自閉症に関連する遺伝子:ゲノムスクリーニング(Philippeら)

Philippe A. et al. Genome-wide scan for autism susceptibility genes. Hum Mol Genet 8: 805-812, 1999.
(概訳)

まとめ
家族調査や双生児研究の結果は,自閉症における遺伝素因の存在を示唆してきた.我々は,51家系の兄弟内複数発症家系において,264個の遺伝子マーカー(microsatellite)を使い,ゲノム全長にわたるスクリーニングを行った(non-parametric linkage methods).対象は複数の国々(スウェーデン,フランス,ノルウェー,アメリカ,イタリア,オーストリア,ベルギー)から集められ,2ポイントまたは複数ポイントでの発症兄弟ペア解析を行い,ゲノムの11カ所で危険率0.05以下の関連遺伝子候補部位を同定した.これらのうち4つは自閉症国際分子遺伝研究会議が行った最初の報告で指摘された遺伝子部位に一致していた(第2染色体長腕,第7染色体長腕,第16染色体短腕,第19染色体短腕).さらにもう一つは,候補部位として知られている15q11-q13に一致し,その他の6つはそれぞれ第4染色体長腕,第5染色体短腕,第6染色体長腕,第10染色体長腕,第18染色体長腕,X染色体短腕であった.最も有意な複数ポイント連鎖はlodスコア2.23のマーカーD6S283の部位であった(p=0.0013).

はじめに:自閉症は原因が単一でない症候群である.約10〜25%の症例が環境因子や遺伝的疾患を含む既知の医学的状態によるが,それ以外の症例の原因は不明である.通常の発生率に比べ,兄弟内での再発率は50〜100倍にもおよび,双生児研究でも一卵性一致率は二卵性一致率をはるかに上回る.家族研究に基づく症例-対照調査での関連遺伝子候補としては,γ-aminobutyric acid A受容体サブユニット遺伝子(GABRB3)のマーカー部位やセロトニン移送遺伝子(5-HTT)の多型において連鎖不均衡が報告されている.自閉症国際分子遺伝研究会議が行った世界初のゲノムスクリーニングでは6つの遺伝子部位(4, 7, 10, 16, 19と22)が自閉症関連遺伝子として報告されている.我々は,51家系の複数発症家系を使って,non-parametric兄弟ペア法で自閉症関連遺伝子のゲノムスクリーニングを行った.

結果
少なくとも2人の自閉症者が兄弟内(異父/異母も含む)にいる51家系が集められ,4人の父親を除く全ての両親の遺伝子型まで検討した.全てがコーカソイド家族で,18家系はスウェーデンから(35%),15家系はフランスから(29%),6家系はノルウェーから(12%),5例はアメリカから(10%),3例はイタリアから(6%),2例はオーストリアから(4%),そしてベルギーから2例(4%)であった.発端者の平均年齢は13.5歳(4〜44)で,性比は2.85(男が77例,女が27例),非言語性IQ>70が12.5%,50〜70が30.5%,50未満が57%であった.

2ポイント発症兄弟解析の結果では,最大lodスコアが0.6を越え,危険率が0.05より小さい部位が12カ所(マーカーの4.5%)みられ,遺伝子は2, 4, 5, 6, 10, 15, 16, 18, 19とX染色体であった.2ポイント最大lodスコアが高いものから3つをあげると,第18染色体のD18S68(1.47),第19染色体のD19S226(1.17),そして第6染色体のD6S283(1.02)である.これらのうち,第2染色体と第18染色体とX染色体を除く9つの部位では,複数ポイント解析でも危険率5%以下であった.複数ポイント解析では第7染色体上にも有意な部位が発見され,最もlodスコアが高かったのはマーカーD6S283の近傍であった.

議論
我々の結果では,危険率5%を下回る遺伝子部位が11カ所見つかった.このような連鎖解析の結果の解釈には議論も多いが,真の連鎖部位と偽陽性を区別するためには再現性があるか否かが重要である.我々の今回のデータで,最初のゲノムスクリーニングである自閉症国際分子遺伝研究会議の結果の再現性を検討することができる.例えば危険率0.000022以下を有意とするLanderとKrygylakの基準では,我々の結果に有意な遺伝子部位はない.5%の危険率を基準とした場合の偶然による有意部位の期待数は13カ所で,今回の11カ所はこれに近い数であり,統計的根拠は弱いものの,この11カ所のいくつかの部位は,これまでに候補部位として指摘されている部位に一致している.

4つの部位(2q, 7q, 16p, 19p)は,自閉症国際分子遺伝研究会議の結果に一致していた.一致する4カ所のうち2つ(第7染色体長腕と第16染色体短腕)は,自閉症国際分子遺伝研究会議の報告の56複数発症家系(イギリス在住)では最大lodスコアが3.55と1.97で最も有意であった.しかし,全体の87家系での集計では,それぞれの最大lodスコアは2.53と1.51に低下した.他の報告で自閉症者における16pの部分重複異常が報告されているが,我々の研究においては,16p13の部分重複異常があった1例は対象から除外した.このような例は自閉症関連遺伝子が第16染色体短腕にある可能性を再指摘する.

一方,我々のデータは,自閉症国際分子遺伝研究会議が報告した3つの遺伝子部位(4p, 10p, 22p)に関しては否定的であった.この3カ所では家系内アレル共有率の増加もなく,我々のサンプルサイズが小さいための偽陰性や,自閉症国際分子遺伝研究会議の偽陽性,サンプル内あるいは研究間の遺伝的多様性によるもの,あるいは研究間の診断基準の違いに由来するものなどの可能性が考えられる.自閉症国際分子遺伝研究会議のデータの全症例での最有意結果である第7染色体長腕と第16染色体短腕での粗データ(家系内マーカーアレル共有率:64%と59%)を検出するために,我々のデータが十分であるかどうかを評価すると,遺伝子座特異的兄弟再発率が2以上の時は,我々の研究サンプルは連鎖を検出するに十分なパワーを持っているが,これより弱い遺伝的効果に関しては偽陰性になってしまう.例えば,有意差5%以下として,アレル共有率64%は81%となるが,アレル共有率59%は44%となってしまう.

我々はまた,第15染色体のq11-q15に近接する3つのマーカーで陽性結果を得,自閉症関連遺伝子の可能性を検出した.この遺伝子領域はPrader-Willi症候群およびAngelman症候群の病因遺伝子部位として知られており,Pericak-Vanceらは,37家系の複数発症家系を用い,15q11.2-q13に弱い連鎖を報告しており,Cookらは15q11.2-q12に位置するγ-aminobutyric acid受容体サブユニット遺伝子(GABRB3)が自閉症と連鎖不均衡を示すことを明らかにしている.その他にも,いくつかの報告が15q11-q13領域での染色体異常が自閉症症状と関連することを示唆している.

最後に,我々の今回の結果では,6つのこれまでに報告されていない候補部位が含まれている(4q, 5p, 6q, 10q, 18q, Xp).アレル共有率は第6染色体長腕で最有意で,最大lodスコア2.23,共有率68.6%であった.予想共有可能性に基づくこの部位での遺伝子座特異的兄弟再発率は1.59であった.おもしろいことに,Caoらは,分裂病易罹患性遺伝子部位が6q13-q26にあると報告している.この領域には中枢神経系の発達に関与するmyristoylated alanine-rich protein kinase C substrate (MACS)や,被殻において最も発現することが知られているグルタミン受容体6(GRIK6)やG蛋白結合受容体6(GPR6)の遺伝子が存在する.

さらに詳細な検討が進行中であるが,他施設での異なる対象家系による確認作業が必要である.


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