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言葉の遅れに対する遺伝的影響

Dale P.S. et al. Genetic influence on language delay in two-year-old children. Nature Neuroscience 1: 324-328, 1998.
(概訳)これまでの研究で,遺伝素因に起因する言語障害の存在が知られている.言葉の遅れに関する正規分布の端っこ(遅い方)では,遺伝素因と環境因子は健常者と異なった形で影響を及ぼしているのかを評価するために双子研究を行った.2才時のボキャブラリーを3000ペア以上の双子において評価した.Model-fitting分析では,最も低い5%のグループ(言葉の遅いグループ)で遺伝性が73%と高く,対象者全体での遺伝性25%に比べ有意であった.このことは早期の言葉の遅れは疾病として区別されるべきことを示唆している.言葉の遅いグループでは,共有環境の影響は全体における影響の1/4であった.


(解説)ダウン症や染色体異常,脳性麻痺,低出生体重児など医学的に問題のあるケースは全部対象から除外してあります.自閉症児はこの双子研究に含まれている可能性がありますが記載はありません.2歳の時点での言語能力の発達遅延への遺伝的影響が73%と非常に高いことを初めて示した貴重な報告です.

自閉症について考えてみますと,社会性とコミュニケーション能力のそれぞれ低い方の5%グループ,およびこだわり性の高い方の5%グループの三つのグループにたまたま入る確立は,ありそうな影響を全て無視した場合,0.05×0.05×0.05で0.0125%(一万人に1.25人)ということになります.この数値は,3つの指標についての関連性(“合併しやすさ”)の存在を考えると,自閉症の実際の頻度(一万人あたり3.3人〜16人)とそんなに違わないという見方もできます.つまり自閉症が単なる正規分布の端っこにすぎないのか(quantitativeなのか),特別な発症因子の影響を受けた疾患単位なのか(qualitativeなのか)の議論は,自閉症者と健常者の境目がはっきりしないためになかなか結論がでないわけです.この論文は2歳児のボキャブラリー数については最も少ない5%グループの遺伝性が全体の遺伝性と著しく異なることを双子研究で初めて示したものです.遺伝性が異なれば異なるdimensionと考えていいのかという疑問もありますが,社会性やコミュニケーション能力やこだわり性についてもこのような双子研究が行われることが待たれます.



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