Sorry, so far only available in Japanese.
HLAと自閉症
(免疫不全説・自己免疫説・ウイルス説)


RP Warren, et al.: Strong Association of the third hypervariable region of HLA-DR beta1 with autism. J Neuroimmunol 67:97-102, 1996.

(概訳)タイトル:自閉症と人白血球抗原(HLA)-DRB1の第3高変異部は密接に関連している。
我々は以前、特定の(染色体上で少し離れて存在する)遺伝情報の組み合わせ(extendedハプロタイプ:B44-SC30-DR4)と自閉症が密接に関連していることを報告した。このextendedハプロタイプは、クラスIII遺伝子領域内のC4B遺伝子と、クラスIIIに隣接するクラスIのB遺伝子とクラスIIのDR遺伝子の対立遺伝子型が組み合わさったもので、この範囲内の、あるいは近傍の遺伝子が自閉症の病態に関与する遺伝子のひとつ(または複数)を含んでいることが示唆された(おそらくクラスIIかクラスIII領域内と思われた)。本論文では、HLA-DR分子のベータ鎖の遺伝情報のひとつであるDRB1遺伝子の第3高変異部の特定のアミノ酸配列が自閉症に強く関連していることを報告する。血清型DR4の中のDNA型のひとつであるDRB1 0401の第3高変異部のアミノ酸配列を持つか、DR4の中のDRB1 0404と、DR1の中のDRB1 0101の両者に共通な第3高変異部のアミノ酸配列を持つ人が、自閉症者50人中に23人(46%)おり、正常コントロール中には7.5%しか存在しなかった。DR7に属するDRB1 0701の第3高変異部アミノ酸配列は、自閉症者の32.0%にみられ、コントロールでは10.1%であった。


(解説)人白血球抗原(HLA)が、ある疾病感受性と関連している場合、HLAの遺伝子情報そのものが、直接疾患感受性を決定している可能性と、HLA遺伝子と連鎖不平衡にある遺伝子(多くは、遺伝子の場所が同じ染色体上の近くにある)がこれを決定している可能性の2つが考えられます。直接疾患感受性を決定している可能性としては、HLA分子の持つ役割の効率や速度が、HLA分子の多様性(多型)によって変化してしまうこと自体が疾病の発病に直接関与する場合です。あるリンパ球上のHLA分子は、相手リンパ球上のT細胞受容体と、抗原ペプチドを間にはさんで結合して、免疫現象に不可欠な情報伝達のかなめとして働いていますので、この結合面の分子構造を決定する遺伝子の多型は、結合する抗原ペブチドの種類を制限したり、結合の強さに影響を与える可能性があり、多くの自己免疫疾患や慢性の炎症性疾患の疾病感受性が特定のHLA型と相関することの根拠にもなっています。本論文がイントロで指摘しているように、自閉症者における免疫異常の報告は多く、非常に多型な遺伝子であるDRB1の中の、抗原ペプチドとの結合面にあたる部分の一つである第3高変異部のアミノ酸配列を検討することは、意義のあることだと思います。また、HLA遺伝子と連鎖不平衡にある遺伝子が自閉症を決定している遺伝子のひとつである可能性もあり、その意味では、人第6染色体上のHLA遺伝子領域をクラスIII領域を中心にカバーする特定のextendedハプロタイプが自閉症者に多いとする結果は、自閉症の発症に関与しているかもしれない未知の遺伝子とHLA遺伝子領域との連鎖不平衡が存在する可能性を示唆し、遺伝標識としてのHLA遺伝子の意義を、今後検討する必要があります。

この論文の考察には、DRB1の第3高変異部のアミノ酸配列が自閉症と関連していることが意味することとして、いくつかの非常に大胆な仮説が含まれていました。上に解説しました可能性の中にありますが、HLA分子とある種の抗原(ウイルス)との結合がうまくいかずに、免疫反応が全く働かなくなってしまい、そのウイルスの持続感染状態が起きてしまう可能性が述べられています。母親がこのHLAに起因する免疫不全の体質とウイルスの両者を持っている場合、母子感染が起こり、母親の免疫が胎児(の脳)を守らなければいけない時期に、それができないため、子供にウイルス感染に起因する自己免疫現象による脳障害を起こさせてしまうとしています(あくまでも仮説です)。この他、逆に、自己抗原とHLA分子との親和性が高まり、自己免疫現象が起こって、成長過程の子供の脳のみが傷害されるという可能性も指摘してあります(母親の免疫が胎児の脳をアタックする)。

この論文のねらいは、先に解説しましたように、意義のあることと思いますが、いくつかの問題点も含んだ論文といえるでしょう。HLAの血清型とDNA型(PCR-RFLP検査)のデータは、実際に検討したものですが、肝心の(考察の中心になっている)第3高変異部の遺伝子配列またはアミノ酸配列は、実際には検査をせずに、知られている配列を引用しただけのようです。このことがはっきり記載してないことも不自然で、これでは、読む人がRT-PCR/cloninig法か何かでシークエンシングをしたのだろうとかんちがいしてしまいます。この報告で自閉症にリンクしているのは、HLAのDNA型のDRB1 0401と0701であって、厳密には、高変異部のアミノ酸配列ではないのです。DNA型を決定しているDNA配列は、第3高変異部だけではないので、むしろ0401と0701の両者に共通し、かつ他のDNA型にないDNA配列の方が非常に重要であると考えます。また、実際にはシークエンシングをしていないのですから、この第3高変異部の中にも点突然変異などの変化やnon-allelic gene conversionなどの可能性もある訳ですので、ひょっとしたら、自閉症に連鎖する点突然変異をみのがしている可能性さえでてきます。また、自閉症50人とコントロール79人の中から、一部のDNA型とその第3高変異部のアミノ酸配列を示してありますが、隠してあるデータの中には、当然コントロールに比べて自閉症者に非常に少ないDNA型もあるはずですので、それに関する考察もおそらく故意に避けているように思います。


表紙にもどる。


ご意見やご質問のある方はメールください。

E-mail: shinji@po.synapse.ne.jp