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セロトニン受容体サブタイプ5-HT7と自閉症

Lassig JP, et al. Physical mapping of the serotonin 5-HT7 receptor gene (HTR7) to chromosome 10 and pseudogene (HTR7P) to chromosome 12, and testing of linkage disequilibrium between HTR7 and autistic disorder. Am J Med Genet 88: 472-475, 1999.
(概訳)

セロトニン受容体サブタイプ5-HT7をコードする遺伝子(HTR7)は,薬理学的研究結果やリガンド結合研究の結果から,いくつかの神経精神疾患の関連遺伝子の候補の一つに挙げられている.HTR7のイントロン1と2における未発表部分の遺伝子配列を明らかにし,イントロン2に単一塩基多型(C/T)を発見した.自閉症者とその両親の3人を対象とし,53家系においてHTR7部分の遺伝子型を検討するために,対立遺伝子型に特異的なPCR法を行った.伝搬不均衡テスト(TDT)では,どちらの対立遺伝子型においても優位な伝搬の証拠は得られなかった.HTR7のイントロン1と2の両者の遺伝子配列および,セロトニン受容体サブタイプ5-HT7の偽遺伝子(pseudogene)であるHTR7Pの遺伝子配列を使い,HTR7が10q23に位置し,HTR7Pが12p13に位置することが,照射ハイブリッド解析で確認された.

(イントロ)セロトニン系の機能異常は,たくさんの神経精神疾患において想定されている.特に,自閉症の研究では,自閉症者の血液中のセロトニン(5-HT)量が増加していることが報告され5-HTが注目されている.その後,血中の5-HTのほとんどは,血小板中に存在することが明らかとなり,自閉症における増加も血小板中の5-HTの増加であることが報告された.血小板を使った研究は,lysergic acid diethylamide(LSD)のセロトニン受容体サブタイプ5-HT2への結合が,コントロールに比較して自閉症者で減少していることを示した.しかし,薬理学的に定義されるセロトニン受容体サブタイプ5-HT2は,単一のものではなく,最近判明したセロトニン受容体サブタイプである5-HT5Aや5-HT6や5-HT7などを含んでおり,LSDに対する親和性もこれら複数の受容体の総和であることがわかっている.セロトニントランスポーター阻害剤とされる薬剤は,自閉症者においてこだわり行動や攻撃的行動を減じることが知られており,自閉症におけるセロトニンシステムの関与が示唆されている.また,セロトニン受容体サブタイプ5-HT2Aや5-HT7,およびドーパミン受容体サブタイプD2やD4のアンタゴニストであるrisperidoneも自閉症に有効であることが示唆されている.

セロトニン受容体サブタイプ5-HT7の遺伝子(HTR7)の(遺伝子)マーカーは,他の多くの精神科疾患と同様に,自閉症においてもHTR7の関与が考えられているために,特に注目されている.以前Gelernterらは,HTR7のRFLP多型を報告したが,頻度の少ない方の対立遺伝子型は5%以下であることに加え,RFLP解析にはSouthern blots法を使用するため,より多くのDNA量を必要とする.この論文で,我々は,HTR7の第二イントロン部位に単一塩基多型(C/T)を報告し,自閉症発端者とその両親からなるサンプルを対象とした連鎖不均衡解析の結果を示す.また,我々は,HTR7が第10染色体長腕に存在し,偽遺伝子であるHTR7Pが第12染色体上に存在することも確認した.

対象と方法

対象:現在進行中の自閉症関連遺伝子候補研究の一環として,シカゴ大学かカリフォルニア大学で対象が集められた.自閉症の診断はADI-RとADOSを使用.脆弱X症候群,結節性硬化症,近位部15q重複異常,非言語性IQが35以下の例,精神年齢が18ヶ月以下の例,などは除外した.血液サンプルは53人の発端者およびその両親から採血し,Puregeneキットを使い,白血球からゲノムDNAを抽出した.両親のDNAは,対立遺伝子頻度における民族差の検討にも使用した.加えて,片親だけのサンプルや発端者が除外対象であった場合の親のサンプルなど,90例の親のサンプルも民族差の検討に使った.この親の対立遺伝子頻度による民族差の検討(総計196サンプル)では,79.1%がCaucasian,10.7%がアジア人,6.6%がアフリカン・アメリカン,3.6%がヒスパニックであった.

セロトニン受容体サブタイプ5-HT7遺伝子(HTR7)のマーカー:Clontech社のPromoterfinder DNA Walking Kitを使い,HTR7の遺伝子配列が同定されていないイントロン1と2の部分をクローン化した.隣接するエクソンで配列がわかっている部分に,特異的なプライマーを設定した(HTR7の偽遺伝子であるHTR7Pとは,3プライム側の複数の塩基配列が異なるプライマー).DNA断片はアガロースゲルに流し,切り出し,抽出した.抽出したDNAは,サイクルsequencing反応と自動遺伝子解析装置で遺伝子配列を検討した.最初にランダムに選んだ5検体で検討し,多型の有無を検討した.イントロン1と2の約3000塩基対が,隣接する三つのHTR7エクソン部分と共に検討された.エクソン2とイントロン2の境界部から1.8kbほど離れたイントロン2部分に,単一塩基配列の多型(CとTの違い)が見つかった.そこで,この二つの対立遺伝子型を区別して検出するために,C型を121bpのバンドで検出するPCRプライマーと,T型を189bpのバンドで検出するPCRプライマーを設定した.それぞれのPCRは別々に至適条件を設定し,両方のバンドが検出された検体はヘテロ(C/T),片方だけが検出された検体はホモ(C/CまたはT/T)と判断した.検査は臨床情報とはブラインドに行われた.

TDT:両親の遺伝子型結果がそろっている検体においては,伝搬不均衡テストにより,親からの対立遺伝子型の伝搬を検討した.

照射ハイブリッド解析(Radiation Hybrid Mapping):市販されているゲノムパネルを用い,HTR7とHTR7Rのゲノム上の位置を検討した.パネルは,培養細胞から抽出された全ゲノム(人)からなる93個のハイブリッドクローンで,培養細胞の段階で3000radのX線照射を受けている(欠損染色体のある培養細胞).全てのクローンの遺伝子は既知のもので,Whitehead研究所/MITのインターネットサーバーで解析されたものである.HTR7の照射ハイブリッド解析のためのプライマーは,イントロン1の173bpの部分が増幅されるように設定した.HTR7Pは,同様のイントロン部分がないため,このプライマーペアではHTR7だけが特異的に増やされる.HTR7Pのプライマーも,同様にHTR7を増幅しないように設定され,HTR7Pの139bpの部分だけが増幅される.93個の全ての照射ハイブリッドクローンは,コントロールと共に,40サイクルのPCRにかけられ,アガロースゲルにてバンドの大きさ(有無)を検討した.

結果

伝搬不均衡:検討された親106人のうち,35人はヘテロ(33%)で,対立遺伝子型伝搬に有意な不均衡はなかった.この対立遺伝子型に関しては,民族間の頻度差がみられた.

HTR7とHTR7Pの場所:HTR7は第10染色体(10q23)に,HTR7Pは第12染色体(12p13)に存在することが示された.

考察

HTR7に存在する単一塩基多型を使ったTDTの結果,HTR7は自閉症の関連遺伝子ではないようである.しかし,今回検討されたヘテロの親からの伝搬の数は少ないため,感度に限界がある.加えて,自閉症は複数の遺伝子が関与するものと言われており,それぞれの関連遺伝子座の役割は大きなものし自閉症においてHTR7に関連遺伝子変異が存在するとしても,特に50kb以上関連遺伝子と多型マーカーが離れていれば,強い連鎖不均衡は得難い.同様に,もしランダムな遺伝子変異が発端者に新しく生じていたとしても,伝搬不均衡解析では検出できない.しかし,自閉症の双生児研究や家族研究により示唆された強い遺伝素因を考えると,このことは理解しがたい.もし,セロトニントランスポーター遺伝子やガンマアミノブチル酸(GABA)A受容体サブユニットベータ3遺伝子のような他の遺伝子座が,自閉症の関連遺伝子として動定された場合には,HTR7の遺伝子多型や他の遺伝子座における遺伝子型は,遺伝子相互の関係により遺伝素因となり得る遺伝子型である可能性を検討しなければならない.

今回検討した遺伝子型には,民族差がみられた.アフリカンアメリカンでは高率にヘテロであり,民族差として報告されている他の例と同じである.この民族差の存在は,サンプルが単一でない場合に偽陽性を生じないTDTのような統計解析の必要性を示唆している.しかし,TDTは,サンプルが単一でない場合に偽陰性となる場合も報告されている.

自閉症や他の疾患における5-HT7の役割を確認するためには,さらなる研究が必要である.自閉症の関連遺伝子としては,HTR7は否定的であったが,他の疾患においても検討する必要がある.HTR7が候補関連遺伝子と考えられているいろいろな神経精神疾患に関して伝搬不均衡解析が行われるであろう.


(解説)セロトニン受容体サブタイプは,シナプス前受容体として,5-HT1Bと5-HT1D,シナプス後受容体として,5-HT1A,5-HT2A,5-HT2B,5-HT2C,5-HT3,5-HT4,5-HT6,5-HT7など多数が知られております.この論文は,5-HT7のイントロン部分の多型と自閉症に関する検討です.


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