自閉症の極端男性脳理論
図あり(1個)


Baron-Cohen S. The extreme male brain theory of autism. Trends in Cognitive Sciences 6: 248-254, 2002.
 
訳者コメント:話題に掲載したBaron-Cohenの自閉症の極端男性脳理論の最新版です.前論文では,男性脳と女性脳の違いを folk physics(現象の物理的把握・物への興味) と folk psychology(現象の心理的把握・人,心への興味) としていますが,本論文では,さらに進めて,systemising (システム化すること)と empathising(共感すること) としています.自閉症者は,極端にシステム化が得意で,共感することが苦手な極端男性脳であるという理論です.極端男性脳理論が,アスペルガーによって1944年に提唱されていたことも興味深いです.アスペルガーはBaron-Cohen同様,自閉症,アスペルガー症候群の子供たちに愛情と尊敬を持って研究していた人と思われるからです.また,優れたシステム化能を持つという理論が統合的一貫性虚弱説weak central coherenceよりも自閉症者の才能を説明できるという説明も納得がいきます.Baron-Cohenは自らの理論を進化させているようです.

(概訳)

概要:キーとなるメンタルドメインで,これまで性差について伝統的に研究されてきたのは,言語能力と空間能力である.本論文で,私は人間の性差を理解するための二つの無視されてきた面は,‘共感すること’と‘システム化すること’であると提案する.男性脳は,精神測定学的に,システム化することが共感することより明らかに優れている人たちとして定義される.また,女性脳はその反対の認知プロフィールとして定義される.これらの定義を用いると,自閉症は正常男性プロフィールの極端であると考えうる.自閉症の極端男性脳理論への心理学的エビデンスは増加している.

(イントロ)

 ‘共感すること’は,他の人の感情や思考を認知し,これらに適切な感情で応える動因である.共感することは,あなたに人の行動を予測させ,他人がどのように感じるかについて配慮させる.本論文では,概して,女性は元来男性よりも強く共感する傾向があることを示すエビデンスをレビューする.‘システム化すること’は,あるシステムの中のいろいろなものを分析し,システムの行動を支配する内在する規則を引き出す動因である.システム化することはまた,システムを構築する動因にも関係する.システム化することによって,あなたはシステムの行動を予測し,それをコントロールすることができる.ここではまた,概して男性は元来女性よりも強くシステム化する傾向があることを示すエビデンスをレビューする.

 共感することempathisingは,通常の英語の‘empathise’(共感する,感情移入する)の意味と近いので紹介の必要は殆どないだろう(後で短く述べる).しかし,システム化することsystemisingは,新しい概念であり,若干,より多くの定義が必要であろう.‘system’という言葉は,インプットを取って,アウトプットを産出するものの意味である.あなたがシステム化するとき,あなたは‘もしーそれなら’:if-then(相関性)規則をつかう.脳は,そのシステムの一つの細部やパラメーターに焦点をあわせ,これがどう変化するか観察する.すなわち,脳は,物事を変化する物として扱っている.または,人は,この変化する物を積極的に操作する(それでsystematicallyという表現が存在する).彼らは,システム内のどこにインプットがあってもその効果(つまりアウトプット)に気づく.‘もし,私がXをしたならば,Yがおこる’.よって,システム化するためには,細部への正確な目が必要となる.

 人間の脳が分析したり組み立てたりできるシステムは,少なくとも6種類ある:  

(1) テクニカルシステム: コンピューター,楽器,ハンマーなど

(2) 自然のシステム: 潮,気候前線,植物など

(3) 抽象的(理論的)システム: 数学,コンピュータープログラム,統語論(シンタックス)など 

(4) 社会的システム: 政治の選挙,法律のシステム,ビジネスなど

(5) 体系化できるシステム: 分類学,収集,図書館など

(6) 運動のシステム: スポーツテクニック,パフォーマンス,楽器演奏のテクニックなど

 システム化は,帰納的なプロセスである.あなたは,毎回何が起こるかを観察し,くりかえされるサンプリングから出来事についてのデータを集め,しばしば,その出来事内のいくつかの変化する物の違いを定量したり,結果の変化との相関関係を定量したりする.信頼できる関連のパターンを確かめた後に−予測できる結果を引き出し−そのシステムのこの面は,どのように働くかについての一つの規則(ルール)を作る.例外が起こったときは,そのルールは改良されたり,修正される;例外がなければ,そのルールは保たれる. 

  システム化は,実に究極的に法定的で限定的で決定的な現象のために行われる.その説明は正確であり,かつその真偽は解除可能である.(例:スイッチAが押されているので,そのライトはついている.) しかしながら,人間の行動の刻一刻の変化の予測となると,システム化は殆ど役に立たない.人間の行動をを予測するには,共感することが要求される.システム化することと共感することは全く異なる種類のプロセスなのだ.

 Empathising共感することは,他人の精神状態を認識することを含み,また,他人の感情状態に対し適切な感情反応をすることを含む.それは,時々‘心の理論’とかmentalisingとかいわれることだけでなく,英語の言葉‘empathy’と‘sympathy’によって意味されることも含む.システム化することと共感することは,一つの意味では似ている−両方とも我々に出来事の意味を理解させ,信頼できる予測をさせるプロセスである−が,他の点では,殆どお互いの反対である.共感することは,たいしたデータもなく,飛躍しすぎた想像をすることも含む(‘多分,彼女が電話してこないのは,私のコメントに傷ついているからなんだわ’といったような考え).原因の説明は最善でも‘maybe(多分)’だし,真実は決して証明できないであろう.システム化は,法則が律する生物ではない宇宙を理解したり予測したりするための我々の最強の手段である.共感することは,社会的世界を理解したり予測したりするための我々の最強の手段である.そして究極的に,共感することとシステム化することは,人間の脳のそれぞれ独立した領域によるもののようだ. 

 

ブレインタイプ(脳の主なタイプ)

 システム化することと共感することは,男性脳と女性脳を定義するにおける二つのキー面(dimension)であることを示していこう.我々は皆,システム化するスキルと共感するスキルの両方を持っている.すぐに五つの脳タイプがあることが把握できるだろう.(図1も参照)

(1) 共感することがシステム化することより発達している人々.E>S (タイプE)  これは‘女性脳’と呼ぶ.

(2) システム化することが共感することより発達している人々.S>E(タイプS) これは‘男性脳’と呼ぶ.

(3) システム化することと共感することが同等に発達している人々.S=E  これは‘バランスのとれた脳’(タイプB)と呼ぶ.

(4) 極端男性脳をもつ人々.S>>E(極端タイプS)  彼らの場合,共感することは発達が少ないが,システム化することは過度に発達している.すなわち,彼らは才能あるシステマイザーであるかもしれないが,同時に‘マインドブラインド’でありうる.本論文で,我々は自閉症スペクトルにある人々が男性脳の極端のプロフィールに合うかどうか見ていく.

(5) 最後に,我々は女性脳の極端の存在を仮定する.E>>S(極端タイプE) この人々は,過度に発達した共感するスキルをもつが,彼らのシステム化の発達は少ない:彼らは‘システムブラインド’である.

図1

 

 以下にレビューするエビデンスは,すべての男性が男性脳タイプであるわけではなく.またすべての女性が女性脳タイプであるわけではないことを示唆する.言い換えると,いくらかの女性は男性脳タイプであり,いくらかの男性は女性脳タイプであるか,部分的にそのいくつかの面をもつ.本論文の中心となる主張は,単に,女性より多くの男性がタイプSの脳をもち,男性より多くの女性がタイプEの脳をもつということである.Box 1にこれらの性差における文化と生物学の役割を明らかにする.

Box 1.文化と生物学

1歳で,男の子は人の顔が出てくる映画を見るよりも,車が走り過ぎて行く(予測可能なメカニカルシステム)ビデオを見ることをより強く好む.小さい女の子たちは,反対の好みを示す.また,1歳までに女の子は男の子よりもアイコンタクトが多い.この年齢でさえも,社会化がこれらの性差を生じていると論じている人たちがいる.社会化の差が性差に寄与しているというエビデンスはあるが,これは十分な説明になりそうではない.というのは,生後一日の赤ちゃんでさえも,男の子はメカニカルモビール(予測可能な運動法則をもつシステム)の方を人の顔(システム化が殆ど不可能な対象)よりもより長く見ているし,女の子は反対のプロフィールを示すということが,明らかになったからだ.よってこれらの性差は人生のとても初期から存在するのである.このことは,文化や社会化はあなたが男性脳(システムにより強い興味を持つ)を発達させるか女性脳(共感により強い興味を持つ)を発達させるかを部分的に決定するかもしれないが,生物学的背景もまたこれを部分的に決定するのかもしれないという可能性がある.文化的決定論と生物学的決定論の両方に関して十分なエビデンスがある.例えば,1歳(12ヶ月)でのアイコンタクトの総計は,彼らの出生前のテストステロンのレベルと逆相関を示した.

 

女性脳:共感すること

女性の共感することにおける優位性のエビデンスは何か?ここにまとめた研究で,小さいが統計的に有意な程度の性差を見い出すことができる.

(1) 分け合うことと交替すること. 平均して,女の子は公平さにより大きい配慮を示すが,対して男の子はあまり分け合わない.ひとつの研究では,男の子は,女の子より50倍多く競争することを示したが,一方,女の子は20倍多く交替することを示した.

(2)  乱闘ごっこ あるいは ‘rough housing’. 男の子は女の子よりも‘rough housing’(レスリング,ファイティングごっこなど)を多く示す.そこには,遊び好きな要素はあるが,傷つけたり,侵入的になったりし得る.したがって,その遊びには共感することはあまり必要ではない.

(3) 他の人々の悲嘆に共感的に反応すること. 女の子は1歳時から,より多く悲しそうな顔つき,同情的声かけ,慰めなどでより大きな心配を示す.また大人でも,より多くの女性が男性より,しばしば友達の感情的苦悩を分かち合うと報告している.また,女性はまた,知らない人にさえもより多くの慰めを男性よりも示す.

(4) ‘心の理論’を使うこと. 3歳までに,女の子は男の子に先んじて,もう,他の人々が何を考えているだろうか,あるいは何をするつもりだろうかを推測することができる.

(5) 顔の表情への敏感さ. 女性は非言語性コミュニケーションを解読したり,声のトーンや顔の表情から微妙なニュアンスを読み取ったり,人の性格を判断するのがより上手である.

(6) 共感を測定する質問表. これらの多くは女性が男性よりも高い得点を示す.

(7) 関係における価値. より多くの女性が,利他的な,相互的な関係の発達に価値を置く.それは,当然,共感することを要する.それに対して,より多くの男性が,力,政治,競争に価値を置く.女の子は,質問表の協調的な項目を支持する傾向がより多くあり,親密性の成立の方が,優位性の成立よりもより重要であると考えている傾向がより強い.男の子は,女の子より,競争的項目を支持する傾向がより強く,親密性より社会的地位がより重要であると考えている傾向がより強い.

(8) 共感の障害. 精神病質人格障害や行為障害などのような障害は,男性で,はるかにより一般的に見られる.

(9) 攻撃性. たとえ通常のレベルで表現されていても,攻撃性は,共感することが減じられたときだけに生じ得る.ここでもまた,明らかな性差がある.男性は,はるかにより‘直接的’攻撃性(押す,叩く,殴るなど)を示す傾向がある.対して,女性は,より‘間接的’(あるいは‘相関的’,秘密の)攻撃性(ゴシップ,排斥,意地悪な言葉など)を示す傾向がある.直接的攻撃性には,間接的攻撃性より,ずっと低い共感レベルしか要さないかもしれない.そして,間接的攻撃性には,直接的攻撃性が要するより,より優れたmindreading(心を読む)スキルが必要である.なぜなら,そのインパクトは戦略上重要だからだ.

(10) 殺人. これは,共感の欠如している究極の例である.DalyとWilsonは,過去700年以上にさかのぼって,さまざまな社会範囲での殺人記録を分析した.彼らは,‘男性対男性’の殺人が‘女性対女性’の殺人の30から40倍多かったことを見い出した.

(11) ‘支配階層’を設立すること. 男性は,より早く支配階層を確立する.このことは,部分的には,彼らのより低い共感するスキルを反映している.なぜなら,支配階層はしばしば他の人たちをこき使っているひとりの人がリーダーになるために設立されるからである.

(12) 言語スタイル. 女の子の話し方は,より協調的で,相互性があり,協力的である.具体的に言うと,これもまた,女の子が相手との会話のやり取りをより長く保つことができることに反映される.女の子が意見が合わないときには,彼女たちは彼らの異なる意見を断定的に言うよりむしろ質問の形でデリケートに言い表す傾向がある.男の子の話はより‘single-voiced discourse’(話し手は自分の考え方のみを話す)である.女性のスピーチスタイルは,より‘double voiced discourse’(女の子は相手との交渉により多くの時間を使い,相手の望みを考慮に入れようとする)である.

(13) 感情についての話. 女性の会話にはずっと多くの感情についての話が含まれるが,対して,男性どうしの会話は,より物や活動に焦点を当てる傾向がある.

(14) 子育てスタイル. 父親は母親よりも赤ちゃんを顔と顔が向かい合うように赤ちゃんを抱くことは少ない傾向がある.母親は遊びにおいて子供のトピックの選択に最後まで付き合う傾向がよりあるが,父親は自分自身のトピックを押し付ける傾向がよりある.

(15) 顔の優先とアイコンタクト. 生まれた時から,女性は,より長く人の顔を見るし,特に人の目を見る.そして,男性は生命のない物を見る傾向がよりある.

(16) 女性はまた,男性よりも一般によりよい言語能力をもつことが明らかにされてきた.おそらく,よく共感することは,言語発達を促進するだろうし,逆に言語発達も共感を促進するだろう.それでこれらは独立したものではないかもしれない.

 

男性脳:システム化すること

男性脳に関連してエビデンスが必要なドメインは,原則的にルールに支配されているものである.よって,チェスやフットボールはシステムのよい例である;顔つきや会話はそうではない.システム化することは,3つのことを順番にモニターすること:インプット−オペレーション−アウトプットを含む.オペレーションとは,アウトプットを産み出すためにあなたがインプットにしたこと,もしくはインプットに対して起きたことである.

(1) おもちゃ好きなこと. 男の子は女の子よりおもちゃの乗り物や武器やブロック積みやメカニカルなおもちゃに興味を持つが,それらはすべて‘システム化され’やすいものである.

(2) 大人の職業選択. いくつかの職業は殆どすべて男性が占める.これには,金属細工,武器作り.楽器製造,造船などの建設工業が含まれる.これらの職業の中心は,システムを組み立てることにある.

(3) 数学,物理学,工学. これらはすべて高度なシステム化を要求し,大部分男性優位な分野である.The scholastic Aptitude Math Test(SAT-M)は,アメリカ合衆国での大学志願者に全国的に行うテストの数学部門である.このテストで,男性は女性より平均点が50点高い.700点より上だけをとってみると,男対女は13:1である.

(4) 建設的能力. もし,あなたが人々に3-D(立体)の機械的装置を組み立てタスクで作るように頼んだなら,平均して,男性がより高い得点をあげる.男の子はまた,2-D(平面)青写真からブロックの建物を作るのがよりうまい.レゴのブロックは組み立てては組み立てなおして無限の数のシステムができる.男の子はレゴで遊ぶのにより大きな興味を示す.男の子は3歳にして,特大レゴで3-Dモデルと同じに作るのがより速い.より大きな男の子では,9歳から,もし,それが平面に設計されているなら,3-D(立体)の物がどのように見えるかを想像することがより優れている.彼らはまた単に上から見た図と正面図から3-D構造物を組み立てることがより優れている.

(5) 水位タスク. 初めにスイスの児童心理学者Jean Piaget(ピアジェ)によって考案されたのだが,このタスクは,誰かに空のビンを見せ,ななめに傾けて,水を半分入れた時の水位になるところを示してもらうというものだ.女性はしばしば水平になるべき水位ををビンの傾きに並べて(ビンの底と平行に)描いてしまう.

(6) ロッドとフレーム(棒と枠)テスト. もしも,人の垂直位の判断がフレームの傾きに影響されるならば,その人たちは,‘フィールド ディペンデント’であると言われる:彼らの判断は周囲脈絡the surrounding context内の外からのインプットによって容易に動揺する.もし,フレームの傾きに影響されないならば,彼らは,‘フィールド インディペンデント’であると言われる.大抵の研究は,女性はよりフィールド デペンディントであることを示していた−すなわち,女性は相対的に,システム内のそれぞれ変化する物を別々に考えるよりむしろ,脈絡上の手がかりによってより混乱させられる.女性は男性よりも,ロッドがフレームに並んでいれば,ロッドが垂直であると(間違って)言う傾向がよりある.

(7) 関連ある細部への十分な注意. これは,システム化することの普遍的特徴である.それが唯一の要素ではないが,システム化の必要な部分である.関連ある細部への注意は男性が優れている.これを計測するのは,隠し絵課題である:平均して,男性は,より大きな複雑なパターンの中に隠されたターゲットを見つけるのがより速くてより正確である.男性はまた,平均して,特定の物(静的または動的)を見つけるのがよりうまい.

(8) 心的回転テスト. ここでもまた,男性がより速くてより正確である.このテストはシステム化を含む.というのは,あなたはディスプレイの中の各フィーチャーを変換され得る(例えば回転される)変化物とみなして,それがどのように見えてくるか(アウトプット)を予測しなければならないからだ.

(9) 地図を読むこと. 地図を読むことは,システム化のもうひとつの日常テストである.というのは,3-Dインプットからフィーチャーをとらえ,2-Dに表されたときにどのように見えるかを予想することが必要であるからだ.男の子は,女の子よりも高いレベルでそれができる.男性はまた,より少ない試行で道を覚えるし,地図を見るだけで,方向と距離についてのより多くの詳細を正確に想起できる.このことは,彼らが地図の中の情報を3-Dへと変形されうる変化物とみなしていることを示唆している.もし,あなたが,学校の子供たちに彼らが一度だけ訪れた地域の地図を作るように頼んだなら,男の子たちの地図の方が女の子たちの地図よりも周囲の情報のレイアウトがより正確である.女の子たちの地図のより多くは,重要なランドマーク(目印となる建物など)の位置に重大な間違いがある.男の子たちはルートやロードを強調する傾向があるし,一方,女の子たちは特定のランドマーク(角のお店など)を強調する傾向がある.これらの二つの戦略−方向性の手がかり vs ランドマーク手がかり−については広く研究されてきた.方向性戦略は,幾何学的システムとして空間を理解してとらえる一例であり,ロードやルートに集中するのは,別のシステムの見地から空間を考慮している一例であり,この場合,輸送システムである.

(10) 運動のシステム. もし,人々に,ダーツ遊びや発射機から投げられるボールを捕らえたりすることのように,動く物体を投げたり捕まえたりするよう頼んだなら(ターゲット当てタスク),男性がより優れている傾向がある.同様に,二つの動いている物体のうちどちらが速く進んでいるかを判断するよう頼んだなら,男性が,平均して,より正確である.

(11) 体系化できるシステム. アグアルナ種族(北ペルー)の人々が地方の標本100例以上を関連する種に分類するように頼まれた.男性の分類システムには,女性のものより,より多くのサブカテゴリー(例えば,彼らは区別する傾向がより強い)があり,お互いの間により一貫性があった.アグアルナ種族の男性がどの動物を一緒に属させるかを決めるのに用いた判断基準は,西洋の(大部分男性の)生物学者が用いた分類学の判断基準により似ていた.カテゴリーは予測するものであるから,分類と体系化は,システム化を含む.カテゴリーがきめ細かであればあるほど,予測のシステムはより優れているであろう.

(12) システム化の比率. このアンケートは一般人口の大人を対象とした.40項目について,環境に存在する異なるシステムの範囲で(テクニカルシステム,抽象的システム,自然のシステムを含む),被験者の興味のレベルをきくものである.この計測において,男性は女性よりも高得点である.

(13) メカニックス. The Physical Prediction Questionnaire (PPQ)物理学的予測質問表は,工学志願者を選択するための確立された方法に基づいている.タスクは,内部メカニズム(歯車や滑車)の一つのタイプあるいは別のタイプが含まれるとき,レバーはどの方向に動くかを予測することを含む.このテストで,男性は女性よりもかなり高得点をとる.

 

自閉症:男性脳の極端型

自閉症は,社会性の発達とコミュニケーションの異常,並外れた強い強迫観念的興味を示すことが,幼少早期から見られるときに,診断される.アスペルガー症候群(AS)は普通のあるいは高いIQをもち,言葉の発達が遅れていない子供たちにおいて,自閉症のバリアントとして提唱されてきている.今日,約200人に1人が,ASを含む自閉症スペクトラムコンディション(スペクトル)のひとつをもつ.自閉症スペクトラムコンディションは,はるかに女性より男性に多くみられる.高機能自閉症あるいはASの人々では,性比は,女性1人に対し少なくとも男性10人である.これらのコンディションはまた,強く遺伝性があり,神経発達上のものである.脳の複数の領域に構造的また機能的差異があることのエビデンスがある.(例えば,扁桃体が,大きさに異常があり,感情表現の行動刺激に反応しないことなど.)

 自閉症の極端男性脳理論は,最初に,ハンス アスペルガーによって1944年に非公式に提案された.彼は,‘自閉症のパーソナリティは,男性知能の極端バリアントである.正常バリエーションの範囲内でさえも,知能に典型的性差を見い出す.自閉症者においては,男性パターンが極端まで過度になっている.’と記載している.1997年に,この論争を呼ぶ仮説が再検討された.我々は,今や脳のタイプの定義を持つのであるから,極端男性脳理論を経験実験的にテストできる.

 

極端男性脳理論のためのエビデンス

この理論の初期のテストは,この理論が正しいことを証明している.ひとつの結論に収束する複数のエビデンスをここにまとめる.

損なわれた共感

心を読むこと. 女の子は男の子よりも標準的‘心の理論’テストにおいて優れている.また,自閉症児やAS児は,健常男児よりさらに劣る.彼らは,‘心を読むこと’(例えば,他人の気持ち,考え,行動を理解したり予測したりすることにおいて)の発達に特異的な遅れと困難をもつ. 自閉症は‘マインドブラインドネス’の状態と呼ばれてきた.

共感指数the Empathy Quotient (EQ). この質問表で,女性は男性より高得点をとり,ASや高機能自閉症の人々は男性よりさらに低い得点である.

‘目に心を読む’テスト. この目の表情から感情を識別するテストにおいて,女性は男性より高得点をとるが,ASの人々は男性よりもさらに得点が低い.

複雑な顔の表情テスト. 女性は男性より高得点をとるが,ASの人々は男性よりもさらに得点が低い.

アイコンタクト. 女性は男性より多くアイコンタクトをとり,自閉症あるいはASの人々は男性よりもさらにアイコンタクトをとるのが少ない.

言語発達. 女の子は男の子より語彙の発達が速い.また,自閉症児は語彙の発達が男の子よりさらに遅い.

語用論. 女性は男性より,雑談することと会話の語用論に関して,優れている傾向がある.そして,言語のこの面は,まさにASの人々がもっとも困難とするものである.

言動過失テスト. 女性は男性よりも,何が社交上無神経であるか,あるいは,もしかすると人を傷つけたり不快にしたりするかもしれないかを判断することにおいて,優れている.そして,自閉症やASの人々はこのテストにおいて男性よりもさらに低い得点である.

友情質問表(FQ). これは,関係の共感スタイルを評価するものである.成人女性は男性よりもFQにおいて高得点であり,ASの大人は,健常男性よりさらに得点が低い.

 

優れたシステム化

能力の小島. 自閉症スペクトラムの人々の中には,‘能力の小島’あるいは,高度な特異能力をもつ人々がいる.それは,数学的計算,カレンダー計算,統語論習得,音楽,鉄道の時刻表情報などにみられる.高機能例では,この能力は,数学,チェス,機械的知識,また他の事実に関する,科学的,テクニカル,あるいは規則に基づいたものにおいて,かなりの到達点へと導く.これらのすべては,高度にシステム化できるドメインである.それらの殆どは,また,一般人口の男性がより大きな天性の興味をもつドメインである.

細部への注意. 自閉症はまた,細部への格別に細かい注意を払う.例えば,隠し絵課題において,男性は女性より高得点をとるが,ASまたは高機能自閉症の人々は,男性よりさらに高得点をとる.隠し絵課題はそれ自体はシステム化テストではないが,詳細な部分認識の尺度であり,それはシステム化のための必要条件である.視覚捜し課題では,男性が女性より細部によく注意しているし,自閉症あるいはASの人々は,さらに速く正確に視覚的に捜し出す.

規則に基づいた,構造化された,事実に関する情報への好み. 自閉症の人々は,構造化された,事実に関し,規則に基づいた情報に強くひかれる.一般人口においても,この種の情報への男性の偏った好みが見い出される.

直観的物理学テスト. このようなテストにおいて,男性は女性よりも高得点をとるし,ASの人々は,男性よりも得点が高い.

おもちゃの好み. 男の子は女の子より,組み立てたり,車のおもちゃを好む.また,臨床報告は,自閉症あるいはASの子供たちはこれをとても強いおもちゃの好みとしてもっていることを示唆している.

収集. 男の子は女の子より,物を集めたり体系化したりする.また,自閉症の診断は,これがさらに大きな傾向があることを証明する.

閉鎖システムへの執着. 自閉症をもつ大部分の人は,コンピューターのような予測可能なものに生来ひかれる.人とは違って,コンピューターは,厳密な法則にしたがっているし,閉鎖システムである−変化する物はすべて,システム内ではっきり定義されており,知ることができ,予測可能であり,原則的に,コントロール可能である.その他の自閉症をもつ人々は,コンピューターを彼らの理解の的とはしないかもしれないが,同様に閉鎖しているシステム,鳥の移動あるいは汽車の番号などを理解し執着する.

システム化指数. この質問表において,男性はより高得点をとり,自閉症やASをもった人々は,健常男性よりさらに高得点をとる.

 

生物学的また家族に関するエビデンス

自閉症スペクトル指数(AQ). 一般人口の男性は女性よりもAQにおいて高得点をとり,ASあるいは高機能自閉症者は最も高得点をとる.

Sexually dimorphic somatic markers. 指の長さ比の計測において,男性は(左手の)薬指が人差し指より長い傾向があり,自閉症あるいはASの人々はこの特徴がさらに大きい.

早い二次性徴. 自閉症の男性は,テストステロンのレベルの増加に伴って,早い二次性徴を示すことが報告されてきた.

才能の家族性. 自閉症者の父親や(両方の)祖父は,エンジニアなどのような,優れたシステム化能力を要するが,共感することに軽い障害があって(このことも証明されてきた)も成功への支障はない職業についていることが非常に多い.数学,物理学,工学などの分野における才能のある人々の家族に自閉症者がいる率が,人文学分野での才能のある人々の家族に比して,高率である.これら2つの発見は,極端な認知スタイルは部分的に遺伝するものであることを示唆している.

 

A key symptom explained 説明される重要な症状

予測不可能で,あまりコントロールできない事象(人など)は,自閉症をもった人々を不安あるいは無関心にさせる.より予測可能な事象は,彼らにとって高度に魅力的である.彼らが予測不可能な世間に直面している時,彼らは予測可能性や同一性を押し付けようとしたり,癇癪や繰り返しに固執することで人々をコントロールしようとする.自閉症やASをもった人々は,遊び場,友情,親密な関係,職場に最も大きな困難をもつ.そういったところでは,状況は構造化されていないし,予測不可能であり,また社会的感受性が必要とされる.より能力のある人々は,‘if-then’ルールの社会的相互作用のための精神的‘マニュアル’を開発しようとして,ひとつひとつの状況において,どのようにふるまえばよいかの莫大なルールのセットを努力して作り出そうと奮闘していることを報告している.社会適応への自然なアプローチは共感することを通してなされるべきなのに,彼らはまるで社会的行動をシステム化しようとしているようである.

 

central coherence 対 システム化

自閉症に見られる非社会的認知アノマリーのライバル理論は,自閉症の人々は‘weak central coherence’をもつということである.システム化の考えは,異なる視点を提案する:自閉症あるいはASをもった人々は彼らの認知プロセスを最も部分的な細部に集中することで始め,そして,これらがシステム化できるドメインの中での‘変化する物’となりうるかどうかをサーチする.この部分的プロセスへの集中は全体的プロセスの欠損から来ているように見えるかもしれないが,システム化の見地からすると,部分細部は実に最適な(おそらく唯一の)スタート地点なのである.

 さらに,もしだれかがシステムを‘解読’しなければならないならば,そのシステムの次の部分に移る前に,システムの小さい部分に過度に注意すること,少数の関連変化物を支配する規則を取り出し,理解することが,最良である.これは,高度に特殊な事象の細部への(例えば,おもちゃの車の車輪を回すこと)狭い,執着的没頭として,現れるかもしれない.weak central coherence 仮説は,自閉症の言語的脈絡を使えないことが,その理論のエビデンスであると主張している.しかしながら,言語的脈絡は,人の談話のようなものであり,著者の意図を認知することによって意味を成すものであり(それには共感することが必要である),予測可能なルールのセットから出てくるものではない.自閉症の言語的脈絡を使用‘できないこと’は,自閉症者は自動的にシステム化しようとするので,部分細部に狭く集中することから来る,むしろ結果として生じたものであるかもしれない.

 これらの二つの理論を検証する.第一に,weak central coherence理論は,自閉症あるいはASの人々は,全体のシステムを理解するようには決してならないであろうと予測するであろう.全体のシステムは部分的で近接したルール(‘AがBを起こす’,ここでAとBは隣接した成分である.)だけから成るのはでなく,遠隔のルール(‘BがZを起こす’,ここでZは遠く離れている.)からも成り立っている.さらに,システムは部分要素(例えば,音楽の音)だけから成るのではなく,それら要素間の関連(音の間の音程のように)からも成り立っている.自閉症の‘サヴァン’(天才)の研究は,そこにはしばしばそのシステム(数学,音楽,絵,統語論,カレンダー)のルールとそのシステム内の関連パターンへの,優れた暗黙の理解があことを示す.

  これは,まさにシステム化理論が予測することであり,weak central coherenceによっては予測されないことである.アスペルガー症候群の人々が魅惑されたり執着したりするものは,例えば木工細工のように,その作品のデザインは全体レベル(‘システム’としての)でも,システム内の部分細部の技巧の観点からも理解されるものである.Weak central coherence は,そのようなシステムを全体として理解する能力を予測しないであろう.同様に,ASの多くの人々が暗号解読に魅了されるようになるという事実は,システム化理論によって予測されるであろうが,必ずしもweak central coherence理論によっては予測されない.

 

結論と今後の研究

この論文で示されたエビデンスは,男性脳はタイプS (S>E)で特徴づけられ,女性脳はタイプE (E>S)で特徴づけられること,そして自閉症脳は極端男性脳(S≫E)であることを示唆している.図1に戻って見ると,自閉症スペクトル状態の発達は,彼(彼女)らの脳タイプが右手下方の四分画の方へシフトしていることを意味する.男性にとっては,タイプSから 極端タイプSへの小さなシフトである.女性にとって,そのシフトは,タイプEから極端タイプSへとより大きいシフトである.何がこのシフトを起こすのかは不確かなままであるが,候補となっている因子には,遺伝的差異と胎児期のテストステロンの両方が含まれる.

 極端女性脳について我々が知っていること全ては,図1のモデルから,それは発生が予測されるということである.そのような人々はどんなふうだろうか?彼(彼女)らは,グラフの左手上方の四分画に入ることで定義される.彼(彼女)らの共感は,一般人口の他の人々よりも明らかに優れているが,システム化は損なわれているだろう.この人たちは,システムとして,数学,物理学,機械,あるいは化学を理解するのに困難をもつ人々であろうが,他人の気持ちや考えに合わせることが極端に上手な人々であろう.そのようなプロフィールが,何か必然的な障害をもたらすだろうか?極端女性脳をもった人は,‘システム−ブラインド’であるだろう.我々の社会では,そのような人々には,かなり寛容である.彼らの生物学的事実から‘マインド−ブラインド’である人々も社会による同じ寛容を享受するようになることが望まれる.

 共感することの神経回路についてはいくらかわかっているが,システム化の神経回路については今のところ殆どわかっていない.研究が認知のこの面にかかわるキーとなる脳領域をすぐに明らかにし始めるであろうことが望まれる.


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