ICD-10 DCRについて:
アメリカ精神医学会の最新の診断基準であるDSM-IVの中の自閉症の基準は、前のバージョンであるDSM-III-Rを改訂したものではなく、DSMよりも評価の高かったICD-10(WHO)の診断項目から4項目を削除し、診断のための項目数の基準を変更しただけのものです。これにより、診断基準の統一化に近づけたと共に、特異性/感度のバランスがよい診断基準になったと言われています(参考文献1
)。ICD-10は、診断のためのガイドライン(文章)と診断基準(診断項目と項目数の基準:クライテリア)の両者があり、診断基準はDCR (diagnostic criteria for research)と呼ばれており、WHOから提供されています。
自閉症児と非自閉症児の境界:
累積発生率では、ICD-10のガイドラインにより自閉症と診断あるいは自閉症を疑われた36名のうち、5歳時までにその半分が自閉症でないと判断されています。また、残りの半分のうち、最終的に3名が、診断基準(ICD-10 DCR)により自閉症でないとされ、結局診断された自閉症児は15人(男10人/女5人)となっています。また、罹患率の検討では、疑い例を含む38人のうち、17名がガイドラインにより否定され、さらに診断基準(ICD-10 DCR)により3名が削られ、最終的には18名(男13人/女5人)です。これらの事実は、自閉症者と自閉症でない者の境界がはっきりしたものでないこと(連続性があること)の傍証のひとつと考えることができます。同様に、典型的な(狭義の)自閉症者と広義の自閉症者の間には、はっきりとした境界線がありませんし(参考文献2)、自閉症とアスペルガー症候群の関係も連続性があるべきものです(参考文献3)。
IQ値の評価について:
DSM-IVでは、IQが約70までを精神遅滞としており、71から84を境界知能(V code)としています。本論文は、これに従い、リストアップされた自閉症児の約半数が精神遅滞でなかった(高機能)とし、また、IQが85以上が約45%、100以上が二人いたとしています。IQテストの結果だけで個々の自閉症児の知能レベルを評価することは、非常に問題が多いことは、以外と議論されることがありませんが、本論文でも残念ながら触れられていません。
1. Volkmar FR, et al.: Field trial for autistic disorder in DSM-IV. Am J Psychiatry 151: 1361-1367, 1994.
2. Wing L. Autistic spectrum disorders: no evidence for or against an increase in prevalence. BMJ 312: 327-8, 1996.
3. Frith U. Social communication and its disorder in autism and Asperger syndrome. J Psychopharmacol 10: 48-53, 1996.