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Autism's home in the brain
自閉症の原因は脳のどこにあるのか


Rapin I. Autism in search of a home in the brain. Neurology 52: 902-904, 1999.
(概訳)

冷たい両親(refrigerator parents)仮説(両親の子供に対する態度を病因とした)が否定され,自閉症が発達障害としてとらえられるようになってから,研究者たちは自閉症の神経学的病態生理を解明しようと努力してきた.しかし,文献1や文献2が象徴するように,コンセンサスはまだ得られていない.Minshewらは,眼球運動異常が小脳虫部や前頭葉の機能異常で説明できるかどうかを検討し(文献2).DeLongは,側頭葉とセロトニン(神経)経路に注目している(文献1).これまでに指摘されたものを列挙すると,小脳や脳幹や間脳核の発達異常(まれに器質的異常:damageと表現される),基底核や視床,前頭葉での神経迷入異常(frontal neuronal migration deficits),頭頂葉脳回や後部脳梁のひ薄化,ドーパミンとopiate(神経)経路の機能異常などがある.

高齢者の痴呆と同様,自閉症は医学的な診断名ではなく,行動学的に診断される症候群であり,いろいろな生物学的原因を伴っている.症候の程度(臨床像)にはかなりの幅があり,DSM-Wの広汎性発達障害は5つのサブタイプに分けられている.共通するのは,社会性障害と言語および非言語性コミュニケーション能の障害,イマジネーション障害,おきまり行動とこだわりである.その他にも,認知上の柔軟性の欠如,組織化能力(organization skills)の貧困,他人が考えていることを把握できない,ぎこちなさ・こわばり,反復行動・反復言語,強い不安などがある.多くの例では知能障害もあるが,全例ではなくIQが低いことで自閉症を定義することはできない.DSM-Wでは,この行動上の障害は,量的特質ではなく個々の認知レベルから明らかに逸脱したものとして特徴付けている.

DSM-Wでの広汎性発達障害の5つのサブタイプは,12の行動項目の有無や数や分布と,発症年齢に基づいて分類されている.

1)自閉性障害:少なくとも6つの項目で障害(deficits)があることが必要で,社会性で2つ以上,言語と興味・行動の範囲がそれぞれ1つ以上.かつ,臨床的な発症が3歳以前.

2)アスペルガー障害:少なくとも3つの項目で障害のある軽症型で,社会性で2つ,興味・行動の範囲で1つ.言語発達の遅延なく,重篤な認知上の障害なし.

3)小児期崩壊性障害:会話を含む早期の発達は正常であるが,2歳から10歳の間に,言語・行動・認知における獲得された技能の著しい喪失が起こり自閉症の特徴を示すようになる.脳の変性疾患ではない.

4)PDD-NOS(特定不能の広汎性発達障害):上記3つの基準に当てはまらないもの.

5)レット障害:生物学的および遺伝学的疾患単位で女児のみ.周産期以後(生後5ヶ月まで正常)の脳成長障害.

自閉症の20%までもが,検出可能な生物学的原因を持っているが,全ての自閉症を説明できるような生物学的原因は存在しない.これらの生物学的状態には,獲得性のものとして,子宮内風疹感染,妊娠中の母親がサリドマイド,バルプロ酸を飲んだ場合,ヘルペス脳炎などがあり,先天性のものとして,結節性硬化症,フェニルケトン尿症,脆弱X症候群,Angelman症候群,Cornelia de Lange症候群などがある.DeLongは,このような例を二次性自閉症と呼び,両側の大脳半球が障害されるために予後が悪いと述べている.残りの80%の例は,DeLongは一次性自閉症と呼び片側の大脳半球機能異常であると仮定している.一次性自閉症は原因不明で,脳イメージング検査でもその病理過程を検出できないとしている.双生児研究や複数兄弟発症家系の家族研究により,遺伝素因は非常に重要であることが指摘されているが,他の脳障害の合併がなければ絶対的なものではないことが示唆されている.一卵性双生児における自閉症の一致率は70〜90%と報告されており100%ではないのである.二卵性双生児間の一致率と兄弟内の再発率は10%以下であり,他の発達障害が家族に多く,またDeLongらによると大うつ病や双極性障害が一次性自閉症の家族に多いため,多遺伝子性であることが最も考えられる.崩壊性障害の頻度が低く,自閉症者の30%近くが言語や社会性において獲得された技能の早期喪失(後退現象)を示すため,何らかの有害な環境因子の影響を極端に受けやすくなる傾向を遺伝素因として親から受け継いでいる場合もあるかもしれない.自閉症を一次性と二次性に分けたり,DSM-Wの各サブタイプに分類することは,自閉症の原因の同定や病態生理の解明のために有益であろう.

自閉症の神経解剖学的解明のために,最も障壁となっているのは,脳の病理所見の報告が30例以下と少ないことである.1985年に始まり,最近まとめられたKemperとBaumanの研究結果では,以前から指摘されあまり知られていなかった小脳異常が,後下小脳半球(虫部の一部)における発達性細胞異常として全例(9例)で確認されている.また,Baileyらも,6例において同様の所見を報告している.この所見はプルキンエ細胞の減少と,より程度の軽い顆粒細胞の減少であり,炎症所見や虚血や構造的奇形は伴っていない.KemperとBaumanは,下オリーブ核や小脳テント(roof)核の所見から,オリーブ核-歯状核サーキットが保たれていることを指摘した.これは,出生後や成長後に小脳病変が起こった場合に出現する逆行性萎縮が起こっていないことを意味し,オリーブ核の神経細胞の上行軸索が小脳プルキンエ細胞の樹状突起に達する時期(妊娠30週)よりも前に小脳で病変が起こるか,あるいはもともとプルキンエ細胞の数が少なかったのではないかと考察している.Courchesneらが行った1988年のMRI研究では,自閉症男性18例中14例で,小脳虫部の第YとZ小葉が選択的に小さいことが報告されたが,同グループは最近この所見を再確認したが,他の研究者たちは反論している.この頻度の高い(ひょっとすると特異的な)小脳の細胞学的病理変化は,自閉症では予想されていなかった.なぜなら,自閉症においては,獲得性の小脳障害に典型的な運動失調などの所見がみられないからである.自閉症における小脳病理所見の発見は,小脳の特殊な働き(言語や注意やその他の高次脳機能に関与)に関する研究のルネッサンスとなった.

小脳と前部前頭葉の皮質は,前頭-橋-小脳-視床-皮質ループを介して,密接に連携している.機能的脳イメージングやイギリスの6症例のうち4例における病理解剖所見,および神経心理学的検査所見は,自閉症における病態生理に前頭葉の機能不全が関与していることを強く示唆している.Minshewらは,自閉症における新皮質の病理を主張しており,多(認知)モードにわたり,特に外側前部前頭葉の病変を想定している.彼らの論文には,眼球運動の異常が,小脳虫部に由来するのか,あるいは前頭葉に由来するのかを確認するためにデザインされた体系的検討の結果が述べられている.Courchesneらが話題にした小脳虫部の第YとZ小葉に病変がある場合に起こるとされる異常は,自閉症者には存在しなかった.これらの検査項目は,視覚誘導課題での急速眼球運動や,視覚注意の自動解放や視線変更や再注目における急速眼球運動での速度と潜伏時間である.Minshewらが自閉症で指摘した眼球運動異常は,視覚ターゲットに対する動眼神経反応を自発的に抑制したり遅れさせる能力において検出された.このような課題は,空間的ワーキングメモリーや行動管理能力に依存しているため,その異常所見は前部前頭葉の局所所見と解釈される.小脳と前頭葉間の神経コネクションが密接であることにより,胎児における小脳病変が(前頭葉病変がなくても)前頭葉機能障害の症候を誘発するかどうかは結論が出ていない.その逆である前頭葉病変による歩行失調(小脳症状)はよく知られている.

Minshewらの研究結果の意義は,自閉症の病態生理の域を越えているのかもしれない.なぜなら,分裂病においても,急速眼球運動の制御不全が同様にみられ,この所見に一致して,分裂病患者は,前部前頭葉の検査として知られているウィスコンシンカード並べテストのような計画課題をうまくこなせない.分裂病患者は,通常円滑追視運動に異常がみられるが,自閉症ではこの所見は報告されていない.自閉症と分裂病は,明らかに異なる障害であるが,その症候はかなり重複しており,脳イメージング研究の結果も共有する脳異常の存在を示唆している.ブロイラーは分裂病の深刻な社会性障害を記載するためにautismという言葉を作りだし,カナーとアスペルガーが,別々にこの表現を借りて自閉症を記載した事実は決して偶然ではないのである.

MRIでは,数百人もの自閉症者の検討が行われ,そのほとんどで構造的な脳異常は検出されなかった.例外的には,偶然に発見された脳腫瘍や,くも膜嚢腫,脳室の軽度拡大,または行動上の症候とは関係なさそうなその他の異常が報告された.KemperとBaumanは,9例の剖検例で,新皮質,基底核,視床に異常所見をみとめず,自閉症における認知障害や高頻度のてんかんの存在からすると驚きであると記載している.彼らのデータで新皮質に所見がないことは,サンプリングの偏りのためかもしれない.なぜなら,Baileyらは,6例中4例で,異常な皮質薄層構造,神経細胞の方向性の異常,そして神経密度の異常を報告し,残りの2例でも白質における灰白質外神経細胞の存在が指摘されている.これらの所見は胎児期の脳の発達障害説を支持している.KemperとBaumanは,海馬や前帯状回,扁桃,ブローカの斜核,その他の間脳核に,発育が悪い神経細胞の集族の存在を指摘している.Baileyグループは,彼らの6例においては海馬の神経病理所見を確認してはいないが,間脳核の検討は行っていない.両グループとも何例かで脳重量が増加していることを強調しており,これまでに自閉症で報告されている頭部周径が大きいことや形態的に脳ボリュームが増加していることに矛盾しない.Courchesneらも,21例の自閉症剖検例において,19%の症例で脳重量が増加しているとしており,脳が大きいケースが多いことは,自閉症の多くの例では変性というよりは異形成(dysgenetic process)が起こっていることを示唆する.しかし,現時点では,どの所見が普遍的なもので自閉症に特異的なものなのかを結論することはできず,さらに多くの病理学的研究が待たれる.

自閉症が側頭葉内側病変によるとする仮説は,この部位に,自閉症で顕著に障害されている動因と感情(drive and affect)のコントロールを司る辺縁系-間脳サーキットが存在するため魅力的である.Chuganiらは,PETスキャン検査で両側側頭葉の代謝低下が確認された小児スパズム(infantile spasm)の患者18例の経過を観察し,14例で著明な精神遅滞と言語能力の欠如および自閉症を呈したと報告した.最小限しゃべれる自閉症児における言語障害や理解力の障害の存在は,外側側頭葉新皮質の障害を示唆する.言葉の聴覚性失認(verbal auditory agnosia)あるいは語聾(word deafness:皮質下性感覚失語症)を多くの例で呈するLandau-Kleffner症候群(獲得性てんかん失語)の症例は正中-側頭部誘導でのてんかん性脳波異常で知られているが,同様に自閉症者の何例か(正確な%は不明)でもてんかん発作がなくても同じような脳波所見が得られる.自閉症の退行現象や崩壊性障害の機序として,てんかん発作を伴わない側頭葉てんかんが関与しているかどうかは結論がでておらず,退行現象がおこる時期のシステマティックな臨床研究が行われる必要がある.

自閉症のセロトニン仮説は,DeLongがさらに発展させ,片側脳病変のある成人例から派生した半球機能非対称という古典的な考えに,自閉症者の家族にみられる大うつ病の遺伝素因に関する証拠を取り入れた.彼の説によると,原因がはっきりしていない古典的な自閉症は,左大脳半球に特異的に影響する早期セロトニン代謝異常の結果であるとしており,また,言語能力はあるが,社会性に欠け,ジョークを理解できず,音韻や相手の表情を読むことが苦手なアスペルガー症候群では,セロトニン代謝異常は右大脳半球を障害しているとしている.この仮説が成立するためには,半球間コミュニケーションの障害が同時に存在していることが必要である.なぜなら,発達早期に大脳半球の一側が障害された場合,右半球でも左半球でも失語にはならないことが知られているからである.DeLongはさらに,彼の仮説を支持する証拠として,7人の睡眠中の自閉症男児(一人の女児では所見なし)のPETスキャン検査で非対称性のセロトニン代謝異常が描出されたことを挙げている.所見のあった自閉症男児のうち5人は,左半球の前頭葉と視床におけるセロトニン合成が減少しており,2人では右半球に同様所見があった.7人全てで,所見があった側の反対の歯状核でセロトニン合成の増加が観察された.脳におけるセロトニン合成の過程は,自閉症において非典型的であり,自閉症者の1/3が血小板中のセロトニンレベルが増加していることが知られている.フルオキセチンのようなセロトニン再吸収阻害薬は,強迫行動に対し有効であり,またDeLongによると,就学前の自閉症児において言語発達を促進するかもしれない.

このレビューは,自閉症の行動異常の原因として疑われている複雑な相互連結ネットワークにおける重要な部位を言い尽くしたわけではない.自閉症の神経生物学的研究はまだ歴史が浅く,現時点で近視の研究者たちが象の体の部分を触っている段階なのである.たとえ十分に検討された研究デザインであっても,サンプル数が少なく,論文化を急いだ視野の狭い研究であれば,魅力的で示唆的ではあるかもしれないが,結局現行の混乱の原因になるだけである.臨床的によく検討された自閉症者の病理組織の供給と,年齢を適合させた正常コントロールを集めることが必須である.両者がそろって初めて,最新の神経病理学的検討を有意義に行うことができ,電気生理学的研究,機能的脳イメージング研究,遺伝子レベルの研究,薬理学的研究などからの発見を説明するための病理学的基盤を得ることができる.痴呆研究は,神経科学者と患者家族の協力体制が得られた後,飛躍的に進歩した.同様の努力が自閉症においても進行中である.


コメント
小児精神科領域での現時点での平均的な見解と思います.多彩な仮説のそれぞれを無視することなく取り上げようと努力していますが,最後のブロックで「たとえ十分に検討された研究デザインであっても,サンプル数が少なく,論文化を急いだ視野の狭い研究であれば,魅力的で示唆的ではあるかもしれないが,結局現行の混乱の原因になるだけである.」としているところからも判るように,さめた見方もしているようです.その少し前の文の「近視の研究者たちが像の体の部分を触っている段階」という表現が,非常に的確だと思います.


(文献)
1. Delong G.R. Autism: new data suggest a new hypothesis. Neurology 52: 911-916, 1999.
2. Minshew N.J. Oculomotor evidence for neocortical systems but not cerebellar dysfunction in autism. Neurology 52: 917-922, 1999.

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