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自閉症児は増加しているか

L Wing: Autistic spectrum disorders-no evidence for or against an increase in prevalence. BMJ 312:327-8, 1996.

(概訳)イギリスの多くの小児発達心理学の専門家は、広義の自閉症の患児を近年ほど多く診るようになってきたため、自閉症が増加しているのではないかという印象を持っている。

広義の自閉症の頻度に関する疫学調査の論文は、これまでのところ世界中で2つしか報告されていない。ひとつは、ロンドンで15歳以下でIQが70未満の子供たちを対象とした調査で、自閉症(広義)の率は9%で、一万人の子供の中に22人の自閉症(広義)児がいることになる。もうひとつの報告はスエーデンからのもので、こちらの方は逆に、普通学校に通っておりIQが70以上の7歳から16歳の子供たちを対象としており、一万人の子供の中に自閉症(広義)児が71人という結果になっている(半分がアスペルガー症候群)。この両方の報告から、全体(すべての子供)の中での自閉症(広義)の比率は、一万人あたり91人ということになる。

重要な指摘として、このように広義の自閉症を対象にした場合、健常児群と自閉症児群は連続的な関係にあり、境目(ボーダーライン)を指摘することができなかったと、両論文が述べている。

これに対し、典型的な自閉症(狭義)に関するヨーロッパ、アメリカ、カナダ、日本からの報告をまとめると、一万人あたり3.3人から16人の自閉症児が存在することになる。これらの報告では、最近自閉症児が増加しているという結論は導き出せない。イギリスやスエーデンでは、自閉症児の比率が高くなっており、このような地域では移民の親に自閉症(狭義であっても)が生まれる率が高いという結果が報告されているが、移民がほとんどいない地域の専門家も自閉症が増加している印象を持っており、移民の家庭に自閉症児が生まれやすいということでは、自閉症児を診ることが多くなったことを説明できない。

イギリスで自閉症児の数が増加しているような印象を与えるひとつの原因のひとつに、自閉症児が専門医の目に触れるようになったという歴史的な背景がある。今日では、専門医の目に触れずに、診断も検討されていないような自閉症児は例外的である。

従って、今のところ、狭義でも広義でも、罹患率が増加しているという明らかな証拠はなく、増加しているような印象の原因は、診療形態の変化や診断基準の変遷、および広義の自閉症における臨床的多様性の理解が進んだことなどが考えられる。出産時の母親の年齢が高ければ高いほど、自閉症(狭義)児が生まれる確立が高くなるという報告があるが、このことが事実であれば、女性の出産年齢が高くなるにつれ、自閉症児が増加するかもしれない。


(解説)自閉症児の数に関する疫学調査の結果にかなりの差があり、最近の報告ほど増加しているようにみえる傾向は、診断基準の変遷や自閉症に対する社会的認知の結果であるという見解があります。この論文は、広義の自閉症児の数が増加しているような印象を持つ専門家が多いイギリスでも、実際に数が増加しているという証拠はないことを指摘しています。訳中では"autism spectrum disorders"を広義の自閉症と訳しました。


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