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早期診断・早期療育

Senior K. Autism: progress and priorities. Lancet 356: 490, 2000.

訳者コメント:

早期診断と早期療育の意義をあらためて指摘した記事です.健常児でも,発達の個人差や発達の可塑性が背景となって発語が遅れたり,コミュニケーション能力や社会性の発達が遅れたりすることがありますが,そういう状態と自閉症との間には,境界線を引きがたいので,場合によっては5−6歳まで結論が困難なことがあります.早期診断や早期療育が強調される場合は,このことは(作為的に?)触れられないことが多いようで,疑わしい状態は全部自閉症として療育有効例に含まれている可能性があります.大事なことは,「発達が遅れている部分や苦手な部分は,早期に認識して,早期から対策をたてるべきである」という子育ての原則は,健常児でも自閉症児でもまったく同じであるということだと考えております.

(概訳)

「自閉症児の理想的な療育のための当面の目標は,自閉症の早期徴候を見逃さずにより早期の正確な診断に心がけることであろう」とPauline Filipek(カリフォルニア大学)は語っている.Filipekは小児神経協会とアメリカ神経学会の委員長を務めており,専門誌Neurologyの8月号に「自閉症のスクリーニングと診断のための実際的パラメーター」と題してレビューを発表した(文献1).アメリカの小児の健康に関するものを含む全国的機関のほとんどが,7月10日の時点ですでにこの論文の主旨を支持している.Filipekは,「この提案は絶対的なものではなく,最良の臨床のためのガイドラインに過ぎない.しかし,アメリカでは広く採用されていると思われる」と述べた.

その中核的提言は「自閉症のスクリーニングは,正常発達の健康チェックの一環として1歳時に行われるべき」というものである.アメリカでは,学校入学前スクリーニングが既に一貫して行われており,フォローアップ治療のための条項も作られている.英国では,地域によって早期スクリーニングの普及は異なる.18ヶ月時に行われるCHATスクリーニング(CHecklist for Autism in Toddlers)は,Simon Baron-Cohenらが開発し,「10分で済む質問紙法で,親が記入し異常の徴候があれば小児科医がチェックする.迅速で経済的であり,施行のための特別なトレーニングは不要」と記載されている.1990年代の半ば,Baron-Cohenは16000人の幼児を対象としてCHATテストを実施し,18ヶ月時にCHATテストで問題のあったケースの90%以上はその後自閉症と診断されたと報告した.

しかし,CHATの信頼性研究の共同研究者であるTony Charmanは,「自閉症関連状態(autistic spectrum disorder)の児のわずか20%から40%がCHATでひっかかる程度であり,CHATは絶対的なスクリーニングではない」と述べている.さらに,Baron-Cohenも「問題点はスクリーニングテストとしてだけでなく,児がそのテストで引っかかった場合に必要となるフォローアップ評価や治療においても存在する」と付け加えた.

早期診断のニーズがあることを指摘したFilipekは,早期行動学的介入(治療)が自閉症においてはより大きな価値と利益を持っていると確信している.アメリカでは,通常そのような介入(治療)は小学校入学前の子供を対象とし,トレーニングされた専門指導員により実践されている.最初は,自宅で親と共に行われ,その後保育園や幼稚園で先生と共に行われる.「自閉症児の多くは,治療が2歳頃に開始されると集中的な治療によく反応し,場合によっては他の多くの自閉症児が診断だけを受けている段階である6歳か7歳頃には自閉症傾向の痕跡を残すのみとなる.」とFilipecは述べている.

イギリスでは,行動学的介入や専門家による教育提供は,地域によって非常にむらがあり,ほとんど提供されなかったり提供されるのが遅すぎたりする.フォローアップケアが提供されない地域では,担当者はスクリーニング検査だけをするのが非倫理的だと感じており,そのためニーズが把握されていない可能性がある.Charmanは「(知的障害児に関する)教育システムはしばしば非難されており,特殊教育該当者であることを認定するための複雑な評価プロセスは時間がかかりすぎる」と指摘した.しかし,自閉症関連状態は現在通常3歳から4歳頃に診断されるので,それよりも早期に診断されたとしても,「教育部門が,全ての責任を負うとは考えられず,医療部門との連携や家族支援および治療の供給など全てが改善される必要がある」と付け加えた.

アメリカのシステムは既にイギリスより先を行っているのであるが,アメリカの教師は診断時期をさらに早期にできないかと考えている.「よちよち歩きの時期からの治療はうまくいっているので,今度はあかちゃんの時期での診断基準が求められている」とGeraldine Dawsonは述べている.Dawsonは,自閉症児の5年間縦断研究の3年目を行っており,「診断後のフォローアップだけでなく,誕生日や家族的イベントを撮ったホームビデオを調査することで,自閉症的行動の非常に早期のサインを見つける試みを行っている」と説明している.このような方法で,現在この研究グループは8ヶ月から10ヶ月で自閉症の徴候を同定できると確信している.彼女は(Dr. Dawson),「この時期に片言おしゃべりがなかったり,名前を呼ばれても反応がない場合は,通常その後に自閉症と診断されることが多い」としている.

Dawsonとその共同研究者であるStephen Dagerはまた,MRI検査と神経精神学的課題を使って(機能的MRI),いろいろな年齢での自閉症者の脳機能を評価し,脳領域のどこが症候に寄与しているのかを明らかにしようと試みている.今のところその結果は,霊長類での研究結果の多くと一致している.「脳の異なるパーツにおける2つの領域が明らかに自閉症では異常である」とDawsonは述べている.前前頭葉(prefrontal lobe)は,多くの例で異常が指摘されており,過去においては自閉症研究の注目部位の一つであった.「ここ5年間ぐらいで海馬や特に扁桃体などを含む大脳辺縁系の関与が注目されている」とBaron-Cohenは述べている.Baron-Cohenの研究グループは,恐怖の表情の写真を健常成人に見せると扁桃体に電気的活動が増加する反応が見られるが,自閉症者の場合は,この反応が激減しているかあるいは欠損していることを示した.

「どういう児で脳のどの部位に異常があるのかを検出する方法についての理解が進めば,早期介入療法の効果の個人差の理由が解明されるかもしれない」とDawsonは述べている.扁桃体と海馬は,脳のより原始的な部分であり,生後8ヶ月頃に代謝活性が増加し「オンライン状態になる」.前頭前皮質は,12ヶ月から14ヶ月後まではこのような代謝活性の増加は見られない.「扁桃体に由来する自閉症児は,治療が始まる前に既に社会的相互関係や行動における多くの障害が決定されて(hard-wired)いるので,2歳前からの治療でも効果がほとんどないのかもしれない」とDawsonは推測している.

Filipekは,(Dawsonらの見解に)賛同し,「治療効果があることの証拠は非常にはっきりとしているが,全ての自閉症児で正しい(適切な)時期に治療を始めることは困難であろう」と結論している.


(文献)
1. Filipek PA, et al. Practice parameter: screening and diagnosis of autism: report of the quality standards subcommittee of the American Academy of Neurology and the Child Neurology Society. Neurology 55: 468-479, 2000.

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