コロンビアゲノムスキャン(論文版)

Liu J, et al. A genomewide screen for autism susceptibility loci. Am J Hum Genet 69: 327-340, 2001.

訳者コメント:

既にご紹介しましたインターネット上のコンテンツ「コロンビアゲノムスキャン」の論文バージョンです.訳語の統一性がないことでいつもご迷惑をおかけしておりますが,今回からprevalenceを有病率と訳し,発生率(incidence)と区別します.イントロ中の血小板セロトニン量の増加に関する記載が,血小板数の増加となっており,著者のかんちがいと思われましたので,訳文では訂正してあります.これまでにゲノムスキャンデータを公表したグループ名は略語で示しました(これまでに何度もでてきておりますので).この論文はカナダの図書館からFaxしてもらったのですが,不思議なことにゲラ刷り状態のページが含まれており誤植や空白の部分がいくつかありました?? かなり難解な部分がありますが,なるべく誤訳にならないように努力しながら訳しました.

(概訳)

自閉症の複数発生家系110家系において,335個のマイクロサテライトマーカーを使い遺伝子型を検討した.全ての家系は少なくとも2人の有症候兄弟を含んでおり,そのうち少なくとも一人は自閉症で,もう一人はアスペルガー症候群あるいは広汎性発達障害の診断を受けている.有症候兄弟ペア解析により,複数ポイント最大LODスコア(MLS)を算出し,第5染色体,X染色体,そして第19染色体において示唆的連鎖部位(suggestive linkage)が見つかった.わずかな連鎖の証拠は(危険率0.05以下),第2,3,4,8,10,11,12,15,16,18,そして第20染色体上にあり,2次遺伝子座が第5染色体と第19染色体上にあった.X染色体上の候補遺伝子座と1つあるいはそれ以上のほかの候補遺伝子部位における,対立遺伝子家族共有解析により,DXS470-D19S174のマーカーコンビネーションで,MLSは3.56となった.連鎖を検出する感度を増加させる試みにおいて,スキャン統計は,隣接マーカー遺伝子座での統計的証拠に基づくピークLODスコアの有意性を評価するために使われた.この解析では,自閉症および自閉症スペクトルとの連鎖の印象的な証拠が得られ,第5染色体と第8染色体においてマーカーに全ゲノム危険率が0.05以下であり,また第19染色体上にも示唆的な連鎖の証拠が得られた.

(イントロ)自閉症は,社会性およびコミュニケーションのシビアな障害に加え,行動または興味の制限されたまたは反復性のパターンで特徴づけられる神経精神障害である.自閉症に関連する発達障害は典型的には3歳までに表面化し,成人まで続く.自閉症は典型的には,アスペルガー症候群とその他の広汎性発達障害(PDD-NOS)を含む臨床スペクトルの部分として特徴づけられる.アスペルガー症候群は自閉性障害と異なり,臨床的に有意な言語発達(3歳以下でのフレーズ使用,2歳以下での一単語文)における遅れがない.PDD(PDD-NOS)は厳密な自閉症の基準を満たさぬものの類似した状態で,典型的でない自閉症とか診断には及ばぬもののキー領域の2つか3つの基準をほぼ満たしていることで分類される.

かなり最近まで,自閉症はまれな状態で一万人あたり4−5人の有病率と計算されていた.より最近の研究では,一万人あたり10−12と予想されている.このような違いが自閉症の有病率の増加を反映しているのか,診断基準の変遷によるのか,症候発現の多様性が認識されるようになったためなのか,または自閉症の認知度が上がったためなのかは結論がでていない.自閉症に関連するスペクトル状態を加えた有病率は,アスペルガー症候群を除き,自閉症単独の2倍になると予想されている.自閉症は女児よりも男児の方が3倍から4倍頻度が高いことがよく知られている.

双生児研究や家族研究の結果は,自閉症および自閉症スペクトルにおいて遺伝素因が重要であることを明白に示している.これまでのところ最も大規模な研究では,一卵性一致率が60%で,二卵性では20例中では一例も一致していない(片方が自閉症でもう片方が健常者).同じ研究において自閉症スペクトルに相当する社会性障害と認知障害の一卵性一致率は90%以上である.これらのデータは自閉症および自閉症スペクトルになり易さにおける遺伝性が非常に高いことを示唆しており,複数の因子による易罹患性の閾値モデルを仮定すると自閉症スペクトルにおいては遺伝性が90%以上ということになる.兄弟重複率は自閉症においては2%以下というデータから4%というデータまで巾がある.従って,一般ポピュレーションの有病率が0.05−0.1%とすると,兄弟における自閉症相対危険率は45−90倍ということになる.自閉症の発生率は,有症候者から遠い血族になるに従って有意に減少し,この事実は複数の相互作用を持つ遺伝子座の関与に一致する.従って,自閉症および関連するスペクトルは,複雑な遺伝性状態であって,環境因子や他の非遺伝的因子といっしょに,複数の易罹患性遺伝子座の効果が混合した結果であると表現するのが最もふさわしい.

自閉症は臨床的にも遺伝学的にも単一なものではないことは明らかである.自閉症者の約10%−25%が他の医学的疾患を伴っており,多いものでは脆弱X症候群や結節性硬化症がある.加えて症例報告により,少数ではあるが有意な数の自閉症サブグループにおいて,多彩な染色体異常に関連したケースが存在する.最も多いのは第15染色体の構造的異常である(15q11-q13).この部分に存在するいくつかの遺伝子がインプリンティング現象を伴うことが示されたことと,Prader-Willi症候群やAngelman症候群の原因遺伝子がこの部分に同定されたことなどで,この部位は注目されている.Prader-Willi症候群もAngelman症候群もインプリンティング現象の影響を受けており,両疾患の一部は自閉症様症候を呈することも知られている.また,最近Turner症候群の患者のサブグループでも自閉症様症候があることが報告され,その自閉症様症候はX染色体が母親から受け継いだ場合にリスクが高いことが示され,インプリンティング現象が示唆された.

自閉症の遺伝学的研究の必要性を示す生物学的および神経解剖学的手がかりはたくさん存在するが,多くの結果は一致せず再現性に乏しい.これはおそらく自閉症の原因の非単一性に起因する.最も一致する結果は,コントロール群と比較して自閉症者においては血小板中のセロトニン量が増加しており,かつ/または尿中のセロトニン量が増加しているという結果である.臨床研究では,セロトニン再吸収阻害剤がこれまでのところ一部のケースで自閉症症候に有効であることが示されている.連鎖研究と関連研究の両方で,セロトニントランスポーター遺伝子の役割が示唆されているが,まだ証明されたというわけではない.

最近いくつかの独立した研究グループが,マイクロサテライトマーカーを使い自閉症あるいは自閉症スペクトルへの連鎖を検出するための全ゲノムスキャン研究を報告している.そのような研究の4つは,最近Lambらによってレビューされている.最初の報告は,IMGSACにより行われた研究で,最大複数ポイントLODスコアが1を超える部分が6箇所報告された(第4,7,10,16,19,22染色体).最も高い陽性LODスコアは7q32-35で得られ,2.53と報告された.この領域におけるその後の検討では,マイクロサテライトマーカーの密度を上げ,26家系を追加して複数ポイントLODスコアは3.63まで増加している.PARISは,危険率が0.05以下の候補部位を11ヵ所に指摘し,これには第2,4,5,6,7,10,15,16,18,19染色体,およびX染色体が含まれる.PARISとIMGSACの結果は2q,7q,16p,そして19pの4ヶ所が重複(一致)している.PARISの第2ゲノムスキャンでの最大の陽性LODスコアは2.23で第6染色体長腕にある.

3つ目の全ゲノムスキャンは,最大尤度スコアが1.0より大きい候補部位を,1p,7p,19qに指摘し,最大は1pの2.15であった.著者のRischらは,15個以上の遺伝子座が関与しているモデルが最もデータに一致するとした.最後に,CLSAは最大複数ポイント非単一LODスコア(MMLS/het)がD13S100で3.0,D13S217とD13S1229の間に2.3を報告している.3番目に高いスコアの部位はD7S1813(7q)での2.2で,このデータは劣性モデルでの結果である.第7染色体に関するフォローアップ研究では,Buxbaumら(60家系)とAshley-Kochら(76家系)がそれぞれ独立して7qへの連鎖の中等度の証拠を報告している.

今回の我々の検討では,110家系の自閉症複数発生家系において全ゲノムに渡る結果を報告する.マイクロサテライトマーカーは335個で,有症候兄弟ペアアプローチを使い,またスキャン統計を使った新しいアプローチも使い解析した.

対象家系と方法

家系収集と診断評価
The Cure Autism Now(CAN)基金とHuman Biological Data Interchangeは,自閉症の遺伝研究のための大規模なDNAサンプル中央保存システムを持っており,Autism Genetic Resource Exchange(AGRE)として知られている.家系サンプルはCAN全国支持団体からの広告と臨床医からの紹介で全国から集められた.最初の選別基準は,少なくとも家族の中の2人が自閉症か自閉症スペクトル(自閉症,PDD,またはアスペルガー症候群)と診断されていることとした.見込みのある家系にその後連絡を取り,訓練された診断者が自宅に訪問する予定がたてられた.この訪問で,有症候者に関するインタビューをADI-Rを使って片方の親または両親に行った.ADI-Rは,スコア化された半構造化インタビューで,ICD-10およびDMS-IVに記載された自閉症の診断基準に基づくものである.診断のための評価はビデオテープで記録され,他の訓練されたインタビュアーによる独立した信頼性チェックのために使われた.今回の連鎖解析で有症候(自閉症)と判断された場合は,3歳よりも前の表面化と共に,ADI-Rの主要3症候の全てにおいて予め特異化されたカットオフスコアを満たしていなければならない.加えて,他の小児科的,神経発達的,そして精神科的情報が,統一された医学的診察やADOSによってこれらの家系から集められた.

本研究においては,遺伝子解析のために2つの表現形質を選んだ.ひとつは,自閉症だけを含む狭義の診断カテゴリーであり,2つめは自閉症にアスペルガー症候群とPDD(PDD-NOS)を加えた広義のカテゴリーである.IMGSACの報告に記載されているように,自閉症の易罹患性はアスペルガー症候群やPDD(PDD-NOS)にも関連している.

方法(ラボ)
血液は全ての有症候者および可能であれば親や健常兄弟から採取された.リンパ球はEpstein−Barrウイルスによって芽球化され培養された.DNAは全血と培養リンパ芽球細胞株から抽出され,マイクロサテライトマーカーのPCRが行われた.遺伝子型はDNAシークエンサーで判別した.解析はGENESCAN 2.1とGENOTYPER v.1.1.1ソフトウェア−が使われた.コンピュータによる遺伝子型は,診断を伏せた状態で2人の独立した研究者がチェックした.その後,遺伝子型情報は,LABMAN遺伝子型データベースに移された.

遺伝子マーカー
全部で335個のマイクロサテライトマーカーが使われ,ゲノム全体がスキャンされた.マーカーの多くはMarshfield蛍光ラベルゲノムスクリーニングセット(バージョン8.0)から選ばれた.マーカーの多様性の平均値は本研究では0.77.遺伝子地図上の距離はMarshfieldより得られた(Kosambi centimorgans).

統計解析
遺伝子型データの複数ポイント有症候兄弟ペア解析は,MAPMAKER/SIBSプログラム(バージョン2.1)を使い行われた.対立遺伝子頻度は家系データから算出され,PEDMANAGERプログラムが使われた.有症候兄弟ペア解析の主なアプローチはRischの尤度-比法を使った.HolmansとFarawayはそれぞれ独立して,共有確率のセットに対する最大化に限定することは「可能性三角」と言われる遺伝学的モデルに一致することを示唆した.尤度‐比テストの感度が,可能性三角の制限された最大化により増加し得ることが示され,ゆえに本研究では可能性三角に限定することによって全ての尤度を計算した.この方法によって得られた最大LODスコア(MLS)は,漸近線として分布し,ゆえに危険率0.05未満の閾値を得るためにはMLSは0.74以上が必要となる.

しかし,無限に密度の高い遺伝子地図に基づく証拠としは,ゲノム全長にわたり示唆的(p<0.00074)や有意(p<0.000022)な連鎖のためには,MLS値はそれぞれ2.45と3.93以上でなければならない.

Cordellらは,X染色体にリンクしたデータにおけるHolmansらの方法を応用し,兄弟の性を混在させたデータでは不適当であることを示し,その代わりにX-MLS統計を開発した.この方法は,母親の対立遺伝子のIBD共有率の遺伝学的に有効な値によって最大化を制限することにより分類された3つのグループを検討する.これらの3つのMLS統計値を合計した値がX-MLSで,危険率<0.05のためにはX-MLS>1.18が要求される.しかし,無限に密度の高い遺伝子地図に基づく証拠としては,示唆的な連鎖のためにはX-MLSは3.06以上,有意な連鎖のためにはX-MLSは4.62以上であることが必要である.

加えて,我々はASPEX(兄弟フェーズ)プログラムを使って,IBD共有率への父親,母親別の寄与度を解析した.しかし,全般にASPEXの結果はMAPMAKER/SIBSを使って得られた結果とは異なることが予想される.なぜならASPEXは親の遺伝子型で不明な部分の予想のために有症候ペアの最初の兄弟(片方)のみと全ての健常兄弟を使っており,一方MAPMAKER/SIBSは全ての情報を使っている.さらに,MAPMAKER/SIBSはその染色体上の全てのマーカーを使って完全な複数ポイント解析を行うが,ASPEXではIBD状態を決定するための補助として,特定の遺伝子座に最も近接する情報としての価値があるマーカーを単に見つけるだけである.

連鎖解析の結果を解釈する目的で,我々は,我々のデータのサンプル特異的経験的全ゲノム有意度を計算するためのシミュレーションを使った.広義と狭義の両方のデータで,SIMULATEプログラムを使って,連鎖がないと仮定したシミュレーションを1000回繰り返した.それぞれのシミュレーション値はMAPMAKER/SIBSで解析した.ゲノム全長にわたる有意な値は,1000回の繰り返しのうちMLSまたはX-MLSが閾値に達した回数をカウントすることにより得られる.

自閉症に関する遺伝子座の部位を同定する感度を上げるために,我々は新しいアプローチを使った.このアプローチはピーク周辺のマーカーのLODスコアを基にしてピークLODスコアの有意度を評価するためにスキャン統計を使うものである.このアプローチは,ゲノムスクリーニングにおいては真のピークが偽ピークよりもより幅広いピークになってしまう事実に基づいている.スキャン統計は現在では2つに1つのデータ(dichotomous data)として使える.与えられた家系の観察値から2つに1つのデータは次の2つの方法で得ることができる.(1)2種類の兄弟ペアを作る.つまり,2人とも自閉症であるペア(AA)と,ひとりが自閉症でもう一人が自閉症でないペア(AU)を作る.広義での分類では,この方法で86ペアのAAと91ペアのAUが得られる.(2)分割できない家系においては,マーカー遺伝子型はコンピューターシミュレーションにより作り出された.この場合,観察されたデータは帰無仮説と比較できるような連鎖なしという仮定がなされた.広義分類で108家系の観察家系と432家系のコンピューター処理家系が得られた.この2つに1つのデータの2タイプのそれぞれのユニット(兄弟ペアあるいは家系)のために,ノンパラメトリックLODスコアがそれぞれのマーカー位置でALLEGROプログラムによって計算された.スキャン統計の解析は,広義定義においてのみ行われた.なぜなら狭義定義の検討よりも連鎖情報が多いからである.全ゲノムに渡る経験レベルは,20000回の反復サンプルサイズでのモンテカルロ並べ替えテストにより計算した.

結果

遺伝子型データの質
このプロジェクトを始めたとき,AGREサンプルは132家系の複数発生家系からなっており,一卵性双生児家系を14家系含んでいた(12家系の自閉症‐自閉症双子,1家系の自閉症‐PDD‐NOS双子,1家系の自閉症‐アスペルガー症候群双子).これらの家系は連鎖解析からは除外したが,遺伝子型タイピングのエラー率を予想するための内コントロールとして使った.この28個のサンプルは,マイクロタイタープレートにランダムに置かれ,検査者はブラインドな状態で335個のマーカーで9000の遺伝子型が得られた.一卵性双生児間の遺伝子型を直接に比較し,7つの対立遺伝子ミスマッチが同定された.従って,エラー率は7/9000で0.0007であった.全データでは177000の遺伝子型が検討され,メンデルの法則に合わないエラーが157あり,観察エラー率は0.00089であった.メンデルの法則に合わないエラーで検出可能なものは,遺伝子型エラーの多くを占めることが予想される.しかし,我々のサンプルの多くを占める核家族においては,伝播法則を乱さないエラーは検出されないはずである.

統計解析
広義解釈での分類では,つまり,自閉症,アスペルガー症候群,PDD-NOSの全てを含んだ場合,一卵性双生児例を除けば,132家系の内110家系が2人以上の自閉症兄弟を有しており,全部で118ペアの有症候兄弟ペア比較が可能となる.同じように,狭義解釈での分類では,厳密な自閉症だけを対象とし,72家系が2人以上の自閉症兄弟を持ち,全部で75の有症候兄弟ペア比較が可能になる.110家系の中で,40家系はひとりの健常兄弟を含んでおり,10家系は2人の健常兄弟を含み,1家系は4人の健常兄弟を含んでいた.105家系で両親の検討が成され,残りの5家系は片親だけが検討された.親の表現形質に関する情報は得られていない.4家系で自閉症兄弟は3人で,71家系で自閉症兄弟は2人.

広義解釈のデータと狭義解釈のデータは独立したデータではなく,狭義解釈データは広義解釈データの64%を使っている.その後,広義および狭義解釈の診断の正当性を示すために,解析結果は同時に訂正なしに提示された.それらの統計的解釈は読者にまかせる.

広義解釈での解析では,危険率0.05を閾値とした場合13ヵ所に有意なMLSピークが検出された(2,4,5,8,10,11,12,15,16,18,19,20,X).最も有意なのは第5染色体で,マーカーD5S2494の部位であった.MLS値は2.55で,示唆的連鎖のための全ゲノムに渡る推奨閾値を超えている(危険率0.00058).2.55以上のMLSは,1000回のシミュレーション繰り返しの中で197回得られ,ゲノムスキャンにおける発生予測は0.197回となる.つまり,我々は5.08(1/0.197)回のゲノムスキャン毎にこの強度のスコアを得ることが予想されるわけである.次に有意なのはX染色体でマーカーDXS1047である.X-MLSは2.56で危険率0.0023.これも示唆的連鎖閾値を越えており,発生予測値は0.887.その他の注目部位では,マーカーD5S2488の近くにMLS1.90(危険率0.0028,発生予測値1.078)があり,D19S714(MLS=1.72,p=0.0043,発生予測値1.646),D8S1179(MLS=1.66,p=0.005,発生予測値1.897),D16S2619(MLS=1.47,p=0.0081,発生予測値3.038)などがMLS値が1.4以上(危険率0.01以下)であった(他は1.4以下).

狭義解釈での解析では,危険率0.05以下のMLSピークは7ヵ所で得られた(3,5,10,16,18,19,X).最も有意なのは第19染色体マーカーD19S714の位置で,示唆的連鎖の閾値を越えるMLS2.53が得られた(p=0.00061,発生予測値0.325).次に有意なのは,DXS1047でX-MLSが2.67(p=0.0018,発生予測値0.803)で,これも示唆的連鎖閾値を越えていた.その他の注目部位では,D16S2619(MLS=1.93,p=0.0026,発生予測値1.125),D5S2488(MLS=1.63,p=0.0054,発生予測値2.162),D5S2494(MLS=1.41,p=0.0092,発生予測値2.504)があり,また2次ピークがD19S587とD19S601の間に存在した(MLS=1.70,p=0.0045,発生予測値1.863).その他の部位は全て危険率が0.01を超えていた.

広義解釈での解析結果と狭義解釈での解析結果は高い一致が見られた.いくつかの部位ではMLS値1程度のかなりの差がみられるが(例えばD5S2494,D8S1179,D19S714),MLSのパターンは一致しており,このことは必ずしも広義解釈と狭義解釈の間の違いに基づくものではなく,両データセットの非単一性によるものであることを示唆している.

危険率0.05以下の有意な遺伝子座における対立遺伝子共有率増加に対する,父親からの寄与と母親からの寄与を検討すると,広義解釈でも狭義解釈でも,明らかな偏り(区分化)がみられる.特に,D5S2488でのIBD共有の多くは父親からのもののようであるが,D5S2494(59cM離れた位置)では母親からのものが多い.このことは,二つの異なる(関連)遺伝子座がこの染色体上に存在することを示唆している.同様に,D19S714での多くのIBD共有は母親由来のものであるが,30cM離れたD19S587・D19S601では父親の寄与が大きい.ここでも再び2つの異なる(関連)遺伝子座あることが示唆されている.とにかく,このような結果は自閉症の遺伝学におけるインプリンティングの役割が重要であることをさらに示唆する.

強力な性効果の存在はまた,Ashley-Kochらも指摘している.彼らの研究では,62組の有症候兄弟ペアと7q上の35cMの部位を9つのマーカーで解析し,連鎖結果への寄与は父親由来のIBD共有が優位であった.その後,X染色体の連鎖結果がIBD共有における父親と母親の寄与度の偏りと共に得られ,我々はX染色体上の観察された対立遺伝子共有を基に我々のデータをグループ分けしてこの明らかな性効果をさらに検討することを決断した.特に,広義解釈検討でも狭義解釈検討でも,家系サンプルはDXS1047での父親から伝播した対立遺伝子の共有の尤度(<50%対50%以上)を基に分類された.狭義解釈で,39ペアのX染色体関連ペアと36ペアのX染色体非関連ペアが得られ,広義解釈で,56ペアのX染色体関連ペアと62ペアのX染色体非関連ペアのデータセットが得られた.

このようにDXS1047での共有で分類して連鎖解析を行うと,さらに強い性効果があることが示された.特にDXS1047とD19X714での共有における相互関係ははっきりしている.これらの遺伝子座においては対立遺伝子は母親からいっしょに伝播している.さらに,D19S587-D19S601でのピークは,DXS1047での共有が増加していない家系において父親から優位に伝播している.同様に,D1S547とD7S2195-D7S3058においても,共有はDXS1047での対立遺伝子共有が増加していない家系に限定されている.逆にD16S2619とD18S59での共有はDXS1047での共有が増加している家系に集中している.これらのデータは明らかに,X染色体上の遺伝子座と常染色体上の遺伝子座の間のいくつかの相互作用の存在を示唆しており,このことで自閉症における性比の偏りを説明できるかもしれない.

スキャン統計は独立様兄弟ペアデータに応用され,狭義解釈では興味ある結果がなかった.広義解釈においては,それぞれのマーカーにおいて,AAペアとAUペアの間の総LODスコア差が計算され,この計算値はマーカー特異的統計値を意味する.それから,連続するマーカーのために,そのような単一マーカー統計値の合計値がもとめられた.これらの中で最も有意なものはスキャン部位の長さあたりのスキャン統計値である.一度に1つのマーカーを従来の解析ですると,D8S1136が単一のベストのマーカーとなり,関連する経験的有意レベルはglobal p=0.131であった.一方,マーカー特異的統計値を合計する方法では,D8S1136周辺の隣接する6つのマーカー(例えばD8S1477-D8S1119)の合計値が最大であった.関連するゲノム全長に渡る有意レベルは0.015.スキャン統計値をいろいろの長さで複数回検証することによりこの有意度は0.047に減少する.一度に1つの染色体のマーカーにスキャン統計を適応すると,5%レベルでは第8染色体以外では有意な結果はでない.全ての可能性のあるAAおよびAU兄弟ペアにスキャン統計を適応すると,類似性がでてくるが有意でない結果となる.

連鎖が想定される陽性LODスコアのAAペアと,連鎖が想定される陰性LODスコアのAUペアを対比する方法は強力であることが予想されるが,結果は独立様兄弟ペアが作られた時の(兄弟1対兄弟2,兄弟1対兄弟3など)最初の兄弟をどの子供にするかという選択に依存している.ゆえに,LODスコアが連鎖がない時の予想値ゼロとのみ比較できる場合であっても,我々はまた全ての家系にスキャン統計を応用した.興味を伴うマーカー特異的統計値は,与えられたマーカーのために得られるLODスコアであり,隣接するマーカーの統計値の合計は前述のように集計された.前述したように,経験的な全ゲノムに渡る有意レベルは並べ替えサンプルをとおして算出された(観察値よりもより帰無仮説の結果を4回多くして作られた並べ換えサンプル).最も強力な結果は,マーカーD5S2488において得られた(最大LODスコア4.38に相当).マーカーD8S1179も(最大LODスコア4.17に相当)有意な結果であった.最後に示唆的連鎖の証拠はD19S714にも得られ,最大LODスコア2.60に相当した.

考察

これまでに5つの全ゲノムスキャンが報告されており,LODスコアが1.0以上のピークは14報告されている(10個の染色体上).候補部位のうち5つは,本研究が指摘し,5q,8q,Xqterの3箇所は始めての報告である.我々の指摘したものの内の2つは(16pと19p),他の研究グループも指摘している.我々の結果で最も有意な3つのピーク(5q,19q,Xqter)の中では,19qのみが以前の自閉症連鎖研究で報告されている.このような候補連鎖所見の説明は複雑で,Rischらの報告の中の考察の中でそのポイントがよく記載されている.複雑な連鎖研究の解釈に影響する数多くの混乱があるとすると,5つの全ゲノムスキャンからのデータといくつかの部分的スキャンからの証拠がいくつかの部位において一致している場合が興味深い.このような部位として第7染色体がめだっている.同じようなゲノムスキャン結果の一致はアルツハイマー病において第10染色体で最近報告されている.第7染色体においては,過去の研究が報告した部位(終糸から115の位置)のフォローアップ解析を行った.ゲノムスキャンに使った6つのマイクロサテライトマーカーに28個のマイクロサテライトマーカーを追加し検討した.このフォローアップ検討では本報告での110家系に加え,50家系を追加している.結果は,マーカーD7S523でピークLODスコア1.0と,マーカーD7S483でLODスコア2.13が得られた.D7S523のピークは過去の報告を支持するが,D7S483のピークは新しい場所である.

本研究で二番目に有意なのは,DXS1047の部位でX-MLSが2.56(p=0.0023)であった.X染色体が関与することを示すいくつかの証拠が報告されているにもかかわらず,これまでに報告された全ゲノムスキャンではX染色体上には自閉症スペクトルの候補遺伝子部位は指摘されておらず,今回の指摘は価値あるものである.自閉症の易罹患性における性差の証拠として最も説得力のある結果は,Turner症候群の女性の研究から報告された.CreswellとSkuseは最近,父親からX染色体を受け継いだ65例のTurner症候群のうち自閉症になったのは一例もいないことを報告し,一方母親からX染色体を受け継いだ156例のうち10例が自閉症であったとした.さらに,認知障害で特徴づけられるTurner症候群の一群は,認知障害が軽いTurner症候群の一群よりも母親からX染色体を受け継いでいる場合が多いことが報告されている.これらのデータからSkuseらは,社会的行動に関連する遺伝子がX染色体上にあり,インプリンティング現象が絡んでいることを提唱している.さらに,Gillbergらは,高度の精神遅滞を持つ自閉症スペクトルの性差は1:1であるが,高機能の自閉症スペクトルの場合の性差は10:1であることを特記している.

これらのの証拠と,有症候兄弟ペアにおけるIBD共有における性特異的親の寄与を示唆している我々のデータから,我々は追加解析を行った.DXS1047での母親対立遺伝子共有でデータをグループ分けした検討である.D19S714とDXS1047の両方で優位に母親の対立遺伝子を共有している有症候兄弟ペアでは,MLSスコアは3.59となった.我々のデータはX染色体上の自閉症スペクトル候補遺伝子部位は,他の常染色体上の遺伝子座と協力して機能しているのかもしれないことを示唆している.このことで,これまでの研究ではX染色体上の自閉症スペクトル易罹患性遺伝子座がみつからなかったことを説明できるかもしれない.

今回の研究では,我々の統計的遺伝解析を補助するために,最近開発された人遺伝子地図作成におけるスキャン統計法を応用した.この方法は,あるピークLODスコアが得られたマーカーに隣接するマーカーに含まれる情報を利用するものである.兄弟ペアデータにおいては,第8染色体に関しては,D8S1136の部位あるはその近傍で,易罹患性遺伝子座のためのゲノム全長に渡る有意レベルは,マーカー毎の方法では0.131である.隣接マーカーがスキャン統計に考慮されると,対応する有意レベルは5%未満に減少し,一般的にかなり有意であるとされるレベルになる.スキャン統計は易罹患性遺伝子の場所の同定を容易にすのではなく,結果をより有意にする.つまり感度を上げるのである.全ファミリーでの解析にスキャン統計を応用すると,独立した兄弟ペアでの結果よりもD5S2488とD8S1179により強い有意性がでてきた.複数ポイント解析で得られたD19S714に関する結果もまた確認された.

複雑な形質遺伝子座のマッピングにおける主な問題は,マーカー遺伝子座と表現形質の間の連鎖の証拠をいかに最善に説明できるかである.この報告の結果の部分では,我々はゲノム全長に渡って示唆的および有意な連鎖として許容できる閾値をについて言及した.しかし,これらの考え方は,マーカーの情報性が完全(100%)であって,無限に密度の高いマップの場合に守られるものであることが知られている.LanderとKruglyakは明確にこのことを指摘したけれども,彼らの閾値を実際のデータに応用することは不可能である.例えば,彼らはもしマップ密度が10cMであったら有意なLODスコア閾値がどれだけ減少するのかを推定しているが(20%まで減少),この閾値の減少は2ポイント解析が行われた時のみ適切であろうと述べている.Marshfieldマップによって計測すると,本研究で使われている335個のマーカーは4400cMをカバーしており,平均マップ密度は13cMということになる.もし我々が勝手に,提唱された10cMでの20%減少をLODスコア3.3を超える標準(パラメトリック)有意連鎖閾値に応用した場合,我々はより低い有意連鎖閾値であるLOD>2.64を作成することになる.同じ理由で,我々が可能性三角閾値(possible-triangle thresholds)を応用する時,我々はMLS閾値を>2.96,X染色体のMLS閾値を>3.55と設定する.しかし,我々は複数ポイントLODスコアを81%のマーカー情報性で報告しており,我々の結果を提唱された方法のとおりに解釈することは困難である.

そのような連鎖解析の結果解釈における困難性を緩和するために,我々は我々のデータのためのサンプル特異的経験的全ゲノム有意度を計算するためのシミュレーションを使った.単純化して,示唆的および有意な連鎖は,起こることが予想される統計的証拠がゲノムスキャンあたりの偶然の頻度の1倍を示唆的,0.05倍を有意に対応させた.ゲノム全長に渡る有意度において観察された改善は,かなりのもので,第5染色体,第19染色体,X染色体上の遺伝子座は示唆的連鎖として受け入れられる閾値に達している.我々がもしLanderとKruglyakのLODスコア閾値を厳密に使ったならば,第5染色体と第19染色体のみ基準に達する.その代わりに,そのシミュレーション結果では何倍も有意なゲノム全長に渡る値が得られる.例えば,第5染色体は,5倍有意になり,第19染色体は,3倍有意になる.結果として,LanderとKruglyakの厳密なゲノム全長に渡る有意度に基づいてゲノムスキャン結果を解釈する時は用心すべきであると我々は勧告する.その代わりに,ゲノム全長に渡る有意度を説明するためのシミュレーションを使うべきことを強く推奨する.


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