自閉症とミニ円柱構造の微細化
(図あり)

Casanova MF, et al. Minicolumnar pathology in autism. Neurology 58:428-432, 2002.

訳者コメント:

自閉症では,大脳皮質の微細構造であるミニ円柱が,健常者に比べ巾が小さくて数が多いという話です.この論文はかなり反響が大きく,自閉症児の天才性を含み自閉症で解明されていない多くの部分をよく説明してくれるため,かなりの研究者たちが「なるほど!」と感じたようです.ニューロサイエンスに関連する英単語や用語も,その一般的日本語訳が何なのかをいちいち確認する必要があるのですが,なかなか手が回らず,適切な訳文ではない個所がかなりあると思います.特に計算式に関しては難解で,そのまま直訳したつもりです.興味のある方は是非原著をお読みください.この論文はそれだけの価値のある歴史的な論文の一つになると思います.

(概訳)

概要:(目的)自閉症者の脳とコントロールの脳の間に,ミニ円柱の形状における違いが存在するかどうかを検討する.(背景)自閉症は重篤で広汎な小児の発達障害であり,興味・活動・行動のお決まりパターンに加え,社会的な相互関係とコミュニケーションの両方における障害で特徴付けられる.死後の神経病理学的研究は結論的な所見を未だに示していない.(方法)著者らは,9例の自閉症者の脳とコントロールの脳を使い,細胞円柱形態の詳細を検討するためのコンピューターによる画像プログラムを使用し,前頭前皮質のエリア9と,側頭葉内のエリア21と後部のエリア22(Tpt)を調べた.(結果)著者らは自閉症者の脳とコントロールの脳の間に,ミニ円柱の数,細胞円柱を分画する水平空間,細胞の相対的散在性などの内部構造における有意な違いを発見した.具体的には,自閉症者の脳における細胞円柱は,数が多く,より小型で,末梢における神経網空間が減少しており細胞性形状においてよりコンパクト性が低かった.(結論)自閉症においては脳の前頭葉および側頭葉においてミニ円柱異常が存在する.

イントロ:自閉症でこれまでに行われた神経病理学的研究は,(いろいろな所見が)混在したものでないとしても,難解な結果を提供している.方法論における主観的な性質と症例数の少なさが,部分的には本質的に異なる所見を説明するかもしれない.あるいはまた,古典的な神経病理学的方法に基づく試みと,神経病理学的方法が細胞性変化を強調することは,背景となっている障害が神経回路に関するものであれば,必然的に徒労であることが証明されるかもしれない.発達における新皮質の細胞機構と神経回路の重要性を考えれば,我々は単一の放射状円柱または細胞のミニ円柱を注目する.ミニ円柱は脳の基本的な機能的ユニットであり,皮質空間においてニューロンを統制している.従って,神経回路や空間的形態性状における変化は皮質構造のこのような基本的ユニットに影響を与えるかもしれない.

対象と方法

本研究の対象者である自閉症者9人,コントロール4例は自閉症研究基金より得られた.M. Bauman先生とT. Kemper先生が,診断名と組織収集,そして組織処理を担当した.標本はボストン医科センターで入手することができる.コントロール検体は他の施設からさらに5例追加された.自閉症ケースの平均年齢は12歳でコントロール群の平均年齢は15歳であった.自閉症ケースに関する診断および死後の情報は表に示す.脳はセロイジン封入処理し,35ミクロンの連続切片に切り出し,Nissl染色した.隣接するスライドはLoyezテクニックで染色した.

エリア9および後部のエリア22,そして中側頭回(エリア21)の3つの皮質エリアのそれぞれにおいて,第III層のデジタルイメージを得た.いくつかのエリアは対象症例の何例かで入手できず,バランスの取れていないデザインとして配慮した.

年齢 精神遅滞 癲癇発作 自閉症診断インタビュー 死因

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10

28

22

12

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不明

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不明

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不明

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腹膜炎

不明

心停止(糖尿病)

溺水

骨腫瘍肺転位

不明

溺水

睡眠中に死亡

窒息(溺水)

ミニ円柱:ミニ円柱において,ニューロンのコアラインは,第VI層と第II層の間を垂直に上行する.ほとんどの細胞は線状に集まり,その両側に細胞の少ない領域があり,通常は末梢の神経網空間と呼ばれる.この領域は細胞体の染色によって知ることができるが,無髄軸索線維,樹状部分およびシナプスに富んでいる.円柱のコア領域とそのすぐ近隣はほとんどのニューロンと,頂点の樹状突起,皮質遠心性線維,そして皮質-皮質線維を含んでおり,無髄軸索とシナプスも含まれる.有髄軸索束はおそらく,第II層と第III層にある錐体細胞に始まる皮質遠心線維である.これらの神経線維束は白質に向かって下行し,一つの円柱の細胞性コア内にあるいは細胞性コアに隣接して存在する.頂点の樹状突起は第V層の錐体細胞に始まり,細胞円柱コアを通ってあるいは細胞円柱コアに隣接して束になって上行する.円柱コアの端はGABAを伝達物質とする介在ニューロンの垂直神経線維束を含む.これらの線維束は,特に第III層で明瞭であり,隣との個々のミニ円柱の輪郭を明確にするとされる側方抑制の原因である.

皮質エリア:エリア21は,大脳半球の外側表面上の中側頭回内に原則的に位置する.エリア21と接する領域は,エリア20(腹側),エリア22(背側),エリア37(尾側),エリア38(吻側)である.周辺の領域は傍辺縁系および聴覚性傍感覚領域である.エリア21は視覚的傍感覚連合野と考えられている.有髄線維は少ない.顕微鏡レベルでは,エリア21は,はっきりとした第IIIb層を持っており第IV層と直線的に対置している.

エリア9は,上および中前頭回内に存在する.研究者たちは背外側および背内側表面の両方をカバーする上前頭回の真中に位置することを発見した.顕微鏡的には,エリア9にはあまりはっきりしない第IV層がある.

Brodmannのエリア22内では,我々は側頭頭頂聴覚エリア(Tpt)に注目した.Tptは尾側傍帯状溝の後ろから上側頭溝の土手まで,上側頭回(STG)の外側面をカバーしている.また,Tptは上側頭平面(the planum temporale)の上表面のほとんどの後方部もカバーしている.Tptには脳溝区画が存在しないので,STG上の一般的な場所から顕微鏡的に同定する必要がある.TptはSTGの後部領域に位置する.Tptは尾側聴覚傍帯(caudal auditory parabelt)と言われる傍帯領域のすぐ後方および外側に位置する.Tptはまた上側頭平面の上方表面の最後部でもある.質的には,成人のTptは,良く分化した6層構造の全てを有しており,第III層と第IV層の間の起伏する境界部,第IV層と第V層の間の明瞭な境界部,および第VI層中の“パイプオルガン”構造(白質から不規則に立ち上がるニューロンのはっきりと曲線状の円柱)として特徴付けられる.

方法:我々の方法は他の論文に記載したものを一部改良したものである.対象とする領域をサンプルにし,コンピューター画像システムに転送する.対象領域は,顕微鏡で観察して得られた.個々の細胞体と全層の深さの両方を検討するために100倍の倍率が選択された.通常,対象領域は顕微鏡写真に見られるように,全体の視野から成り立つ.しかし,視野は必要に応じ,組織のゆがみや血管などの不必要な部分を除くためにトリミングされた.

円柱検出ルーチン検査の最初の段階では,対象領域は,重複する水平細片に分けられた.細胞濃度vはそれぞれの細片において,その細片における全ての細胞を網羅する加算値として定義された.

スケールdは,視野内にランダムに位置するあるボックスの巾であり,一つのボックスは平均的に一つの細胞を取り囲む.vの相対的最大値と最小値は細胞円柱の集まりとその間のスペースの中心の場所を示している.vの定義におけるガウス値(?)の全巾は,それぞれ1/2d以下の範囲内の細胞がvの同じ相対的最大値に貢献し,異なる円柱に分解されないほどであることに注意を要する.含まれる領域から来るvへのプライマリーな貢献のために,平均して,一つの細胞水平細片の高さは約2dである.ミニ円柱は本方法では,両サイドの細胞の少ない領域で区画される大型ニューロンの垂直方向の集まりとして定義される.細胞が租な部分に線を書き入れると,多角形の(縦長)領域に区分することができる.我々はこの多角形を,その中に含まれる小型および大型のニューロン全てと共に,ミニ円柱セグメントと呼んでいる.このミニ円柱セグメントからいくつかの記述的統計値を得ることができる.

本研究において,我々は5つの計測値を報告する.円柱巾(CW),末梢神経網空間(NS),ニューロン間距離(MCS),コンパクト性(RDR),そして灰白レベルインデックス(GLI)である.円柱巾(CW)は,単一のミニ円柱の直径を意味し,また同時に隣接するミニ円柱の間の中心から中心までの距離を示す.末梢神経網空間(NS)は,ミニ円柱の両側にある細胞成分の少ない部分の巾であり,円柱巾(CW)から円柱コアの巾を減じた値である.円柱コアは,細胞体の90%を含む円柱部分として定義される.円柱の細胞の10%までは,末梢神経網空間と称される領域に存在する可能性があるので,末梢神経網空間(NS)の値は“outlier”ポイントを反映しない(?).ニューロン間距離(MCS)は,円柱内の隣のニューロンとの間の平均距離である.コンパクト性のパラメーターであるRDRは,細胞分布の第二モーメントの比率(より大きなもの対より小さなものの比率)を,ミニ円柱全体の第二モーメント比で割った値で,細胞のない空間を含む.

我々の方法は細胞を数える方法ではないので,ニッスル染色で染まるセグメントで占められる領域分画を計測することで細胞密度を評価した(GLI).円柱検出の前に,GLIはオリジナル画像から閾値を設定してコンピューターで計算した.閾値以下のピクセル数である,ニッスル染色で染色される対象物の全領域を,画像の(全)領域で割ってGLIを得た.この計測値は細胞数を示すものではないが,ミニ円柱の中で細胞体が占める空間の量を推定することができる.

結果

分散の多変数解析は,固定因子として,診断(健常か自閉症か),半球(右か左か),皮質領域を,そして依存性の変数として,円柱巾(CW),末梢神経網空間(NS),ニューロン間距離(MCS),コンパクト性(RDR)そしてニッスル染色部分比(GLI)を使って行われた.年齢は共分散として含んで解析した.予備的な検定では,固定因子として病理組織の入手先(YokovlevかBauman-Kemperか)を設定し,二つのコレクションから得たコントロール脳の間に違いがないかを検討した(違いはなかった).Wilksのラムダ値を使った全体の多変数検定では,自閉症者とコントロール群の間に違いが明らかになった(p=0.002).脳エリア対診断の相互関係では危険率は0.388.ミニ円柱は自閉症でより巾が狭く,平均円柱巾(CW)が46.8ミクロンで,健常脳では52.8ミクロンであった(p=0.034).末梢神経網空間(NS)は,コントロール群で22.8ミクロン,自閉症で18.7ミクロンと自閉症で減じていた(p=0.007).同じくコンパクト性(RDR)は,コントロールで1.37,自閉症で1.19であった(p=0.001).ニューロン間距離(MCS)とニッスル染色部分比(GLI)における違いはコントロール群における値のおよそ1%しかなかった(25.8ミクロンと19.4%).

自閉症とコントロール間の違いは,パラメーター(CS,MCS,NS,RDR)の主要成分解析によって目に見えるようにすることができる.パラメーターは異なる計測スケールであるので,主要成分は分散マトリックスよりもサンプル相関マトリックスから抽出された.最初の2つは,

C1=0.566・CW’;+0.390・MCS';+0.561・NS';+0.475・RDR';

C2=0.059・CW';-0.826・MCS';+0.041・NS'+0.560・RDR';

であり,データの多様性の91%を説明する.式中のプライム(’)は変数が平均ゼロとユニット分散に標準化されていることを示す.C1は全体的な円柱サイズを意味し,他の3つのパラメーターと円柱巾(CW)の正の相関に配慮している.一方C2は,主にニューロン間距離(MCS)とコンパクト性(RDR)に依存しており,細胞濃度の計測値である.

9例の自閉症ケースの中で4例は,それぞれの年齢での平均より標準偏差の2倍以上脳重量が大きい大頭症であった.しかし,それらの中の一例は全体的な浮腫を呈していた.脳重量はコントロールの多くでは情報がなく,従って解析の因子としては含めなかった.しかし,そのままの状態での重量は,一例のコントロール例と自閉症者全員の脳について情報が得られた.これらのケースの解析では,脳重量が円柱巾(CW),ニューロン間距離(MCS),末梢神経網空間(NS),コンパクト性(RDR),またはニッスル染色部分比(GLI)と密接には相関していなかった.ゆえに,得られなかった重量データは結果に影響を与えていないと考えられる.

考察

我々の結果は,自閉症者における細胞ミニ円柱はコントロールに比べその巾が小さいことを示した.特に自閉症者の脳の細胞円柱は有意に小さく,末梢においては神経網空間が少なく,その形状においてもコンパクト性が小さかった(つまり細胞がより散在している).この異常は検討した3領域の全てで観察され,つまり前頭前皮質のエリア9,側頭葉のエリア21とエリア22(Tpt)にみられた.また,この結果は全体的な灰白質レベルインデックスにおいて2群間で差がないことを示した.

本研究における灰白質レベルインデックスは数百ミクロンのスケールで,細胞密度の計測値である.他の論文で,我々は同じ自閉症群を使い灰白質レベルインデックスの異常を報告している.その論文では,10ミクロンのスケールでの非均質性を記載する方法を使った.両者を併せて,灰白質レベルインデックスは,細胞密度における一致する差異がなくても細胞の小スケール分布における相違があることを示唆する.ゆえに,自閉症者の脳のより小さいミニ円柱における個々の細胞が,その相対分散比(つまりRDRパラメーター,細胞のコンパクト性を示す)によって反映されるように,より散在しているということを意味する.

我々のサンプルにおける計測値の全ては,顕微鏡視野ごとに得られた.このことは,皮質の縦方向の広がりごとに,サイズは減じているが,自閉症者の脳がより多くのミニ円柱を持っていることを意味している.この新奇な細胞構造配列は細胞ミニ円柱の神経発生の時期に起こっているかもしれない.哺乳類の脳の進化では,厚さよりも皮質表面の拡大が強調されている.このことは,皮質の巾がわずかに2倍になったことに対して,皮質表面はほぼ1000倍になったことで明らかである.研究者たちは観察された皮質表面の拡大が個体発生学的細胞円柱の数の増加に起因することを想定している.このモデルでは,もしそれらが自然淘汰により正当化されたのであれば,ミニ円柱の数が増加したことで生じた新しいパターンのコネクションが確立されるであろう.これらの過剰な円柱が,増殖ゾーンにおける対称性および非対称性の細胞分裂のタイミングと比率をコントロールする制御遺伝子の変異により生じるのかどうかを決定するためには,追加研究が必要である.

進化はミニ円柱でもマクロ円柱でもそのサイズを基本的にはコンスタントに保ってきた.一方,総皮質表面領域は進化の過程で増加しつつあり,より多きな脳においては脳あたりの円柱がより多いことになり,従って,より処理ユニットが多く複雑性が増加する結果となった.このようなゆっくりとしたプロセスの中で,淘汰プレッシャーは,当たらし細胞円柱の追加がその生物に利益を与え,または少なくとも順応性がないことにはならないことを確実にしてきた.自閉症においては,処理ユニットの有意な増加が起こっており,正常の淘汰プレッシャーにはさらされていない急性のイベントである.

もし,自閉症において視床末端が同じに保たれており(現時点で不確か),そしてミニ円柱がより小さければ,視床の求心性の端末あたり,正常の脳におけるより多くのミニ円柱が神経線維を受けていることになる.過剰の処理ユニットを脳の連結パターンによって同化することに失敗すれば,皮質ノイズが発生するかもしれない.皮質ノイズとは,システムに負担をかける付加活性ユニットのことである.

いくつかの概念的分類の中では,自閉症は脳の覚醒調節システムの障害と考えられていた.この説によると,自閉症者は過剰覚醒の慢性状態を経験しており,この覚醒を消すために異常行動を呈するとしている.この覚醒説は,抑制性介在活性の減少と矛盾せず,ある意味でおもしろい.皮質は脳のためのミニ円柱構造を定義する抑制性二重bouquet(花束?)細胞を含んでいることが知られている.これは,ある研究者が「強力な垂直に向かった抑制の流れ」と呼んだものである.GABA支配のニューロンによって起こる側方抑制は,個々のミニ円柱の不連続性を確立する手助けをしている.そして発達の段階では,隣のミニ円柱が機能的に異なる視床ニューロンのセットとコネクションを作り上げることを促す.これらの側方抑制の欠如は,視床インプットと円柱の間の連結パターンを大幅に変え,集合状態に向かわせるであろう.その結果,感覚情報の競合タイプを区別する能力に影響するかもしれない.


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