and 16p. Am J Hum Genet 69: 570-581, 2001.

訳者コメント:

International Molecular Genetic Study of Autism Consortium(IMGSAC)がサンプルを追加して再びゲノムスキャンを報告しています.以前の論文(文献1)と違う点は:(1)前回は非兄弟家族ペア家系を追加検討していたが,今回は兄弟ペア家系のみ.(2)前回のトータル99家系からは83家系を今回使用.(3)新しく69家系を追加(兄弟ペア家系)して,全部で152家系.(4)グループ分けを変更.(5)ゲノムスキャン用のマイクロサテライトマーカーを一部変更.(6)候補部位13ヵ所にマーカーを追加,などです.

(概訳)

自閉症は相互的コミュニケーションの障害,社会的相互関係の障害,活動および興味の反復性およびワンパターン化で特徴づけられる.背景に強い遺伝素因が存在することを示す証拠は,双生児研究や家族研究から得られている.しかし易罹患性遺伝子は未だに同定されていない.連鎖解析のための全ゲノムスクリーニングを,自閉症の83組の兄弟ペアを使い完結した.また,さらに69組の兄弟ペアにおいて,13ヵ所の候補部位での119個のマーカーの遺伝子型が検討された.新しい家系とマーカーの追加で,7qと16pにおいて以前の報告が示した連鎖をさらに支持する結果となった.最も有意な所見は複数ポイント最大LODスコア(MLS)が第2染色体上のマーカーD2S2188の部位で3.74という結果であった.このMLSは,厳密な診断基準を満たす兄弟ペアのみで計算すると4.80まで増加した.第7染色体上の易罹患性部位は2番目に有意で,マーカーD7S477がMLS3.20であった.第16染色体では,マーカーD16S3102の部分で複数ポイントMLSが2.93であり,一方第17染色体ではマーカーHTTINT2の部位で複数ポイントMLSが2.34であった.新しい家系サンプルを追加しても,最初に何らかの連鎖の証拠が示された他の多くの遺伝子座での対立遺伝子共有率は増加しなかった.これらの結果は,自閉症易罹患性遺伝子を同定するためには,複数発生兄弟ペア家系の収集を続けるべきことを支持している.

(イントロ)自閉症は神経発達障害で,少なくとも1万人あたり5人の頻度である.3歳までに表面化し,中核となる障害は,相互的コミュニケーションの質的障害,社会的相互関係の質的障害,そして行動および興味の反復性およびワンパターン化である.自閉症は広汎性発達障害のプロトタイプで,広汎性発達障害は非典型的自閉症やアスペルガー症候群,PDD-NOS(特定不能な不完全例)を含む一連の関連障害の総称である.兄弟内の自閉症の頻度は3%におよび,一般ポピュレーションでの頻度より高い.他のPDDを含むともっと高くなる.3つの同性双生児研究において,一卵性一致率は36%から91%と巾があり,二卵性一致率が0%であるので推定される遺伝性は90%以上ということになる.2つの双生児研究はまた,自閉症や他の広汎性発達障害の診断を超えて行動上の表現形質が広がっており,関連するよりマイルドな社会的行動の異常や言語の異常が家族研究によって家系内に見つかることを発見している.兄弟内再発生率と双生児一致率の所見は,メンデルの法則に従う遺伝形式には一致せず,統計的モデリング研究は3つあるいは4つの遺伝子座が関与している可能性を示唆している.Picklesらは関連する遺伝子座は15個としている.

自閉症とより広い表現形質に関する一卵性双生児例での高い一致率は,特発性ケースの大部分において遺伝素因が重要であることを示している.しかし,これまでのところ自閉症の神経病理学的および神経生理学的基礎についてのコンセンサスはなく,従って非常に有望な候補遺伝子も指摘されていない.少数のケースでは,自閉症は他の医学的障害と関連しており,このような関連は可能性としてより広い意味を持つ遺伝子の存在を示しているのかもしれない.基も強い特異的な関連は,脆弱X症候群や結節性硬化症との間に知られている.Hallmayerらの検討では,特発性自閉症ケースにおいては脆弱X症候群の疾患遺伝子座が関与している証拠は得られなかった.同様に以前は検出されていなかった結節性硬化症が自閉症のかなりのケースを説明することを示す証拠もない.しかし,TSC1とTSC2はまだ可能性のある易罹患性遺伝子座として除外されてはいない.自閉症の5%に及ぶケースで多様な染色体異常が報告されている.最も多くみられる関連は15q11-q13部位の挿入重複か過剰な偽性重複中心体性第15染色体(inv-dup[15])と自閉症との関連で,この部位はPrader-Willi症候群とAngelman症候群に関連する部位(15q近位側)である.

自閉症者の75%は男性で,このことからX染色体上の遺伝子も易罹患性に関与している可能性が考えられる.HallmayerらはX染色体上に自閉症との連鎖の中程度の証拠を発見し,最大LODスコア(MLS)はXq24のマーカーDXS424の場所で1.24であった.Philippeらも2ポイントMLS値で,Xp22.3のマーカーDXS996の場所で0.89という値を報告している.女性における表現形質表面化の閾値がより高いことで性比の観察値を説明することもできるが,SkuseはX染色体上に保護的にインプリントされた遺伝子座が存在することを示唆した.第7染色体上における父親からの伝播の優位性と,第15染色体での共有率における母親由来と父親由来の違いなどが報告され,これらもまた親に起因する効果の存在を想定させる.

自閉症の機能的な遺伝子や場所がはっきりしている遺伝子がまだないので,研究グループの多くは有症候親族ペアのいる家系を使った連鎖解析のゲノム全体に渡るスクリーニング戦略に従っており,その後に候補遺伝子の場所を決定するアプローチが可能になる.既に公表されたゲノムスクリーニングは,いくつかのゲノム領域においては連鎖の予備的集約的な証拠を提出している.これには全てのスクリーニング研究で対立遺伝子共有が増加していることが示されている7qが含まれる.にもかかわらず,これまでに行われた最も大規模なゲノムスクリーニング(Rischら)では,97組の独立した有症候兄弟ペアを対象とし519個のマイクロサテライトマーカーで検討し,候補領域に関しては50組の兄弟ペアを追加し149個のマーカーで検討しているが,ゲノム全体に渡って有意なLODスコアは得られていない.しかし,この最大規模の研究は第7染色体と第17染色体上の遺伝子座においてまあまあの支持的結果を提供しており,複数ポイントMLS値で,D7S1804で0.93,D17S1584で1.21という値である.

いくつかの連鎖の証拠はまた,第15染色体上のPrader-Willi症候群・Angelman症候群に決定的な部位においても報告されており,BassらはマーカーD15S217の位置で複数ポイントMLS1.31を得ている.この領域におけるガンマアミノブチル酸受容体サブユニットベータ3(GABRB3)は,いくつかの研究グループにより検討されたが結果は一致していない.E6-APユビキチン蛋白ライゲース(UBE3A)もまた,15q11-13部に存在するが,この遺伝子の遺伝子配列も検討されたが機能的な点変異は見つかっていない.自閉症の候補遺伝子としてのセロトニントランスポーター遺伝子の研究もまた結論がでておらず,挿入/欠損多型の長型と短型の両方が異なるポピュレーションにおいて関連を指摘されている.また,どちらとも関連がないとした報告もある.

以前我々は39家系の複数発生家系における354個のマーカーでの検討と,99家系(非兄弟ペアを12家系含む)における175個のサブタイプマーカーでの検討を報告した.ここでは,我々はオリジナルの99家系の中の83組の兄弟ペアに関して完全なゲノムスクリーニングを349個のマーカーで提示し,完結したゲノムスクリーニングから連鎖が示された13ヵ所の候補部位での遺伝子型タイピングの結果を報告する.オリジナルのゲノムスクリーニングでは74個のサブセットマーカーが使われ,トータル152組の兄弟ペアにおいて45個の新しいマーカーに関して遺伝子型が検討された.データはまた連鎖不均衡の証拠についても検討され,母親由来の共有と父親由来の共有についても検討した.

対象と方法

表現形質評価
IMGSACによって使われた家系の同定と評価法は,以前の報告で記載した.簡単に述べると,最初のスクリーニングをパスした家系において,親にADI-R(Autism Diagnostic Interview-Revised)とVineland Adaptive Behavior Scalesをやってもらった.4歳以上の可能性のあるケースはまた,ADOS(Autism Diagnostic Observation)かADOS-G(ADOS-Generic)のどちらかで評価された.可能であれば,精神計測学的評価が,Raven's progressive matricesまたはMullen Scales of Early Learningを使って行われ,British Picture Vocabulary ScaleあるいはPeabody Picture Vocabulary Test IIIまたは適切な翻訳版など他のテストも臨床的に適応があれば行われた.言語発達遅滞の既往は,24ヶ月までに1単語も使えないか(and/or),33ヶ月までにフレーズ会話ができないことで判断した.階層式のケーススタイプで症例を分類し,ADI-RとADOSかADOS-Gのアルゴリズム基準を満たし,言語発達遅滞の病歴があり,非言語性IQが35以上で,臨床診断が自閉症であれば「ケースタイプ1」とした.臨床診断が自閉症か,非典型的自閉症か,アスペルガー症候群かPDD-NOSであって,少なくともADOS-G基準でPDDを満たし,言語発達遅滞の既往歴は必要なく,ADI-Rの行動ドメインのひとつで閾値に1ポイント満たない場合を「ケースタイプ2」とした.ケースタイプ2は,非言語性IQが35以上であれば「ケースタイプ2a」とし(97人),計測されたものか推測される非言語性IQのどちらかが35以下であれば「ケースタイプ2b」とした(35人).臨床診断が自閉症かその他のPDDで,ADI-Rの自閉症基準を満たすか,ADOS-Gでひとつの行動ドメインにおいて1ポイント不足しADOS-GのPDD基準を満たさない場合は「ケースタイプ3」とした.これらの基準は以前報告したものと異なっており,以前はIQが算定できない児(低機能)をケースタイプ3としたが,今回は2aとしている.また,以前の報告ではケースタイプ3を全てのドメインでADI-Rアルゴリズム基準を満たすとして記載したが,今回はケースタイプ2aと同様にひとつのドメインにおいて1ポイント閾値を下回った場合とした.ケースタイプ1の非言語性IQの平均値は79,ケースタイプ2では82(2aで98,2bで27,2bの中で27例は算定不能),ケースタイプ3では97であった.表現形質の詳細は発表準備中である.

家系収集
4つの連続するステージにおいて(1,2a,2b,3),家系が集められ遺伝子型がタイピングされた.含むかどうかの基準を厳しくしたために,オリジナルなスクリーニングには含まれていた9家系が今回は除外された.これらのうち,8家系の除外理由は,会話ができないケースにおいてこれまでのところADOSの1989年バージョンしか検討していない(アルゴリズム検討がされていない)か,協力が得られず精神計測学的テストでの妥当なスコアを算定することができなかったからである.もう1家系は,染色体検査で異常があり除外された.オリジナルスクリーニングでの99家系のうち,11家系はこの解析には含まれていない(兄弟ペア家系のみを解析).以前の報告の99家系から83兄弟ペアを今回の対象とした.引き続いて行った家系収集により,69組の新しい兄弟ペアが集められた.トータルで3組の自閉症3人兄弟家系を含む152組の有症候(自閉症)兄弟ペアとなった.有症候ペアのケースタイプの組み合わせは,タイプ1/1が43ペア,タイプ1/2が84ペア,タイプ2/2が16ペア,タイプ1/3が7ペア,タイプ2/3が2ペアであった.全ての有症候ペアでの性比(男:女)は4.8:1であった.家系の重複はなく,他の研究グループによって報告された家系は含まれていない.

身体所見は,特に結節性硬化症などの自閉症の原因となり得る医学的状態を除外するために行われた.DNA抽出のための血液採取は,可能であれば全てのケースと採血可能な1親等家族から行った.加えてリンパ芽球様細胞株は末梢血白血球から作成されDNAの再供給ができるようにした.採血ができなかったケースにおいては口腔粘膜ぬぐい液が採取された(DNAサンプルの7.2%).可能であれば,染色体検査(カリオタイピング)が行われ,以前の検査結果を含め全ての有症候ケースを対象とした.脆弱X症候群の分子遺伝検査は,以前の検査結果を含みそれぞれの家系でひとりの有症候ケースを対象とした.染色体異常は,94%の家系ではそれぞれの家系における少なくともひとりの有症候ケースにないことを確認し,86%の家系で両方の有症候ケースにないことが確認された.脆弱X症候群は152兄弟ペア全てで,少なくともひとりの有症候ケースにはないことが確認された.全ての両親あるいは保護者に文書によるインフォームド・コンセントがなされ,可能な場合は有症候者本人にもなされた.関連する倫理委員会により本研究はレビューされた.

遺伝子型タイピング
ゲノムDNAは抽出され,予備的プライマーエクステンションを以前報告したように行った.遺伝子型タイピングは,半自動化蛍光色素法によって行った.PCR産物はプールされABI 373,377,3700シークエンシングマシーンとGENESCAN/GENOTYPERソフトウェア‐でタイピングした.対立遺伝子判定は,サンプルの臨床情報をブラインドにして行われた.マーカーのメンデルの法則に従わない伝播や対立遺伝子サイズの移行のチェックはGAS(バージョン2)で行った.遺伝子型データは最初にGenbase(バージョン2.0.5)に保存され,その後表現形質データと共にDiscovery Manager 2.3に移された.統計解析のための全てのデータは,Discovery Manegerから転送された.

遺伝学的マーカー
83組の兄弟ペアでタイピングされたのは,マイクロサテライトマーカーが392種類,単一ヌクレオチド多型マーカーが2つである.13ヵ所の候補領域においては,152全兄弟ペアにおいて119個のサブセットマーカーが検討された.マイクロサテライトマーカーは,2個,3個,そして4個のヌクレオチド反復で,Genethon,ABI PRISM Linkage Mapping Sets,The Cooperative Human Linkage Centre,the Genome Database,Kwiatkowskiらなどいろいろな情報源から得られた.第7染色体を調べるために,本研究では25個のマーカーで5-cM(間隔の)マップが使われた.第7染色体の注目されている部位に関するさらなる遺伝子型タイピングは他の論文(文献2)で報告したのでここでは繰り返さない.83組の兄弟ペアでのゲノムスクリーニングマーカー間平均距離は9.92 cMであった.152全兄弟ペアにおいてさらなる遺伝子型タイピングが行われた13領域では,マーカー間平均距離は4.88 cMに1マーカーまで減ぜられた.オリジナル報告で使われたマーカーのうち5つのマイクロサテライトマーカーは情報性が低いために除外された.

マーカーの順番や位置はGenethonや他の発表されている遺伝子地図から情報を得た.これらは,ASPEXパッケージにより確認した.

エラーチェック
統計解析に先立ち,可能性のある遺伝子型タイピングエラーを除外する目的で,常染色体からの全てのデータをSIBMEDを使ってチェックした.同定された遺伝子型エラーを除いた後,データはASPEX統計パッケージで解析された.SIBMEDは,マーカー密度が5 cM毎に1マーカー以上の部位でエラーを除去することに最も効果的であることは注目すべきである.この必要条件は,第2染色体と第16染色体上の領域で満たされる.この2ヶ所では2 cM毎に1マーカー以下の密度である.SIBMEDが同定したエラーの数は,他の報告された結果と比べ少なかった.これは部分的には,親の遺伝子型が得られた兄弟ペアの%が90%を超えていたためであろう.示された全てのMLS値は,SIBMEDによるチェックの後に計算された.

統計解析
データはMega2により前処理され,複数ポイントLODスコアを算定するためにASPEXパッケージで解析された.ケースタイプで3つのグループに分類して解析が行われた(タイプ1/1ペアが43組,タイプ1/2ペアが84組,タイプ1/1+タイプ1/2の127ペア).タイプ2aと2bは,サンプル数が少ないため合わせて検討した.父親からの伝播と母親からの伝播は家系で同定した兄弟で検討し,それぞれのマーカーで共有率に寄与している母親からの対立遺伝子の伝播数と父親からの対立遺伝子の伝播数が明らかにされた.

伝播/不均衡テスト(TDT)もまた,連鎖のピーク位置のマーカーに関して行われた.カイ二乗統計の経験的危険率は,連鎖に関係のない関連を検証するために計算された

データの質を評価し,複数ポイント解析をサポートするために,SPLINKを単一ポイントMLS計算に使った.この方法は,有症候兄弟が家系で同定された対立遺伝子を0個共有するのか,1個共有するのか,あるいは2個共有するのかの3通りの可能性を評価することによる,可能性のある三角(possible triangle)条件の基に行われる.SPLINKとASPEXは両方とも,データベース内のマーカー対立遺伝子頻度を求めるために最大尤度法を使っている.ASPEX複数ポイント解析は,付加的モデルの基に行われた.従って,ziを一組の有症候兄弟ペアにおいて家系で同定されたi個の対立遺伝子を共有する可能性とすると,z0=0.25/ラムダs,z1=0.5,z2=0.50-z0となる(ラムダsは兄弟再発生リスク).

結果

複数ポイント連鎖解析
オリジナルな報告の83兄弟ペアでの複数ポイント連鎖解析の結果は,MLS>0.82である部位が12個の染色体にみられた(第1,2,4,7,8,9,10,14,16,17,19,22染色体).最初のスクリーニングでの最高複数ポイントMLS値は第7染色体上にあり,家系数を増やしてのこの部位に関するさらなる検討は既に報告した(文献2).その他の11個の染色体領域は,複数ポイントMLSが0.82から2.05で,単一ポイントMLSも支持的な結果であった.以前自閉症との連鎖を示す報告があり自閉症に関連する染色体異常部位として知られているため,第15染色体についてもさらなる遺伝子型タイピングを行った.152組の兄弟ペアでSPLINK単一ポイントMLSとASPEX複数ポイントMLSが計算され,それぞれの染色体(12個の染色体+第15染色体)でどちらかの計算値が最高となった遺伝子座(マーカー)部位を,オリジナルなデータの83兄弟ペアでの結果と比較した.ゲノム全体に渡るそれぞれのマーカーのための有効サンプルサイズの平均は59.2.マーカーの多様性の平均は0.74.MLSが3.0を超える部位が6ヶ所あった(D2S2188,D7S477,D9S157,D9S1826,S9S158,HTTINT2).

SIBMEDによって同定されたエラーを除去後に,152全兄弟ペアでのASPEX解析がなされた.SIBMEDは232個の遺伝子型を308450個から除去し,エラー率は0.75%であった.この可能性のある遺伝子型エラー部位の除去によりMLSピークが0.28以上増えたものはなかった.

152兄弟ペアの全サンプルにおいて,ASPEX複数ポイントMLSが3を超えたのは2つの染色体であった.第2染色体長腕のD2S2188は3.74を示し,SPPLINK単一ポイントMLSは3.59でこれを支持した.第7染色体のD7S477は3.20で,単一ポイントMLSは2.93でこれを支持した.三番目に高い複数ポイントMLSは2.93で,第16染色体短腕のD16S3102に存在する.SPLINK単一ポイントMLSでは,2.97が第9染色体D9S158にあり,複数ポイントMLSは1.36であった.しかし,この部位では有効サンプルサイズが低く(33.73),この結果の有意性を考える時は終糸部位を考慮しなければならない.複数ポイントMLSが1.5を超える染色体は,第2,7,16,17の4ヶ所で,以前の報告で連鎖の証拠が得られた第4,14,19,22染色体については否定的な結果であった.

対立遺伝子関連
ASPEX複数ポイントMLSが1.5を超える場合に,複数対立遺伝子TDTが関連を検証するために行われた.33個のマーカーがテストされ,有意な関連の証拠はこれらの部位にはみられなかった.関連を示すいくつかの証拠は,第7染色体で報告した(文献2).

ケースタイプによる解析
有症候ケースをケースタイプにグループ分けすると,階層的データ解析が可能になり,そしておそらく非単一性(による影響)を最小にする.そこで,複数ポイント解析(ASPEX)はケースタイプの組み合わせで検討された(トータル152組の兄弟ペア).

全体としては,ケースタイプ1/1の43ペアでは,検討された部位の複数ポイントMLS値に強力に寄与してはいない(1/1にしぼって検討してもMLSは変化しない).例外は第15染色体のCYP19(ケースタイプ1/1のペアで最高の複数ポイント2.21が得られた:しぼりこむとMLSが増加)と,第2染色体のD2S188であった(複数ポイントMLSが1.24:しぼりこむとMLSが減少).

最大グループであるケースタイプ1/2の84ペアは,かなり共有率が高く,5つの染色体で複数ポイントMLSが1.5を超えた(第2,7,9,16,17染色体).ケースタイプ1/1と1/2を合わせた127ペアの厳密な定義での兄弟ペアでは,MLSが1.0を超えたのは7つの染色体であった(第2,7,9,10,15,16,17染色体).最高のMLSは第2染色体のD2S2188で4.80が記録された.

対立遺伝子伝播:父親由来と母親由来
第2,9,10,15,16,17染色体に関する,性特異的解析は,ASPEXを使い,父親由来の共有率と母親由来の共有率を分けてLODスコアを算出した.これらの6つの染色体においては,複数ポイントMLSに対する父親由来の共有と母親由来の共有の寄与度にはかなりのバリエーションが認めらた.第2染色体と第15染色体では,両親由来の共有率はほぼ同じであった.D2S2188では,父親特異的複数ポイントLODスコアは2.10で,母親特異的複数ポイントLODスコアが1.95であった.D15S129では,両データはそれぞれ0.45と0.32であった.第13染色体と第17染色体では父親からの寄与が増加していることを示すいくつかの証拠があり,D16S3102とHTTINT2では,父親特異的なLODスコアがそれぞれ2.21と2.32で,母親特異的なLODスコアがそれぞれ0.96と0.16であった.逆にD9S157とD10S208では,全ての共有が母親由来で父親特異的複数ポイントLODスコアはゼロで,母親特異的なLODスコアがそれぞれ1.43と0.75であった.

このような由来する親の性の違いによる有意度を評価するために,単一ポイント計算もまた行われた.34個のマーカーがテストされ,2つだけが複数ポイント解析を支持した(p<0.05).D10S208における母親由来の共有の増加は,母親由来の伝播が62/92,父親由来が40/82という結果で支持され危険率は0.0196であった.有意に増加した父親由来の共有がD17S798にみられ,HTTINT2の1.8 cM遠位側で,父親由来が62/92で母親由来が44/95という結果が支持し危険率は0.0058であった.上記の遺伝子座での隣接するマーカーの単一ポイント解析では,親由来の共有率に有意差はなく,このことはこれらの結果が偶然の所産である可能性を示唆している.

考察

83組の兄弟ペアでの自閉症全ゲノムスクリーニングが完結され,わずかな連鎖の証拠を伴った12領域が指摘された.これらの領域はさらに69組の新しい兄弟ペアを加えてさらに検討された.マーカーは前回使われた74個のサブセットマーカーに加え,45個の新しいマーカーが使われた.サンプル兄弟ペア数とマーカーを増やすことの効果は,ゲノム全長のノイズを減らした.前回の検討で報告されたASPEX複数ポイントMLS>1のピークのうち,第4,19,22染色体上の遺伝子座では,今回は複数ポイントMLSは1未満であった.MLS>0.82を満たす12遺伝子座の中で,LanderとKruglyakが定義したゲノム全長に渡って有意といえる条件を満たしたのは,D2S2188の複数ポイントMLS3.74のみであった.示唆的な連鎖は,第7,16,17染色体に示され,それぞれ複数ポイントMLSが,3.20,2.93,2.34であった.

この第2染色体の結果は,これまでに報告された自閉症のゲノムスクリーニングの中では最高の複数ポイントMLS値である.Philippeらの報告では,D2S2188に隣接したマーカーであるD2S382とD2S364の間でわずかな連鎖を示す0.64が検出されており,Buxbaumらの報告では最大複数ポイント非パラメトリック連鎖スコア2.39が同じくD2S2188に隣接するマーカーであるD2S335とD2S364の間に見つかっており,今回の結果を支持している.127組の兄弟ペア家系のサブセットの中で,厳密な診断基準を使ってしぼりこんだケースタイプで検討すると,D2S2188の複数ポイントMLSは4.80に増加する.Lambらが記載したように,第7染色体との連鎖もまた再現性があるが,想定された位置は一致していない.第16染色体に関する我々の所見は,Philippeらの結果と直接オーバーラップしている.Philippeらは23.3 cMから39.0 cMの間に複数ポイントMLS0.74を報告しているのである.第10染色体のD10S208にあるMLS1.43には注意すべきである.PatersonとPetronisはCEPH家系において伝播率の歪曲を報告している.この領域においてマーカーと兄弟ペア数を増加することは,LODスコアのアーティファクトによる増加を防ぐであろう.

なぜ,ケースタイプ1/1のペアが,このように強力な連鎖の所見にほとんど寄与していないのかは不明である.ハンディキャップのシビアなケースは含まれていないのであるが,他の組み合わせのケースタイプよりも,このグループがより遺伝学的に非単一性なのかもしれない.あるいは,ひょっとすると,両有症候者における言語発達遅滞の存在が,家系における特別な小サブグループを同定しているのかもしれない.このことは,43例のケースタイプ1/1ペアで,第15染色体のCYP19で複数ポイントMLS2.21が記録されたことと関連しているかもしれない.第15染色体上の連鎖はD15S129まで伸びており,D15S129では複数ポイントMLSが1.49で,このマーカーは自閉症に関連する染色体異常の位置から25 cM離れていない(遠位側).言語発達遅滞を伴ったシビアな自閉症に可能性として特異的な易罹患性遺伝子座の存在を支持するデータとして,この所見を解釈することもできる.

連鎖のピークの巾にもかかわらず,そして実際の疾患遺伝子位置に関連するピーク位置にバリエーションが大きいことを示すシミュレーション研究からの証拠にもかかわらず,報告されているたくさんの可能性のある候補遺伝子のことを簡単に紹介することは価値あることである.第2染色体上では,2q32にホメオボックス遺伝子であるDLX1とDLX2があり,そのホモログであるDLX5とDLX6は7q22に位置する.7q22は,本研究の二番目の連鎖ピークの下である.第2染色体で注目すべき他の遺伝子(産物)はアルファ1-chimaerinとそのスプライシング異型体アルファ2-chimaerin,そしてGTPase-activating蛋白である.アルファ1とアルファ2-chimaerinのラットホモログは,mRNAの発現がニューロンに限局しており,細胞分化やシナプス形成時期に増加することが知られている.その他には,TBR1,neuropilin(NRP2),cAMP response element-binding protein 1と2(CREB1とCREB2)などの遺伝子がこの部位にある.

7q32では,可能性のある候補遺伝子には,plexin(PLXNA4)が含まれる.PLXNA4は,neuropilinと複合体を形成し,axonal guidance signal semaphorin 3Aによるrepulsion現象を仲介する.インプリンティング現象を伴う遺伝子PEG1/MESTやガンマ2-COPもまた7q32にの候補部位内にあり,自閉症における親由来の特殊効果の可能性があるとすれば関与しているかもしれない.Ashley-Kochはこの部位において父親からの伝播が増加していることを報告しており,これを支持する証拠を我々は示した.7q31に存在する5.6 cMのSPCH1に含まれる候補遺伝子を考察することは有意義であろう.いくつかの最近の研究は,7q22にあるReelin(RELN)を自閉症の候補遺伝子として示唆している.Reelinの5'側のUTRに存在する多型性3塩基リピートのTDT解析が報告され,自閉症的発端者において,特別な対立遺伝子が優位に伝播していることを示した.

3番目にMLSが高かった遺伝子座は,複数ポイントMLSが2.93であった16p13である.N-methyl-D-aspartate receptor(NMDA)は16p13.3に存在し,この受容体はシナプスの可塑性において重要な役割を持っている.NMDAのチャンネルは,glutamate receptor channel(GluR)-subunit familyの2つのメンバーから作られており,ノックアウトマウスでの空間的学習欠失の原因となることが発見されている.第16染色体でその他に重要なものは,結節性硬化症2(TSC2),netrinsのひとつの遺伝子(NTN2L),軸索ガイダンスの中心的役割を持つchemotrophic factorsのファミリー,CREB結合蛋白などがある.

報告された,自閉症における親由来効果の意義は我々のデータの解析からは結論がでていない.第7染色体と第15染色体上の遺伝子座に指摘された家系同定共有率の父親からの伝播の優位性や,第2染色体上のピークに関する意見を支持する証拠を我々は発見できなかった.しかし,第16染色体と第17染色体での父親からの対立遺伝子伝播の増加を支持するいくつかの証拠は,複数ポイントMLSから得られ,第17染色体では単一ポイント解析でも支持された.母親からの対立遺伝子伝播もまた,第10染色体においては複数ポイントMLSと単一ポイント解析の両者で増加していた.これらに隣接するマーカーに関して単一ポイント解析を行った結果はこれらの結果を支持しておらず,このことはこれらの結果が偶然の所産である可能性を示唆した.

これらの所見は,有症候親族ペア家系の収集を増やすことの有用性を示しており,真の連鎖として可能性のある連鎖を強調する意味においても,予備的な発見が偽陽性であるらしいことを示す意味でも有用である.実際,これまでのところ,サンプルサイズが200有症候親族ペアを達成した報告は存在しない(複雑な疾患の全ゲノムスクリーニングに必要な一般的に最低サンプルサイズは200).異なる研究グループによる,第2,7,16染色体での陽性所見の再現は,それぞれの対象家系がいくらか異なるポピュレーションから得られたものであり,その所見が一般的に適応可能であることが期待できる.メタ解析の確立のための努力がさらに必要であろう.

今後の研究に関しては,核家族における全ての入手可能な遺伝学的および表現形質の情報を使用することが必要であろう.このためには,広汎性発達障害でない家族の有症候状態が正確に記載される必要がある.有症候者とその家族のデータを合わせるためにQTLアプローチを使うことにより,それは結局は可能となるであろう.今後の研究にはまた,遺伝子座間の相互作用(epistasis)や自閉症における非単一性の程度などを検討するための調整された解析も含まれる.可能性のある候補遺伝子の慎重な考察もまた,例えば第2染色体と第7染色体に存在するDLX遺伝子群のような,相互作用の存在を検証するための生物学的基礎を提供するために必要となる.

 


(文献)
1. International molecular genetic study of autism consortium. A full genome screen for autism with evidence for linkage to a region on chromosome 7q. Hum Mol Genetics 7: 571-578, 1998.
2. IMGSAC. Further characterization of the autism susceptibility locus AUTS1 on chromosome 7q. Hum Mol Genet 10: 973-982, 2001
表紙にもどる。


ご意見やご質問のある方はメールください。

E-mail: jyajya@po.synapse.ne.jp