自閉症に関連する遺伝子:ゲノムスクリーニング(CLSA)

Collaborative Linkage Study of Autism: Barrett S, et al. An autosomal genomic screen for autism. Am J Med Genet 88: 609-615, 1999.

訳者コメント:

大規模なゲノムスクリーニングとしては3つめの報告です.他の2つは既にご紹介済みです.この報告は2段階研究の第一段階ですので,続報が今後発表されるはずです.

(概訳)

(まとめ)自閉症はシビアな神経発達障害であって,早期にみられる社会的障害,コミュニケーション障害,そして儀式的-繰り返し行動によって定義される.特発性自閉症の病態は,遺伝素因が強く,いくつかの遺伝子の伝搬が関与することが示唆されている.我々は自閉症の2段階ゲノムスクリーニング(genomic screen)を行う.第一段階は,自閉症連鎖共同研究(CLSA)として行い,自閉症兄弟ペア(affected sib-pair)を確保できる75家系から自閉症児に関して行われた.最も強い複数ポイント(LODスコア)は,第13染色体と第7染色体上に検出された.最大複数ポイント非単一性LODスコア(MMLS/het)の最高値は(劣性遺伝モデル),3.0で終糸(telomere)から約5.5cMの部位であるマーカーD13S800の位置で得られた.この遺伝子部位と関連がある家系は35%と計算された.2番目に高い値は,2.3で,D13S217とD13S1229の間にあった.3番目に高い値は,第7染色体上に位置する2.2で,この部位は国際分子遺伝研究自閉症協会が報告した位置に一致しており,7q31-33のあたりである.これらの遺伝子部位を含み,第二段階の研究で追試を行う予定である.また,第二段階では,今回報告した家系に加え,現在集めている第二セットの家系でも,マーカーをさらに増やし検討する予定である.多くの研究の結果を比較することにより,自閉症関連遺伝子(autism susceptibility genes)を少数のゲノム部位にしぼり込むことが可能であろうと思われる.

(イントロ)

遺伝学的疫学研究により,特発性自閉症は遺伝子の影響を強く受けることが明らかにされた.一般的な自閉症の頻度は1万人に2人から5人であり,自閉症者の兄弟における頻度は6−8%と言われている.従って,兄弟における危険率は,一般の120−400倍ということになる.一卵性双生児における自閉症の一致率は60%,二卵性における一致率は0%というデータがあり,遺伝性は90%以上ということになる.遺伝的伝搬のメカニズムは不明であるが,家族内での遺伝パターンや双生児研究の結果(一卵性一致率は二卵性一致率の4倍以上)からすると複数の遺伝子が関与(oligogenic transmission)していることが示唆されている.

このような強い遺伝的影響にもかかわらず,自閉症遺伝子の研究は最近になったやっと本格的に始まった.候補遺伝子研究は,第17染色体上のセロトニントランスポーター遺伝子への連鎖不均衡に関しては,相反する証拠を報告している(Cookら1997とKlauckら1997).自閉症者において,15q11-13部位の重複異常が多いことが報告され,この部分におけるさらなる研究が待たれていた.Pericak-Vanceらは,この部位に最大パラメトリックLODスコアで2.6という連鎖の証拠を報告している(37組の兄弟ペア解析,gamma-aminobutyric acid受容体サブユニット遺伝子であるGABRB3への連鎖).結果的に,Cookらは自閉症とGABRB3との連鎖不均衡を報告したが,隣接するマーカーへの連鎖不均衡はなかった.国際分子遺伝研究自閉症協会が報告したゲノムスクリーニング(genome screen)では,87組の兄弟ベア家系を検討され,第7染色体長腕に連鎖の強い証拠がみつかった.この研究では5つの他の遺伝子部位も候補に挙げられた.

我々は,ここに,自閉症の背景となる遺伝子に関するゲノムスクリーニングの第一段階の結果を報告する.我々の結果ではいくつかの候補部位が同定され,最も可能性のあるのは第13染色体と第7染色体であった.

(対象と方法)

サンプル:少なくとも2人の自閉症児がいる75家系(そのうち3家系は自閉症児が3人)を本研究のサンプルとした.対象家系は,合衆国のMidwest,New England,mid-Atlanticの3つの地域から,Iowa大学,Tufts大学New England医科センター,Johns Hopkins大学の3施設を通して集められた.全ての発端者はADI-Rのアルゴリズム基準を満たし,3歳以上であった.また全ての発端者はADOSまたはADOS-Gにて評価した.非言語性IQは入手可能な診療記録を基に算出した.診療記録が手に入らない時は,Vineland適応行動スケールおよびRaven's Progressive Matrices Form Boardにより最低IQを計算した.多くの発端者は標準化された理学的検査を受けており,神経皮膚異常や限局した神経学的徴候や形態異常はなかった.家系の除外項目は次の4つである.(1)結節性硬化症や脆弱X症候群のような自閉症に関連する医学的状態の証拠が病歴や検査で見つかった場合.(2)病歴や検査により大きな中枢神経系外傷の証拠が見つかった場合.(3)周産期異常.(4)自閉症者全員(二人とも)の非言語性IQが30以下.これらの除外操作の基本的理由は,サンプルの非単一性(heterogeneity)を減ずるためである(例えば,二人とも自閉症児が著明で深刻な精神遅滞を持っている場合は,その家系に特異な遺伝素因が存在する可能性がある).脆弱X症候群については,少なくとも一人の自閉症者で検査が行われるか,以前の診療記録での検査を入手するか,あるいは我々のラボでスクリーニング検査を行った.

遺伝子型:血液検体は,採血可能な一等親の家族全員から集められ,少なくとも2人の自閉症者と両親は検討した.標準的な無機プロトコールによってDNAを抽出し,一部のケースでは,リンパ芽球様細胞株を樹立した.短タンデム重複多型(STRPs)を用い,ゲノム全長にわたり検索した.これらのマーカーはWeber set 9(www.marshmed.org/genetics)の改訂バージョンである.これらのSTRPsの多くは,共同人連鎖センターによって開発された,3つあるいは4つのヌクレオチドの重複多型である.全部で403個のマーカーが設定され,平均マーカー間隔は9cMであった.追加されたマーカーは,13個で,特に注目された二つの部位(我々のデータでLODスコアが最高であった第13染色体と,国際分子遺伝研究自閉症協会が連鎖の可能性を報告した第7染色体)に設定された.遺伝子型検査は,Iowa大学で偶数番の染色体を,Vanderbilt大学で奇数番の染色体を,基本的には同一のプロトコールで検査した.判定は独立した二人の観察者が行った.それぞれの施設で,データは遺伝子型判定システムに蓄積された.Iowa大学では,GenoMapデータベースシステムを使い,2施設全てのデータを扱った.Vanderbilt大学ではLAPISデータベースシステムを使った.

統計解析
(i)第二段階のための要検討領域の設定:第一段階のスクリーニング戦略では,それぞれのマーカーで罹患兄弟ペアテストを行い第一段階データが算出された.危険率が0.10以下であった領域に関しては,現在収集中の第二段階の対象家系において,追試検討を行う.第一段階の検討は,単純劣性LODスコアを用いた.我々のデータのような場合のこの方法は,家系内共有アレル数が平均1個と仮説される罹患兄弟ペア解析に匹敵する方法である.この方法は,いろいろなモデルにおいて,最も強力な罹患兄弟ペア解析であることが示されている.最大LODスコアは,自由度1の片側かい二乗値として分布しており,したがって,第一段階スクリーニングのLOD値の閾値は0.36に設定した.LODスコアは,LINKAGEパッケージのMLINKサブルーチンを使い計算した.

(ii)第一段階における連鎖の証拠:劣性モデル同様,優性モデルにおいてLODスコアを計算し,遺伝子座の非単一性に配慮することにより,連鎖を検出する感度を増加させることができる.結果的に,我々は二つのLODスコアを計算した.一つは優性モデルで,もう一つは劣性モデルのために設定し,こうすることによって,Smithの言う混成モデルを介した遺伝子座の非単一性に配慮することができる.解析の2ポイント方式と複数ポイント方式の両方が検討された.この論文の後半で,それぞれの遺伝子座における両方式のより高い方のスコアを記載し,これをMMLS/het統計値と呼ぶ.家系内の全ての子供は自閉症であり,全ての親は形質的には未知として扱われた.また,自閉症発生率が低いため,家系内の環境による類似性を考慮する必要はない.ゆえに,これらの解析のためには,遺伝モデルの特殊化に関わるパラメーターは一つであり,すなわちそれは自閉症関連遺伝子座の頻度(disease allele frequency)である.我々は,この頻度を任意に高い値に設定し,劣性モデルで0.10,優性モデルで0.04とした.2ポイント解析は,MLINKとLINKAGEパッケイジのHOMOGサブルーチンを使い行った.複数ポイントMMLS/het解析は,GENEHUNTERを使って行い,スコアはそれぞれのマーカー部位と,マーカー間に10ポイントを設定して算出した.2ポイント混成LODスコアの4.6倍値は,おおよそ,自由度1から2のかい二乗値として分布している.また,複数ポイント混成LODスコアの4.6倍値は,おおよそ,自由度1のかい二乗値として分布している(混成パラメーターのみを推定).しかし,MMLS/het統計値に関しては,二つのLODスコアを計算する我々のやり方に合わせて補正するためには,対応するかい二乗分布に対する訂正が必要である.Hodgeらは,単一性(homogeneity)がある場合は,通常の有意カットオフ値に0.3を加えることが,二つの検定のために慎重な訂正法であることを示した.第一段階のデータで連鎖の証拠を得た遺伝子座においては,我々はまた,遺伝モデルの(自閉症関連遺伝子座の頻度)唯一のパラメーターに関して,LODスコア値を最大化した.このことで,最大ゆう度の本当の位置あるいは,その近傍における連鎖の証拠を評価することができる.この方法は真に連鎖があると仮定すると遺伝子頻度を算定するために数学的に正しい方法であることが示されており,また遺伝メカニズムが複数の遺伝子によるものである時でさえ,パラメーター評価が良好であることが示されている.

(結果)

75家系から,298人において,全ての染色体に関する遺伝子型の検討が成された.1家系だけは,偶数番号の染色体に関する遺伝子型のデータが得られなかった.自閉症児においては,男女比は,4.2:1で,自閉症者における性差(男性が女性の4倍)と一致していた.サンプルの人種は,Caucasianが94.7%で,これは,51家系がMidwest地区からの家系で,特にIowa州の家系が多いことによる.IQが不明な対象者を,IQが低いグループに含めて計算すると,自閉症児の66%が精神遅滞に分類され,これも報告されている自閉症者の中での頻度と一致する.

第二段階フォローアップのために検出された遺伝子領域:最大2ポイント単一性LODスコアでは,403個のマーカーのうち217個が最大LODスコアがゼロ以上であった.フォローアップが必要と判断する閾値を0.36とすると,全体の15%にあたる60個のスコアが閾値を越え,第16染色体に27カ所あり,また,過去において国際分子遺伝研究自閉症協会が連鎖を報告した第7染色体や,Pericak-Vanceや他の研究者が指摘した第15染色体も含まれる.

第一段階サンプルにおける連鎖の証拠:複数ポイントMMLS/hetスコアでは,416マーカー中ゼロ以上は259マーカーであった(オリジナルスクリーニングの403マーカーに第7および第13染色体のマーカーを追加して416マーカー).MMLS/hetスコアが2以上であるのは3つのマーカーで,そのうち2つは第13染色体で,もう一つは第7染色体上であった.劣性モデルでマーカーD13S800の位置に複数ぽいんとMMLS/hetスコアのピーク3.0があり,第13染色体上のこの部位は最も注目に値する.我々のデータでは,35%の家系がこの遺伝子座に関連があることが示唆される.また,優性モデルにおいては,この部位でのMMLS/het値は1.1であった.GreenbergとBergerは二つのLODユニットが異なる値の場合は,連鎖が本当に存在する時には,高値を示す遺伝モデルの優位性を示す強力な証拠であることを示した.加えて,自閉症関連遺伝子座頻度(disease allele frequency)に関してMMLS/hetスコアを最大化する時は,自閉症関連遺伝子座頻度が0.002以下で,MMLS/hetスコアは3.4となり,30%の家系が関連していることになる.2番目のピークはマーカーD13S217とD13S1229の間に存在し,劣性モデルでMMLS/het値が2.3であった.この遺伝子座には33%の家系が関連していることが予想された.3番目のピークは劣性モデルでMMLS/het値が2.2で,第7染色体上のマーカーD7S1813の位置にあった.この遺伝子座には29%の家系が関連することが予想される.

(考察)

我々は75家系を検討し,416マーカーに関して遺伝子型を検査した.MMLS/het値の最大値は第13染色体上のD13S800(マップ位置55cM)に存在した.常染色体劣性モデルとすると,我々のデータの35%の家系がこの遺伝子座に関連することが予想される.国際分子遺伝研究自閉症協会が報告したデータでは,第13染色体上の我々の最大ピークから遠位側に約20cMの位置にMLS値0.60が報告されている.シュミレーション研究によると,同じ母集団から得られた異なるサンプルにおいては,検出されたピークは本当の関連遺伝子座から最大で15cMずれる可能性が指摘されている.従って,30cM離れている二つの検出されたピークは,同じ関連遺伝子座を示している可能性があり,国際分子遺伝研究自閉症協会が報告した第13染色体上のピークと我々が検出したピークは同じ関連遺伝子を示唆しているかもしれない.また,国際分子遺伝研究自閉症協会の解析は,遺伝子座の非単一性(heterogeneity)に配慮したものではないことにも注意すべきである.もし,実際に彼らのデータの中の一部の家族だけがこの遺伝子座に関連している場合,非単一性に配慮することはその部位でのLODスコアを増加させることになる.

我々が検出したもう一つの候補部位は第7染色体上にある(MMLS/het=2.2,D7S1813,劣性モデル,104cMの位置).この部位には,対象家系の29%が関連することが予想された.第7染色体上の第2のピークは,MMLS/het=0.8で,150cMの位置のマーカーGATA32C12の位置である.国際分子遺伝研究自閉症協会の報告では,最大のLODスコア(2.5)は,第7染色体上の145cMの位置にある.フォローアップ研究では,マーカーと家系数を増やし,135cMの位置であるマーカーD7S530の近傍にLODスコアのピーク(3.6)を報告している.このピークは,我々が第7染色体上に検出した2つのピークの間に位置しており,これらのピークが一つの関連遺伝子座を示唆している可能性がある.国際分子遺伝研究自閉症協会の結果が強力な証拠であるとすれば,我々の結果は,自閉症におけるこの遺伝子部位の重要性をさらに示唆するものである.Fisherらは,特異的会話と言語の障害に関連する遺伝子(SPCH1)が,121cM−125cMの位置であるD7S2459とD7S643の間にあることを報告している.また,他の研究者も,この特異的会話と言語の障害と自閉症の遺伝的背景が重なっている可能性を示唆している.

過去における染色体異常の存在で注目されている第15染色体の近位端(15q11-13)については,遺伝的連鎖研究でも陽性結果が報告されている.この領域における我々の最大MMLS/hetスコアは,0.51と0.54で,それぞれマーカーD15S975(位置13cM)とマーカーACTC(位置32cM)の位置である.従って,我々のデータでは,第15染色体上の関連遺伝子の存在を確定することも否定することもできない.

複数のデータセットに基ずく連鎖結果を解釈することは,結果の再現性が低いことが常であり,複雑な疾患にとっては大問題である.例えば,多発性硬化症における4つのゲノムスクリーニングは,全部で77カ所の異なる候補部位を報告し,2つ以上の研究結果で重複したのはたった20カ所で,4つの結果で重複したのは2つだけであった.

しかし,再現できないということが,最初の結果が疑陽性であることを示しているとは限らない.Suarezらは,真の連鎖結果を再現するためには,最初の検出に要したサンプルサイズよりかなり大きなサンプルサイズが必要であることを示した.さらに最近,Wangらは,このことに関する重要な直接的推論を確定した.それによると,同じ程度のサンプルサイズである時には,最初の結果が正しくても,当然の結果としてフォローアップでは再現結果は期待できないとしている.第7染色体に関する我々の結果と国際分子遺伝研究自閉症協会の結果が一致していることは期待できる.また,我々が第13染色体上に検出した候補遺伝子座の近傍には国際分子遺伝研究自閉症協会はLODスコアのピークを報告していない事実は,必ずしもこの領域に真の連鎖が存在しないことを示唆しているわけではない.まとめると,第13染色体上に,これまで報告されていない候補遺伝子座を我々は検出した.また,第7染色体上には,これまでに報告されていた領域近傍にLODスコアのピークを得た.現在第二段階の研究を100家系以上を追加して行っている.


(追記)第7染色体に関しては,「会話と言語の特異的発達障害(SDDSL)と自閉症:第7染色体長腕との関係」と題しまして,Warburtonらの論文(文献1)を既に紹介しました.その解説として,本論文を含む関連論文が指摘したLODスコアのピークを図にまとめてあります.第15染色体(15q11-q13)に関しては,「第15染色体長腕(15q11-q13)と自閉症:Martinら・GABA受容体サブユニット遺伝子の再検討」として,Martinらの論文(文献2)を紹介しましたが,その解説に本論文の結果も記載してあります.


(文献)
1. Warburton P, et al. Support for linkage of autism and specific language impairment to 7q3 from two chromosome rearrangements involving band 7q31. Am J Med Genet 96: 228-234, 2000.
2. Martin ER, et al. Analysis of linkage disequilibrium in gamma-aminobutyric acid receptor subunit genes in autistic disorder. Am J Med Genet 96: 43-48, 2000.

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