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男の子が多いのは遺伝性によるものなのか?

Jones MB: Nonfamiliality of the sex ratio in autism. Am J Med Genet 67: 499-500, 1996.
(概訳)自閉症者の性比は,おおよそ4:1で男性が多い.この性比の偏りは,単純なX染色体遺伝形式では説明することはできない.X染色体性劣性遺伝であれば性比は2500:1であるはずであり,X染色体性優性であれば女性の方が多いはずである.自閉症者の性比を説明することが可能な状況として次の3つが考えられる.


(解説)1番目の可能性は,もしそうだとしたら,既に証明されているはずです.3番目の可能性について,この論文の著者は男の子の方が影響を受けやすいような子宮内での(胎児の時の)外因の可能性を述べており,その外因が母親の遺伝子型となんらかの関連をもっているような場合も想定しています.この可能性を拡大解釈しますと,男の子の方が影響を受けやすい外因は,物理的なものや生化学的なものだけでなく,精神的なものであるケースも存在し得ることになります.

以下に論文中の重要な2つの用語について解説します.
epistatic interaction:ある発現型(状態や病気)が表面化するためには,複数のステップ(必要条件)が必要な場合があります.それぞれのステップを規定している独立した複数の遺伝因子の中のひとつだけでその状態や病気が表面化し,他の遺伝因子の関与がわからなくなってしまう(あるいは他の遺伝因子の関与を抑制してしまう)場合,その遺伝因子は他の関与遺伝因子に対してepistatic(上位)であると表現します.

いき値(threshold)モデル:この論文の中で,自閉症の兄弟例を多数検討しており,兄弟例の年長者が男の子の場合よりも,年長者が女の子の場合の方が二人目の自閉症者の性比(男/女)が小さくなる可能性が指摘されています.遺伝形質が表面化するための“いき値”を想定することでこの現象を遺伝性で説明することができます.つまり,男の子の方がこの“いき値”が低いため,男の子が既に自閉症になっているような場合は,親から受け継いだ遺伝形質は女の子を自閉症にしてしまうほど強くない場合が多く,また逆に既に女の子の自閉症がいるような家族での遺伝形質は,女の子の高い“いき値”を既に越えているわけですから,その後に生まれてくる子供は遺伝形質の影響が子供に及んだ場合には性に関係なく表面化しやすくなっていると解釈することができます.


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