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自閉症の遺伝素因(レビュー)

Lamb JA, et al. Autism: recent molecular genetic advances. Hum Mol Genet 9: 861-868, 2000.

訳者コメント:

1998年から発表され始めた,自閉症関連遺伝子のゲノムスクリーニング(genome screen)の内容を網羅している,貴重なレビューです.

(概訳)

(要約)自閉症は原因不明のシビアな神経精神障害であり,自閉症者およびその家族に深刻な結果をもたらす.双生児研究と家族研究の結果は,特発性自閉症の発症における遺伝素因の重要性を指摘しており,これらの遺伝的影響は複雑なものであることもはっきりしている.ここでは,自閉症に関連する遺伝子座を同定するために最近行われた分子レベルの研究結果を中心にレビューする.

(イントロ)

自閉症はKannerによって最初に記載され,現在自閉症とアスペルガー症候群の臨床的類似性が認められている.自閉症もアスペルガー症候群も共に広汎性発達障害に分類されている.自閉症の発生頻度は1万人あたり5人とされており,性比は男性が女性の3倍以上である.10−25%で医学的疾患に関連しており,結節性硬化症や脆弱X症候群が知られている.

Kannerの最初の記載から,独特な性格特性が何人かの親で指摘されており,これらの特性は自閉症児の行動特徴に類似しているように思われる.このような観察は,最初は環境原因の証拠であると解釈され,そのような親の特性が,子育ての実践に作用し自閉症の発症を促進すると考えられていた.その後自閉症ケースの75%が精神遅滞であり,また多いデータで33%がてんかんを合併していることが判明し,自閉症が実際は器質的な基盤を持つと認識されるようになった.

現在,双生児研究と家族研究は,特発性自閉症の発生における遺伝素因の重要性を示唆する強力な証拠を提供しており,これらの遺伝的影響は複雑なものであることもはっきりしている.いくつかの疫学的同性双生児研究は,一卵性一致率と二卵性一致率が明らかに異なることを示した.これらの研究で最も大規模なBaileyらのデータでは,一卵性一致率が60%であるのに対し,二卵性双生児で一致した例がなかった.このことは,複数因子性の閾値モデルであるとすれば,遺伝性が90%以上であることを示唆する.自閉症者の兄弟における発生率は2−6%で,通常の頻度の50−100倍の頻度である.これらのデータは,自閉症が小児発症精神疾患の中で最も遺伝性の強いものの一つであることを示唆する.

いくつかの双生児研究の結果は,自閉症形質は,実際は診断基準による境界線を越えて分布することが示唆されている.1995年に行われた合同研究では,一卵性双生児の不一致例の非自閉症者の多くが,よりマイルドな関連する社会性障害やコミュニケーション障害を呈していることが報告された.同様に家族研究では,自閉症者の親族においては,このような異常の率がコントロールに比べて明らかに高いことが示されている.遺伝形式に関しては,双生児研究での結果(一卵性一致率が二卵性一致率よりはるかに高いこと)と,遺伝的関連性が減少するにつれ自閉症発生率が激減する事実などから,複数の遺伝子が関与していることが示唆されている.また,これらの複数の遺伝子に,遺伝子間の影響が存在する(epistasis)ことが予想されている.家系データや双生児データの潜在的クラスモデリングもまた,複数の遺伝子座が相互関係を持って関与していることを強く示唆しており,3つか4つの遺伝子が最もモデルに適合する.自閉症と結節性硬化症の関連や自閉症と脆弱X症候群の関連は,遺伝的非単一性(heterogeneity)が存在することを示唆しており,臨床的なマーカーは不明であるが,特発性自閉症もまた同様に非単一性を持つようである.

この10年間で,自閉症の原因に関する理解を深めようとする動きが急速に進み,遺伝学,薬理学,生化学,そして神経生物学的なアプローチが,試みられている.このレビューは,現在知られていることと自閉症の遺伝学に関する最近の進歩をまとめることを目的とする.内容は3つのパートに分かれ,最初は自閉症に関連して報告された染色体異常に関して述べ,特に第15染色体に関する文献を紹介する.第二部は,自閉症に関連する候補遺伝子を研究した報告をまとめる.最後のパートで,最近報告されている連鎖研究の結果をレビューする.

(パート1:染色体異常)

染色体異常や切断部位(breakpoints)の場所に関する研究は,疾患易罹患性遺伝子を同定し場所を決めるためには,大変有用な情報を提供する.これまでのところ,自閉症における染色体異常の文献は多数報告されており,欠損,転座,逆位など多彩である.また,常染色体や性染色体における染色体の数の異常なども自閉症において報告されている.第14染色体と第20染色体を除き,全ての染色体で自閉症行動に関連する染色体異常が報告されており,古典的な自閉症に限定すれば,第12染色体と第19染色体に関する染色体異常の報告はない.第15染色体における異常と性染色体における構造上の異常や数の異常は,最も頻回に報告されている.

しかし,自閉症の複数発生家系に関連した染色体異常の報告は少ない.最近,Ashley-Kochらはある自閉症家系を報告している.その家系では,第7染色体の長腕上の逆位異常が,母親から3人の子供に遺伝しており,このうち二人の男児は自閉症で,もう一人の女児は表出性言語障害を呈していた.この家系は,最近の連鎖研究の結果からすると,非常に興味あるケースである.

このような染色体異常の多くは,新たに(突然変異的に)出現した異常であるが,自閉症におけるこれらの異常の機能的な意義は不明で,欠損のない転座は同じものが健常者においてもみられる.また,自閉症のいくつかのケースでは,脆弱X症候群の脆弱部位以外の多くの一般的脆弱部位との関連が指摘されている.これらの脆弱部位は,DNAの不安定部分に関連しているが,脆弱部位自体も正常の染色体構造の一つであり,これらの所見の多くは自閉症ケースに偶然に出現している可能性もある.自閉症において顕微鏡で検出できないような微細な染色体異常の頻度がどの程度なのかは不明である.

自閉症における第15染色体の構造的異常:この約10年の間に,自閉症に関連して報告された第15染色体異常の報告は多く,ことに自閉症症例における精神遅滞やてんかんとの関連が指摘されている.このような染色体異常は,しばしば第15染色体の同形重複動原体異常の形をとったり,またより少ない頻度では,母親から遺伝した15q11-q13領域の重複異常であったりする.最近,顕微鏡で検出できないような微小な欠損異常が,コントロールに比べ自閉症で多いことが報告され,自閉症の易罹患性マーカーである可能性が示唆された.しかし,この微小欠損には親-特異性がなく,複数発生家系においては必ずしも自閉症者に特異的というわけでもない.過剰第15染色体の有意な典型的表現形質は,発達遅滞,精神遅滞,神経学的徴候,そして行動障害などを含む自閉性障害の特徴を呈した.発語はしばしばなく,あったとしてもオーム返し,エコラリアなどの異常があった.加えて,不器用,てんかん,攻撃性,多動,おきまり運動,自傷,そして他の自閉症的行動異常などが報告されている.15q11-q13領域は,Prader-Willi/Angelman症候群の原因遺伝子部位であることも,この部位が注目される理由である.Angelman症候群は,神経学的疾患であり,いくつかの臨床症候は自閉症的行動異常に類似する.Angelman症候群に関連する遺伝子(単一あるいは複数)は,通常母親から遺伝した第15染色体からのみ発現することを示すかなりの証拠が報告されている.この症候群は最も多くの場合,突然変異的に出現した母親における15q11-q13の微小欠損に由来するが,一部の症例では,2本の第15染色体が2本とも父親由来である場合(disomy)などがある.残りのケースの多くは,UBE2A遺伝子における変異に起因しており,UBE2A遺伝子はE6-AP ubiquitin-protein ligaseをコードする.よりシビアなAngelman症候群の形質は,年齢を適合させた検討では,非欠損グループよりも欠損グループにおいてみられ,15q11-q13欠損は,他の異常に比べ,てんかん症状の重症化に関与していることが報告されている.第15染色体は,ゲノムの安定性やimprinting現象(父親由来か母親由来かで発現が決定される現象)の点で,これまでのところ,最も複雑なゲノム領域のひとつである.欠損イベント数も高く,男性に報告されている過剰マーカー染色体異常の最大50%までが,第15染色体に起こっている.15q11-q13領域のゲノム不安定性は,この染色体で頻回に観察される再配列の原因となるゲノムセグメントの大きな重複に由来することが提唱されている.しかし,第15染色体の構造的異常と自閉症の間の,遺伝子型-発現形質型関連は不明なままであり,自閉症におけるこれらの遺伝子異常の頻度も知られていない.自閉症のケースのほんの一部において15q11-q13部位の異常が確認されているが,それでも偶然にしては高率すぎる頻度である.第15染色体の切断部位(breakpoints)と自閉症の関連を特定することが,今後の研究に望まれる.

(パート2:候補遺伝子研究)

第15染色体における候補遺伝子研究:第15染色体の染色体異常を持った自閉症者に関する報告は多く,この領域が自閉症の易罹患性遺伝子(単一あるいは複数)を含んでいる可能性が示唆されている.この領域でいくつかの遺伝子が自閉症に関連する候補遺伝子として同定されている.最も,興味ある候補遺伝子は,gamma-aminobutyric acid(GABA A)受容体遺伝子群であり,これらの遺伝子はアルファ5,ベータ3,およびガンマ3受容体サブユニットをコードしている.GABAは,哺乳類の中枢神経系における重要な抑制性ニューロトランスミッターであり,成人脳における電気的興奮を制御している.GABA系システムは,ヒトおよび実験動物モデルにおいて,てんかんに関連するシステムとして認識されてきた.GABA受容体の表出は,局所的にまた成長に伴って調整されていることが知られており,ゆえに,GABA系システムの欠損は神経成長異常の原因となる可能性がある.GABA Aベータ3サブユニットは,成長過程の早期に表出するため,特に注目されており,マウスにおいて一つのgabr3遺伝子を欠損させると脳波異常,てんかん,そしてAngelman症候群類似の臨床特徴を再現することができる.ヒトにおけるいくつかの研究は,てんかんのタイプとこのサブユニットをコードする遺伝子との関連を検討している.この遺伝子複合体が,自閉症易罹患性に役割を演じているかどうかを調べる目的で,いくつかの研究が自閉症家系における対立遺伝子関連を検討するためにこの領域における複数のマーカーをスクリーニングした.Cookらは,140例の主に一例発生家系において9つのマーカーを検討し,GABA Aベータ3におけるマーカーGABRB3 155CA-2が関連している証拠を得たが,二つの隣接するマーカーでは関連は証明できなかった.対立遺伝子伝搬における親のオリジン効果(parent-of-origin effects)の証拠は示されなかった.94家系の複数発生家系を検討した,国際分子遺伝研究自閉症協会の報告では,15q11-q13領域に7つのマイクロサテライトマーカーを設定し,連鎖も関連も証明されなかった.加えて,最近報告されたVeenstra-VanderWeeleらの検討でも,自閉症におけるUBE3A遺伝子の機能的変異の証拠は得られていない.従って,現時点では,特発性ケースにおいてこの領域の関連の強い証拠があるとは言えない.染色体異常ケースにおける再配列に関する今後の研究により,検討すべき部位がしぼりこめることが考えられるが,再配列に関連する自閉症ケースが(特発性ケースとの間に)境界線を引けない遺伝子症候群である可能性は否定できない.

他の候補遺伝子研究:過去20−30年の間に,たくさんの論文が,コントロールに比較して自閉症者の血小板中あるいは尿中のセロトニン(5-HT)レベルが増加していることを報告している.また,Pivenらの結果は,自閉症者における血小板5-HTの増加は,自閉症家系における遺伝的異常に関連していることを示唆した.さらに,セロトニン再吸収阻害薬が,一部の自閉症者においていくつかの自閉症症候を改善することが示された.これらの結果は,特にセロトニン系は幅広い行動機能および生理学的機能に関与しているため,自閉症におけるセロトニン系の役割に対する注目を促進した.最近では,セロトニントランスポーター遺伝子(5-HTT)およびいろいろなセロトニン受容体遺伝子が,候補遺伝子研究の注目を集めている.Cookらの研究結果によると,86単発家系において,自閉症と5-HTT第2イントロンの多型との間に連鎖も関連も証明されなかった.しかし,5-HTTプロモーター遺伝子(5-HTTLPR)における長短多型(insertion/deletion polymorphism)の短型が優位に伝搬していることが報告された.対照的に,Klauckらの報告では,65家系の単発家系において優位に伝搬しているのは長型であった.国際分子遺伝研究自閉症協会の検討では,5-HTT遺伝子の部位には連鎖や関連の証拠はみられなかった.加えて,Zhongらの結果でも優位な関連はなかった.セロトニン受容体遺伝子(5-HT7受容体遺伝子や5-HT2A受容体遺伝子)の研究でも自閉症との関連は証明されていない.その他,神経線維腫症1型遺伝子,c-Harvey-Ras遺伝子など多数の候補遺伝子の検討が報告されている.これらの候補遺伝子研究結果の多くは,結論がでておらず,陽性結果がより大きなサンプルサイズの研究で再現されるまでは,その意義を決定することは困難である.隣接するマーカーとの有意な関連がないことも多く,有意とされるいくつかの結果は疑陽性である可能性がある.伝搬率の問題もまた,陽性結果に寄与しているかもしれない.

(パート3:自閉症におけるgenome screens)

自閉症の神経生物学的基盤のほとんどが不明なため,自閉症易罹患性遺伝子座を同定する目的で,いくつかの研究グループは最近,ヒトゲノムの全体を,複数発生家系において体系的にスクリーニングしている.これまでのところ4つのゲノムスクリーニングが発表されている.最初の報告は,国際分子遺伝研究自閉症協会によって成され,87ペアの自閉症兄弟例と12ペアの自閉症親戚例(兄弟以外)を二段階研究で検討した(総計99ペア).第一段階で,36家系において1354個のマーカーを検討し,第二段階では60家系を追加し第一段階で候補に挙がった部位を中心に175個のマーカーが使われた.複数ポイント最大LODスコア(MLS)が1以上である部位が6カ所あり,第4,7,10,16,19,22染色体であった.最も有意な連鎖は第7染色体長腕上にあり,マーカーD7S530とD7S684の間にMLS2.53が検出された.これに続き,第16染色体短腕のマーカーD16S407とD16S3114の間にMLS1.51のピークがあった.第6染色体短腕のHLA領域と同様に,X染色体の全体も候補としては除外された(兄弟内再発生比を2.5).第7染色体における有意所見は,その後フォローアップ検討が行われ,7q32-q35部位が細かく検討された.26家系を追加し125家系で検討され,74個のマーカーが使われた.その結果複数ポイントMLSで3.63というピークが確認され,この領域に関連遺伝子がある可能性がさらに支持された.

Philippeらによる2つ目のスクリーニング(パリ自閉症研究国際兄弟ペア研究)では,264個のマイクロサテライトマーカーが,51家系の複数発生家系において調べられた.2ポイントあるいは複数ポイントの自閉症兄弟ペア解析が行われ,危険率を0.05として,陽性と判断された部位が11カ所報告されている(第2,4,5,6,7,10,15,16,18,19染色体とX染色体).これらのうち4つは,国際分子遺伝研究自閉症協会の結果と重複している(2q,7q,16p,19p).最も有意な複数ポイント連鎖は,第6染色体のマーカーD6S286のすぐ遠位部にありMLSは2.23であった.

これまでに最も大規模なスクリーニングは,Rischらによって行われ,第一段階で90家系の複数発生家族において519個のマーカーが調べられた.第一段階で挙げられた候補部位は,第二セットの家系49家系において,149個のマーカーでフォローアップされた.その結果,最も強い連鎖の証拠は,全部の家系を混合して,第1染色体のマーカーD1S1675の近傍に複数ポイントMLSで2.15のピークとして指摘された.MLSが1以上のその他の部位は,17p,7p,18qにあり,19qはPhilippeらの結果に一致する.それほど高くないLODスコアピークが,7qと13qにもあり,これは国際分子遺伝研究自閉症協会の結果と自閉症共同連鎖研究(CLSA)の結果に一致する.この研究において,不一致兄弟ペアに比較し,自閉症兄弟ペアにおいて家系同一性(identity by descent)共有が増加していることは,少数の遺伝子座の効果というよりも,家系同一性の全体的な分布の増加傾向によることが考えられ,著者らはこれらの結果に最も適合するモデルとして関連遺伝子座が15個以上のモデルを考察している.

最も最近に発表されたのは,自閉症共同連鎖研究(CLSA)が行っている二段階研究の第一段階の結果である.モデルを基盤とする連鎖解析を行い,最も強い複数ポイントの結果は,第13染色体と第7染色体上に報告された(常染色体劣性モデル).最大複数ポイント非単一性LOD(MMLS/het)スコアは3.0でD13S800に位置し,2番目のピークはマーカーD13S217とD13S1229の間の2.3であった.3番目のピークは2.2で,7qのD7S1813にあった(劣性モデル).

発表されたこれらの4つの研究に加え,Buxbaumらの二段階研究の第一段階の報告では,最大60家系を検討し,7qに連鎖の証拠があり,第6,13,15染色体には連鎖の証拠はなかったとしている.

これらの結果を合わせて考えると,第7染色体長腕は自閉症の病態に関連している可能性が高い.Ashley-Kochらは,76家系の複数発生家族において,7qの9つのマーカーを使い遺伝子型を検討した.その結果,最大非単一性LODスコア(1.47)と,最大LODスコア(1.03)を,マーカーD7S495の部位に検出した.複数ポイントMLSと非派ラメトリック連鎖(NPL)解析では,D7S2527に1.77,D7S640に2.01のピークがそれぞれみられた.また,有意な父親からの家系同一性(IBD)共有(D7S640)と連鎖不均衡(D7S1824)も報告され,再び第7染色体長腕が注目された.

15q11-q13は染色体異常に関連する領域であるが,国際分子遺伝研究自閉症協会とRischらの報告ではこの部位に連鎖の証拠はなかった.自閉症共同連鎖研究は,マーカーD15S975の位置に最大MMLS/hetスコア0.51を報告している.Philippeらは,GABRベータ3サブユニット遺伝子から遠位に最大20cMの位置にあるマーカーD15S118の位置に最大MLS1.10を検出し,陽性連鎖結果としている.加えて,Bassらが行った遺伝連鎖研究では,63家系の複数発生家族が検討され,15q11-q13領域における14個のマーカーを使い連鎖の存在が支持された.LODスコアの最大値は,劣性モデルでD15S217の位置にありLODスコアのピークは1.37であった.このマーカー部位で,優性モデルにおいても最大LODスコアが検出され,非パラメトリック複数ポイント解析では,NPL Zスコアが1.78であった.

ここにレビューした研究の多くが,X染色体における連鎖の可能性を支持していないことは注目すべきであろう.これらの結果は,X染色体性伝搬は自閉症の多くのケースの遺伝素因を説明し得ないとした過去の論文の結果と矛盾しない.自閉症では男性が女性よりも多いことと,脆弱X症候群と自閉症の関連から,以前は自閉症におけるX染色体の関与が示唆されていた.しかし,国際分子遺伝研究自閉症会議の結果やその他の家族研究の結果は,脆弱X症候群の頻度は以前示唆された頻度よりも低いであろうことが予想されている.

同様に,たくさんの研究が,自閉症と自己免疫疾患との関係を示唆し,自閉症に成りやすい背景にHLA複合体が関与していることが考えられていた.しかし,ここにレビューした研究結果には,HLA領域との連鎖の証拠はなかった.さらに,セロトニントランスポーター遺伝子の部位である17p11.2にも連鎖の証拠はみられない.

(考察)

たくさんのゲノムスクリーニング研究や遺伝的連鎖研究が,自閉症の易罹患性遺伝子座を探す目的で報告されている.しかし,複数の研究結果からの連鎖結果比較や,グループ間のメタアナリシスの可能性は,いくつかの理由により実現が難しい.方法論的制限としては,マーカーが異なること,マーカーのマップが異なること,統計解析の違い,感度の違いなどが含まれる.加えて,報告バイアス(公表バイアス)が,陰性結果の同定をより難しくしている.診断基準や除外基準が違えば,自閉症のような複雑な精神疾患の場合,基本的に異なるサンプルを対象にしていると考えなければならない.ここでレビューした研究の診断基準を比較すると,患者の年齢やIQにおけるバリエーションは,いかなる研究結果の違いの原因にも成り得る.研究間の連鎖所見の違いは,部分的には関連遺伝子の効果が弱いからと考えることもでき,その場合は自閉症者の一部の少数のサブセットでのみその遺伝子が関与しているということになる.自閉症共同連鎖研究の最も強い連鎖結果は,遺伝的非単一性を仮定して得られた結果である.従って,彼らの研究結果で検出された特異的な遺伝子座はサンプル家系のサブグループだけにおいて連鎖を持つことになる.今後は,診断手法が改良され,形質発現の個々の要素に理解が進めば,それらを使って,QTL(quantitative trait loci)解析による遺伝メカニズムの解明が可能になることが考えられる.形質を分類して考えることは,易罹患性遺伝子の検出感度を増加するためには,有用でかつ必要であろう.これを可能にするためには,家系サンプルのサイズをより大きくすることが必要であろう.

ここにレビューしたゲノムスクリーニング研究においては,第15染色体への連鎖の証拠が欠如しており,このことはこの部分の染色体異常の頻度が自閉症において比較的高率であることからすると驚きであった.しかし,これらの研究の多くは,染色体異常の存在を除外診断に加えている.第15染色体と第7染色体上に報告されている染色体不安定性や遺伝子再配列の増加は,連鎖結果を混乱させるように作用することが考えられる.さらに,これまでに報告された第15染色体に異常があるケースの多くは,弧発例であり,ゆえにここでレビューした研究に含まれている複数発生家系とは遺伝的に異なるサブグループである可能性があり,異なる遺伝メカニズムを持つ可能性がある.このことは,もし,複数発生家系での結果が弧発例の場合に一般化できない場合は,複数発生家系での結果を単発発生家系で再現することにおける問題点をも提示しているかもしれない.

しかし,これらの警告付きで,ここにレビューした研究の多くは,自閉症の易罹患性遺伝子座が第7染色体長腕上に存在する可能性を支持する.このことから生じる疑問は,これらの異なる連鎖所見が一つの遺伝効果をどの程度まで検出できるのかとか,これらの研究は第7染色体の連鎖を再現していると言えるのかというものである.典型的な複雑形質のために選ばれたコンピューターシュミレーションモデルでは,関連遺伝子の推定部位はかなりの程度のバリエーションを生じることが示されている.この研究では,200ペアの罹患兄弟ペアを使った典型的な複雑形質の研究では,推定位置の95%信頼区間は25cMであるとしている.もちろん,推定位置のバリエーションは,予想LODスコアの大きさにも影響する.Suarezらの以前の報告では,真の連鎖を再現するためには,最初のサンプルサイズよりもかなり大きなサンプルサイズが必要であることが示されている.Robertsらが推定位置のばらつきとして示した染色体領域のサイズは,今回レビューした第7染色体連鎖所見がカバーしているサイズに匹敵するが,サンプルサイズは全ての報告で小さすぎる.それでも,これらの連鎖所見は,他の精神疾患において報告されたものと比較すると,より一致した結果と言えよう.

(結語)

まとめると,自閉症における易罹患性遺伝子の同定は学際的なアプローチに依存している.この学際的アプローチは,たくさんの研究グループが,診断基準,神経生物学的アプローチ,染色体異常検査,自閉症兄弟ペアアプローチ,そして候補遺伝子アプローチなどのコンビネーションを共通にして共同研究を行うことを含んでいる.難しいチャレンジではあるけれども,自閉症研究の未来はますます楽観的であり,自閉症遺伝子のマッピングのゴールは近いかもしれない.



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