自閉症における生後1年間の急速な脳の成長

Courchesne E, et al. Evidence of brain overgrowth in the first year of life in autism. JAMA 290: 337-344, 2003.

訳者コメント:

自閉症児の頭が大きく,また中身の脳も大きいという話題は,かなり以前からありますが,幼小児期の脳の急速な成長を強調するいくつかの論文が最近発表されています.

2001年のCourchesneらの論文では,「自閉症者の早期の異常脳成長」として,脳成長の制御異常から早期の脳の過剰成長が起こり,その後脳の成長は異常に遅くなるとしています(文献1).Aylwardらは,2002年に,12歳以下の自閉症児で脳ボリュームが有意に大きいことを指摘し,ほぼ同じ結論を発表しています(文献2).その後,Courchesneらは,文献1のデータを使って,総説を発表しています(文献3).

そして,今回,出生直後のデータを追加して解析した論文がJAMAに掲載されましたのでご紹介します.出生時には,母親の産道を児の頭が通過する必要がありますので,出生前に頭の成長が早いケースは早産で生まれているかもしれません.また,出生時に既に頭が大きい場合は,難産であったり帝王切開になっているかもしれません.そういった個々のケースの検討はまだ行われておりません.経験にガイドされない脳の過剰成長が自閉症の原因とするCourchesne先生の考察は,これまでにない新しい仮説です.

(概訳)

背景:自閉症は多くの場合2−3歳までにはっきりしてくる.その時点では自閉症児の脳は既に異常に大きい.このことは,脳の過剰成長はかなり早期から起こっている可能性を示唆し,ひょっとすると最初に臨床的に気づかれる行動学的症候よりも前から起こっているかもしれない.

目的:異常な脳の過剰成長が自閉症スペクトルの初発症候よりも先に出現しているのか,また,1歳時の過剰成長の程度が早期小児期における神経解剖学的アウトカムや臨床的アウトカムに関連しているのか,を検討する.

デザイン,設定,対象:生後1年間の頭周囲長,身長,そして体重は,MRI研究に参加した2歳から5歳の自閉症スペクトル児48人の臨床記録から得られた.これらの子供たちの中で,15人は幼児期に4回(出生時,1−2ヶ月時,3−5ヶ月時,そして6−14ヶ月時)の計測を行った経時的観察群である.また,部分的頭周囲長データ群は,33例で,出生時と6−14ヶ月時に計測したのが7例,出生時のみの計測が28例であった.

主なアウトカム評価:経時的な複数回の計測を行った自閉症スペクトル幼児における年齢に関連する変化と,それらの変化の,脳解剖所見や2歳時から5歳時までの臨床アウトカム,診断アウトカムに対する関連を,二つの全国的正常データベースを使い評価した.その二つは,全国的調査から得られた,横断正常データ(各年齢の正常値)と,個々の成長の縦断データ(経時的データ)である.

結果:健常な幼児の正常データと比較し,自閉症スペクトル児の出生時頭周囲長は有意に小さく(P<0.001),出生後,6ヶ月から14ヶ月までに,頭周囲長は1.67 SDs(標準偏差の1.67倍)まで増加し,平均頭周囲長は84パーセンタイルの位置であった.出生時頭周囲長は2歳時から5歳時までの小脳灰白質ボリュームに相関している.また,出生時と6ヶ月から14ヶ月時の間の頭周囲長の過剰な増加は,2歳から5歳時の大脳皮質ボリュームに相関している.自閉症スペクトルグループ内では,特定不能の広汎性発達障害(PDD-NOS)に比べ,全ての自閉性障害児は出生時と6ヶ月から14ヶ月の間の頭周囲長における増加がより大きかった.健常幼児においては,出生後,6ヶ月ー14ヶ月までの間に,わずかに6%が経時的データで頭周囲長成長曲線が標準偏差の2倍以上大きい方に偏移していた.自閉性障害児においては59%が頭周囲長成長曲線が大きい方に偏移していた.

結論:自閉症の臨床的オンセットは,脳の成長異常の2つの出来事の後に起こることが明らかになった.ひとつは,出生時の頭のサイズの減少で,もう一つは1ー2ヶ月から6ー14ヶ月の間に起こる突然で過剰な頭のサイズの増加である.異常に促進した成長速度は,自閉症のリスクの早期前兆サインとなるかもしれない.

 

イントロ:2−3歳時の行動学的サインや症候に,会話の遅れ,社会的反応や情緒的反応の異常,そして環境に対する不注意や探究心不足などがあれば,自閉症ではないかと疑われる.自閉症は,神経生物学的障害であり,神経生物学的異常が,障害の行動学的表出に先んじて起こっている必要がある.しかし,そのような神経生物学的早期前兆サインは自閉症においては未だに発見されていない.そのようなサインに関する知識があれば,客観的で定量的で信頼性の高い自閉症の臨床テストをより早期に行うことができ,早期診断早期介入が可能になり,結果的に自閉症の最も早期の段階で存在する特異的な原因や(and/or)メカニズムに迫れるかもしれない.一つの神経生物学的異常である,脳ボリュームの増加は,臨床的サインが明らかになる年齢では検出可能である.自閉症2−3歳児の90%は,頭周囲長も異常に大きいことに加え,健常平均に比べ脳ボリュームもより大きい.また他の論文は,自閉症の4歳児における脳のサイズは,健常平均を超えていると報告している.脳サイズの増加は,小脳および大脳における白質ボリュームの増加と,大脳における灰白質ボリュームの増加によると報告されている.このような報告では前頭葉が最も大きいとされる.識別機能解析によると2歳から5歳の自閉症児の92%が,大脳および小脳のMRIによるボリューム測定を基盤にして,自閉症でない小児から区別可能であった(未発表データ).病理学的な脳の過剰成長が,自閉症の臨床行動学的な最初のサインのオンセットより先に起こるのか,同時に起こるのか,あるいは後から起こるのかは不明である.もし,生後1年間の間,頭周囲長が脳サイズの正確な指標であるなら,出生時の頭周囲長が自閉症児において異常でないという観察結果は重要である.過大な脳サイズは出生時には存在せず2歳から3歳で存在するのであるから,この過剰成長はこの2年間の間に始まらなければならない.

本研究で我々は,病理学的脳の過剰成長が,最初の行動学的な自閉症のオンセットに先行するか,また,異常の成長曲線から自閉症児の神経解剖学的アウトカムや臨床的アウトカムを予想できるかを検証することを目的とする.幼児期の成長と,その後の神経解剖学的アウトカムの間の関係を検証するために,我々は自閉症スペクトルの2歳から5歳の子供を全て研究対象とした.つまり自閉症スペクトルの重症型としての自閉性障害と,自閉症スペクトルのマイルド型としての特定不能の広汎性発達障害(PDD-NOS)の両方を対象とし,定量的MRI計測を行った.そして,出生時および生後1年の頭周囲長をそれぞれの児の臨床記録から入手した.各小児科医の間の計測方法の違いのために,患者によって頭周囲長が計測された年齢が異なっていた.何人かの臨床記録は入手できず,また頭周囲長測定を行っていないケースもあったので,我々の最終サンプルサイズは,オリジナルのMRI研究サンプルの約半分になった.そのような研究デザインによる制限にもかかわらず,我々の研究はたくさんの意義有る長所を持っている.第一に,重要な頭周囲長計測値はバイアスのかからない状態で入手できている.この計測値は通常の外来で,臨床スタッフによって記録されており,発達障害を想定した特別な外来ではない.これらのスタッフはその児が自閉症スペクトルと診断されることを知らずに計測している.また,この計測はケースごとに異なるスタッフにより記録されており,結果にバイアスをかける計測におけるいかなる体系的エラーの可能性も除外することができる.頭周囲長と発達アウトカムとしてのMRIによる脳サイズの計測は,方法も計測者も完全に独立の立場である.第二に,我々の研究は,現在専門外来で観察している自閉症スペクトル児の,最近のサンプルに関するものである.第三に,我々のサンプルは,前向きの,経時的診断フォローアップデザインを使い,厳密な現代的方法で診断されたサンプルである.このデザインの詳細は既に発表した.我々がMRIデータを持っている自閉症スペクトル児のサンプルを使うことによって,生後1年目の頭周囲長変化と,2歳時から5歳時の脳のMRI計測値の間の関連を検討するユニークな立場に立つことができた.自閉症スペクトル児の頭周囲長が,何歳で健常児のそれから異なってくるのかを検討するために,我々は,自閉症児の頭周囲長計測値と,アメリカのCDCの成長データとを比較した.健常児の何%が生後一年目に頭周囲長において異常な成長をきたし得るのか,また,経時的成長曲線は健常児と自閉症スペクトル児では異なるのかを検証するために,我々は自閉症スペクトル児の経時的頭周囲長計測値を,全国的な現在の健常児コホートのデータに比較した.

方法:(訳:省略)

結果:

生後1年間の頭周囲長の成長

経時観察群 vs CDCデータ

自閉症スペクトル児における生後1年間の頭周囲長が,健常児の平均から有意に変異するのはいつかを検討するために,経時的に検討したグループは,CDCのデータと比較された.頭周囲長のzスコアの分散解析は,出生時,1−2ヶ月時,3−5ヶ月時,6−14ヶ月時で行い,統計的に有意な年齢効果(年齢と共に健常児との差が大きくなる)が認められた.この年齢関連変化は生後1−2ヶ月後に始まる頭周囲長計測値の急激な増加によるものであった.フォローアップ解析は頭周囲長が,出生時の健常児計測値に比べ有意に小さいことを示した.しかし,1−2ヶ月と3−5ヶ月の間においては,頭周囲長は標準偏差の0.66倍増加してzスコアの平均値は0.18になっている.3−5ヶ月と6−14ヶ月の間では,頭周囲長は,標準偏差の0.83倍増加してzスコアで1.01になった.出生時と6−14ヶ月の間は,自閉症スペクトル児の平均頭周囲長は,標準偏差の1.67倍増加し,25パーセンタイルの位置から84パーセンタイルの位置までになっている.

出生時および1−2ヶ月時の身長と体重は,健常児の平均に比べ自閉症スペクトルで小さいことはなく,3−5ヶ月と6−14ヶ月で健常児平均より大きいということもなかった.従って,自閉症スペクトルにおける頭周囲長の変化は,身長や体重の差で説明することはできない.

これらの経時観察グループ15例の中で9例はまた,15ヶ月から28ヶ月の間に小児科で頭周囲長の計測を少なくとも1回受けている(平均19.22ヶ月で).この年齢時での頭周囲長の巾は,健常児のCDCデータよりも有意に大きかったが,6ヶ月ー14ヶ月の平均zスコアとの差には統計的有意差はなかった.

自閉症スペクトル児における経時的変化 vs Fels経時研究(健常児の経時変化)

Felsの経時研究の51例の中で,本研究と同じ時期に4回計測したケースはたったの6例しかなかった.ゆえに,対象者間の経時比較はできなかった.しかし,Felsの経時研究の中で31例は,出生時から2ヶ月までの間に1回の頭周囲長計測を受けており,2回目の計測は6ヶ月から14ヶ月時である.部分的頭周囲長計測データ群に含まれる自閉症スペクトル児7人は,出生時と6−14ヶ月時の両方で頭周囲長の計測を受けているが,この7人も経時サンプルに加えて,出生時と6−14ヶ月時という2つの時点での頭周囲長計測を行った自閉症スペクトル児が全部で22例となった.Felsの経時研究からの31例に関する頭周囲長計測値は,健常児のCDC平均を基にしてzスコアに変換された.しかし,健常児のCDC平均は,Felsの経時研究データセットを完全に基盤にしており,他の全ての時期でのCDCの頭周囲長平均は,Felsの経時研究データとは別に独立して集められた全国調査に基づいている.

Felsの経時研究からの31例と自閉症スペクトル児22例を比較し,出生時と6−14ヶ月時の間の頭周囲長の増加は有意に自閉症スペクトル児で大きいことが示された(P<0.001).

出生時計測 vs その後の臨床指標とMRI計測

演繹的仮説は自閉症における幼児期の異常な脳の変化の程度がその後の臨床アウトカムや脳サイズのアウトカムに関連している可能性を示唆した.この仮説を検証するために,二つの主な頭周囲長効果が使われた.つまり,出生時頭周囲長の減少と幼児期の頭周囲長の増加である.統計的感度を増すために,出生時と6−14ヶ月時の頭周囲長計測を行った自閉症スペクトル児を対象とした.

臨床指標

これらの対象児の出生時の頭周囲長を基に,中間値で2分し,二つのサブグループを作った.一つは,出生時頭周囲長のzスコアの平均が-1.27で,もう一つのサブグループはzスコアの平均が0.07であった.出生時から6−14ヶ月時の間の頭周囲長の増加に関しても中間値で2分し,一つのサブグループは頭周囲長増加が0.94で,もう一つののサブグループは2.71であった.機能的な言語能力のある対象者の中では,出生時の頭周囲長がより小さいことは自閉症診断インタビュー(ADI)での言語スコアの悪化と関連していた(P=0.02).幼児期の頭周囲長計測値のより大きな増加は,自閉症診断観察スケジュール(ADOS)のお決まり・反復行動スケールの悪化(P=0.04),初語の開始年齢が遅れる強い傾向(P=0.06),そして小児自閉症レーティングスケールのより高いスコア(P=0.07)と有意に関連していた.

MRIアウトカム

生後1年間の頭周囲長計測値と,2−5歳時の定量的MRI計測値の間の相関を検討した.男児のみをMRIアウトカムの解析対象とした.出生時の頭周囲長がより小さいことは,MRI検査時の年齢を調整した後の児における小脳灰白質ボリュームがより小さいことに有意に相関しており(P=0.04),小脳の白質ボリュームに関して強い傾向が観察された(P=0.06).出生時の頭周囲長は,大脳計測値とは何の相関もなかった.逆に,生後1年間の頭周囲長のより大きな増加は,大脳灰白質がより大きいこと,全体の灰白質がより大きいこと,そして全脳ボリュームがより大きいことと有意に相関していた(P<0.03).しかし,白質の計測値や小脳の計測値とは何の関係もなかった.加えて,6−14ヶ月時の頭周囲長計測値は,大脳灰白質がより大きいこと,大脳白質がより大きいこと,全脳灰白質が大きいこと,前脳白質が大きいこと,そして全脳ボリュームが大きいことと有意に相関していた(P<0.03).また,小脳の灰白質との相関もあった(P=0.05).

自閉性障害児のアウトカム vs 特定不能の広汎性発達障害(PDD-NOS)児のアウトカム

出生時と6−14ヶ月時に頭周囲長計測を行った自閉症スペクトル児22人の中で,17人は自閉性障害,5人は特定不能の広汎性発達障害(PDD-NOS)と診断されていた.この2つのグループの間で,出生時の頭周囲長計測値の平均zスコアに有意な違いはなかった.しかし,頭周囲長計測値の増加の程度についてははっきりとした違いがあり,自閉性障害では,標準偏差の2.19倍増加して,95パーセンタイルに達したが,PDD-NOSでは標準偏差の0.58倍だけ増加して,54パーセンタイルの位置に達したのみであった.

さらに,自閉性障害児では,71%において頭周囲長の増加の程度が標準偏差の1.5倍以上であり,59%において標準偏差の2.0倍から4.3倍以上であった.PDD-NOSにおいては,標準偏差の1.0倍以上の増加を示した例はなかった.Felsの経時研究サンプルにおいてこの解析を行うと,わずかに9%が標準偏差の1.5倍の増加を示し,6%が標準偏差の2.0倍の増加であった.6ヶ月から14ヶ月時までの頭周囲長の急増の結果として,自閉性障害児の17人中15人(88%)の頭周囲長は87パーセンタイルを超える増加で,9人(53%)は97パーセンタイル以上であった.

コメント

我々の知っている限りでは,この報告は自閉症の神経生物学的前兆サインを発見し,そのサインをその後の脳の異常に関連付ける最初の研究である.特に,我々は頭周囲長計測値の急速で過剰な増加を発見した.従って,おそらく脳のサイズにおいて,出生後数ヶ月に始まる急速で過剰な増加があるのであろう.この自閉症スペクトル児における頭周囲長計測値の増加率の異常促進は,二つの全国健常児データベース(全国横断調査と,健常幼児における成長パターンの経時研究)と比較することによって明らかであった.我々の研究においては,頭のサイズは健常幼児のCDC平均を基盤とした25パーセンタイルの位置から6ヶ月ー14ヶ月時の84パーセンタイルの位置まで増加した.この過剰増加は臨床的な行動学的症候の典型的オンセットの前にはっきりと起こっていた.さらに,この生後1年経った後のこの増加は3歳から5歳時の大脳および小脳のボリュームがより大きいことと強く相関していた.これらの結果は2つの主な皮質および白質における成長調節異常が,頭周囲長増加の背景にあることを示唆している.

脳ボリューム増加の細胞学的基礎は,不明であり,おそらくいろいろな可能性が考えられる.それらの可能性は,ニューロンまたは(and/or)グリアの数または成長率の増加,ミニカラム数の増加,樹状突起および軸索の過剰早期増殖,軸索コネクションの増加,そして(and/or)早期のミエリネーションを含む.またその原因も同定されておらず,出生後の成長プロセスの異常促進または出生前後期の障害および出生後早期の退行プロセスなどを反映している可能性がある.脳ボリュームの増加はまた,出生前の異常状態または出生後早期に現れた生物学的異常メカニズムに対する,過剰な代償反応を意味しているのかもしれない.MMRワクチン,環境毒素や病原体への小児期暴露,あるいは食物に対する異常反応やアレルギー反応などのような,脳の過剰成長の後に起こるイベントや状態は論理学的には原因とは思えない.そのような後で起こるイベントが増悪因子として重要という意見もあるかもしれないが,鍵となる疑問点が残る.最初に出生後数ヶ月以内に脳の過剰成長の引き金を引くのが何なのかである.

我々の研究では,この過剰成長もまた我々の自閉症スペクトルサンプルにおいては,自閉性障害児の信頼できる神経生物学的現象のひとつである.自閉症のより重篤な形を有する幼児の中で,71%が生後1年で標準偏差の1.5倍以上の増加を示し,59%が標準偏差の2.0から4.3倍の増加を示している.そのような高い数字は,健常幼児サンプルであるFels経時研究サンプルではみられない.また,我々の自閉症スペクトルサンプルは,少数ではあるがよりマイルドな自閉症の状態である特定不能の広汎性発達障害(PDD-NOS)を含んでいる.自閉性障害児と比較して,PDD-NOS児は全て頭周囲長の増加が小さく,頭周囲長計測値は50パーセンタイル未満から54パーセンタイルまでの増加である.自閉症の重症型と軽症型の間のこの相違は,我々が以前報告した仮説に一致する.この仮説は,脳の過剰成長のオンセットがより早く,速度が早くそしてその期間がより長いことがよりアウトカムが重症であることに関連し,逆に,脳の過剰成長のオンセットがより遅く,速度がより遅くそして期間がより短いことはアウトカムが軽いことに相関しているというものである.この臨床的および神経生物学的仮説をさらに支持するためには,さらに多い自閉症スペクトル児を対象とした研究が必要である.

Felsの経時研究データを使って,我々の解析を行ったところ,健常児においても頭周囲長計測結果が大きい例はたまには起こりえるが,自閉症スペクトル児の59%に比べると非常に少ない(6%).幼児における頭のサイズの異常増加は,水頭症,良性大頭症(megalencephaly),腫瘍,そして硬膜下血腫などの疾患でも起こりえる.従って,臨床家にとっては,臨床所見,画像所見,そして生物学的検査などからこれらの疾患を除外診断することが重要である.幼児において頭周囲長の異常増加は自閉症の正確で特異的なマーカーみなすことはできないけれども,それにもかかわらずそういった幼児は有意に高い自閉症のリスクを持っていることを示す重要なサインであることが判明したわけである.この結果を今後のさらなる研究が確認できれば,この所見は臨床家に自閉症の可能性に関するフォローアップテストの必要を教える重要な観察点となるかもしれない.さらなる研究が,正確で早期の診断予知につながる生物学的(生化学的,MRI,遺伝学的など)サインと行動学的サインの組み合わせを同定するかもしれない.そういう組み合わせは,現在一般的なプロトコールよりも早期の2−3歳での治療の開始を可能にするかもしれない.しかし,脳の成長に関するいくつかの動物モデル(単眼除去)や人の疾患(フェニルケトン尿症)が示しているように,異常な神経回路の形状と機能が不可逆的に構築される前に適切な介入が開始されることでアウトカムのかなりの改善が可能になる.同様に,新しい早期の自閉症治療を同定すれば,現在可能なレベルよりもより良いアウトカムが得られるであろう.

自閉症においては,少なくとも4つのフェーズの脳成長が存在する.出生時には,頭周囲長の平均値は25パーセンタイルの位置にあるので,第1のフェーズは出生前の脳のわずかな成長遅滞を含んでいる.この所見は出生前の胎児の体の全般的成長遅延によるものではない.なぜなら,身長も体重も出生時には健常児と同じ程度であるからである.出生時の脳ボリュームの減少はわずかであるが,自閉症成人例の解剖脳所見から推測される出生前の神経障害に関する推測と矛盾しない.第2の成長フェーズは本研究で記載した生後1年間の急速で大きな成長を含む.第3のフェーズは2−4年間続くことが明らかで,その間脳の全般的成長速度はゆるやかでそのために4−5歳までに自閉症における脳サイズは最大状態に達する.重要なことは,この若い自閉症児における最大の脳サイズ(約1350mL)は健常小児のそれ(約1360mL)とほぼ同じであるが,約8年ほど早くその大きさに到達することである.第4のフェーズは全体の脳サイズが徐々に減少する時期で,中期または後期小児期から成人期にかけて続く.青年期および成人期までに,自閉症における脳サイズは健常平均と有意な差はなくなる.

8歳から46歳までの自閉症者と健常者に関する新しいMRI研究は自閉症における脳が後期小児期においては平均サイズよりも少し大きいだけであることを確認した.また,青年期および成人期までに,サイズに関しては自閉症者と健常者の間に有意な差はない.ゆえにこのエビデンスは自閉症が出生後の病理学的な急速脳成長の一過性の時期を含んでいることを示す.自閉症における生後1年目の間だけ,脳は異常に拡大し,出生前や青年期・成人期には異常な成長はない.このルールに例外がある.我々の研究における48例の自閉症スペクトル児の中で,2例は出生時の頭周囲長が80パーセンタイル以上の位置であった.また,全ての年齢で健常者よりも脳ボリュームが大きい自閉症例もまれに存在する.

この早期の,しかし一過性の,脳過剰成長期間は自閉症的な行動の出現の原因において重要な因子であるに違いない.なぜなら,この脳過剰成長は発達における神経可塑性と学習の重要な時期の最初で起こっているからである.発達における神経可塑性に関する研究からのエビデンスは,発達中の人の脳は経験にガイドされた成長の延長期間から利益を得るようにデザインされていることを示唆している.感覚,情緒,思考,そして直接の軸索および樹状突起の成長に対するアクション,そして必要に応じてシナプスを創造し,再強化し,そして削除するためのアクションなどの形でのたくさんの経験の機会を,この長期の可塑期間が提供する.そのような経験がガイドする成長は必然的に,他人を理解し活発に社会的に他人とかかわるために必要な,認知スキル,情緒スキル,言語および運動スキルのような,よりレベルの高い精錬された神経行動機能の出現を誘導する.自閉症においては,健常児であれば数年を要する全般的脳成長の過程を短期間で行っている.従って,ガイダンスを伴わない異常に早い秩序の伴わない成長が起こり,非常に短い期間に非常にたくさんの神経コネクションが適応性なく産生されるのかもしれない.そのような急速に変化する異常コネクションの結果であるかもしれない神経ノイズに直面し,幼児はそのまわりの世界の意味づけができなくなり落ちこぼれるのかもしれない.この過剰な成長速度がゆるやかになる頃になって初めて,まだ使えるかもしれないコネクションは何でも選び使えないものを消去するために,自閉症児は経験がガイドするプロセスを使うチャンスを持つ.しかし,その時までには,精巧で優美な人脳の複雑性を出現させるこの可塑性の延長期間は,過ぎ去ってしまっているであろう.

自閉症においては,特に行動学的アウトカムに関する非単一性を強調する論文が多い.しかし,本研究においては,自閉性障害児の76%が出生時の頭周囲長計測値が50パーセンタイル以下であり,88%が6−14ヶ月までに頭周囲長計測値が87パーセンタイルを超える出生後早期の脳の過剰成長を示し,また59%で生後1年の間に標準偏差の2倍以上の増加を示した.自閉症に関する他の研究では,95%のケースで脳の成長因子が出生時に血中で増加しており,95%以上の症例が小脳の病理学的変化を持っており,5歳児の症例の95%以上が小脳と大脳の白質ボリュームにより健常者と区別することができ,また,100%の症例で辺縁系構造におけるニューロン密度(packing density)が高いことが報告されている.そのような生物学的一致性は,オンセット年齢が一致する点や本研究で明らかとなった脳成長の速度が速いことなどといっしょに,自閉症を誘導するいくつかの生物学的因子がほとんどの症例で同じである興味ある可能性を示唆する.ひょっとするとアウトカムの非単一性は症例間の違いの原因となる多くの遺伝学的および非遺伝学的背景因子と関連しているのかもしれない.

結論として,我々の研究は,自閉症新生児の脳は成長が遅れており,その後自閉症の臨床行動学的オンセットに先行して,生後数ヶ月の間に始まる急速で過剰な出生後脳成長が続くことを示すエビデンスを提出した.その過剰成長の程度,速度,そして(and/or)期間は,おそらく神経解剖学的アウトカムや臨床的アウトカムに関連している.後に自閉性障害と診断されたケースの頭周囲長の過剰成長は臨床応用できる可能性を提示する.なぜなら,この過剰成長は早期で急速で,かなりのものであり,症例間で共通しており,また,結果的に頭や脳が拡大する他の疾患と区別可能であるからである.また,過剰成長の検出は単純であり,費用がかからず,非侵襲的で,客観的で,また信頼性が高い.そのような生物学的早期前兆サインの存在は,もし今後の研究で確認された場合,同様に非常に早期の診断につながり,自閉症の効果的な生物学的介入あるいは予防さえも可能になるかもしれない. 


(文献)
1. Courchesne E, et al. Unusual brain growth patterns in early life in patients with autistic disorder. Neurology 57: 245-254, 2001.

2. Aylward EH, et al. Effects of age on brain volume and head circumference in autism. Neurology 59: 175-183, 2002.

3. Akshoomoff N, et al. The neurobiological basis of autism from a developmental perspective. Development and Psychopathology 14: 613-634, 2002.


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