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HOXA1およびHOXB1の対立遺伝子バリアントと自閉症

Ingram JL, et al. Discovery of allelic variants of HOXA1 and HOXB1: genetic susceptibility to autism spectrum disorders. Teratology 62: 393-405, 2000.

訳者コメント:

サリドマイドと自閉症の話題を提供したRodier先生のグループからのHOX遺伝子に関する報告です.話題のコーナーでは「これまでのところ一部の自閉症での関与が示唆されただけです」とご紹介しております.人のHOX遺伝子は13個,4種(A, B, C, D)があり,HOXA1やHOXB1は,神経系の発達を含む頭部の分化・発達に関与します.HOX遺伝子の組み合わせは,HOXコードと呼ばれ,マスターキー遺伝子を含む転写因子遺伝子カスケード(T-box, Sonic-hedgehog, fibroblast growth factorなど)の各体節における頂点をなし,四肢の形成をはじめ形態的形質を規定していることがよく知られています.HOX遺伝子産物はホメオボックス構造を持つ蛋白で,ホメオボックス構造を持つ遺伝子に含まれるものの中には家族性狭頭症でその異常が同定されたものもあります(MSX2など).“統計の魔術”的な側面も多分に含んでいますが,沖縄で行われている軽症狭頭症(三角頭蓋)の手術の問題にも関連しており無視できない論文です.統一性がなくていつも申し訳なく思っているのですが,ここではautism spectrum disordersを自閉症スペクトルと訳しました.論文中では自閉症スペクトルとその家族の言語発達遅滞を有症候者と記載しています.強調されているHOXA1のA218G変異はアジア系コントロールでは1例もなく,日本での検討が待たれます.

(概訳)

(まとめ)
家族研究の結果は自閉症スペクトル(autism spectrum disorders)における遺伝素因の重要性を示したが,発現形質としては多様性が存在する.HOXA1とHOXB1は,後脳(hindbrain)の発達に不可欠な遺伝子であるが,この遺伝子の欠損型変異を持つマウスは自閉症的表現形質特性を持っていることが知られていた.しかし,これまで哺乳類においてはこの遺伝子の変異は同定されていなかった.自閉症スペクトルの対象者のゲノムDNAの遺伝子配列を検討し,HOXA1における置換変異とHOXB1における挿入変異がみつかった.両者ともコーディング遺伝子部位の変異であった.56人の自閉症スペクトル者と,166人の親族を検討した.自閉症スペクトルでない対象者は2つのグループに分け,それぞれのグループでこの変異の頻度を算出した.遺伝子型はHardy-Weinberg分布に適合され,また遺伝子伝搬のメンデルの予想値への適合が吟味された.変異の頻度はヨーロッパおよびアフリカ由来の人種においては10−25%であった.Hardy-Weiberg分布から予測されるHOXA1遺伝子型の比率からは有意な偏りが存在し(p=0.005),自閉症スペクトル者においては,遺伝子伝搬におけるメンデルの法則による予想値とは有意な偏りが存在した(P=0.011).同じ解析でHOXB1には統計的に有意な効果は検出されなかったが,自閉症スペクトル易罹患性において,HOXA1およびHOXB1と性との間に相関が存在した.この結果は自閉症易罹患性におけるHOXA1の重要性を支持し,自閉症スペクトルの病態において早期の脳幹損傷が関与することを示唆する証拠を提供する.

(イントロ)
自閉症スペクトルには,自閉症,アスペルガー症候群,小児期崩壊性障害,特定不能の広汎性発達障害が含まれ,社会的相互関係における障害,コミュニケーション障害,および興味と活動の制限され反復性のパターンを呈する.頻度は1000出生に1人以上で1000人に6人というデータもあり,最も多い先天的異常とされる.その原因は多因子性であることが知られており,遺伝パターンに関する家族研究は遺伝素因の存在を支持している.一卵性双生児における自閉症診断の一致率は少なくとも60%とされ,二卵性一致率は3−6%である.自閉症者の親族においては診断には至らないまでも自閉症的傾向がみられ,いくつかの症候については一卵性一致率が86%,二卵性および兄弟における一致率が15%である.他の障害児の親と比べ自閉症スペクトル児の親には言語に関する症候が有意に多い.また,社会性障害は,一親等および二親等親族で高頻度に報告されている.自閉症スペクトル家系における自閉症軽症例の検討では,Szatmariらが診断単位ではなく家系内の多様性症候形質であることを示した.

妊娠中にサリドマイドに暴露したケースで自閉症が高率にみられるという所見は,自閉症が催奇形性物質によって誘発される可能性を示した.また,自閉症のリスクを高めるもうひとつの催奇形性物質はバルプロ酸(valproic acid)であり,三番目にアルコールを挙げることができる.サリドマイドでは,動眼神経,滑車神経,顔面神経の機能異常を呈し,それぞれのケースは聴力障害と耳の奇形を合併していた.このような所見全ては,サリドマイドの子宮内暴露においては以前から知られていたことである.脳神経機能の異常頻度の増加,聴力障害,耳の奇形などは特発性の自閉症例でも同じ様に報告例があるが重要視されてはいない.しかし,行動学的所見以外のこのような症候は,主な障害の原因になっていようがいまいが,障害の発生時期が胎児ステージのいつなのかを示す証拠となるため自閉症スペクトルの病態を理解するためには非常に重要であろう.

サリドマイド暴露の結果は何千ものケースで検討され,サリドマイドにより誘発される特異的な形態的異常が決定される胎児発達ステージについてもよく知られている.従って,サリドマイド暴露が自閉症を誘発する決定的な時期についても患者の外表奇形から推定することができる.86症例を評価し,15例だけが耳の奇形を持ち後期暴露を意味する四肢の奇形のない症例である.この15例のうち4例が自閉症であった.耳の奇形と四肢の奇形の両者がある自閉症者が1例あったが,これはおそらく反復損傷を意味しているであろう.四肢の奇形のみの患者はいなかった.この結果は自閉症者は全て,受精後20−24日の間に何らかの損傷を受けたことを示す.この時期は神経管が作られる時期で,中枢神経が複数の菱形部(rhombomeres)に分かれている時期である.

中枢神経の発達のこの早期には,形成されている神経細胞はわずかで,ほとんどは目,顔,舌,顎,喉,そして喉頭の動きをコントロールする脳神経の運動神経細胞である.サリドマイドによる自閉症と特発性ケースにおいて共通するいくつかの神経支配の機能障害は,作用時期が耳への効果から想定されることを支持する.なぜならバルプロ酸が誘導する自閉症の場合は耳の奇形が存在するからである.実験的に妊娠早期にバルプロ酸に暴露した動物では,耳の奇形といくつかの脳神経核細胞の減少の両者が報告されている.特発性の自閉症例でよく吟味された報告においては,脳の組織学的検討で,顔面神経核と上オリーブ核(聴覚リレー神経核)の両者がほぼ消失している.脳は橋延髄ジャンクションの部分で短くなっており,このことは発達のより後のステージで消失したというよりも,欠損している構造は形成されなかったことを指している.

人の脳における欠損のパターンは,少なくとも菱形部のひとつ(第五)の発達障害が示唆され,顔面神経核と上オリーブ核の全てがこの部分に由来する.マウスにおいては,発達早期の遺伝子の欠損変異は,同じ様な形態的変化を誘導する.例えば,Hoxa1ノックアウトマウスでは上オリーブ核,滑車神経核,顔面神経核の前部が欠失しており,このことは菱形部の4−6番目の発達障害を示唆する.Hoxa1の機能を欠く動物では内耳,中耳,外耳の奇形が報告されている.Hoxb1ノックアウトマウスでは,詳細は不明であるが,顔面神経核神経細胞のより大きな欠損と顔面表情筋の中枢性機能障害を認めた.Hoxa1とHoxb1は共にショウジョウバエの遺伝子に由来し,マウスにおいては第6染色体と第11染色体上に,人においては第7染色体短腕と第17染色体長腕に位置する.Hoxa1とHoxb1は両方共サリドマイド(自閉症)ケースの暴露時期と同じ神経管形成期にのみ後脳で発現する.この二つの遺伝子は塩基配列と機能の類似性が保たれており,後脳および関連構造の分節化と決定において協調的に作用する.

自然発生のHoxa1変異や,Hoxb1変異は哺乳類ではこれまでは報告されていない.しかし,発達に重要な下位Hox遺伝子変異は,重症な奇形を生じることが人で知られており,Hoxd13の点変異は両側多指や手-足-陰部症候群の原因となることが報告されている.以上のことから,Hoxa1とHoxb1の遺伝子座は自閉症スペクトルの易罹患性マーカーの候補部位である.我々は,人における両遺伝子座の多型を同定し,特にHoxa1が自閉症易罹患性に関連していることが示唆される結果を報告する.

(対象と方法)
発端者が57名.男性46名,女性11名.家族が166名.発端者のうち49名はニューヨーク,ロチェスターのStrong発達障害センターで集められた.その他の8人は米国のいくつかの大学医科センターで同じ方法で同定された.57名全てが白色人種であった.

発端者全員がDSM-IVの自閉症,Asperger症候群,小児期崩壊性障害,特定不能の広汎性発達障害のいずれかの診断基準を満たした.全員が小児自閉症レーティングスケールまたは改定自閉症診断調査票と自閉症診断観察スケジュールで評価された.全例で,診断は少なくとも2人の熟練した臨床家が確認した.

発端者のうち52名は,一親等,二親等あるいは三親等の家族の自閉症スペクトルの人がいるか,または言語発達遅滞を指摘された一親等家族がいる(親に確認).言語発達遅滞は自閉症の家系でなくても起こりえるが,自閉症スペクトル者の一親等家族に高頻度にみられるため,共通する遺伝的背景が推測されている.言語発達遅滞は典型的な場合医療への相談が行われるため,自閉症の症候(社会的問題,強迫的興味,など)の場合がそうであるのと同様に,家族は自己判断でなく,専門家の診察結果として報告する.発端者のうちの32名は,候補遺伝子の機能に関連した理学所見を呈しており(例えば,esotropia,耳の奇形など),多くは軽症であった.この小奇形の頻度は過去において自閉症で報告された結果と同じ程度である.発端者の中で,72%は精神発達遅滞があり,その81%は男児であった.この値もこれまでに非選択的サンプルで報告されているものと同じである.フェニルケトン尿症,結節性硬化症,自閉症に関連する遺伝子疾患,脆弱X症候群などは含まれていない.

166人の家族の中で,DNAサンプルを採取できた対象者のうち,32名は何らかの発達障害(10人は言語発達遅滞,22人は自閉症スペクトル)の診断基準を満たした.このうち23名(14名の男性と9名の女性)は一親等家族で,5人(男性)は二親等,3人(2人の男性1人の女性)は三親等,そして一人の男性は血のつながりのない家族であった.従って,89名の有症候者のうち68名は男性で自閉症スペクトルが男性に多いというこれまでの統計に一致した.2人の自閉症発端者は一卵性双生児の兄弟を持っており,一例の兄弟は広汎性発達障害,もう一例の兄弟は軽症言語発達遅滞で,両者とも有症候者とした.解析上は,この一卵性双生児例は,1件の遺伝イベントとして扱われた.有症候者ではなかった134名の家族のうち,121名(56人の男性と65人の女性)は発端者の一親等家族であり,13名(5人の男性,8人の女性)は発端者の二親等家族であった.

47人の発端者は両親の検討が可能であった.加えて,2家系からは親-有症候者核家族を3セット追加し,HOXA1とHOXB1の両者をタイピングした50セットの核家族の中には,66人の有症候者(59人は自閉症スペクトルのDSM-IV基準を満たし,7人は言語発達遅滞)と,16人は健常者であった.これら50家系の中で2人の有症候者と24人の健常者からは採血できなかった.

その他の対象者:
自閉症スペクトルと診断されていない2つのグループにおいてHOXA1とHOXB1の変異型頻度が検討された.ひとつのグループは北アメリカの5ヶ所の医科センターで集められた血族関係のない119人の成人で,遅発性神経障害の患者の配偶者または血のつながっていない家族である.性と民族構成は不明であるが,多くはおそらく白人である.二つ目はCoriel民族差パネルにおける9つの異なる民族から10人ずつを検討したグループである.

HOXA1とHOXB1の対立遺伝子多型の検出:
文書での承諾を得,大学施設監査委員会の認可のもとに,採血が行われた.DNAは血液から白血球を分離し,細胞膜破壊後フェノール・クロロフォルム法で抽出された.固定された脳組織からのDNA抽出にはQiagen社のキットを用いた.

HOXA1とHOXB1の第1エクソンはPCR増幅され,HOXA1のPCR産物は661-bp,HOXB1のPCR産物は576-bpである.PCR産物は1%アガロースゲル上に泳動され同定され,その後塩基配列を過去のコントロールや報告されている塩基配列と比較検討した.シークエンスゲル上でヘテロ状態の2つの多型が確認され,父親由来の配列と母親由来の配列を別々にクローニングするためにblunt-endクローニング法を用いた.

HOXA1とHOXB1の第1エクソン内にある変異は,制限酵素切断部位と一致していたため,PCR産物を酵素処理することにより区別可能であった.それぞれの対立遺伝子で少なくとも50サンプルをシークエンシングと酵素処理の両方で検討し,両者の結果が一致することを確認した.その他の検体はPCR酵素法のみで検討した.

(研究デザインと分析)
対立遺伝子変異の頻度は全対象グループで評価された.自閉症の診断を受けていないコントロールグループ(2グループ)では,北アメリカおよび世界におけるこの変異の分布を検討した.発端者と家族では,Hardy-Weinberg分布(2つの対立遺伝子,自由度1)での3つの遺伝子型への適合をかい二乗法にて評価した.自閉症スペクトルが子供である核家族のデータでは次の3つを検討した.(1)ヘテロの両親から有症候者への伝播と健常者への伝播がメンデルの法則に従うか.(2)父親からの伝播と母親からの伝播の比率はどうか.(3)遺伝子伝播比率に性差があるか.結果はかい二乗法で検定した.

(結果)

変異の検出:
HOXA1においては,ヒスチジン反復部の218番目の塩基がアデニンの変わりにグアニンに置換した変異が見つかった(A218G).73番目の位置でヒスチジン反復部中のひとつのヒスチジンコドンがアルギニンになる変異もあり,この変異とA218Gを持つHOXA1を含むPACシークエンスを遺伝子バンクに登録した.ある発端者のいとこの有症候者とその父親においては,A218Gに加えヒスチジン反復部が3コドン欠如していた.

HOXB1では第88番目の塩基の後に9つの塩基の挿入変異(ヒスチジン-セリン-アラニン)が見つかった.この挿入変異がある全例では2つの変異が加わっていた(A315T,G456A).

これらの変異は突然変異ではなく,親から伝播したものであることが確認された.

対象群における対立遺伝子遺伝子型頻度:
HOXA1の218番目の塩基の従来型をA,変異型(A218G)をGとすると,この部分の遺伝子型は,A/A,A/G,G/Gの3つである.ヨーロッパまたはアフリカ由来の民族においてこの変異型が多かった.アジア由来の民族においては30例検討したが,この変異型は一人もいなかった.各グループにおける頻度は57人の発端者で0.202,有症候者家族32人で0.203,健常家族134人で0.164,コントロールグループで0.109であった.

自閉症スペクトル発端者においては,HOXA1遺伝子型におけるHardy-Weinberg分布からの優位な偏移が存在した(p=0.005).有症候家族および健常家族の両方でヘテロタイプの小さな増加とホモタイプの大きな減少が観察された.ホモタイプ(G/G)はコントロール群にもなく,また民族パネル群(各民族10例)でも一例もなかった.このことは自閉症スペクトルでない人々においてもG/G型は存在しない可能性を示唆する.

またHOXB1における挿入変異もヨーロッパまたはアフリカ由来の民族で高頻度であった.+を従来型,挿入変異をINSと表記すると,+/+,+/INS,INS/INSの3つの遺伝子型があるが,ヘテロ型(+/INS)はアジア由来民族では30人中一人のみであった.INS対立遺伝子の頻度は57例の発端者で0.254,31人の有症候家族で0.307(HOXA1で変異型であった一人がHOXB1では変異型でなかった),134人の健常一親等または二親等家族では0.224,コントロール群では0.218であった.

Hardy-Weinberg分布では,HOXB1遺伝子型は統計的に有意な偏りはなかったが,自閉症スペクトル発端者の健常家族においてヘテロ型が少し多い傾向があった(p=0.065).

遺伝子伝播解析:
50例の核家族の中に,68人の有症候者(50人の男性と18人の女性)と40人の健常者(兄弟:13人の男性と37人の女性)が含まれていた.HOXA1に関しては,自閉症スペクトル群においてヘテロ型(A/G)が少し増え,ホモ型(G/G)がかなり減っているわけだが,メンデルの法則に従った分離を基盤にした予想と,分離交配の48例についてヘテロとホモの数を比較した.30例の分離交配の子供である40人の有症候者の中で,28例のヘテロと12例のホモが存在し,予想値は20例と20例であった(p=0.011).分離交配の健常者8名では,予想値(4例と4例)と同じであった.

HOXA1のヘテロ型母とヘテロ型父の数に有意差なし.母親と父親における遺伝子型頻度を基盤としたランダムな予想値からの有意な違いはそれぞれの交配型頻度には見られなかった.HOXA1のヘテロ型(A/G)父は,A/A型父(46/61)に比べて有症候児を持つ頻度が高いけれども(20/21),HOXA1遺伝子型を調べていない26例を加えるとA/G型の父から20/31,A/A型の父から48/77となり違いはほぼない.A/G型の母親からは26/46,A/A型の母親からは42/62という割合であった.

綿密に検討してみるとHOXA1については,自閉症スペクトル家系における二つの特殊な点が明らかになった.第一に,A/G型の母親とA/A型の父親の夫婦から生まれた有症候児においてヘテロ型の数が増加していることである.予想値では同数であるはずが,ヘテロが16例,ホモが4例であった(p=0.007).二番目に,30例の分離交配から生まれた児においてはHOXA1の遺伝子型の分布には性差が見られ,有症候者の女性9人全員がヘテロ型で,予想値は同数であった(p=0.003).女性におけるヘテロの増加は,健常の女性5人を含んでもさらにはっきりしており,全ての女性子孫でヘテロ対ホモが13:1であり,予想値は同数である(p=0.0013).対照的に,同じ交配例で男性の子孫の全例で,ヘテロ対ホモは19:18とほぼ同数であった.

HOXB1については,ヘテロの母親と父親の数に有意差なく,母親およぼ父親における遺伝子型頻度を基盤としたランダム予想値と比べた交配型にも有意差はなかった.30例の有症候男性と9例の有症候女性,3例の健常男性,9例の健常女性が,30例の分離交配結婚から生まれていた.分離交配から生まれた39例の有症候者のうち,22例はヘテロ型,17例はホモ型,また健常者の場合4例がヘテロ型,8例がホモ型であった.予想値(同数)との有意差はなかった.分離交配カップルから有症候者への+型およびINS型の伝播比はそれぞれ22と32であった.健常者への伝播比は+が9でINSが6であった.ここで再び予想値(同数)との有意差はなかった.しかし,注目すべきことに,どの評価法でも健常子孫と比較し,有症候者においては比率は反対になる傾向があり,ヘテロが有症候者においてのみみられるヘテロ型の増加傾向がみられた.

表現型の特徴:
基本的な表現形質的特徴は,HOXA1においてもHOXB1においても,遺伝子型が異なっても同様に分布していた.特に,自閉症スペクトルの診断カテゴリーや認知障害の程度においても,また神経学的あるいは形態学的症候においても遺伝子型に相関しているものはなかった.今回のデータでは,自閉症スペクトル例のいかなるサブセットにも対立遺伝子は関係していなかった.

自閉症とは通常関連していないいくつかの表現形質的特徴が,発端者においてみられた.Marfan症候群が1例あり,遺伝子型はA/G,+/INSであった.この発端者と彼の兄弟を加えると,Marfan症候群と自閉症スペクトル合併例の症例報告はこれまでに6例となる.Syndactyly(指の融合)が1例発端者にあり,遺伝子型はA/A,+/+であった.近位四肢奇形,片側の耳の欠如,側湾の例が1例あり,この例はおそらく胎児期の風疹感染例である(A/A,+/+).子宮内感染例を疑う例が他に一例あり,両側顔面神経麻痺,目の間隔増加(hypertelorism),眼瞼下垂,視力消失を伴っていた(A/G,+/+).2例の発端者は親指の短指症(brachydactyly)4型で遺伝子型はA/A,+/+とA/A,+/INSであった.2例は第5指の歪曲指症(clinodactyly)で遺伝子型はA/A,+/+とA/A,+/INSであった.胎児期に自閉症に関連すると言われている奇形誘発物質に暴露した例が2例あり,1例はバルプロ酸で1例はアルコールであった.両者とも遺伝子型はA/G,+/+であった.

自閉症者の脳の神経解剖所見は,HOXA1とHOXB1が自閉症スペクルにおける候補遺伝子であると示唆する証拠を提供した(Rodierら,1996).脳組織から抽出されたゲノムDNAの遺伝子型も報告した1例で検討し,遺伝子型はA/A,+/INSであった.

(考察)
最近2年の間に4つの大規模ゲノムスクリーニング研究が行われ,自閉症の兄弟(二人とも自閉症)例でのハプロタイプ(対立遺伝子の組み合わせ)共有率が,4つの研究で共通して有意に増加している遺伝子部位はない.国際分子遺伝研究自閉症協会は,第7染色体長腕上に易罹患性の証拠を報告し,この部位は以前まれな会話および言語の障害に連鎖することが知られていた.フランスでの国際的研究結果では同じ部位に小さなピーク(MLS=0.83)が確認され,スタンフォード大学のグループの結果ではこの部に遺伝的易罹患性の証拠はなく,また自閉症共同連鎖研究の結果ではこの位置にLODスコア2.2が報告された.自閉症共同連鎖研究では第13染色体上に最大のLODスコア(3.0)が報告され,この部分については他の研究ではピークは存在しない.第15染色体の転座を持つ自閉症例が報告されており,たくさんの症例に共通する転座ではないが,染色体欠損の部位での遺伝子多型が重要な役割を果たすことも考えられる.しかし,第15染色体についてはフランスからの報告のみがMLS=1.0の小さなピークを報告しているだけである.スタンフォード大学からの報告では,MLSが1.0以上のピーク部位が4ヶ所報告されており,ひとつは第7染色体短腕のHOXAがクラスターを形成している場所である.しかし,その他の報告ではこの部位にピークの報告はない.これらのゲノムスクリーニングの結果のLODスコアが小さいものを基にすると,Rischらは自閉症スペクトルに関与する遺伝子座は15個以上であると示唆している.

本論文において,我々はHOXA1遺伝子座における1塩基置換変異であるA218Gと,HOXB1遺伝子座における挿入変異の二つを報告した.HOXA1遺伝子座においては,HOXA1の第1エクソンにあるヒスチジンの繰り返しがA218Gによって中断されている.このヒスチジンの繰り返し部位はHOXA1蛋白が他の蛋白に結合する部位であると言われており,一方第2エクソンのhomeobox部位はDNAに結合する部位として知られている.ヒスチジンの繰り返し部位はもっとも変異の少ない(塩基配列が保持されている)部位でもあり,ヒスチジンの繰り返し回数だけが種によって異なり,ラットで9回,人で10回,マウスで11回である.従って,ヒスチジンのひとつをアルギニンに置換する対立遺伝子Gは,対立遺伝子Aとは異なる機能的特徴を持つ可能性も考えられる.G/Gのホモ型はまれで,このことはG/G型が何らかの不利な結果を提供しているという仮説を支持し,対立遺伝子AとGが機能的に異なることの付加的証拠となる.

HOXB1の挿入変異がある部分は,人とマウスで異なる部分で,人ではヒスチジン-セリン-アラニン(繰り返し構造あり)で,マウスではプロリン-セリン-アラニンである.挿入による機能障害は予想されるが,この部分は機能に関して重要ではないようである.これらの変異は両方ともヨーロッパまたはアフリカ由来の人種においては高頻度にみられる.高頻度で機能に影響する場合,両者は後脳(hindbrain)の発達に有意に影響する可能性が考えられる.これらの遺伝子座における遺伝子の組み合わせの効果が自閉症スペクトルの易罹患性に関与しているのかもしれない.

Hox遺伝子は胎生初期に他の多くの遺伝子を調整する働きを有し,種が違ってもかなり塩基配列が保たれている遺伝子である.これまでのところ,哺乳類においてはHoxa1においてもHoxb1においても遺伝的変異は報告されていなかった.マウスHoxa1のnull変異(機能消失変異)ではホモ型で出生直後に死亡する.一方,Hoxb1のnull変異ホモ型では,致死的効果は少ない.ここで示された結果は,HOXA1の対立遺伝子のひとつのホモ型が人において致死的である可能性を示した.一方HOXB1のINS/INS型は頻度の減少がなく致死的ではない.

Hoxa1とHoxb1のトランスジェニックマウスのヘテロ型においては,あきらかな表現形質効果はみとめられない.マウスに比べ人においては,早期発達に関与する遺伝子の多型のヘテロ型での影響が大きいことを示す証拠が報告されている.例えば,sonic hedgehog遺伝子の機能変異は,人ではヘテロ型でholoprosencephalyを含むいろいろな正中ライン欠損の原因となるが,マウスではnullホモ型の場合だけ異常が生じる.

HOXA1遺伝子の伝播解析は,Hardy-Weinberg分布で比較した対象者で行われた.従って,家系を基盤とする解析は対象群分析から完全に独立したものではなく,異なる特性を持つ解析と言える.遺伝子伝播解析は両親がヘテロ型である時のみ行うことができるが,対象群の構造に関する推定を必要としない点で優れている.子におけるヘテロ型とホモ型の比率は,メンデルの予測値から統計的に有意な偏移が存在することを示した.偏移は40人の有症候児で観察され,8人の健常児ではみられなかった.有症候児でのヘテロ型の増加は,HOXA1遺伝子座が自閉症スペクトルに関連するのか,あるいはHOXA1と連鎖不均衡状態にある遺伝子座が自閉症スペクトルに関連するとする仮説を支持する.この結論は最終的なものではなく,確定するためには有症候児でみられた変異の偏り(A-G変異)が,家系内の健常者では存在しないことがもっと多くのサンプルで示され,また自閉症スペクトルに関係のない家系においても存在しないことが示される必要がある.

自閉症やアスペルガー症候群と診断されるのは男性が多く,この性差の原因は不明である.最も障害が強く,精神遅滞を伴う自閉症スペクトルの多くは,性差がなく男:女は1:1である.一方高機能タイプでは10:1で男性が多い.このような結果は,自閉症遺伝素因を持つ女性の生存率が低いというよりも,女性において自閉症形質の浸透率が減少しているという考えに一致する.性差に関する最も説得力のある説明は,これまでのところTurner症候群の女性に関するデータに基づくものである.Turner症候群ではX染色体が一つしかなく,症候は多様で,認知障害がほとんどないケースから精神遅滞や社会性障害を呈し自閉症と診断されているケースまである.Skuseらは認知障害のあるケースは母親由来のX染色体を持っており,正常行動を示すケースは父親由来のX染色体を持っていることを示した.Skuseらはこのような事実から社会的行動を発達させる遺伝素因がX染色体上に存在し,母親由来のX染色体上では機能を持たず(imprinted),父親由来のX染色体上のみで機能していると提案した.そのようなファクターであれば,Turner症候群での所見,男性よりも女性の方が社会性に優れる事実,および自閉症は男性が多いことなどを説明可能である.Skuseらの第2報では,父親由来のX染色体を持つ女性のTurner症候群65人が,自閉症の診断基準を満たし,一方母親由来のX染色体を持つTurner症候群では156人中10人だけが自閉症の診断基準を満たすことが報告された.推定される自閉症抵抗性が自閉症に関する多くの事実に適合する.自閉症と診断される女性は,自閉症と診断される男性よりもより強いリスクファクターを持つことが予想される.このことが事実であれば,自閉症の男性ケースよりも女性ケースの方で,いくつかの影響力のあるリスクファクターをもつ頻度が高いとしても驚くに値しない.

このような意味で,HOXA1の性効果(gender effect)は特に興味深い.我々の集計では,わずかに17人の有症候女児がおり,ヘテロ型(A/G)の親からはその中の9人だけである.この9人全員はA/Gヘテロ型である.明らかに,A/Aホモ型の女性は自閉症を発症する可能性があり,大きなサンプルではA/G型の親からA/A型の有症候女児が生まれるケースが出てくるかもしれない.にもかかわらず,今回の遺伝子伝播検討では,HOXA1効果は,男性においてよりも女性においてより明らかであった.実際に,全集団のデータはこの考えに一致し,有症候者のA/G対A/A比は女性において11:10で,男性においては23:44であった.

自閉症において,関連する対立遺伝子が父親由来なのか,あるいは母親由来なのかが重要であるとするアイデアは,家族研究,染色体異常家系における行動異常,および家系内遺伝子共有研究において示唆された.人でHOXA遺伝子座が集まっている部位はマウスでは第6染色体のB-Cにあたり,マウスのこの部位では母親由来の遺伝子機能のimprintingが報告されている.しかし,どの種においてもその詳細は不明である.父親由来の遺伝子機能のimprintingは多くの遺伝子座において胎生期組織では一過性に活性化することがしばしば示唆されている.今回の検討はこの疑問に言及するには不十分なデータであるが,母親由来の対立遺伝子Gを持つ有症候児(20人中16人)の割合が,父親由来のGを持つケース(14人中9人)とは対照的に非常に多くなっており,このことは遺伝子のimprinting効果には矛盾する.

HOXB1遺伝子型の同様な解析では,有意な結果はでなかった.にもかかわらず,ランダムな予想値よりは同じような偏移の傾向が観察され,集団解析ではHardy-Weinberg分布を基盤とする予想よりもヘテロ型がわずかに増加しており,また,分離解析では有症候者への伝播が対立遺伝子+よりもINSで多い傾向があった.自閉症スペクトルの易罹患性にいくつかの遺伝子座が寄与しているとする仮説に基づき,我々は単一遺伝子座の効果は,その他の易罹患性遺伝子座の関与を合わせて考慮して初めて最も明瞭化すると仮説する.このことを検証するために,我々は,有症候女性(男性よりも有症候者が少なく,かつ男性よりも易罹患性が低いと考えられる)およびHOXB1の対立遺伝子INSを持たない有症候女性におけるHOXA1のヘテロ対ホモ比を,INSを持つ健常者のHOXA1のヘテロ対ホモ比と比較した.INSを持つ健常者は,特に男性であれば,HOXA1ヘテロ型である人はいないであろうと仮説した.INSを持たない有症候女性におけるA/A対A/G比は3:9で,INSを持つ健常男性ではこの比は16:7で,その統計的比較では危険率は0.012であった.またINSを持つ健常女性ではこの比は24:10で危険率は0.0059であった.INSを持たない有症候者のA/A対A/G比のデータがもっと必要であるが,このような結果は性と遺伝子型(HOXA1およびHOXB1)が自閉症スペクトル易罹患性において相互作用を持つことを示唆している.このような複雑な遺伝子相互作用は,自閉症者ー兄弟ペア解析によるゲノムスクリーニングで単一遺伝子座に関しては有意な証拠が得られないことの原因である可能性がある.

これまでに報告された研究と同様に,今回の発端者はesotropia,軽度外耳奇形,顔面筋トーヌス消失などの表現形質を有しているものを含み,これらの形質はHOXA1あるいはHOXB1のいずれかに機能変化がある場合に予想されるものである.これらの表現形質はHOXA1とHOXB1の両方の変異型でみられた.おもしろいことに,その他のいくつかの表現形質はHox遺伝子カスケード(複数転写遺伝子が連続して関与する発達のしくみ)におけるほかの遺伝子の発現に関連する.例えば,近位および遠位四肢奇形はHox遺伝子の遺伝的異常および催奇形物質による異常の両者でみられるものである.HOXA1およびHOXB1の発現はそれに続くHOX遺伝子群の発現に影響するため,これらの外表奇形はHOXA1やHOXB1の機能変化のために二次的に起こったほかの遺伝子群の機能変化に由来する可能性が考えられる.

今回の結果が興味あるものである理由は,自閉症スペクトル家系にみられたHOXA1遺伝子型の有意な偏りや,対立遺伝子伝播の予想値からの有意な偏移だけでなく,自閉症においてこの遺伝子座が有する役割の生物学的妥当性がたくさんの集約的証拠により支持されたという点である.集約的証拠の例は,サリドマイドおよびバルプロ酸誘発自閉症,特発性自閉症,Hoxa1のnull変異マウスに共通する形態的・神経学的異常,催奇形性物質が自閉症を誘発する胎生時期とHOXA1が発現する時期の一致,自閉症のゲノムスクリーニング研究の中にHOXA1部位にピークを報告したものがあったことなどである.

まれな遺伝性症候群の3つの最近の研究は,脳幹の発達変化と自閉症の関連に関する他のタイプの証拠をも提供している.スウェーデンで行われたメビウス症候群(顔面神経および外転神経機能障害)の経時的研究は,少なくとも24%の例が自閉症を呈することを報告している.Joubert症候群は脳神経の機能障害に脳幹および小脳虫部の重症な正中部欠損を伴った症候群であるが,11人中4人が自閉症スペクトルの診断基準を満たしたという報告もある.外転神経の外直筋への神経支配障害と動眼神経の再神経支配が見られるDuane症候群は,催奇形性物質で起こることが知られ,4人のサリドマイド誘発自閉症ケースの中の3人がDuane症候群であることが報告されている.この症候群の原因遺伝子座は最近同定され,22q31部のHOXD集積部に一致する.13個の人HOX遺伝子の1番目に属するものはHOXA1とHOXB1とHOXD1であり,Duane症候群の遺伝子異常部位の有力候補である.

発達中の脳幹の早期損傷が自閉症スペクトルのリスクを増加させるとする仮説を支持する論文はどんどん報告されている.ここで示した結果は,脳幹発達に重要である遺伝子座が自閉症スペクトルの易罹患性に関与していることの証拠を追加する.

 


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