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自閉症に関連する遺伝子: フィンランドにおける予報

Aurane M, et al. Analysis of autism susceptibility gene loci on chromosomes 1p, 4p, 6q, 7q, 13q, 15q, 16p, 17q, 19q and 22q in Finnish multiplex families. Mol Psychiat 5: 320-322, 2000.

訳者コメント:

これまでに報告された候補部位にしぼって,自閉症兄弟ペア解析を行っています.通常のゲノムスクリーニングを現在行っているとのことで,フィンランド人における自閉症関連遺伝子の候補部位が続報で発表される予定のようです.

(概訳)

(要約)自閉症の病態において,遺伝素因が果す役割は重要であることが示されている.これまでに自閉症に関連することが示唆された候補遺伝子部位は10ヶ所で,1p,4p,6q,7q,13q,15q,16p,17q,そして22qである.我々はこれらの候補部位を,17家系の自閉症複数発症家系(フィンランド人)において,ペア連鎖解析と兄弟ペア解析で検討した.結果は,自閉症易罹患性に関しては,1pのみにマイルドな候補遺伝子部位としての徴候が得られた.我々の今回の結果は,フィンランド人においては,自閉症に関連する別の遺伝子座(フィンランド人の自閉症に特異的な関連遺伝子)が存在する可能性を示唆する.

小児自閉症は,相互的社会的コミュニケーションの障害,興味・活動のパターンの制限および常同化,3歳までに発達異常が顕在化すること,で特徴づけられる.家族研究や双生児研究の結果,小児自閉症とアスペルガー症候群のような自閉症に関連する状態は同一家系にみられることが多く,強い遺伝素因が存在することが示された.自閉症は多いデータで1万人あたり4人存在するとされ,自閉症者の兄弟内での発生率(sibling risk)はその50倍から100倍と言われている.また,分子遺伝学的研究は,15q11-13上のUBE3A遺伝子やガンマaminobutyric acid A受容体サブユニット遺伝子,および,17q11-q12上のセロトニントランスポーター遺伝子などについては否定的な結果を出している.

これまでのところ,3つのゲノムスキャンが自閉症において報告されている.最初の報告は66家系のイギリス人自閉症複数発症家系を含み,複数ポイント最大LODスコア(MLS)が1以上(1を含まず)のいくつかの候補部位を明らかにした.このうち最も有望なのは7qであった(複数ポイントMLSが3.55).2番目のゲノムスキャンは,ヨーロッパと北アメリカの混合サンプルで51家系を対象とし,最も有意な複数ポイントMLS(2.23)は6q上に存在した.3番目の最大のゲノムスキャンはアメリカ人家系 139家系を対象とし,最大の複数ポイントLODスコア2.15を報告している.4番目のゲノムスキャンは,予報的な報告であるが,13q21に候補遺伝子座の存在を示唆した.2つのゲノムスキャンが重複して候補遺伝子座としたのは,7q,16p,そして19pの3ヶ所である.自閉症になりやすくする特異的な遺伝子の報告はまだない.

報告された結果を確認する研究は,ことなるポピュレーションにおける偽陽性連鎖から真の連鎖を区別するために重要である.自閉症は遺伝的には単一ではないとして,我々は対象をフィンランド人に絞った.17家系の自閉症複数発症家系において,これまでに報告された10ヶ所の候補遺伝子部位に関して,マーカーの分離解析を行った.マーカーは,それぞれの候補遺伝子部位において最も有意な連鎖の証拠を提供したものが設定された.結果は,統計的に有意な部位は一つもなく,わずかに興味が残る部位は1pで,マーカーD1S1675とD1S534で最大LODスコア0.87と0.76を得た.自閉症兄弟における対立遺伝子の家系内同一性による共有はD1S1675で70.5%,D1S534で60.6%であった.この共有率はRischらの報告とほぼ同じであった.第1染色体の複数ポイント解析でも付け加えるべき結果は得られなかった.

フィンランドの人種の歴史と,フィンランド人の疾患に関するデータを考慮すると,フィンランドでは自閉症の易罹患性遺伝子は他の人種とは異なっている可能性が考えられる.このことは乳癌易罹患性遺伝子として知られているBRCA1とBRCA2遺伝子の変異解析も支持している.フィンランド人の場合は変異スペクトラムが異なっており,異なる易罹患性遺伝子が乳癌の原因となっているのである.さらに,これまでに行われたゲノムスキャン研究(多発性硬化症,分裂病,高血圧,いろいろな疾患における家族性高脂血症)も,フィンランド人において,他の混成人種に比べてより強い効果を持つ候補遺伝子の存在を示唆している.

自閉症になり易くする遺伝子座の数は,かなり多いことが予想されている.現在行っているゲノムスキャンは,新しい易罹患性遺伝子座を明らかにしつつある.また,1pに関しては対象家系を拡大してさらに検討を行っている.


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