癇癪,攻撃性,自傷にリスペリドンが有効

Research Units on Pediatric Psychopharmacology Autism Network. Risperidone in children with autism and serious behavioral problems. N Engl J Med 347: 314-321, 2002.

訳者コメント:

以前,松下寛先生が自閉症治療薬としてのセロトニン・ドーパミン・アンタゴニスト(SDA)を解説してくださいましたが,今回SDAのひとつであるリスペリドンの無作為化二重盲検臨床試験の報告がありましたので概要だけご紹介します.激しい癇癪,攻撃性あるいは自傷行為を伴う5−17歳の自閉症児に,リスペリドンとプラセボを8週間投与し,プラセボ群で行動の大幅な改善が12%に対し,リスペリドン群で69%に行動の大幅な改善がみられたとしています.不随意運動などの重篤な副作用についてはこのトライアルでは結論できないとしています.同号で“展望”としてRapin先生が自閉症スペクトルを解説しています(文献1).

(概訳)

概要:(背景)非典型的な抗精神薬は,シナプス後性にドーパミン受容体やセロトニン受容体をブロックするが,統合失調症成人例の治療において他の古典的抗精神治療よりも有効であり,深刻な行動障害を持つ自閉性障害児においても有効かもしれない.しかし,小児における非典型的抗精神薬の安全性と効果に関するこれまでのデータは限られている.(方法)我々はリスペリドンの,多施設,無作為化,二重盲検臨床試験を,プラセボを対照として,重症の癇癪,攻撃性,または自傷行動を持つ5歳から17歳の自閉性障害者において行った.一次アウトカム評価は,異常行動チェックリスト(Aberrant Behavior Checklist)の興奮性サブスケールにおけるスコアと臨床全般印象-改善度(Clinical Global Impressions-improvement:CGI-I)における尺度で8週間目に行った.(結果)総計101人の児童(82人の少年と19人の少女,平均年齢8.8+-2.7歳)は,無作為に割り付けられ49人がリスペリドン,52人がプラセボの投与を受けた.8週間のリスペリドン投与(投与量は0.5から3.5mg/日)は,興奮性スコアにおいて56.9%が改善し,これに比べてプラセボ群では14.1%の改善であった(P<0.001).興奮性スコアで少なくとも25%の減少,及び,CGI-Iスケールで明らかに改善(much improved)あるいは著明に改善(very much improved)の比率で定義される有効反応(positive response)の割合は,リスペリドン群で69%(49人中34人が有効反応)でプラセボ群では12%(52人中6人,P<0.001)であった.リスペリドン治療は体重増加(2.7+-2.9kg)に関連しており,これと比較してプラセボ群では0.8+-2.2kgの体重増加であった(P<0.001).食欲の亢進,疲労感,眠気,フラフラ,よだれは,プラセボ群に比較してリスペリドン群で有意に多かった(P<0.05).8週間のリスペリドン投与で有効反応を示した児の3分の1(34人中23人)では,その効果は6ヶ月持続した.(結論)リスペリドンは自閉性障害児における,癇癪,攻撃性,または自傷行動に有効で使用に耐え得る.今回の短期臨床試験では,遅発性ジスキネジアなどの副作用については結論を出せない.


(文献)
1. Rapin I. The autistic-spectrum disorders. N Engl J Med 347: 302-303, 2002.

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