自閉症ゲノムスキャン

の総説(Gutknechtによる)

Gutknecht L. Full-genome scans with autistic disorder: a review. Behavior Genetics 31: 113-123, 2001.

訳者コメント:

ゲノム全体を対象としてこれまでに行われた連鎖スクリーニングのレビューです.本ホームページでは関連する論文の全てを既にご紹介しております.このレビューでも指摘されていますが,現行のマイクロサテライトマーカーでの検討が一段落ついた後は,おそらく単一ヌクレオチド多型(SNPs)でのゲノムスキャンが報告されるようになることが予想されます.ここでは図は示しませんが,論文では4つのゲノムスキャンのピーク図を重ねて図示しています.環境因子に関する記載に,誤解を招きそうな表現があります.訳文を吟味する時間がなく,相変わらずこなれていない訳でごめんなさい.

(概訳)

概要:自閉性障害の特徴は,社会的関係性の重篤な障害,言語およびコミュニケーションにおける障害,そして制限され反復性でワンパターンの行動の3つである.集積しつつあるデータは,未だ同定されてはいないものの,遺伝素因が自閉症の原因に重要な役割をはたしているという主張を強力に支持している.自閉症における遺伝学的研究はまだ予備的であるので,ゲノム内で易罹患性遺伝子部位の位置を決めるために全ゲノムに渡る検討が行われている.これまでに発表されている4つの全ゲノムスキャン研究の方法と結果をこのレビューでは検討する.4論文の複数ポイント連鎖解析結果をひとつの図の中にまとめて表示し,論文間の比較を容易にした.LODスコア値はいずれも有意な連鎖閾値には達していないので,所見の解釈は慎重に行うべきであるが,第7染色体の長腕上の約50cMの領域は自閉性障害の原因に重要な役割を担っているようである.

イントロ

自閉性症候群(autistic syndrome)における遺伝素因の関与の可能性を示す証拠は,60年前の1943年にLeo Kannerにより最初に記載された後,間を置かずに報告されている.自閉性障害はシビアな神経発達/神経生物学的障害(disorder)であり,その特徴は社会的関連性の重篤な障害,コミュニケーションおよび言語発達の異常,そして制限された反復性のワンパターン行動・興味・活動である.自閉性障害はDSM-IVおよびICD-10では,広汎性発達障害(PDD)の範疇に属する.症候は3歳までに表面化し,3歳までのオンセットが自閉性障害の診断における重要な基準となっている.診断は行動学的観察にのみ依存しているため,しばしば困難である.生物学,精神医学,そして心理学から提供される数多くの仮説にもかかわらず,自閉性障害の原因は不明なままである.しかし現在では一般的に自閉性障害は少なくとも部分的には生物学的な状態であると認識されている.

双生児研究および家族研究は,遺伝素因が自閉症の原因に重要な役割をはたしているとする仮説を支持している.実際,一卵性双生児と二卵性双生児の一致率の比較は,この遺伝素因説に信憑性を与える.いろいろな論文から,我々は自閉性障害の一卵性一致率は70%で,二卵性一致率は10%程度であろうと予測できる.しかし,一卵性双生児および二卵性双生児の両者における一致率は,研究者によりまちまちである.Ritvoらが報告した一卵性一致率は95%で,非遺伝性の影響の余地がほとんどなく,一方Baileyらは一卵性一致率を60%と報告し,自閉性障害における環境因子のはたす役割がより多く残ることになる.全ての研究結果において一卵性一致率が100%でないことは非常に重要なことであり,自閉性障害における環境因子の役割が示唆される.しかし双生児研究の結果の解釈は慎重でなければならない.サンプルサイズはしばしば非常に小さく,方法自体に限界があり,また,一卵性と二卵性間で出生前および出生後環境の影響が同等としていることを含み,依然議論のある仮説に基づいているからである.加えて,出生前環境における一卵性双生児間の相違は,認知における多様性と同様,人体測定学的な多様性への長期の影響を及ぼす可能性がある.自閉症に関するそのような出生前効果については何もわかっていないのであるが,その可能性はやはり念頭におくべきであろう(GottesmanとShieldsの歴史的考察もある,1982).

自閉性障害における遺伝素因を示唆するさらなる徴候は,一方では,染色体異常と自閉症の関連(例えば第15染色体)や遺伝的症候群と自閉症の関連(例えば,脆弱X症候群,結節性硬化症,神経線維腫症)からも供給され,遺伝子異常のいくつかが自閉症的行動に関与していることを示唆している.また一方では,家族研究でも自閉症の遺伝性が示唆される.男女比は3-4対1で,最近のFombonneの推測では一般人口の1万人あたり5.4から5.5人が自閉症であり,自閉症発端者の兄弟内では2から6%とされる.他の精神障害と比較すると,自閉症発端者の兄弟内再発生危険率は相対的に高く,一般人口における有病率に比べ約100(倍)である.明らかに,このような家族内集積性は遺伝素因と同様環境因子によると考えるべきであろう.

自閉性障害の遺伝背景に関する研究においては,いくつかの方法が使われ,それぞれに長所と短所がある.

自閉性障害の遺伝背景に関する人での研究の方法

候補遺伝子法
候補遺伝子を検証することは,非常に効果的な方法であり,遺伝子内に多型が存在していれば,適当な候補を選ぶことができる.そのような場合,興味の対象となる遺伝子を直接同定することができる.この方法が使われる時は,適切な仮説に基づき,適切な候補が選び出されることが必須である.自閉症に関しては,干草の山の中から一本の針を探すほど困難である.候補遺伝子に関するいくつかの報告が自閉性障害との関連を報告しており,c-Harvey-ras遺伝子,CMH遺伝子,5-HTT遺伝子,そして第15染色体長腕上のGABRB3などがある.残念なことに,これらの報告された関連に関する再現性研究は,しばしば異なる結果となり明確な結論をだすことはできない.

精神障害の遺伝学に関しては,成人期だけでなく発達の期間中に発現する遺伝子はどれでも可能性のある候補遺伝子と考えることができる.現在のところ,例え全ての遺伝子が同定されたとしても数千個の遺伝子を検査することは現実的ではない.リーゾナブルな期間内で自閉性障害の原因に関与する遺伝子を同定するためには,他の方法を使った候補遺伝子のしぼりこみが必要である.ゲノム全長にわたるスキャン研究はひとつの選択肢である.

連鎖マッピング解析
自閉症における遺伝研究は依然予備的な段階なので,研究者達は最近候補部位を決定できることを期待して,易罹患性遺伝子座の全ゲノムに渡る検討を行っている.全ゲノムスキャンによる連鎖マッピングは,相同染色体間の再配列の自然のプロセスを利用し,プロセスのひとつは種の多様の原因となる.このアプローチは人の遺伝学(研究)にも応用可能である.単純な配列の短いタンデム反復多型であるマイクロサテライトと呼ばれる高度に多型性のマーカーが5200以上知られており,これを基に人のゲノムの包括的な遺伝子地図がGenethonや他の貢献者たちによって開発されているのである.実際は,この方法は時間においてもスタッフの数においても費用に関しても高くつく方法である.この方法では,有症候者を複数含むひとつの家系の複数のメンバーの遺伝子型を全ゲノムに渡る多数のマイクロサテライトマーカーに関し決定し,その疾患(状態)がある特定のマーカーといっしょに分離されるかどうかを検討する.この方法の背景となる論理的根拠は,もし対象疾患(状態)に関連する遺伝子座が物理的にあるマイクロサテライトマーカーに近接していれば,このマイクロサテライトは疾患(状態)遺伝子座と共に親から有症候児へ連鎖していない場合よりもより高頻度に伝播される傾向があるはずという理論である.最近の単一ヌクレオチド多型(SNPs)バンクの充実に伴い,他のタイプのマーカーでのゲノムスキャンもまた可能であろう.

複雑な形質の連鎖マッピングのアプローチには2つの方法がある.ひとつは,大きな家系を複数対象とし,血族メンバーの中で疾患遺伝子座とマーカーの間の共分離や再配列を解析する方法で,つまり,LODスコアを基盤とするパラメトリックな家系図解析である.2つめは,血族関係のある有症候ペアの間で,特定の遺伝子座におけるマーカーの血族関係により同定した同一性(IBD)を共有している遺伝子座の数の分布を解析する方法で,非パラメトリック対立遺伝子共有法と呼ばれる.

パラメトリック対非パラメトリック連鎖解析法
自閉性障害は,典型的にはいくつかの遺伝子によってコントロールされている量的なキャラクターである.パラメトリックな方法はしばしば,このようなタイプのまれで複雑な状態に関する連鎖マッピングに応用することはしばしば困難である.なぜなら,一般的に標準状態(正常分布)を得ることができないからである.同系交配マウスを使った研究とは対照的に,人での研究はより少ないサンプル数に甘んじなければならず,対立遺伝子がたくさんあるマイクロサテライトマーカーを使わなければならない.対立遺伝子がたくさんあると,それぞれの遺伝子型におけるサンプル数は減ってしまう.パラメトリック法は,一般的にはよりパワフルであるが,複雑な形質の研究においてはしばしば支持されない仮説を立てることが要求される.実際,定義によると,複雑な形質は既知の遺伝モードではなく,またはパラメトリック連鎖解析に必要な遺伝子頻度も不明である.この方法はメンデルの法則に従う(単一遺伝子性)疾患の研究に適しているが,遺伝モデルが知られていない複雑な(複数遺伝子性)疾患の研究のために使うことは賢明ではない.自閉性障害に関しては,遺伝モードについては,いくつかの提案がなされた.Ritvoらによって行われた分離解析は常染色体劣性モデルに適合し,一方Picklesらによって行われた遅発クラス解析では,3つの遺伝子座を想定すると最も適合し,複数遺伝子座モデルが支持された.より最近のデータでは,たくさんの遺伝子座で特徴づけられるモデルを支持する結果が提供されており,15個あるいはそれ以上も示唆されている.10個以下のモデルについては一貫性がない.原因において環境の関与の可能性も示唆されているが,自閉性障害は一般的に複数遺伝子性と考えられている.自閉性障害の原因がどのような形で複数因子性であるのかはよくわかっておらず,多遺伝子性なのか寡遺伝子性なのかも,複数の遺伝子座が関与するとしても相互作用(epistatic)があるのか付加的な関係で関与するのか,あるいはその両方なのかなどの結論が出ていない.自閉症は男性が多く,X染色体性の遺伝も考慮する必要がある.これはおそらく自閉性障害のあるサブグループにおいて真実であるかもしれないが,男性から男性への伝播はまれなケースでしかみられず,通常は遺伝モードが一致しない.しかし,複数遺伝子座モデルを考えると,X染色体上に易罹患性遺伝子のひとつが存在する可能性は否定できない.

逆に,非パラメトリック法は,感度(power)がより低いが,背景にある遺伝モデルに関するあいまいさは少ない.一般的には,全ゲノムスキャンを連鎖マッピングのために行っている研究者たちにとっては,非パラメトリック法は自閉性障害の研究のための選択肢のひとつであると考えられている.これまでのところ,4つのゲノム全体に渡る自閉性障害に関するスキャン結果が論文になっている.1998年に最初のIMGSAC報告が出て,その後PhilippeらとRischらの報告が1999年に公表された.また常染色体だけのスクリーニングが同年にBarrettらによって報告された.これらの研究は,有症候の血族ペアを持つ複数発生家系を対象として行われている.連鎖解析のための他のタイプのテストも行われてはいるが,ここでは,IBD(家系で同定)に基づく有症候血族ペアを使った非パラメトリック連鎖解析のみをレビューする.ほとんどの対象ペアは有症候兄弟ペアであるので,この方法の原理を記載するために,次のパラグラフで,有症候兄弟ペアの例を使う.

有症候兄弟ペアを使った非パラメトリック連鎖マッピングの原理
この方法は複数発生家系サンプルを多数必要とし,有症候児および両親のマーカーに関する遺伝子型の情報も多数必要とする.有症候ペアを使った連鎖マッピングでは,ゲノム全体に分布するマーカー全てに関し,その兄弟の両者が受け継いでいる対立遺伝子を比較することによって,予想されるよりもより高頻度にその有症候兄弟が共有する染色体セグメントが探される.階層化に基づくバイアスを避けるために,その兄弟が同じ片方の親からその対立遺伝子を受け継いだかどうかを決定する必要がある.この目的のために,家系での対立遺伝子同定(IBD)とそうでない同定(identity by state:IBS)の区別がある.あるマーカーに関して2人の子供が同じ対立遺伝子を持っている場合,その対立遺伝子は物理的には同一であるのでIBSと表現する.しかし,IBS対立遺伝子は,片方は父親から,もう片方は母親から伝播している場合は(連鎖解析にとっては)異なる対立遺伝子である可能性がある.従って,兄弟が共通して持っているマーカー対立遺伝子は,もし同じ片親から伝播していれば,家系での対立遺伝子同定(IBD)ということになる.ある染色体部分上に位置するマーカーに関しては,ある兄弟ペアの場合,マーカーのIBD対立遺伝子の共有はゼロ個の場合,1個の場合,そして2個の場合の三通りで,それぞれの確立は0.25,0.5,そして0.25である.しかし,その兄弟が両方とも有症候である場合は,易罹患性遺伝子座を含む染色体部分はその兄弟で共有されているはずで,ゆえに検査するマーカーで予想されるよりもより多くのIBD対立遺伝子がその同じ染色体部分に位置する(つまり易罹患性遺伝子座に連鎖している).言い換えると,疾患とマーカー遺伝子座の間に連鎖がないとすると(帰無仮説),IBD対立遺伝子の分布は解析する対象家系グループにおいて疾患状態と共に動くことはないはずである.対照的に,連鎖はより多くのIBD対立遺伝子の原因となり,そのようなマーカーを含む染色体セグメントは疾患遺伝子座を含むことが予想される.そのような遺伝子座を検出できる可能性は,形質の全体の多様性へのその遺伝子座の寄与度に依存している.データはしばしば2段階法で集められ,最初の段階では,問題となる領域を選別するために対象家系とマーカーの一部を使って行われる.2段階目では,残りの家系が追加され,問題となる領域の追加マーカーが最初の結果を検証するために使われる.

最初の4つの自閉症の全ゲノムスキャンにおける有症候ペアを使った非パラメトリック連鎖解析
最近報告された4つの自閉症ゲノムスキャンにおいて,データは最大尤度(見込み度)法を用いたコンピュータープログラムで解析された.SPLINKとSIBPAIRプログラムは遺伝子座ごとのペア連鎖を計算するために使われ,一方ASPEXとMAPMAKER/SIBSプログラムは染色体上の全てのマーカーの複数ポイント連鎖解析を行うために使われた.GENEHUNTERプログラムは,非パラメトリック z-ペア統計値を計算するプログラムであり,兄弟ではない親戚ペアの有症候ペアを含んで解析できるので使用されている.簡潔にする目的で,複数ポイント連鎖解析のデータのみをこのレビューでは解析する(多くの場合,ペア連鎖の結果は複数ポイント連鎖解析の結果と矛盾しない).それぞれの研究においてテストされたマーカーの総数(2段階の場合は2段階とも含んで)とマーカー間の平均距離は表1に示す.

表1 4つの自閉症全ゲノムスキャンの特徴と結果
  ゲノムスキャンI
(IMGSAC,1998)
ゲノムスキャンII
(Phillippeら,1999)
ゲノムスキャンIII
(Rischら,1999)
ゲノムスキャンIV
(Barrettら,1999)
複数発生家系数 99 51 139 75
発端者の診断基準 ADI (case type 1) DSM-IVとADI ADIとADOS ADI-RとADOS or ADOS-G
マーカーの平均間隔 10 cM 14 cM 10 cM 9 cM
複数ポイント解析プログラム ASPEX MAPMAKER/SIB(常染色体),ASPEX(X染色体) ASPEX GENEHUNTER
結果(複数ポイントMLS1以上) 7q MLS = 2.53
16p MLS = 1.51
4p MLS = 1.39
22q MLS = 1.39
10p MLS = 1.36
6q MLS = 2.23
19p MLS = 1.37
15q MLS = 1.10 
1p MLS = 2.15
17p MLS = 1.21
7p MLS = 1.01
18q MLS = 1.00
13q MLS = 3.0
13q MLS = 2.3
7q MLS = 2.2
11; 4 MLS = 1.5
8; 16 MLS = 1

複数ポイント有症候兄弟ペア連鎖解析は,最大見込み度比アプローチを使って行われた.それぞれの染色体位置において,有症候兄弟ペア間に観察されたマーカー情報の見込み度(likelihood:L)は,IBD対立遺伝子の共有個数(ゼロ,一個,二個)の割合に従い最大化され,その見込み度比テスト統計値が関連がないとする帰無仮説に対して計算される(MAPMAKER/SIBSで行われるように).2人の有症候兄弟が i 個のIBD対立遺伝子(i = 0, 1, 2)を共有する確立を zi とすると.

T = 2ln [ L ( z0, z1, z2 ) / L ( z0 = 0.25, z1 = 0.5, z2 = 0.25 ) ]

この統計値はまた,最大LODスコア(MLS)としても表すことができる.

MLS = T / 2ln

コンピュータープログラムはまた,ラムダsに関して最大化された複数ポイントMLSをも計算することができる(ASPEXにおける計算のように).複数ポイントMLSは検討したサンプルに関してより特異的な情報をもたらしてくれる.その場合 zi はモデルに依存したラムダsの関数として表される.優性の多様性を伴わない付加的モデルでは,z0 = 0.25/ラムダs,z1 = 0.5,そして z2 = 0.25 (2 - 1/ラムダs)であり,一方優性の多様性を許容する倍加モデルでは,z0 = 0.25/ラムダs,z1 = (ラムダsの平方根 - 0.5)/ラムダs,そして z2 = (1 - 0.5×ラムダsの平方根)となる.

ゲノム全体に渡り複数ポイントMLSを計算した後,結果はそれぞれの染色体に関してLOD値のプロットとして表現される.それぞれの研究に使われたプログラムの名前は表1にまとめた.

ポピュレーション
4つの研究は,複数発生家系を使用しており,有症候親戚ペアの92.6%が兄弟ペアであり,対象サンプルの研究間重複はない.その他のペアは義兄弟,その他の親戚ペア,または同一核家族における3人または4人の有症候兄弟の中の組み合わせペアである.性比は4つの研究でほぼ同じ.診断基準は,全ての有症候者は,自閉症に関してはADIあるいは(and/or)ADOSのアルゴリズム基準を満たしており,IMGSAC研究の99ペアのうち56ペアでは発端者でない方が(タイプ2と記載されている)広義表現型(例えば,他の広汎性発達障害またはADIの基準に1ポイント満たなかった例)に含まれる.IMGSAC研究と,Phillipeらの研究とBarrettらの研究では,脆弱X症候群や染色体異常や既知の神経疾患を伴う自閉症者は除外されている.Rischらの研究とBarrettらの研究では,重篤から深刻な精神発達遅滞(IQ<30)を兄弟の両者が有する場合は除外されている.対象サンプル数と診断基準は表1に記載.

複数ポイント解析の結果

4つの連鎖研究の複数ポイントMLS値は,全ての家系サンプルとマーカーを合わせて一つの図にして検討した.以後の記載と表1においては,MLSが1を越える遺伝子座のみを検討した.結果の統計的有意度はその後議論した.

IMGSAC研究では,最高のMLSは第7染色体の長腕にあり,マーカーではD7S530からD7S684の位置で,MLSピークは2.53であった.Philippeらの研究結果では,最高MLSピークは2.23で,第6染色体長腕のマーカーD6S283の位置であった.Rischらの報告では最高MLSピークは2.15で,第1染色体短腕のマーカーD1S1675であった.Barrettらの報告では,MMLS/hetの最高値は劣性モデルで第13染色体長腕にピークが二つあり,マーカーD13S800の部位で3.0,より遠位側のD13S217とS13S1229の間に2.3があった.この2つのピークの間隔は約35cM.

考察

これらの結果を説明することを試みる.これらのMLSピークの近隣に易罹患性遺伝子が存在するかどうかが問題である.行われた比較の総数が大きいため,ゲノム全長に渡るスキャン連鎖解析は純粋にバイチャンスに,連鎖がないと仮定する帰無仮説のもとに予想されることからの多様性が供給されているかもしれない.連鎖を明言するために必要なスタンダードを同定することによって,観察された多様性が有意なものかどうかを決める必要がある.一般的には連鎖の有意度を同定するために使われるスタンダードは,MLSピークの高さである.また,Terwilligerらは隣接するマーカーとの連鎖を反映する指標として,ピークの長さ(はば)を顧慮すべきと提案している.タイプIエラーとタイプIIエラーのバランスをとることが,最近の統計学的課題であり,連鎖の有意度のためのMLS閾値を甘くしすぎると偽陽性の頻度が増加してしまい,あまり厳密にしすぎると偽陰性の頻度が増加してしまう.著者たちによると,有意な連鎖のためのMLS閾値は3から3.6までのはばがあり,3はパラメトリック法に準じた解釈で,3.6はLanderとKruglyakが偶然に起こる偽陰性を5%以下にするため推奨した値である.複雑な疾患においては,3という閾値はおそらくマーカー密度の高いゲノムスキャンにとっては低すぎるであろう.また,3.6という値もまた小さい効果の易罹患性遺伝子を検出するためには厳密すぎる.例えば,自閉症の背景となる遺伝子が10個あり,表現型の多様性に同じように寄与しているとした場合,それぞれは多様性のたった10%しか説明できないわけで,検出することは困難であろう.

MLSの基準を3.6にした場合,自閉症の4つのゲノムスキャンの結果においては,有意な連鎖は存在しないことは明らかである.LanderとKruglyakが提唱した示唆的連鎖(MLS>2.2)に関しては6つのピークだけが満たす.MLS基準を3とすると,Barrettらが報告した1つの部位だけが有意な連鎖ということになる.しかし,この研究では,それぞれの遺伝子座について2つの最大LODスコアが計算され,一つは劣性モデルに基づき,もう片方は優性モデルに基づいている.どちらか高い方が選択される.二重テスト法であるので,閾値は増加させるべきで,その結果連鎖はなかなか有意にはならない.

4つの全ゲノムスキャンとそのフォローアップにおいて,示唆的連鎖の再現性検討の可能性としては,連鎖を確認できることを期待して問題となっている領域を決めることに注目した次の段階のスクリーニングがある.この方法においては,第7染色体長腕は,より見込みのある候補と言える.その理由はこの部位で,異なる研究結果がいくつかの示唆的連鎖を同定しているからである.この部分の145cMの位置で,IMGSACはMLS2.55を,Barrettらは104cMの位置でMMLS/het2.2を報告している.同じ部位で,PhillippeらとRischらは,陽性のMLSピークを報告しているが値は小さい(0.83と0.93).最初の報告の結果から,IMGSACは7q32-q35部位に関して家系サンプルとマーカーを追加してフォローアップを行っている.その結果135cMの位置でMLS3.6という値を得ている.76家系の複数発生家系を使った別の研究で,Ashley-Kochらはこの領域を検討し,ASPEXを使って複数ポイントMLS値1.77を130cMの近くに発見した.彼らはまた,母親から第7染色体長腕の染色体異常[inv(7),] q22.1-q31.2を受け継いだ3人の子供(2人の男児と1人の女児)がいる家族を報告している.2人の男児は自閉性障害で,妹は表出性言語障害であった.自閉性障害と会話言語障害(SLI)の関連は,これまでに何人かの論文が指摘している.2つの異なる論文が7q31部位における転座のケースを報告しており,Vincentらは自閉症に関連して,またLaiらは会話言語障害に関連して報告した.Laiらの研究では,Fisherら(同じ研究グループ)が7q31上の121cM位置と125cM位置の間に以前同定した会話言語障害の遺伝子座(SPCH1)のより詳細な位置決めを報告している.転座断端(ブレークポイント)を用い,両研究は自閉症または会話言語障害の易罹患性遺伝子の位置を決定しようと試みている.残念ながら最も疑わしい候補遺伝子の中には変異をまだ発見できていない.自閉症と会話言語障害の遺伝素因の重複の可能性は,最近FolsteinとMankoskiによって考察されている.自閉症と会話言語障害の間の関係については家系内での事実が実証している(言語障害の家系内に自閉症者がいたり,自閉症の家系内に言語障害者がいたり)が,この2つの状態における言語障害は同じ種類のものではない.自閉症における言語障害は,言語の社会的使用の障害であり,会話言語障害の言語障害は言語構造の異常である.加えて,自閉症遺伝子座の第7染色体長腕上の位置は不正確であるため,二つの遺伝子座が異なるものである可能性を否定することもできない.FolsteinとMankoskiが示唆したように,自閉症家系の中のほかのパーソナリティ障害や言語障害に関する情報を解析に取り込むことで連鎖解析の感度を上げることができるかもしれない.しかし,この操作はサンプルにおける遺伝的非単一性を増加させることにもなり,自閉症の特異的易罹患性遺伝子座の位置をわかりにくくする可能性も増加する.

つい最近,Buxbaumらによって行われた自閉症におけるゲノム全体の連鎖研究の第一段階もまた,第7染色体長腕上の連鎖を示唆したが,彼らのフォローアップ研究の結果は未発表である.

これらのことを合わせて考えると,自閉症における第7染色体長腕の関与は支持される.連鎖の最大の証拠が得られている部位は,だいたい50cMの巾があるということになる.IMGSACのピークとBarrettらのピークの間は40cMあり,同じ易罹患性遺伝子座に由来するのか,異なる遺伝子座に由来するのか結論が出ていない.また,この二つのピークの存在をある一つの結果の再現として考えることができるのかも結論が出ていない.それぞれの連鎖の信頼区間を計算すれば,それについての示唆が得られるであろう.残念ながら,報告者は信頼区間を評価していない.Robertsらは,95%信頼区間を計算するための式を提案している.この計算式は,評価位置の標準誤差を計算するもので,期待LODスコアの関数である.公表されたLODスコアが予想LODスコアと同じであった場合のみ,公表LODスコアを使って計算することができる.予想LODスコアが論文中にないため,この計算式は使うことができない.Robertsらのシミュレーションから推定したMLSの支持区間あるいは信頼区間からは,この二つの予想位置の間には重複はなく,二つの連鎖は別々のものであることが示唆される.しかし,正確な証拠を得るためには,連鎖研究の報告者はなまデータから信頼区間を計算するべきである.この二つの研究は,方法論的にもいくつかの異なる点を持っており,サンプルにおける差異,統計計算法の違い,マーカーの違い,マップの違いなどがあり,推定位置の間に本当にギャップがあるのかどうかは疑問である.易罹患性遺伝子座の存在をより強力に支持する(他の)全ゲノムスキャンが,IMGSACのピークとBarrettらのピークの間に連鎖の最大の証拠を提示した後に,このアイデアは再強調される.何れにしても,この易罹患性候補遺伝子座はより正確にマッピングされるべきで,その後に続く(その部位に存在する)候補遺伝子を使った関連解析により証明されるべきである.理論的には,この50cM領域の中には500個以上の遺伝子が存在する.この領域に存在する既知の遺伝子の中で,IMGSACは脳で発現する10個の候補遺伝子が検証されるべきと報告している.

2番目の注目すべき示唆的連鎖は第13染色体上にあり,Barrettらは,MMLS/hetで3と2.3という強力な値を55と19cMの位置に報告している.残念なことに,他の3つの研究が提供したMLSは同部位で非常に小さい値である(IMGSACは75cMの位置でMLS0.6,Rischらは50cMの近くでMLS0.68,PhillippeらはMLSは0.1以下).従って,易罹患性遺伝子座の位置をこの部位に肯定することも否定することもできない.Phillippeらの報告の第6染色体長腕のピーク(MLSが2.23)やRischらの報告の第1染色体短腕のピーク(MLSが2.15)の場合も同様であり,他の報告ではMLSは1以下である.この4つのゲノムスキャンは,以前の他の研究が発見した自閉症との関連に関しては,何も確認しなかった.

つい最近,2つの他の別々のゲノムスキャンが行われ,第7染色体長腕の関与については証拠を提供していない.結果の再現が困難な原因は,偽陽性,偽陰性,または自閉性障害の非単一性であろう.自閉性障害の非単一性は,部分的には表現型の定義における正確性の欠如によるものであり,自閉性障害の遺伝学の理解における主な課題の一つである.自閉性障害の臨床的非単一性は,ポピュレーションの中に異なるタイプの自閉症が共存していることを示唆し,それぞれのタイプにより重要な遺伝背景が強力であったり弱かったりしていることが考えられる(遺伝的非単一性).小さな効果をもつ遺伝子の位置を決めるためには,多数のサンプルを集める必要がある.自閉性障害の複数発生家系はまれであるので,研究者達はことなるポピュレーションタイプの中からサンプルを集めることを強いられる.そのために異なるタイプの自閉症が混ざってしまう.一つの研究の中では,家系間の非遺伝的単一性(自閉性障害はまれななので,複数発生家系内の非単一性や家系間の環境性多様は少ないと信じてしまう)が,易罹患性遺伝子座の抽出を不可能にしてしまう.このような困難は,示唆的連鎖を再現するための解析のために,異なるサンプルを使った複数の研究を比較する時に増強されてしまう.複雑な状態に取り組んでいる研究者はまた,ひとつの未解決の問題にも直面しているのである.小さな効果の易罹患性遺伝子座の同定のために感度を増そうとしてサンプルサイズを大きくしてしまうと,同時に,遺伝的非単一性が増加してしまい有意な連鎖を抽出できる見込みがなくなってしまう.有症候親戚ペア解析では複数発生家系だけが研究のために選ばれるので,非単一性の問題はいくらかコントロールされる.実際,複数発生有症候家系に属しているという事実を共有している自閉症発端者は自閉症のリスクも高いと共に遺伝的原因が存在する機会も多い.

しかし,ここで注意すべきは,小さな効果のたくさんの遺伝子に由来する複雑な形質の解析においては,有意差がなかったり結果の再現性がなかったりしたからといって,必ずしも連鎖がないことを意味しているのではないことである.全体的にみると,自閉症の遺伝学について集まりつつあるデータは,さしあたり,自閉性障害の原因におけるメジャー遺伝子の関与については否定的で,逆に,メジャー遺伝子ではなく自閉性障害の易罹患性は小さな効果のたくさんの異なる遺伝子からなることを示唆する.

結論は出ておらず,さらなる研究が自閉性障害の遺伝的オリジンを同定するために必要である.対象サンプルとしての複数発生家系には数に限りがあり,これら4つの全ゲノムスキャンデータおよび今後発表されるデータの生データ全てをプールすることにより,全てのデータのメタ解析を行うことは注目すべきである.しかし,ポピュレーションサンプルがプールされてしまうと遺伝的非単一性が増強されてしまうので,それを制限するために最適なコンディションが使われなければならない.この場合,遺伝的非単一性増加のコントロールがかのうになるであろう.なぜなら,得られる全サンプル数は,より単一なサンプルグループにサブグループ分けできるほど十分であるから.我々の研究チームにより使われている,統合臨床遺伝生物学的アプローチにおいては,自閉症者を自閉症の各ドメイン(コミュニケーション,社会的相互関係,そしてstereotypies)における障害程度や,行動上の多様性,あるいは生物学的多様性によってサブグループ化することができる.自閉性障害の異なるサブグループを同定することは,より単一なサンプルを供給し,それぞれのグループ毎の独立した遺伝解析が可能になる.加えて,この方法は候補遺伝子に関して新しい仮説を誘導することができるであろう.


表紙にもどる。


ご意見やご質問のある方はメールください。

E-mail: jyajya@po.synapse.ne.jp