自閉症のQTL解析

Alarcon M, et al. Evidence for a language quantitative trait locus on chromosome 7q in multiplex autism families. Am J Hum Genet 70: 60-71, 2002.

訳者コメント:

自閉症者を複数含む家系をサンプルとした検討ですが,自閉症の症候の遺伝的背景としてQTLを初めて記載した記念すべき論文です.この論文がAm J Hum Genetの2002年の最初の号に掲載されたことは,「自閉症の遺伝的背景は性格の遺伝的背景と同じようにQTLである」という私どもの予想が自閉症の遺伝学的研究の柱のひとつにやっとなってくれることを予感させます.この論文もSPCH1の変異遺伝子同定の報告の前に書かれたものです.この報告では,自閉症兄弟例のみを解析しており,家系内の健常兄弟や一般ポピュレーションの健常者は検討しておりません.従って,厳密な意味でのQTL解析を自閉症を極端例として健常者と連続する状態として扱うものとしますと,今後の方法論の展開が重要となります.いつものようにこなれていない訳文で申し訳ございません.興味のある方は是非原著をお読みください.

(概訳)

概要:自閉症は,言語障害,社会性スキル障害,そして反復性行動によって特徴づけられる症候群である.我々は,自閉症の内表現型(endophenotypes)の構成要素に関連する量的形質遺伝子座(QTLs)を想定し,そのQTLsが自閉症の連鎖の遺伝子候補部位あるいは遺伝子有意部位の背景となっていると仮説を立てた.我々は自閉症遺伝学的リソース交換局(Autism Genetic Resource Exchange)からの152家系をサンプルとして,自閉症診断インタビューに基づく3つの形質に着目し,非パラメトリック複数ポイント連鎖解析を行った.3つの形質は,「初めて単語を使った年齢」,「初めてフレーズを使った年齢」,そして合成計測値である「反復性のお決まり行動」である.非パラメトリック複数ポイント連鎖解析を使い,我々は「初めて単語を使った年齢」に関する強力なQTLエビデンスを第7染色体長腕上に発見した(Z=2.98, P=0.001).そしてマーカーを追加した連鎖解析に加え同じ領域における関連解析の結果も最初の結果を支持した(Z=2.85, P=0.002,かい二乗=18.84, P=0.016).さらに,連鎖ピークの細部にわたるマッピングの結果では,反復性行動(Z=2.48, P=0.007)もこの言語QTLの部位に重複した部分に局在していた.(過去の論文で示唆された)推定上の第7染色体上の自閉症易罹患性遺伝子座は,言語障害と反復性あるいはお決まり行動の2つのQTLsが自閉症に関連している結果であるのかもしれない.

イントロ

自閉症は,言語障害,社会性およびコミュニケーション障害,そして反復性の行動によって特徴づけられる神経発達障害である.オンセットは3歳未満で,2500人に一人の率でみられるとされるが,この比率は報告によってはもっと高率である.自閉症の病態は,遺伝モードが未知の遺伝素因を含んでいる.双生児研究および家族研究は,自閉症のリスクの90%以上が遺伝子であると示唆し,自閉症者の兄弟が自閉症スペクトルであるリスクは一般ポピュレーションの100倍である.

高遺伝性にもかかわらず,候補遺伝子座の絞り込みはいくつかの問題点のためにやっかいである.最も重要な問題点は遺伝的非単一性である.家族データの形式的潜在性クラス解析では,自閉症の易罹患性に寄与する相互作用遺伝子は2から10個あることが示唆された.139組の複数発生家系における二段階ゲノムスキャンでは相互作用を持つ遺伝子がたくさん関与する証拠が示された(Rischら).しかし,遺伝的非単一性にもかかわらず,複数発生家系のゲノム全長にわたるいくつかのスクリーニング研究は易罹患性候補部位を同定し,それらのいくつかは複数の報告によって重複して記載された.そのような遺伝子部位は,1p,2q,6q,7q,13,16p,そして19pである.X染色体が関与することは,自閉症の性比が3:1から4:1と男性に多いため示唆されていたが,X染色体はいくつかのサンプルの検討により除外された.一方Liuらの検討では示唆的連鎖がX染色体に示された.IMGSAC家系のオリジナル90家系と追加26家系での詳細なマッピングでは,7q32-35部位に最大LODスコア(MLS)が3.6まで増加し,ゲノム全長にわたる連鎖研究の有意レベルにほぼ近い値が得られている.またAshley-Kochらも独自のサンプルでこの所見を支持している.オリジナルレポートよりもさらに厳密な基準でサンプルを選び,現在のIMGSACサンプル(以前の報告で解析された89兄弟ペアに69組の新しい兄弟ペアを追加)での検討では,2q(MLS 3.74)と17q(MLS 2.34)上に連鎖が新しく示され,以前報告された7q(MLS 3.20)と16p(MLS 2.93)も確認された.この7q領域(20cM以上の長さ)は,サンプルサイズが50組を越す有症候兄弟ペアを使ったゲノムスキャンの全てにおいて,少なくとも一応有意であった(P<0.05,部位のサイズおよびマーカーの数は未修正).

自閉症の遺伝研究におけるその他のやっかいな因子は,表現型の発現が有症候者の間で多様であることである.言語障害,社会性またはコミュニケーション障害,または融通の利かない行動などの構成要素的表現型が自閉症の背景となっていることを示唆する証拠が次々と集まりつつある.自閉症発端者の1親等または2親等家族において頻回に観察されるこれらの障害の程度は多様である.自閉症複数発生家系における1親等および2親等家族は,言語に関連する問題(例えば,会話の開始年齢が遅かったり,読み障害,スペリング障害,発音障害など)をダウン症の家系における1親等・2親等家族よりも多くかかえている.加えて言語障害の病歴を持つ1親等家族は,そのような障害のない自閉症的発端者の家族よりも,言語性IQや読みおよびスペリングのスコアが低い.

これまでに報告された連鎖所見を確認する試みの中で,また遺伝的非単一性を減ずるために,何人かの研究グループは有症候家族を発端者の言語障害の有無で階層化した.言語障害の有無は自閉症診断インタビューのアイテムA13のフレーズを最初に使った年齢によって判断している.Buxbaumらは,ゲノムスキャンの第2段階で第2染色体長腕に自閉症に関連する遺伝子座の候補部位を同定している.また,この第2染色多長腕上の連鎖の証拠の多くは言語発達遅滞が明瞭な家系に由来している.Bradfordらは,彼らのサンプルで連鎖の証拠が以前示された第7染色体と第13染色体上の遺伝子座を検討した.この検討では発端者の診断の基準として言語(発達)遅滞を使い,またもし親が言語関連障害を有していた場合には親も有症候として考慮した.再び,この言語(発達)遅滞サンプルでも,第7染色体と第13染色体上の自閉症への連鎖が証明された.

今回の検討では,発端者の言語(発達)遅滞を基に家系サンプルを階層化せずに,また自閉症の診断を使った連鎖解析を行わず,想定される疾患関連量的形質または内表現型(endophenotypes)に影響する遺伝子座を探した.複数発生家系における連鎖研究または家族研究はこれらの表現型の遺伝研究における妥当性を示唆しているので,この研究は言語(発達)遅滞と反復性行動に注目して行われる.連鎖解析に先立ち,我々は自閉症遺伝リソース交換局(AGRE)から得られた152家系の核家族データにおける,自閉症診断インタビュー(AGI)のアイテムに関して,兄弟間の類似性の計測を行った.最初に単語を使った年齢,最初にフレーズを使った年齢,そして反復性行動またはお決まり行動の測定値における有意な兄弟間相関を,これらの自閉症関連形質のQTLsを検出することを目的に,兄弟における非パラメトリック連鎖解析によって解析した.

対象と方法

対象

サンプルは152例の核家族で少なくとも2人の児が自閉症スペクトル(自閉症,広汎性発達障害,またはアスペルガー症候群)と診断された家系サンプルである.主治医からの紹介およびCure Autism Now基金(親,医師,研究者によって設立された自閉症の生物医学的研究支援基金)を介して集められた.AGREはペンシルベニア医学校の大学研究レビューボードから認可を受けた人サンプルを保有している.

家族の遺伝子型データおよび表現型データはAGREウエッブサイトから公的に入手可能である.今回の研究では,総計810人(444人の児)が解析に使われた.340人の有症候者の中で,男女比は3.24(260人の男児と80人の女児)で,他の報告の男女比に一致している.児の平均年齢は検査時点で7歳.脆弱X症候群が確認された例は除外された.

この報告のいくつかの家系は過去に報告された2つの自閉症研究で使われている.Buxbaumらの報告はこの解析と重複する家系82組を含んでおり,Liuらの報告は同じAGREサンプルを使っている.しかし,Liuと共同研究者たちの質的アプローチは,対象としての必要条件に自閉症あるいは広汎性発達障害の診断を受けていることを含んでいる.従って,彼らのパラメトリックスキャンにおいて,彼らは厳密な自閉症の診断からはずれる例を除外しているが,我々の検討にはこの厳密な診断からはずれる例も含まれている.我々の検討とLiuらの検討においては,サンプルがかなり重複しているわけであるが,それぞれ完全に異なる表現型と解析アプローチを使っている.

評価

自閉症診断インタビュー改訂版(ADI-R)は,自閉症スペクトルが疑われる対象者の扶養者が受ける半構造化インタビューテストである.自閉症の診断基準に基づき,ADI-Rは熟練した検査者が対象者の自宅において行った.前述したように,この研究では,ADI-Rから3つのアイテムを解析した.それは,最初に単語を使った年齢,最初にフレーズを使った年齢,そして反復性行動またはお決まり行動であり,記号ではそれぞれA12,A13,そしてDDトータルである.123家系の子供たちに関して,ADI-Rのこれらの3つのアイテムの返答が得られた.家系サンプルの多くは(118家系)子供が2人で,5家系は3人の子供のいる家系であった.トータルで251人の児のデータが量的連鎖解析に使われた.このサンプルから,最初に単語を使った年齢は,236例,最初にフレーズを使った年齢は192例,そして反復性行動またはお決まり行動は281例からデータが得られた.

遺伝子型

AGREのための研究室および遺伝子型タイピングプロトコールはLiuらの論文に記載されている.まとめると,親と健常兄弟を含み,家族は自宅で採血された.採血者は発達遅滞児の採血に熟練していた.10−20マイクロリットルの血液が集められ,Rutgers大学細胞収集庫に保存された.全血または培養により芽球化したリンパ芽球細胞ラインから,プロテイネースK処理と塩抽出によってDNAが取り出された.親および児からのDNAサンプルはコロンビア大学にて335個のマイクロサテライトマーカーを使い遺伝子型タイピングが行われた.マーカーセットはWeber 8.0マーカーセットを改変したものである.PCR条件は他の論文に記載がある.本研究で使ったマーカーの平均ヘテロ性は0.77で,密度は平均10cMであった.全染色体における情報を含むプロットは本論分の電子化バージョンとしてオンラインで公表してある.

統計解析および遺伝解析

SASパッケイジを使い,データファイルを統合し,記述統計値を計算し,また遺伝解析のためのインプットファイルを準備した.PedCheckプログラムはMendelian遺伝子型エラーを発見することに使われた.このサンプルにおける検出可能な遺伝子型エラー率は0.01%未満であった.マーカー対立遺伝子頻度は親の遺伝子型をカウントすることによって得られたが,これらの親の93%が遺伝子型タイピングされ,ゆえに頻度は連鎖結果に主な影響を持っていないであろう.マップ距離は医科遺伝子学センター(Marshfield Medical Research Foundation)とゲノムデータベースから得られた.

自閉症は発生率における性差があるので,我々は記述統計値とそれぞれの内表現型を男児と女児で別々に検討した.我々は,兄弟類似性をSpearmanのランク相関を使い,9つのADI-Rアイテムに関して評価した.この9つのアイテムは自閉症の二つのキーとなる特徴(言語発達と反復性あるいはお決まり行動:表1)を計測するものである.

表1 兄弟相関
内表現型 ADI-Rアイテム 兄弟ペア数 相関 危険率
最初の単語の年齢
最初のフレーズの年齢
初単語と初フレーズの差
言語レベル
反復・お決まり行動
制限された興味
異常な没頭
物の反復使用
変化への抵抗
A12
A13
 
A19
DDトータル
A70a
A71a
A72a
A73a
113
76
74
155
108
121
154
143
155
0.32
0.26
0.23
0.03
0.25
0.23
0.14
0.02
0.28
0.0006
0.021
0.05
有意差なし
0.01
0.001
有意差なし
有意差なし
0.0001

自閉症の形質は連続性に分布し自閉症の遺伝のモデルはあまりよくわかっていないので,我々は初語,初フレーズ,反復・お決まり行動の表出に寄与するかもしれないQTLsを同定するために非パラメトリック連鎖アプローチを応用した.連鎖解析はMapmaker/Sibsプログラムを使い行った.このプログラムは量的形質の複数ポイント兄弟ペア連鎖解析を行うためのGENEHUNTER 2.1ソフトウェアーパッケイジに含まれている.全ての兄弟ペアを含む「全ペア」オプションが解析に使われた.非パラメトリックQTL解析とHaseman-Elston回帰を量的兄弟ペアデータに関してコンピューターで計算した.これは,複数連鎖解析法では,例え同じデータに応用してもしばしば一致した結果が得られないからである.そこで,非パラメトリックQTL法に加えて,我々はこれらのデータについて第二のHaseman-Elston非パラメトリックテストを行い,両者で同定されたピークを報告する.もし,非パラメトリックQTL法がHaseman-Elston法より,健常想定の歪曲が強い場合は前の連鎖方が一次解析に使われた.我々は非パラメトリック統計値が1.65を超えるかLODスコアが1.0を超えるピークのみを報告する.

非パラメトリックQTL統計は,Wilcoxonランク-加算テストに基づいている.兄弟ペアにおける形質の差はランク付けされ,家系で共有を確認した対立遺伝子の数の係数をかけ合わせた.その標準偏差に対する統計値の比は,標準正規分布のスコアとなる.複数ポイント解析はGENEHUNTERソフトウェアーで行われた.Haseman-Elston法は,マーカー遺伝子座における家系で確認された共有対立遺伝子の割合に関する兄弟ペアでの形質差の二乗値を回帰している.形質に影響する遺伝子座に近いマーカーを家系で確認した兄弟ペアは類似した表現型スコアを持つはずである.回帰曲線の傾きが陰性の評価であれば,マーカー遺伝子座と形質遺伝子座の間の連鎖が示唆される.Haseman-Elston法の複数ポイント法への応用は,Mapmaker/Sibsに含まれており,加えて,家系による同定がはっきりしなかったり遺伝子型データが得られていない場合には評価-最大化アルゴリズムが使われた.Haseman-Elston法はエラーは標準的に分布しており,二乗された兄弟ペア差に関連していないと仮定しており,非パラメトリックQTL統計値は表現型差異の分布に関する限定された仮定を含んでいない.

GENEHUNTERは,量的形質に関してX染色体の連鎖を検査するための解析プログラムを含んでいないので,我々は疾患状態の別個の形質に関してはMapmaker/Sibsを使った.形質価値が同姓の正中値を超え,有症候と分類される対象者を選別した.LODスコアは,それぞれの形質の単一複数ポイントプロットについて,brother-brotherペア,brother-sisterペア,sister-sisterペアで報告した.

フォローアップ解析は,第7染色体上の連鎖の存在における関連の家系に基づくテストだけでなく,詳細なマッピングと連鎖を含んでいる.関連解析のために,我々はFBATプログラムに含まれている複数対立遺伝子の付加的遺伝モデルを使った.このプログラムは兄弟マーカー遺伝子型内の相関に適合させるために条件アプローチを適応し,形質分布の正常状態は想定していない.

結果

言語および反復性行動計測値の兄弟相関
対象家系において検討された9つのADI-Rアイテムにおける兄弟相関は表1に記載する.言語と反復性行動に関する3つADI-Rアイテムは有意な兄弟相関を示した:初語(相関係数0.32,P=0.001),初フレーズ(相関係数0.26,P=0.02),反復性・お決まり行動(相関係数0.25,P=0.01).反復性・お決まり行動は,それ自体が有意な兄弟相関を呈している(相関係数0.23,P<0.001)興味の制限を含んだ混合表現型である.この有意な兄弟相関は形質における多様性が遺伝の影響を受けていることを示唆しているが,共有兄弟環境の効果もまた部分的にはこの結果の原因であろう.初語,初フレーズ,反復性・お決まり行動は,その兄弟間相関性の有意度から続く連鎖解析のデータとして選ばれた.この3つを選んだもうひとつの理由は,過去の論文もまたこれらの形質が自閉症複数発生家系内で伝播することを示唆しているからである.

言語能力は自閉症者の中では多様であり,会話オンセットの遅れは一般的ではあるが,診断のために全体に必要な基準ではない.このサンプルにおいて,発端者とその兄弟が最初に単語を発した年齢は7ヶ月から85ヶ月と巾があり,児の半数は最初の単語を24ヶ月以上経ってから発した.加えて,本研究の対象児が最初にフレーズを発したのは9ヶ月から96ヶ月で,サンプルの半数は最初のフレーズを42ヶ月より年長になってから発した.正常言語発達を呈した児は,対照的に,典型的には初語は12ヶ月未満で,初フレーズを24ヶ月までには発する.

形質分布

表2に示すように,男児では,一般ポピュレーションにおけるこれらの形質の分布から予想される初語時期において有意に大きい遅延を示した.形質のそれぞれは,ピークは示さないものの右側へ有意に偏移していた.このことは分布上の標準を仮定していない非パラメトリック遺伝解析が使われるべきであって,性差に対する何らかの調整が考慮されるべきであることを示唆する.従って,全ての遺伝的解析は分布上の仮定を持っておらず,我々は調整していないスコアを使って全ての解析を行った.加えて,性別の形質を標準化した後,最も有意な結果が得られた第7染色体を解析した.

表2
形質 対象者数 平均 標準偏差 正中値 尖度 偏移
初語年齢 男児

女児

180

56

30.95

24.43

18.93

14.72

27

18

7-85

8-60

-0.24

-0.18

0.77**

0.89**

初フレーズ年齢 男児

女児

145

47

45.92

41.53

18.67

18.47

43

39

9-96

12-84

-0.04

-0.77

0.40*

0.26

反復行動 男児

女児

216

65

5.83

5.08

2.64

2.31

6

5

0-12

0-12

-0.12

0.62

0.24

0.68*

*P<0.05; **P<0.01

言語と反復性行動関連QTLのゲノムスキャン
少なくとも2人の自閉症スペクトル児を含む核家族において,自閉症の内表現型に関する,完全な量的複数ポイントゲノムスキャン解析が行われた.兄弟からの表現型データのみがこれらの解析に含まれているが,親の遺伝子型からは対立遺伝子共有を評価することができる(IBD).3つの量的形質に関する非パラメトリック解析でのゲノム全長にわたるQTL解析の結果は図示した.最高のスコアは第7染色体上で,初語年齢に関して得られ,マーカーD7S1824とマーカーD7S3058の間に検出された(Z=2.98,片側検定でP=0.001).付随するHaseman-Elston法LOD(HELOD)スコアは初語年齢については1.14であった.今回の検討で初語年齢に関して同定された染色体領域は,これまでに自閉症で報告されている易罹患性領域や言語に関連する障害で報告された易罹患性領域に近接していた.初語年齢に関連する想定上のQTLはIMGSACが報告した領域から遠位側に3cM以内で,重度の発音・言語障害にリンクしている遺伝子座からは遠位側に2.5cMの位置であった.

第7染色体長腕上には,初語年齢への連鎖の証拠はなく,最大Zスコアは0.84で第7染色体短腕のマーカーD7S3047の位置であった.スキャンの結果,初フレーズ年齢については3つのQTLの証拠が得られ,第10染色体(Z=2.10,HE LOD 1.22),第11染色体(Z=2.19,HE LOD 1.35),そして第20染色体(Z=2.29,HE LOD 1.21)であった.さらに,初語年齢のQTLは第11染色体上で,初フレーズ年齢に連鎖する領域から21cM離れた位置にある(Z=2.22,HE LOD 0.96).HE LODスコアは非パラメトリック解析で同定された領域内に対応するピークを持ってはいるが,それらは全て2.0未満であり,P値でほぼ0.01を超える.その他に,とりあえずP値が0.05未満であるZスコアのピークは,初語年齢で第1,3,13,15,16,18染色体に,初フレーズで第1,6,8,12,15染色体にあった.しかし,HE LODスコアに関してはピークはみとめられなかった.

結局,最初のゲノムスキャンの結果からは,反復性・お決まり行動QTLについては,軽度のエビデンスさえ得られなかった.第7染色体長腕上には,初語年齢のピークから15cMの位置に反復性・お決まり行動に関する非パラメトリックQTLのピークがあるけれども(Z=1.84),付随するHE LODスコア(0.16)は,この遺伝子座でのQTLの非パラメトリックな証拠を支持していない.

第7染色体長腕上の言語関連QTLについての詳細なマッピング
第7染色体長腕上の初語年齢に関する陽性結果をフォローアップするために,28個のマイクロサテライトマーカーが追加され,マーカーD7S1799とマーカーD7S3058の間の60cMの部位に関して検討した.非パラメトリック複数ポイント検討の結果は,最初の結果と同じで,初語年齢に関する非パラメトリックピークのスコアは2.85で,付随するHE LODスコアは0.84であった.隣接するマーカーを使うと,Z=2.48の連鎖ピークもまた反復性・お決まり行動について第7染色体上に観察されるが,しかし,HE LODスコアは0.05であってこの部位での反復性・お決まり行動のピークは支持さえない.Liuらは,最近これらの詳細なマッピングマーカーを,自閉症狭義診断基準で160組のAGRE家系において検討し,マーカーD7S483の位置にLODスコア2.13を報告している.この部位は我々の初語年齢に関するフォローアップ検討のピークから10cMの位置である.自閉症の狭義診断基準を満たすためには,対象者は言語障害を持っておらねばならず,従って,これらの結果は,第7染色体上の自閉症遺伝子座の背景となっている可能性のある言語障害QTLが存在するとする仮説に矛盾しない.

その後,初語年齢に関する詳細マッピングピークと自閉症狭義診断基準での連鎖ピーク領域内(D7S1824とD7S3058の間)の10個のマーカーについて,Caucasian家系を使い初語年齢との関連が検討された.平均すると,マーカー間隔は2.6cM.2つのマーカーが初語年齢との関連の証拠を示し,D7S1824でかい二乗値が19.83,P=0.031で,D7S2462ではかい二乗値が23.21,P=0.003であった.これらの結果は自閉症表現型の背景となっている言語QTLが第7染色体長腕上にあることに矛盾しない.2つのマーカーは10.19cM離れているので,このことは,この領域に二つのQTLが存在するか,あるいは二つのうちいずれか(あるいは両方)が見せかけの結果であることを示唆する.おもしろいことに,D7S2462はまた,初フレーズ年齢に関しても(かい二乗値=18.11,P=0.020),反復性・お決まり行動に関しても(かい二乗値=16.49,P=0.036)関連の証拠を示した.

男性と女性の分布はそれぞれの自閉症内表現型によって異なるので,解析はまたそれぞれの性で標準化したスコアに関しても行われた.Zスコアに関しては非常にマイナーな変化はあったけれども(Z=2.87),結論を変えるものではない.正常のスコアでもまた解析による変動が存在するので,標準化していないデータからの結果を報告した.

考察

3つの量的自閉症内表現型(初語年齢,初フレーズ年齢,反復性・お決まり行動)の非パラメトリック複数ポイント連鎖解析は,これらの形質のQTLsを有するかもしれない4つの染色体領域を検出した.最も有意な結果は初語年齢に関して得られ,第7染色体長腕上であった.初語年齢の非パラメトリックZスコアピークは,2.98で(P=0.001),このことは言語関連易罹患性遺伝子座かQTLが,第7染色体長腕上のD7S1824とD7S3058の近くに存在するかもしれないことを示唆している.その後の詳細なマッピングとこの領域における関連検討は,最初の結果が示した7q35-36にある言語のQTLの証拠を支持した.この結果に矛盾しないこれまでの報告としては,重度の会話と言語の障害家系における言語特異的遺伝子座に関する報告や,一人が自閉症でもう一人が会話と言語の特異的発達障害の家系における染色体再配列例の報告がある.加えて,この領域はいくつかの研究結果が報告した自閉症の易罹患性遺伝子座に近接している.

初フレーズ年齢に関するQTLsである可能性のある3つの部位が,第10染色体,第11染色体,第20染色体に証明された.第10染色体上の初フレーズに関するZスコアのピークはマーカーD10S2327の位置で,IMGSACの最新の報告(2001)が示した二つの中程度のMLSピーク(D10S208での1.43,D10S201での1.22)の間に位置する.このことはこの領域に自閉症関連形質のQTLが存在するかもしれないことを示唆する.第10染色体と第20染色体上の初フレーズに関するQTL候補は,自閉症易罹患性遺伝子座としてはこれまでに報告はなく,自閉症の内表現型の新しいQTLが存在するか,あるいは疑陽性結果であろう.

興味あることに,第7染色体上の初語年齢QTLに重複する領域には,初フレーズ年齢に関する連鎖の証拠は存在しなかった.この二つの形質は表現型としての相関係数が0.62(P<0.001)であるけれども,2変数兄弟相関は0.26(P=0.011)であることから,この二つの相関は遺伝的効果によるものだけではないであろう.第7染色体長腕上に初フレーズ年齢の有意な所見がないことのもうひとつのそれらしい説明は,初語年齢が扶養者によってより正確に報告されている可能性である.初語年齢も初フレーズ年齢もどちらとも,話言葉のオンセットに関する評価値であるが,初語年齢はより目立つ発達上の通過点と見なされており,従ってより正確に扶養者が記憶しているのかもしれない.このことが,初語年齢を初フレーズ年齢よりもより妥当性のある評価値に位置付けているのかもしれない.

自閉症はコミュニケーション障害,言語障害,そして反復性の行動で特徴付けられるけれども,状態の表出は高度に多様で,これらの特徴は同時には現れないこともある.Fosteinらが示唆したように,自閉症のそれぞれのコンポーネントは,異なる遺伝子の作用であるかもしれない.また,ひょっとしたら重複する遺伝子の作用であるかもしれない.我々のサンプルにおいて,量的言語アイテムの解析により得られた第7染色体長腕の連鎖の証拠は,自閉症の狭義または広義診断基準を基盤として行われた,10cM間隔の質的スキャンで得られた結果に比べ数倍強力である.今回の結果は,より弱い自閉症のシグナルに結びついて背景となっている,あるいは作用を及ぼしている一つあるいは複数の言語遺伝子座によるものであろう.この結果は第7染色体長腕上に存在する遺伝子が言語障害単独に易罹患性を提供しているか,あるいはより広義診断基準による自閉症と言語障害の組み合わせに関連しているとする仮説に矛盾しない.反復性・お決まり行動で第7染色体長腕に観察されたより小さな幅広いピークは,制限された反復性行動の表現型に関するこの部位での異なる遺伝子座を反映している可能性もある.つまり,言語関連遺伝子座と反復性・お決まり行動遺伝子座が第7染色体上で別々に存在して,複数の報告がこの領域に一致して観察している自閉症(連鎖)ピークの背景となっているのかもしれない.

最近,二つの研究グループがADI-Rの初フレーズ年齢アイテムで評価して,発端者の言語能力を使い連鎖解析に先立って自閉症家系を階層化して結果を得ている.両方の研究で,自閉症の連鎖の証拠は言語発達遅滞を伴っている家系に寄与している.今回の解析はこれらの報告とは異なり,自閉症家系における言語と反復性行動の内表現型を検討するQTLアプローチを使っており,自閉症の質的診断は使っていない.このコンポーネント表現型アプローチを,家系内の自閉症でない兄弟にまで拡大すれば,本研究法に付加的解析力を追加することができ,今回の所見を確認する証拠が得られるかもしれない.このことは非常に重要なことであり,その理由はADI-Rのアイテムは必ずしもQTL解析用にデザインされておらず,自閉症社の量的特徴把握と診断のためにデザインされているからである.しかし,最近遺伝的解析のために,ADI-Rのデータが自閉症と自閉症スペクトルの特徴を質的にとらえるために使うことができることが示唆された.言語や会話発達の追跡調査などの,言語パフォーマンスのより包括的な研究は,発端者の健常兄弟においても行うことができ,家族歴情報が親から得られ,より完璧な言語発達遅滞の解析を可能とする.従って,我々は今回の結果は有望な結果であると考えるが,確認が必要である.自閉症の原因は非常に複雑であり,階層化やQTL解析などを含む複数の戦略が,よりよい自閉症の遺伝背景(mutational basis)の理解の手助けと成るであろう.

 


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