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N Engl J Medに載った総説

N Engl J Med 337: 97-104, 1997.
(タイトル)自閉症

(解説)アメリカの臨床医学専門誌として名高いN Engl J Medの総説として,ニューヨークのアルバート・アインシュタイン医科大学のRapin先生が執筆した論文です.以下のようないくつかの重要な内容を含んでいます.

1.自閉症の病態:イギリスの先生方は,"a biologically based disorder with its site of damage in the brain" 「脳に障害を受けた部分を伴った生物学的要因のある疾患」(Frith U: J Psychopharmacol 10: 48-53, 1996)というように,器質的な障害の存在を強調して記載することが多いようですが,この論文では,"one of a group of developmental disorders of brain function that have such a broad range of behavioral consequences and severity" 「脳機能の成長障害のひとつ」と記載して,器質的な障害についてはむしろ普遍的でないことを強調しています.

2.一部の自閉症児が示す天才性:音楽的才能,数学における天才性,視空間的能力,視覚的単純記憶力や聴覚的単純記憶力における才能などを紹介しています.

3.2歳前頃の退行現象:約3分の1の自閉症児が,多くは2歳前頃に,それまでに獲得していた言語や遊びの能力が退行してしまい,それまでにできたことができなくなるとしています.この退行現象に潜在性のてんかんが関与している可能性が述べられており,退行現象に対して何らかの薬物療法が有効でないか検討を要するとしています.

4.成人自閉症者に対する誤診:成人になった自閉症者は,場合によっては,強迫性人格障害,分裂病質人格障害,精神分裂病などの診断を受けている場合があると記載しています.これは小児期の病歴を知っている人がいなくなった場合に,本人が病歴を説明できないケースなども含まれているものと思われます.

5.愛情について:「一般的な見方に反して」として,"may be affectionate"「自閉症児は愛情を持っている」と記載しています.自閉症児の心の中の複雑で広大な世界を理解できずに,「想像する能力に乏しい」と信じている専門家も未だにいる中では,評価すべき記載だと思います.

6.完全に発語がない自閉症児について:言語性聴覚失認(語聾)の状態であるとしていますが,脳血管障害などで起こるものとは少し異なる状態である可能性があります.

7.神経所見:反復動作などに加えて,関節可動域が大きい(関節がやわらかい),筋肉の低緊張,不器用,失行(反射的にはできる動作が随意的にはできない),つまさきで歩くなどの所見も紹介されています.失行についても脳血管障害などの時の失行とは少し異なるようです.

8.感覚刺激に対する逆説的な反応:ある音や触覚刺激や痛みなどに対して,鋭敏に反応することもあり全く反応しないこともあるとしています.臭いや味や感触へのこだわりや,耳をふさぐ動作なども紹介してあります.

9.自閉症児の頻度について:以前の一万人あたり4〜5人という頻度から,最近の報告では一万人あたり10人,場合によっては20人という頻度であることをレビューしています.アスペルガー症候群の子供は一万人あたり30人というデータを紹介しています.

10.遺伝素因について:ひとつあるいは複数の遺伝素因の発現と複数の非遺伝素因との相互作用が病態に関連するとしています.セロトニン移送蛋白遺伝子の異常と自閉症との関連の可能性が指摘されていることを紹介しています.

11.頻度的なこと:精神遅滞児の20%が自閉症としています.また,自閉症の5%以下が脆弱X症候群であるとしています.

12.治療法:補助的薬物療法についても言及していますが,最も重要な対処法は,できるだけ早期からの集中的で計画的な療育であるとしています.ひとりの自閉症児に対して十分な数の先生が確保できる教育環境が必要としています.また本人・家族に対するカウンセリングや大人になった自閉症者の職場での環境やグループホームに対する支援などの必要性が述べてあります.どれも日本ではまだまだです.個別指導を強調した内容ですが,とにかく計画的にいろいろな面で本人を刺激して良い経験を増やすという意味では,日本に比べて障害者を受け入れる社会背景がしっかりしているアメリカでは,このような指導法は着実に成果を挙げています.


(原文中の用語解説)
Infantile spasms:持続の短い(1〜3秒)強直性のてんかん発作(点頭てんかん).この発作に加えて,精神運動発達の停止と脳波異常(hypsarhythmia)があればWest症候群と呼ばれる.

Lennox-Gastaut症候群:幼児期発症のてんかんで,脳波での特異所見(diffuse slow spike-and-waves)と知能障害を特徴とする.上記West症候群の半数が本症に移行する.予後不良.

結節性硬化症(tuberous sclerosis):常染色体優性遺伝.顔面皮疹(angiofibromas),痙攣,知能低下が出現する.全身の間葉系,外胚葉性の発育障害.母斑症のひとつ.

Cornelia de Lange症候群:顔貌異常(多毛,低い鼻,うすい上口唇と口角の下がった口,小顎症など),小頭症,精神遅滞,小人症,筋緊張亢進などの特徴をもつ奇形症候群.

Angelman症候群:染色体異常(第15遺伝子長腕の部分欠損)は,Prader-Willi症候群(少年期の肥満,性器異常)と類似しているが,臨床型は異なり,小頭,失調性歩行,てんかん,いつも笑っているなどの特徴を有する.


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