親による早期介入に関するコクランレビューの見解

Diggle T, et al. Parent-mediated early intervention for young children with autism spectrum disorder (Cochrane Review). Cochrane Database Syst Rev, issue 1, 2003.

訳者コメント:

早期から,親がその子の問題点を把握し,その問題点に対処してよりスムーズな発達に導くことは,健常児でも自閉症児でもいいことに決まっています.自閉症児に対する早期介入療育に関しては,専門家による早期介入と,専門家から指導を受けた親による早期介入の両方が注目されており,しばしばその両者が必要であるとされます.親による子育てという強力な共通背景があり,体系的な介入法を行っていない家族でも,児および親自身の問題点の把握・対処・再評価・修正・一般化といった方法を自然に子育てとして行っている場合が考えられますので,そもそも専門家による早期介入の付加的効果自体が有意なものであるのかいまだに議論が存在します.おそらくこのような理由からか,コクランレビューも体系的な介入法の付加的効果そのものに関してこれまでにレビューを出せずにおり,今後の予定にも入っておりません.また,自閉症児の早期介入を無作為化することは,親の療育に関する決定権を行使しないことを前提とするため,倫理的には研究法の選択肢が少なくなってしまいます.

そこで,コクランレビューは,体系的早期介入に親が参加することの意義を重視し,体系的早期介入への親参加の効果にしぼって,サーチ可能な論文全てを客観的に評価し,エビデンスとしてのレベルが十分な論文を探しています.その結果,自閉症の親参加型介入法の効果に関してコクランレビューで話題にできる論文は今のところたった二つだけとしています.

(コクランレビューがエビデンスとして評価できるとした二つの論文)

1. Jocelyn LJ, et al. Treatment of children with autism: a randomized controlled trial to evaluate a caregiver-based intervention program in community day-care centers. Journal of Developmental & Behavioral Pediatrics 19: 326-334, 1998.

2. Smith T, et al. Randomized trial of intensive early intervention for children with pervasive developmental disorder. American Journal of Mental Retardation 105: 269-285, 2000.

論文1は,自閉症入学前プログラム(親参加型介入)とデイケアの両方を受ける群と,デイケアのみの群に振り分け,文献2はLovaas法(集中的介入:行動分析)を1週間に30時間受ける群(親の参加もあり)と,親にLovaas法を指導して行う群に振り分けています.二つの論文の結果の中から,親をトレーニングすることで,子供の言語の評価が有意に良くなることと,児の直接的評価では専門家によるLovaas法(親も参加)の方が親だけによるLovaas法の群よりアウトカムがいいことが参考結果として紹介してあります.親であれ専門家であれ,いっしょうけんめい子供にかかわる人が周りに多いほど到達点が高いという当然の結果と考えることもできます.エビデンスとしては研究方法が不完全として除外された論文の中には,Murdoch早期介入プログラム,TEACCH,ABA(応用行動分析),multi-componentトレーニングプログラム,facilitated play,Enhanced Milieu Teaching(EMT),などの介入法と親の参加に関する論文が含まれています.

重要なことは,体系的・構造的な療育環境を,専門施設や学校だけでのことと限定せずに,家庭や社会に応用することなのですが,TEACCHの理念である社会の構造化の実例を目にする機会は日本ではなかなかありません.フル論文の背景の部分に次のような一文があります.

Programmes may thus have to effect a change throughout the family in order to bring about positive changes in children's skills and behaviour.

社会の中で生きていく自閉症者が自分の持つ潜在能力を使うことができ問題行動が起こらないようにするには,社会全体を変える効果のあるプログラムが必要なわけです.

(概訳)

(背景)自閉症スペクトルの有病率に関する最近の推計では,30年前の推計値に比べ非常に高い値である,少なくとも400人に一人という結果である.自閉症スペクトル児とその家族を援助することが必要であり,また重要である.自閉症児を援助するためにデザインされた介入戦略に,親が参加することは有益であると以前より認識されている.想定されている効果は,スキルの増加と児および親のストレス減少である.

(フル論文中の介入の部分の訳):

最近のレビューによると多くの早期介入プログラムによるアウトカムの改善が示唆されている.しかし,自閉症スペクトルの分野では議論があり,治療効果に関して疑問の残る一連の主張もあり,再現性研究は少ない.早期介入はそのやり方が多様であり,あるものは実施者(仲介者)として親を参加させているが全部の早期介入が親参加型ではない.小児の診断カテゴリーは必ずしも明確な特異性を有していないが,最近の研究は自閉症スペクトルの範囲内にある児を対象者としている.介入プログラムは理論的背景においてかなり多様である.いくつかのアプローチは応用行動分析(ABA)の集中的プログラムを自宅ベースでおこなっており,そのようなプログラムでは,訓練を受けた専門家から最初にやり方を伝授された親が参加している.このアプローチは児の学習に関して正確なコントロールのための個別トライアルトレーニングフォーマットを使っている.発達の全ての面に配慮し,明白な一般化戦略が取り入れられている.視覚的なきっかけ,コミュニケーションルーチン,そして個別課題を通してクラスの環境を構造化することを強調したTEACCHのような,教育プログラムを行っているアプローチもある.TEACCHプロジェクトの目的は,児の独立性を増加させることであり,弱点に注目するよりもむしろ児が持っているかもしれない長所に目を向けるようにデザインされている.最終的に,例えばpivotal response trainingのような,数多くのプログラムが自然主義的なコミュニケーション機会を創ること,社会的相互関係のためのモチベーションを高めること,および特異的な社会的行動をかりたてることが強調されている.この領域の研究は,典型的には1歳から7歳の間の児童を対象としている.それぞれのプログラムは内容については異なるけれども,全てのプログラムは臨床的に切迫していることとして,できるだけ早期に治療を実施することを主張している.

最近のレビューでは,効果のあるプログラムは,かりにその理論的基盤が明らかに異なるプログラムであっても,重要な共通点を持つことが示唆されている.実際,Rogersは,それぞれのプログラムが自閉症の背景となっている神経心理学的処理障害についていかに言及しているかを示すために,明らかに対照的なプログラムの構成要素に関して比較解析を行った.このような神経心理学的処理には,間主観性(intersubjectivity:対象に対する注意の共有の確立を含む個人間共有)や情緒機能(emotional functioning),模倣などが含まれる.自閉症スペクトルの早期介入において効果が得られる傾向にあるプログラムは,一週間あたりの時間数がかなりの時間の集中的プログラムであり,子供の世界の中に厳密なレベルの構造と教育(structure and instruction)が導入されている場合であることをRogersは示唆した.従って,児のスキルや行動に効果をもたらすためには,家族全体の変化がなければならないのかもしれない.自閉症スペクトル児の親は重要な役割を担っており,彼らは介入プロセスの重要な構成要素であり,彼らなしでは効果は維持できるとは思えない.自閉症児を援助するためにデザインされた介入戦略の実施に親が参加することについては,少なくとも30年におよぶ歴史がある.親が参加することで,児同様に親のスキルも増加させストレスを減らす可能性がある.新しいスキルにおいて親を訓練することは,しばしばグループで行われており,参加者相互のサポートを得ることができる.親のスキルが向上すると,一定の巾の状況での学習機会が供給され続けることになる.親をセラピストとして訓練することで,介入を早期に一貫して行うことができるようになり,介入が児の最も早期の社会的相互関係を助長するのに適していることを保証する.

自閉症の介入に関する論文では,早期介入アプローチで特異的に親が行うものを評価しているたくさんの研究が存在する.親参加の効果は,問題行動への対処,親子相互関係の改善,コミュニケーションの助長,そして行動解析アプローチの実施において評価されている.加えて,デイケアあるいは保育プログラムへの親の参加の付加的価値を評価した論文もある.これらの研究は,自閉症スペクトルを持つ児童のための親が行う早期介入に関するエビデンスの強度を評価するために,体系的な方法で検討しまとめる必要がある.

自閉症スペクトルの早期介入に関する以前のレビューの多くは,体系的アプローチでなく,そのために包括性が低い.Smithによる1999年のレビュー以外のレビューは考察で研究の方法論的質を評価しておらず,科学的厳格さを欠き方法論的弱点をかかえている論文を含んでいる.従って,バイアスのかかっているかもしれないエビデンスから結論を導いている.Smithは,論文を包括的検索戦略を使って集めた.彼は集めた研究の質を評価したが,質の基準を満たさない論文を除外することは行わなかった.Smithのレビューは主に行動分析アプローチに関するもので,介入の実施に親が含まれるかどうかに関しては明白には注目していない.また,アウトカム比較に関しては非常に対象が狭く,主に知的機能に関して報告している.多くの自閉症児が知的機能に遅れを持っているが,単独の比較計測として知的テストに依存すると,異なる介入アプローチの正確な評価をすることができない.自閉症スペクトル児における鍵となるアウトカムの計測は,言語,行動そして他者との相互関係の計測を含むようにすべきである.親の訓練の二次的あるいは副次的効果(例えば家族としての機能や親のストレスなどへの影響)もまた異なるプログラムの完全な評価のためには比較すべきである.一つのレビューが,自閉症の早期介入アプローチにおける親の参加について注目している(Probst 2001).しかし,Probstのレビューは体系的アプローチを使っておらず,方法論的質の多様な論文を含み,所見の信頼性を制限している.自閉症スペクトルの介入に,親が参加することの重要性にかんがみ,また最近新しいプログラムが次々とでてくる状況から,信頼できるエビデンスに基づく体系的レビューは,臨床関係者および自閉症スペクトル児の親のために必要な指針を示すであろう.

(目的)このレビューの目的は,1歳から6歳11ヶ月までの自閉症スペクトル児の治療(treatment)において,親による早期介入がどの程度効果的なのかを検証することである.特に,児および親の両方において有益かどうかに関し,そのような介入法の効果を評価することを目的としている.

(検索戦略)一連の心理学データベース,教育データベース,生物医学データベースを検索した.文献リストと重要な論文の参考文献リストをサーチし,各分野のエキスパートにたのみ重要な専門誌は手作業でサーチした.

(選択基準)無作為化研究と半無作為化研究のみを選んだ.(選び出された)研究介入は,まったく治療を受けていないか,早期介入前のグループ,あるいは異なる形の介入群などと比較することによって,親が行う早期介入の効果に特に注目したものである.少なくとも一つの客観的な児に関するアウトカム評価法を使っていた.

(データ収集と解析)含まれる研究の方法論的質の査定は二人のレビューワーにより独立して行われた.介入のタイプ,使われたコントロール群,そしてアウトカム評価法に関する研究間の違いは,膨大過ぎて直接的な比較はできなかった.

(主な結果)このレビューの結果は2つの研究からのデータに基づく.ひとつの研究において,親のトレーニングの重要性を示す二つの有意な結果が見つかった.児の言語と母親の自閉症に関する知識についてである.もう一つの研究において,集中的な介入(親は参加しているが,最初に専門家によって伝授を受けた親が参加)が直接的な評価で,親による早期介入だけよりもより良いアウトカムに関係していた.しかし,親と先生による(児の)スキルおよび行動の認識を評価すると有意差はなかった.

(レビュワーの結論)このレビューは,実際に意味のあることに関してはほとんど提供しない.二つの研究だけであり,それに含まれている参加者の数も小さく,その二つの研究をお互いに直接比較することもできなかった.リサーチに関しては,大規模サンプルを使った無作為化コントロールトライアルが行われることが必要であり,短期的および長期的アウトカムと全体的な経済的評価も必要である.この領域のリサーチには,平等なサービスの利用など,無作為化の障壁がある.


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