自閉症の遺伝(LauritsenとEwaldの総説)

Lauritsen MB & Ewald H. The genetics of autism. Acta Psychiatr Scand 103: 411-427, 2001.

訳者コメント:

Medline検索が2000年9月ですので,ちょっと古い総説になってしまいましたが,結構体系的にレビューしてあり,古い論文まで網羅してあるのでご紹介します.引用文献数は172件です.表はウィンドウやプリント巾が狭いと左右の関係がずれる可能性があります(ごめんなさい).引用されていない重要な論文もいくつかあるようです.ゲノムスキャンの最近の論文は含まれておりませんが,当ホームページで全て紹介ずみです.その他の重要な論文に関しても,論文のコーナーや話題のコーナーで既にご紹介したものがかなりあります.

(概訳)

(目的)幼児自閉症における遺伝学的リスクファクターの関与の経験的証拠を体系的にレビューする.(方法)英語で書かれた全ての関連論文を含む.Medline検索は2000年9月に行った.加えて,関連論文の引用文献を検討した.(結果)比較的少数の論文がレビューされ,それらは家族研究,双生児研究,合併症,染色体異常研究,分子遺伝学研究などを含んでいた.(結論)家族研究,双生児研究,染色体異常研究,分子遺伝学研究は,同様に幼児自閉症における遺伝学的リスクファクターの重要性を支持した.ほとんどのケースで,おそらく少なくとも2−3の遺伝子変異が同時に遺伝学的リスクを決定している.今のところ,自閉症の原因に関係して最も注目されているのは,7q31-35,15q11-13,そして16p13.3であり,これらの染色体部位は異なる種類の遺伝研究によって示唆された部位である.

イントロ

幼児自閉症(または小児自閉症)は,発症が30−36ヶ月で,制限された反復性のお決まり行動パターンに関連する,社会的相互関係とコミュニケーションの領域での障害で特徴づけられる広汎性発達障害である.長い間,自閉症の有病率は,1万人に5人と言われ,男女比は3:1とされてきた.しかし,いくつかの新しい研究結果に基づくと有病率は1000人に1人かもしれない.

現在,幼児自閉症は器質的な神経発達障害であると一般的に認められている.このことは,いくつかの臨床的事実からも支持されている.30歳になる前に20%のケースでてんかん発作がみられ,75%で精神発達遅滞の状態で,また自閉症といろいろな神経学的疾患の合併も報告されている.多くのケースにおける特異的な原因は知られておらず,いくつかの病因的因子が提案されている.これには,遺伝子,ウイルス,麻疹含有ワクチン,そして産科的合併症などが含まれる.

幼児自閉症における遺伝素因の関与は,家族研究や双生児研究に基づくもので,かなり確立されたものである.幼児自閉症に関与する遺伝子を探す努力においては,候補領域と候補遺伝子が検討される.幼児自閉症と染色体異常の合併または,幼児自閉症と単一遺伝子疾患の合併は,候補遺伝子または候補領域の場所を示唆することができ,さらなる分子遺伝学的検討のきっかけとなる.

この論文は,家族研究,双生児研究,分離研究,合併症,染色体異常研究,分子遺伝学的研究に基づく,幼児自閉症における遺伝子関与の証拠をレビューする.

研究の分類と記載

含まれる研究はMedlineデータベースにおける検索で同定した.最後に行った検索は2000年9月.また,関連論文の文献リストも検討した.このレビューは英語で書かれた全ての関連論文を含むことを目的とした.

一般的に,いくつかの疫学的問題は含まれる多くの研究に共通している.自閉症は比較的まれであることが,部分的には,行われた研究数が比較的少ないことの原因であり,また結果からの結論を困難にしている.診断基準も共通しておらず,研究間の比較が困難である.GillbergとWingのレビュー論文では,異なる診断基準での有病率の間に有意な相違は見出されなかった(DSM-III,DSM-III-R,DSM-IV,ICD-10).一方カナーによって作られた基準を使った研究においては有意に低い率が報告されている.ゆえに我々は,このレビューで取り上げた論文では,研究ポピュレーションの違いや同じ診断基準での国間の風習的診断基準運用差などを除外することはできないけれども,おおまかには比較可能なものであると考える.

たくさんの最近の研究が新しい診断手段を使っており,それは自閉症診断インタビュー(Autism Diagnostic Interview:ADI)またはその改訂版(ADI-R)および自閉症診断観察スケジュール(Autism Diagnostic Observation Schedule:ADOS)であり,診断の妥当性が増し,研究間の比較性が向上している.これらの方法は遺伝学的研究においても関連する表現型を定義することの補助となってくれることが期待されている.

家族研究

家族研究および双生児研究は自閉症における遺伝素因を最初に示唆した研究であるが,家系内に複数の自閉症児のいる家系は非常に少ないのではっきりしたものではない.1967年に開かれたシンポジウムにおいて,Rutterは3つの研究からデータをプールし,自閉症発端者の361人の兄弟の中に7人の自閉症者を見いだし,その率を1.9%とした.結局,全部で4つの家族研究が行われ,自閉症の兄弟内での発生率が検討された(表1).

表1
研究 自閉症発端者の数 兄弟数 兄弟における自閉症 診断基準
Augustら(1981)

BairdとAugust(1985)

Pivenら(1990)

Boltonら(1994)

41(2.7:1)

29(4.8:1)

37(3.1:1)

99(1.7:1)

71(1.0:1)

51(?)

67(1:0.9)

137(?)

2.8

5.9

3.0

2.9

Rutter

DSM-III

DSM-III

ICD-10,DSM-III

3つの論文が,既知の医学的障害を除外した後,小児精神科を受診したケースから系統的に自閉症発端者を収集している.Pivenらによる報告では2つの異なるケース群から成人例を集めた.一つは自閉症者協会からのメンバーで,もう一つはLeo Kannerが1943年から1970年の間に診断した自閉症者たちである.自閉症者協会からのケース群は複数発生家系を多く含むバイアスが問題になる.さらに,いくつかの理由によりLeo Kannerにより診断された18ケースのうちたった5例がこの家族研究に使われている.AugustらとBoltonらの報告では,少なくとも性,人種,そして社会的経済的状態をマッチさせたダウン症のケースがコントロール群として使われている.発端者の診断をブラインドにした検討はない.

兄弟内における自閉症の率は約3%で,例外はBairdとAugusutの報告でサンプル数が最も少なく,兄弟内発生率は5.9%と高かった.兄弟内発生率は一見低く見えるけれども,一般有病率を1万人に3人とすると兄弟内発生率はその100倍であり,また新しい疫学データが示すように一般有病率を1000人に一人とすると兄弟内発生率はその30倍ということになり,兄弟内発生率の高さは家族性を支持している.この推定相対兄弟内リスク(30−100倍)は,他のいかなる精神科疾患のものより高値である.

兄弟またはコントロールが自閉症的であるケースは家系サイズに依存しており,自閉症的子供を持つ家系は家系サイズに制限が生じているので,家族性は過小評価されるかもしれない.家系サイズに制限が生じる理由は重度のハンディキャップを持つ児の場合などその後に子供をもうけることが困難になる可能性があるからである.さらに,2つの長期にわたるフォローアップ研究では,自閉所者は結婚しておらず,社会性相互関係の障害のために自閉症者は子供をほとんどつくらないと考えるべきであろう.

双生児研究

幼児自閉症は家族性のある状態と思われるが,だからといって遺伝子が関与しているとは限らない.なぜならある程度は環境因子もまた家族メンバーが共有しているからである.この意味で環境は外的非遺伝性因子であると同時に内的非遺伝性因子でもある.

双生児研究は,ある状態や,表現形質の巾(スペクトル)や,浸透率(発現率)などへの遺伝的あるいは環境的影響の相対的大きさを検討するための付加的アプローチを提供する.一卵性一致率が高ければ高いほど,遺伝的寄与はより重要であり,一方二卵性双生児の表現型の相違は非遺伝的因子を示唆する.

このレビューでは,幼児自閉症の全ての双生児研究を取り上げたが,Ritvoらの双生児研究はいくつかの疫学的問題を抱えている.双生児ペアは卵性により分けられ,自閉症双生児ペアの数は全体のグループと比較され,2人とも自閉症である割合(一致率)で表された.

表2
研究 一卵性ペア数 一卵性一致 二卵性ペア数 二卵性一致 診断基準
FolsteinとRutter(1977)

Ritvoら(1985)

Steffenburgら(1989)

Baileyら(1995)

11(2.7:1)

23(3.6:1)

11(2.7:1)

25(5.3:1)

36.3%(4:0)

95.7%(3.4:1)

90.9%(2.3:1)

60.0%(6.5:1)

10(2.3:1)

17(9男男1女女7男女)

10(0.7:1)

20(1.9:1)

0%

23.5%(1男男1男女)

0%

0%

Kanner,Rutter

DSM-III

DSM-IIIR

ICD-10

双生児研究ではいくつかの収集法が採られている.病院,特殊学校,精神ハンディキャップサービスなどの担当の小児精神科医と小児科医に,全ての研究で連絡が取られ,自閉症双生児がいないかを問い合せている.FolsteinとRutterおよびSteffenburgらはまた,既存の双生児登録をチェックし,特定の地域における全ての自閉症双生児を系統的に集める試みを行っている.Ritvoらは新聞広告により自閉症者を集め,家族性により興味を持っている一卵性双生児家系が増えるバイアスがあった可能性がある.このバイアスが,Ritvoらの報告での一卵性双生児一致率の高値を説明するかもしれない.Ritvoらはまた男女ペアの二卵性双生児を検討に含み,自閉症の発生率は男女差があるため,結果の説明が難しくなっている.Ritvoらの研究は双生児ペアのほぼ半分を臨床的にのみ検討したが,FolsteinとRutterおよびSteffenburgらはほぼ全ての双生児ペアを検討し,ペアと卵性をブラインドにして評価したケースサマリーを作成している.Ritvoらの研究はペアや卵性についてはブラインドでは行っていない.全ての論文で,卵性の確認は二卵性とはっきりしないケースで血液学的検討で行っている.

双生児研究を比較する時,自閉症は性差があるので,双生児の性について配慮する必要が生じる.報告間で女性の割合の相違は,一卵性および二卵性双生児内にもある.自閉症は女性よりも男性に多いので,二卵性双生児で非発端者が男性の場合は二卵性一致率が増加する傾向が予想される.

全ての報告で,一卵性一致率は二卵性一致率を上回っている.また,一卵性一致率の最低値は36%であり,この場合でも一般ポピュレーションの約300倍の頻度である.このことは遺伝素因が自閉症に関与していることを強く支持する.二卵性一致率は23.5%と報告したRitvoら以外では,0%であり,Ritvoらのデータはおそらくバイアスがかかっている.もし双生児であることが幼児自閉症のリスクを変化させなかったら,二卵性双生児は50%遺伝子を共有しているのであり兄弟であるのだから,真の二卵性一致率は3%程度であることが予想される.このずれは,二卵性双生児のデータが全体で60例にとどまっていることによると思われる.

結論的には,双生児研究は一卵性一致率と二卵性一致率の相違から強い遺伝素因の存在を示した.一卵性一致率はまた100%でないことも示され,非遺伝性因子もまた役割を担っている.

軽度の認知障害や軽度の社会機能問題の双生児における一致率もまた,FolsteinとRutterおよびSteffenburgらによって研究されている.その結果,認知障害の一卵性一致率は82−91%で,二卵性一致率が9−30%であった.Le Couteurらは,家族歴インタビュー法で,7例の一卵性双生児サンプルでより広い表現型(the broader phenotype)の一致率77%を,また20例の二卵性双生児サンプルで10%の一致率を得た.Le Couteurらのサンプルのほぼ全部はBaileyらの報告のサンプルと同一である.より広い表現型については後述する.ゆえに,双生児研究に基づき,より広い表現型に関する遺伝素因の存在は支持されるであろう.

より広い表現型(the broader phenotype)の家族研究

最初の双生児研究の所見および前述した(兄弟内の認知障害が15-20%)家族研究の所見に基づき,自閉症的な人の親戚のなかにはより広い表現型が存在することが示唆される.より広い表現型は,コミュニケーションの障害,相互的社会関係の障害,そしてステレオタイプの行動などで,広汎性発達障害の基準よりもよりマイルドな行動パターンである.より広い表現型の特徴と血族者の家族歴を検討することを目的として,家族歴インタビューのために家族歴スケジュールがデザインされた.このインタビューを使い,Boltonらは137人の兄弟の中に20.4%のより広い表現型を発見した.一方,Gillbergらによるコントロール研究でのポピュレーションを基盤とする報告では,33人の兄弟と68人の親を他の家族歴インタビュー法で検討し,自閉症発端者の親戚には認知障害はいなかったと報告している.

自閉症的な人の親戚における認知障害はまた,標準化されたIQや読みやスペリングの検査で検討された.表3に兄弟における結果をまとめる.

表3
研究 自閉症発端者数 兄弟数 兄弟の認知障害 コントロール群 診断基準
Augustら

Mintonら

BairdとAugust

Freemannら

Fombonneら

Folsteinら

41(2.7:1)

30(1.2:1)

29(4.8:1)

62(?)

99(1.70:1)

90(3.29:1)

71(1.0:1)

50(1.17:1)

51(?)

153(1.04:1)

120(1.07:1)

87(1:0.93)

11/71(15.5%)

注1

10/51(19.6%)

注2

注3

注3

ダウン症

知的レベルで標準化

 

正常値

ダウン症

ダウン症

Rutter

DSM-III

DSM-III

DSM-III

ICD-10,DSM-IIIR

DSM-IIIR

注1:サブノーマルな知的機能者が多く,非言語性IQに比し言語性スキルが有意に低下.
注2:認知および学習問題を評価する3つの心理スケールで正常値から有意な偏移はない.
注3:認知達成スケール,読みテスト,スペリングテストで有意な差異はない.

Mintonらの報告では(兄弟の)認知障害の率が増加しており,彼らのサンプルは特別な除外基準なしに精神科病院から自閉症的な児を集めたものであった.一方,いくつかの報告ではこの所見を確認できなかった.Freemanらの家族研究では,よく検討された疫学的に妥当なポピュレーションから得られた自閉症発端者の153人の兄弟と122人の親を検討して,親族中には認知障害はみつからなかった.また,Szatmariらは,表3には記載されていないが,52人の広汎性発達障害発端者の72人の兄弟と97人の親を検討し,親族中の認知障害はないと報告している.Folsteinらは,自閉症者協会と特殊学級から集めた90人の自閉症的発端者の87人の兄弟と166人の親を検討して,自閉症者の家族とダウン症の家族の間に,知的機能や読み書きのテストに関して有意差はなかった.しかし,言語に関連する認知障害は自閉症児の親により多くみられた(有意).

親の形質は,分裂病様と非分裂病様を区別できる検査を使ってWolffらによっても検討された.発端者の診断をブラインドにした検討の結果,21人の自閉症者の親は「高または低コミュニケーション能力と高または低知能」と特徴づけることができ,分裂病様形質または分裂病様パーソナリティーの頻度が他のハンディキャップの児21人の親と比較してより多く,特に父親においてはっきりしていた.Landaらは,ほぼ全ての発端者の診断をブラインドにして検討し,ダウン症児の親(21人)よりも自閉症者の親(43人)における社会的言語障害の頻度がより高いことを示した.複数発生自閉症家系では唯一の研究であるが,Pivenらは家族歴スケジュールを使い,ダウン症の親に比べ,自閉症者の親においては社会性障害,コミュニケーション障害,そしてお決まり行動がより高頻度に見られることを報告している.対照的に,Szatmariらは家族歴スケジュールを広汎性発達障害児の家族に適用し,コントロールに比べ親の認知障害頻度に差がないことを報告した.Picklesらは1親等および2親等親族,そしていとこにおけるより広い表現型の発生を家族歴スケジュールで検討し,自閉症児のいる149家系の親族の間でより広い表現型のリスクが増加していると報告した.

結論的には,いくつかの家族研究が兄弟内の認知障害の高率を報告しているが,標準化された知的機能検査を使った最近の4つの研究と,家族歴スケジュール以外のインタビュー法を使った一つの報告は,この所見を確認できなかった.親に関する研究の多くでは,認知障害は確認されなかった.しかし,研究において発見される親の認知および社会性障害は実際より低頻度に評価されるかもしれない.なぜなら,自閉症の易罹患性遺伝子を持つ重症の社会性障害が(あるとすると)子供をつくる機会は少ないからである.自閉症発端者の親族における認知障害の程度やより広い表現型をより正確に定義することは,これまでのところ不可能である.さらに研究することが必要であり,発端者の診断を評価者にブラインドにし,IQレベルを適合させたコントロール群をおくなどの必要性がある.

養子研究

家族内集積に関与する遺伝的および環境的因子を解明するためには,養子研究が適切であるが,自閉症に関しては発表された養子研究はない.

表現型の同定

関連表現型の同定は遺伝学的研究における主要な重要課題である.遺伝素因が関与しない疾患の患者はその疾患に関係する遺伝素因に関しての情報に貢献できないので,遺伝的背景のある対象者とない対象者を区別することが重要である.病因的非単一性は,異なる遺伝素因あるいは(and/or)非遺伝性因子が疾患の原因となりうることを意味しているが,自閉症の場合もそうではないかと提案された.もしそうであれば,診断は正確でも,病因としては不正確に分類されてしまうかもしれない.幼児自閉症の遺伝学的に単一なサブグループがあるとしたら,そのサブグループを同定するために補助となる臨床症候や生物学的マーカーで,広く認められているものは現時点では存在しない.そのようなサブグループが同定できれば関連遺伝子の同定が早まるであろう.自閉症のより広い表現型はまた,遺伝学的マッピング研究において利用することができる.

遺伝モード

自閉症の正確な遺伝モードは知られておらず,その原因は部分的には発現性の多様性,浸透率の低下,プレイオトロピー(一つの遺伝素因が複数の無表現型に影響),病因的多様性,遺伝学的多様性などによるものであろう.自閉症における性差に基づき,浸透率が男女で異なるのではないかと示唆された.より広い表現型は遺伝子型のもうひとつの発現であるかもしれないので,発現性の多様の存在はあり得る.家族内および家族間の多様性は,遺伝子間の相互作用(エピスターシス),環境,偶然,またはモザイク現象(mosaicism)によるのかもしれない.また,家族間の多様性は対立遺伝子の多様性や遺伝子座の多様性によるのかもしれない.

全てのあるいはほぼ全ての自閉症ケースが同じ遺伝子が原因で生じていると想定する場合,幼児自閉症が完全な浸透率の優性あるいは劣性常染色体単一遺伝子疾患として遺伝しているとは考えがたい.なぜなら,自閉症の兄弟内再発生率は3%であり.常染色体優性なら50%,劣性なら25%であるからである.完全な浸透率であれば一卵性一致率は100%であるべきだが,自閉症の一卵性一致率は100%未満である.優性伝播であれば,二卵性一致率は50%で,劣性伝播であれば二卵性一致率は25%であるはずだが,自閉症の二卵性一致率はおそらく25%未満である.しかし,予想値より低い一致率は浸透率の低下によるものかもしれない.あるいは非遺伝的なケースがサンプルに含まれている可能性もある.

ポピュレーションデータに基づき,X染色体性劣性遺伝は除外することができる.男性の有病率を1万人あたり3.75人とすると,Hardy-Weinberg平衡が適応できると仮定すると,女性の予想頻度はこの値の二乗で1.4×10-7となる.実際に観察される女性の有望率は1万人あたりほぼ1.25人であり予想値よりかなり高い.これは最近示唆された有病率千人に1人であてはめても同じ計算結果になる.

分離解析(segregation analysis)は,一人の自閉症者か複数の自閉症を持つ家系における遺伝モードの推定のために使われる統計的方法の一つである.分離解析はサンプリングバイアス(ascertainment bias)に対して感度が高く,遺伝的な単一性を想定する.Ritvoらによる最初の報告では,複数発生家系を46例検討し,このサンプルでの単一遺伝子座による常染色体劣性遺伝を示すいくつかの証拠が得られた.このサンプル群はその後,JonesとSzatmariによって再評価され,障害が深刻な児の親が産み控える現象を調整した結果,やはり同じように常染色体劣性遺伝の証拠が支持された.Jordeらによるポピュレーションを基盤とする分離解析では,発端者が1965年から1984年の間にUtahで生まれた185家系の単一発生家系および複数発生家系が検討され,主な遺伝子座による遺伝の証拠は得られず,オリゴあるいはポリ遺伝子性か複数因子遺伝が示唆された.両研究ともDSM-IIIを診断基準として使っている.Ritvoらによる研究では,自閉症ケースを宣伝して集めており,単一発生家系よりも複数発生家系の方が集まり易いサンプリングバイアスが問題となる.

Hallmayerらによる研究は,発端者のいとこおよび異父(異母)兄弟(が自閉症)の11家系を検討し,6家系において男性から男性への伝播があり,X染色体性は否定的であった.他の5家系においては,X染色体性と同様に常染色体の遺伝モードの可能性があった.

幼児自閉症は一卵性双生児に比べると,二卵性双生児は兄弟におけるリスクはかなり低い.このことはそれぞれのケースで同時にいくつかの遺伝子座が関与していることを示唆している.この考えは二つの報告により支持されている.Picklesらによる双生児研究および家族研究では,2個から10個の複数遺伝子座による遺伝モードが考えられ,最もそれらしいのは3つの相互作用のある遺伝子座の存在であるとしている.相互作用のある遺伝子座とは,全ての遺伝子座におけるリスク対立遺伝子が同時に疾患の発病に必要ということである.彼らの研究は,不確かな表現型定義,より離れた親戚における率のエラー,子供を持つ可能性の低下などに伴う問題を適合させて検討している.一方,Rischらによるゲノムスキャンは,15個あるいはもっと多くの複数遺伝子座モデルが最も適合すると報告している.

染色体異常(cytogenetic abnormalities)

自閉症と合併する染色体異常は,自閉症の原因となる遺伝子の破壊やロスにつながる染色体欠失,転座,または逆位と解釈される.欠失,転座,常染色体脆弱部位,X染色体脆弱部位などの染色体異常がこれまでに幼児自閉症に関連するとして報告されている.表4に示すように,ケースレポートは頻回に公表されているが,サンプルを基盤として自閉症における染色体異常の発生を検討した研究は数少ない.

表4 自閉症者における染色体異常の頻度(脆弱X症候群を含む)
研究 サンプリング 染色体異常 染色体解析 診断基準
GillbergとWahlstrom

Boltonら

Schroerら

Weidmer-Mikhailら

KonstantareasとHomatidis

Goteborgのポピュレーション研究

臨床ケースのプールから無作為(99)

South Carolinaの自閉症登録

4年間の間に紹介されたケース全部

7年間の間に紹介されたケース全部

46

83

100

59

127

22(48%)

4(4.8%)

10(10%)

1(12%)

8(6.3%)

100細胞

50細胞

 

20細胞,一部分子遺伝学的

 

DSM-III

ICD-10,DSM-III−R

DSM-IV

DSM-III-R

DSM-III,DSM-III-R

GillbergとWahlstromの結果以外では,多くの報告は5%から12%としている.GillbergとWahlstromは48%としており,脆弱部位の頻度が高かったためである.

最も高頻度に報告されている染色体異常のひとつは15q11-13であり,自閉症にとって重要な遺伝子がこの部位にあることが想定される.Gillbergは過剰逆位重複の第15染色体を持つ6例を報告し,そのうち4例は母親から受けついでいた.同じ部位の異常は,他の自閉症者における母親由来の第15染色体で,Flejterら,Cookら,そしてSchroerらが報告しており,従って,インプリンティングと呼ばれる異常が親から伝わることが重要かもしれない.インプリンティングはPraede-Willii症候群とAngelman症候群にもみられ,15q11-13上の父親あるいは母親由来の遺伝子のどちらかがないことが背景となる.

自閉症者で報告されている他の常染色体異常は,脆弱16q23と17p11.2上の構造的染色体異常などが含まれる.

脆弱X(fra (X))症候群の遺伝学的特徴はXq27.3の部位でのCGG反復配列の延長である.脆弱X症候群は時に幼児自閉症を伴っている.脆弱X症候群は分子遺伝学的検査で診断され,一方自閉症は行動上の症候により臨床的に診断される.脆弱X症候群の一般有病率は,男女の両方に起こり,約千人の児あたり0.6人である.精神発達遅滞者の約5-10%に脆弱X症候群がみられ,従って脆弱X症候群は精神発達遅滞の原因としては2番目に多い.脆弱X症候群である人の中での自閉症の頻度に関する研究は,発生率が6.9%から25%と報告している(表5).

表5 脆弱X症候群における自閉症の頻度
研究 サンプリング 自閉症(%) 診断基準
Hagermanら

Enfeldら

えssとFreud

Maesら

Baleyら

小児発達ユニットで

登録例から

男性例の神経精神異常調査

精神遅滞者調査から

症例の前向き縦断研究

50(男)

45(男女)

17(男)

58(男)

57(男)

8(16%)

4(9.1%)

3(17.6%)

4(6.9%)

14(25%)

DSM-III

DSM-III-R(コントロール:8.9%)

DSM-III-R

コントロール:1.7%

DSM-III

自閉症者における脆弱X症候群の発生率は0%から13.1%である(表6).

表6 自閉症者における脆弱X症候群の頻度
研究 サンプリング 脆弱X症候群(%) 染色体解析(カットオフ値)

 

Blomquistら

Pueschelら

Brownら

Wrightら

HoとKalousek

Paytonら

Pivenら

Baileyら

Liら

Gurlingら

Fombonneら

一般サンプルの一群

行動発達センターから

マルチセンター研究

自閉症児プログラムから

発達プログラムへの紹介

入院プログラム

3研究から

双生児サンプル

自閉症協会などから

アメリカ自閉症協会など

疫学的調査

102(男女)

18(男)

183(男)

40

41(男)

85(男)

75(男女)

123(男女)

104(男女)

25(複数発生家系)

112(男)

12(12.7%)

0

4(13.1%)

1(2.5%)

1(2.5%)

2(2.4%)

2(2.7%)

2(1.6%)

8(7.7%)

3(12%)

3(2.7%)

(1%)

50細胞

20細胞(3%)

100細胞(3%)

50細胞(4%)

(1%)

(4%)

(4%)

100細胞

100細胞

情報なし

発生率は報告により異なり,サンプル数が少ないせいとサンプリングバイアスによることが考えられる.さらに,多くの研究がコントロール群を設定していない.自閉症と脆弱X症候群の合併率が高いことを示唆し,その結果脆弱X症候群における(遺伝子)変異は幼児自閉症のリスクであるとする研究者もいる.しかし,二つの状態が分離したものであり,脆弱X症候群の人に見られる行動上の症候と自閉症のそれとは部分的に重複するのみであることを示唆する証拠がある.自閉症者の分子遺伝学的研究では,脆弱X症候群の変異は見つかっていない.従って,行動上の症候の研究と脆弱X症候群の変異の研究は,同じようにこの二つの状態が分離したものであることを示す.

単一遺伝子疾患と医学的状態

自閉症と単一遺伝子疾患の合併は,同じ遺伝子の異なる影響の発現(プレイオトロピー)かあるいは,自閉症とその単一遺伝子疾患が密接に連鎖するリスク対立遺伝子によって起こっているのかの両方が考えられる.ゆえに,自閉症と単一遺伝子疾患の関連についての知識は自閉症に関与する遺伝子の研究を速めるかもしれない.もう一つの可能性は,自閉症と単一遺伝子疾患(または医学的障害)が関連する理由が,両者が同じ脳機関,脳構造あるいは脳機能に影響し,同じ臨床像を呈するのかもしれない.いくつかの単一遺伝子状態やその他の医学的状態が自閉症と合併して報告されている(表7).

表7 自閉症に関連する医学的障害
医学的障害 異常染色体(領域) 症例数あるいは頻度 文献
Hypomelanosis of Ito

Williams syndrome

Moebius syndrome

Sotos syndrome

Joubert syndrome

Goldenhar syndrome

CHARGE 関連

Phenylketonuria

Metabolic purine disorders

9q33-qter; Xp11.21; 15q11-13; 15q1

7q11.2

3q21-22; 10q21.3-22.1; 13q12.2-13

?

?

?

 

12q24.1

 

11例(76例中10.5%)

8例(ポピュレーションの1.8%)

1例(症例の29%)

1例

1例(11例中3例:27%)

1例

3例

2例

9例

Griebelらなど

Reissらなど

GillbergとWinnergardなど

Morrowら

Holroydらなど

Landgrenら

Fernellら

ChenとHsiaoなど

JaekenとVan den Bergheなど

幼児自閉症に関連するとして報告された単一遺伝子疾患は,結節性硬化症や神経線維腫症などのまれな常染色体優性疾患を含んでいる.結節性硬化症においては自閉症との関連を示す証拠は強く,結節性硬化症の有病率は10歳以下では1万人から1万5千人に一人である.8つの報告が全部で238人の結節性硬化症患者を検討しており,20から61%で幼児自閉症の症候が示されている(表8).

表8 結節性硬化症における自閉症の頻度
研究 サンプリング 自閉症(%) 診断基準
HuntとDennis

Smalleyら

HuntとShepherd

Gillbergら

BoltonとGriffiths

Gutierrezら

Bakerら

Seriら

ある地区の患者協会

患者協会や診療施設

患者協会,病院,障害者情報

スクリーニング

紹介患者

患者協会や診療施設

小児科遺伝外来

てんかんを伴ったケース

90

18

21

28

19

28

20

14

45(50%)

7(39%)

5(24%)

17(61%)

9(47%)

8(28.6%)

4(20%)

7(50%)

Rutter

DSM-III-R

DSM-III-R

DSM-III-R

ICD-10

DSM-III-R,DSM-IV,ICD-10

DSM-IV

DSM-IV

自閉症者における結節性硬化症の頻度は,二つの疫学的研究では0.4%から2.9%で,てんかんを伴った自閉症サブグループにおいては頻度が高い(表9).

表9 自閉症者における結節性硬化症の頻度
研究 サンプリング 結節性硬化症(%) 診断基準
Olssonら

Ritvoら

Gillberg

施設の医師に質問紙法

自閉症親の会,メディア

痙攣既往のある自閉症

35

233

66

1(2.9%)

1(0.4%)

9(14%)

DSM-III

DSM-III

DSM-III

BoltonとGriffithsは結節性硬化症と自閉症を合併した9例のうち8例が側頭葉に位置する結節を持つことを発見し,Seriらはてんかんを持つ結節性硬化症例の検討の中で,自閉症的な7例全員が側頭葉に結節を持つと報告した.自閉症の病態における側頭葉の関与ははっきりせず,これらの報告においても,自閉症,結節性硬化症,てんかん,そして側頭葉の結節の間の因果関係については触れておらず,幼児自閉症と結節性硬化症の間の可能性のある関係の理由はまだ知られていない.

神経線維腫症もまた,自閉症者の中で報告されている.神経線維腫症1型は,その遺伝素因が17q11.2にあり,4000人に1人の有病率である.神経線維腫症2型は,遺伝素因が22q12.2にあり,5万人に1人の有病率である.自閉症者における神経線維腫症の頻度は3つの報告があり,0.2%から14%と巾がある.この巾は,調査方法の違いによるのかもしれない.GillbergとForsellは全ての一般ポピュレーションを臨床診察でスクリーニングし,51人の自閉症者の中に3人の神経線維腫症ケースを見つけた.GaffneyとTsaiは,小児精神科外来を1年の間に受診した14例の自閉症者を自閉症に関連する脳病変の有無に関してMRIで検査し,2人が神経線維腫症であることを報告した(14%).Mouridsenらは341人の自閉症児のカルテをチェックし,1例の神経線維腫症ケースを発見した(0.2%).神経線維腫症1型ケースにおける自閉症の発生率は,WilliamsとHershが研究し,遺伝性発達障害科で神経線維腫症1型患者74例のカルテをレビューし,自閉症を伴った3例を報告している(4%).幼児自閉症と神経線維腫症との間の想定されている関連の原因は判っていない.

いくつかの他の医学的状態が幼児自閉症と合併して報告されており,それらのうちいくつかは遺伝的原因を持っているものである(表7).

遺伝子マッピングと候補遺伝子研究

疾患に関連する遺伝子の場所を突き止め同定するためには,その遺伝子が作り出す蛋白質が不明であるかあるいはその病態生理についてほとんど知られていない場合には,(いくつかの異なる方法が開発されている.それらの方法の中で連鎖解析と関連研究は最もしばしば使われる方法である.これらの研究法はある特定の染色体領域にあることが判っているDNA配列における多様性を遺伝子マーカーとして使っている.関連研究は候補遺伝子におけるある特定の対立遺伝子または遺伝子型が,ポピュレーションベースで偶然として予想されるよりも高頻度に,ある表現型と共に存在するかどうかを検証する.この方法はその疾患の原因となる同一の小さなDNA断片と隣接するマーカー対立遺伝子を多くのあるいは全てのケースで共通する先祖から受け継いでいることを示している.連鎖研究は,二つの遺伝子座が,対立遺伝子が同一家系においていっしょに伝わっている傾向があり,染色体上に近接して存在するかを検証する.もし遺伝的非単一性が高度であったり(and/or)その疾患遺伝子が疾患易罹患性を5倍以下増加させるだけの場合は,複雑な遺伝性疾患の原因に関与する遺伝子のマッピングにおいて,関連研究は連鎖研究よりも効果的である.

CroweとKiddが指摘したように,精神科領域における関連研究の厳密な評価は単純とは言えない.主な問題はそれらしい候補遺伝子の欠如,わずかな陽性結果における公表バイアスなどを含み,そして可能性のある候補遺伝子の数が非常に多いために,通常の危険率0.05よりも低い危険率を必要とする.それぞれのリスク遺伝子はおそらく効果が弱いので,サンプルサイズは膨大なものでなければならない.結果がネガティブであれば,それはサンプルとなったポピュレーションに関してのみ言えることであり,ある程度の効果を持つ遺伝子に関してはネガティブであるということでしかない.

Spenceらによる連鎖解析は19個の歴史的なマーカーを使った自閉症に関する最初の分子遺伝学的研究である.しかし,結果は強い連鎖は見つからなかった.最大lodスコアは1.04で,マーカーはハプログロビン,部位は16q22.1.幼児自閉症の遺伝的原因に関する研究では,いくつかの関連研究と連鎖研究が行われている(表10).

表10 自閉症の分子遺伝学的研究(ゲノムスキャンを除く)
染色体領域 研究タイプ ケース数 マーカーの数 危険率 所見 文献
2q13-21

4p15.1-15.3

5q35.1

6p21.3

 

 

 

 

7q22-31.2

9q34

10p23

11p15

11p15.5

 

 

11q22.3

15q11-13

 

 

 

17q11.1-12

 

 

 

17q11.2

22q13.1

X

 

Xq27.3

 

関連

シークエンス

シークエンス

関連

関連

関連

関連

連鎖

連鎖

関連

TDT

関連

関連

関連

関連

関連

MTDT

連鎖,TDT

TDT

TDT

TDT

TDT

TDT

TDT

関連

変異解析

関連

連鎖

連鎖

シークエンス

100

25

25

19

21

45

50

90複数発生家系

76複数発生家系

50

53

66

50

72

55

33

138家系

139複数発生家系

90家系

133家系

86トリオ

52トリオ,65拡大

90家系

98トリオ

85

119

90

38家系

32家系

65

2

-

-

1ハプロタイプ(4)

1ハプロタイプ

2ハプロタイプ

2

10

9

1

1

1

3

3

2

1

9

8

7

4

2

2

2

1

3

-

8

35

6

-

p<0.01 P>0.05

-

-

p=0.03

p=0.0035

p<0.001 p<0.05

p<0.001 p<0.02

-

-

p=0.16

p=0.602

有意差なし

p=0.008 0.874 0.885

有意差なし

p<0.05 p<0.01

p=0.0005

p=0.0014

有意差なし

有意差なし

p=0.0045

p=0.119 0.030

p=0.248 0.366

有意差なし

p=0.53

p=0.85 0.87 0.49

-

p<0.0023

-

-

-

1マーカーに関連

変化なし

1例に変異

1マーカーに関連

関連

関連

2マーカーに関連

連鎖なし

3マーカーに連鎖

関連なし

連鎖不均衡なし

関連なし

1マーカーに関連

関連なし

関連

関連

偽陽性

連鎖・連鎖不均衡なし

連鎖・関連なし

1マーカーに連鎖不均衡

関連なし,HTT promotor短型が優位

関連,HTT promotor長型が優位

関連なし

関連なし

関連なし,ケースのみに見られる新型

変異なし

1マーカーに関連(Xq23)

2マーカーに連鎖(最大lod 1.24)

連鎖なし

FMR-1に変異なし,イントロンに変異

Petitら

Fengら

Fengら

Warrenら

Warrenら

Danielsら

Warrenら

Rogersら

Ashley-Kochら

Heraultら

Lassigら

Comingsら

Heraultら

Heraultら

Heraultら

Comingsら

Cookら

Salmonら

Maestriniら

Martinら

Cookら

Klauckら

Maestriniら

Persicoら

Mbarekら

Fonら

Petitら

Hallmeyerら

Hallmeyerら

Vincentら

これらの研究のいくつかは,同じ研究グループによって行われており,部分的にはサンプルが重複している.3つの古い研究を除き,1997年以降の研究はADIまたはADI-R and/or ADOSを使用している.

遺伝子マーカーと自閉症の関連や連鎖が証明されなかった研究も含まれている.一般的にはこれらの研究は比較的少ないサンプル数でほとんどの研究でケース‐コントロールデザインは使われている.しかし,親と子供のトリオサンプルの方が利点も多い.多くの研究における候補遺伝子の選択は,しばしばモノアミン系神経伝達に関連する現在知られている神経遺伝子を反映しており,候補遺伝子は遺伝子マッピングや染色体異常または自閉症の生物学に関する特異的な仮説を背景としている.

Petitらは,自閉症と2q13-21に位置する遺伝的多型マーカーであるMP4の間の関連に関するいくつかの証拠を発見した.MP4はマウスのEN-2遺伝子に対応する人の類似遺伝子内に位置している.EN-2は胎児および成人マウスの小脳で発現し,有糸分裂後の形態学的分化に役割を持つとされる.小脳は自閉症で異常が指摘されており,この興味ある所見を評価するためにはさらなる研究が必要である.

FengらはドーパミンD1およびD5受容体遺伝子におけるDNA配列多型を発見した(意義は不明).ドーパミンD5受容体遺伝子は4q15.1-15.3に位置しており,D1受容体遺伝子は5q35.1に位置している.ドーパミンD5受容体遺伝子の膜通過ドメイン内の知られていなかった変異が,一人の自閉症者において発見されている.この変異が機能的意義を持つのかどうかを決定するためには,さらなる研究が必要である.

自閉症と6p21.3上のHLAシステム内のいくつかのマーカーとの間の関連が,一研究グループからサンプル数を増やしながら指摘されている(3論文).しかし,この部位は連鎖解析では支持されていない.免疫反応に重要な遺伝子はHLA複合体遺伝子部位に位置しており,自閉症者の何人かがT細胞の数や機能において免疫学的異常を呈することも報告されている.このことは,あるウイルス粒子または他の病原体が(T細胞に)異常に結合し異常免疫反応の原因となる可能性を示唆する.病原体はその後中枢神経系に広がり,自己免疫メカニズムをきたすのかもしれない.

ゲノム全体に渡るスキャンの所見に基づき,7q22-31.2がAshley-Kochらによって検討された.その結果,1以上のlodスコアが3つのマーカーに関して検出された.このことで,この部位における連鎖が支持される.加えて,7q31.3部位の(染色体異常の)断端が,自閉症者一人と会話障害者一人において蛍光マーカーを使ったin situハイブリダイゼーション(FISH)により同定された.

Heraultらは,自閉症と11p15.5に位置する遺伝子マーカーであるHRAS-1との関連についてのいくつかの証拠を発見している.この遺伝子マーカーは,ドーパミンD4受容体遺伝子に近接しており,HRAS-1は,カテコラミンの合成のrate-limiting酵素であるタイロシンハイドロキシラーゼをコードしている.Heraultらはその後,マーカーを増やしてサンプルを増やし検討し,それでも自閉症とHRAS-1との間の関連が証明されている.また,タイロシンハイドロキシラーゼ遺伝子との関連も発見した.しかし,Comingsらはタイロシンハイドロキシラーゼ遺伝子における他のマーカーとの関連についての証拠を得られなかった.

自閉症とドーパミンD2受容体遺伝子座(11q22.3)でのTaq I多型との関連はComingsらによって報告されているが,他の研究者はこの部位を検討していない.

15q11-13は,この部位の染色体異常が何人かの自閉症者で報告されているため,自閉症の候補遺伝子として早くから議論されている.Cookらは,TDTを使い,自閉症と11q11-13に位置するマーカーの一つであるGABA受容体遺伝子との連鎖不均衡を報告した.この所見はMartinらによって再現できなかったが,Martinらは隣接するマーカーとの有意な連鎖不均衡を報告している.一方,SalmonらとMaestriniらは,同じ領域に連鎖不均衡を見つけることができなかった.しかし,自閉症の易罹患性遺伝子の存在は除外するこはできず,少なくとも自閉症者のサブグループにおける易罹患性遺伝子の存在を否定できない.

セロトニントランスポーター再吸収抑制剤は,自閉症の症候のいくつかに部分的な効果があることが報告されている.3つの論文が,17q11.1-12にあるセロトニントランスポーター遺伝子について報告している.これらの3つの論文は全て,自閉症とこの遺伝子の第二イントロンの多型との関連を見出せなかった.セロトニントランスポーター遺伝子のプロモーター部位にある44bpの挿入/欠損(多型)の伝播についてはまったく逆の結果が報告されている.Cookらは,この多型の欠損方と自閉症者が関連していると報告し,一方Klauckらは挿入型が自閉症者で有意に伝播していると報告した.MaestriniらとPersicoらの二つの大規模研究は,この二つの多型のどちらにも有意な伝播を見いだせなかった.

17q11.2には,NF1の遺伝子も存在し,自閉症とこの領域の関連が示唆されているため,Mbarrekらはこの部位を検討した.NF1遺伝子の3つのマーカーは全て自閉症との関連が見つからなかった.

22q13.1は,この部位にあるadenylosuccinate lyase(ADSL)遺伝子における点変異がこの酵素の不安定性につながり,ひとつの家系サンプルにおいて7人の兄弟中3人が持つ自閉症的症候と共にこの点変異が分離されることが報告された.従って,この部位は自閉症の候補遺伝子に含まれることが示唆された.親と自閉症症候を持たない兄弟たちはヘテロの状態で,一方自閉症的な3人はこの変異のホモ型であった.ADSLはプリンの新規生合成に必要不可欠である.Fonらは119例の自閉症者を調べ,この同じ変異が存在しないと報告した.

X染色体に関しては,いくつかの分子遺伝学的研究が行われている.ひとつの連鎖解析は,脆弱X症候群の遺伝子部位であるXq27.3に位置する6つのマーカーに関して検討し,連鎖の証拠を得ていない.他の連鎖研究はほぼ同じ研究ポピュレーションを使い,35個の異なるマーカーでX染色体全体をサーチし,メジャーな遺伝子効果の証拠は見つかっていない.Petitらによる関連研究では,Xq23の一つのマーカーとの関連の証拠がいくつか見つかっている.一方X染色体上の異なる部位に位置する6つの他のマーカーに関しては関連は見つかっていない.

3塩基反復の検討は,いくつかの研究で行われ,脆弱X症候群に関与する遺伝子のどれかの(3塩基反復の)延長が自閉症に関連していないかが検討された.しかし,3塩基配列との関連は示されず,従って自閉症に遺伝的anticipation(世代を経るごとに疾患の発現程度が重症化する現象)があるのではとする仮説は少なくともこの部位では支持されなかった.人FMR-1遺伝子(脆弱X症候群の変異遺伝子部位)の17個すべてのエクソンのシークエンス解析は,65人の自閉症者で行われ,自閉症との関連の証拠は見出されなかった.

これまでのところ,4つのゲノム全長に渡るスキャンが報告されており(表11),有症候兄弟ペアまたは有症候親戚ペアがサンプルとして使われている.

表11 自閉症のゲノムスキャン
研究 家系数 マーカー数 部位 MLS
IMGSAC

Philippeら

Rischら

Barrettら

87

51

139

75

354

264

519

416

7q31-35, 16p13.3, 4p16

18q22.1, 19, 6q16.3-21

1p, 17p13, 7p15.2

13p21.3, 13p12.3, 7q31.1

2.53 1.51 1.55

1.47 1.17 1.02

2.15 1.21 1.01

3.0 2.3 2.2

3.3を超えた場合を有意とすると,有意なlodスコアは1つだけで,使われたサンプルのサブポピュレーションで報告されている(IMGSAC,表11には記載していない).2つのゲノムスキャンは7q31-35の領域での連鎖の証拠を報告しており(IMGSACとBarrett),またPhilippeらも7qの重複する部位に連鎖の証拠を報告している(表11中には記載していない).16p13.3における連鎖の弱い証拠はIMGSACが報告し,この所見の背景にはTourette症候群を合併した自閉症でこの部位に染色体異常を伴ったケース報告があり,興味ある部位である.これまでに自閉症との関連が見つかっていない部位としては,中心体そばの1p,6p16.3-21,そして13p21.3がある.これらの所見は他の独立したサンプルを使った研究で再現される必要がある.

結論的には,異なるいくつかの部位で関連または連鎖をある程度支持するいくつかの研究が存在するが,自閉症の原因に関与する候補遺伝子はまだ確実には同定されていない.これらの所見を再現したり除外したりするために,さらなる研究が行われることが非常に重要である.

結語

家族研究や双生児研究に基づき,強力な遺伝素因の証拠が幼児自閉症において報告されている.背景となる遺伝子型に関連する表現型を探す過程で,より広い表現型(a broader phenotype)の存在が示唆された.遺伝モードに関しては,単純な単一遺伝子遺伝は自閉症の多くのケースには当てはまらないようである.そうではなく,少なくとも数個の遺伝子座の併存関与が最も考えられる.

自閉症と,医学的状態や単一遺伝子位疾患または染色体異常の合併は,幼児自閉症の原因に関与する遺伝子を含む候補部位を示唆する可能性がある.自閉症に関連する染色体異常は,15q11-13,16q23,そして17p11.2で見つかっており,15q11-13に異常のあるほとんどのケースで母親からの伝播であり,インプリンティングが重要なのかもしれない.自閉症と最も頻回に合併する単一遺伝子疾患は,結節性硬化症,神経線維腫症,そして脆弱X症候群であるが,関連の証拠は結節性硬化症について最も強い.この想定される合併の原因は不明である.

(関連する)遺伝子を探す過程で,いくつかの関連解析と連鎖解析が行われた.候補部位および候補遺伝子がいくつか示唆され,2q13-21と11p15.5が含まれる.これまでのところ4つのゲノムスキャン研究が行われ,それらのうち2つが7q31-35と13p21.3に興味ある部位を発見している.これらの所見については再現性に関する今後のさらなる研究が必要である.

自閉症の病態生理に関する知識を増やすためには,幼児自閉症の原因に関与する関連遺伝子を探し見つけることが重要である.非遺伝性因子は,もし遺伝素因が知られていれば発見するのがより簡単かもしれない.また,その遺伝的リスクにより自閉症者をサブグループ化することが適切であろう.それから環境の影響は疫学的研究において検討することができ,または環境因子は(遺伝子の)トランスジェニック動物やノックアウト動物において検討可能になるであろう.疾患に関与する病因を同定することは,予防や治療に関しても重要であり,原因を基盤としたより正確な診断にも寄与する.さらに,特異的なリスク遺伝子に関する知識を基盤とする遺伝カウンセリングもひょっとすると可能になるかもしれない.

付記

この論文が受理されてから,フィンランドの17例の複数発生家系の連鎖解析が報告された.その論文の唯一の所見は,以前の一つのゲノムスキャンで指摘されていた1p領域におけるマイルドな連鎖の証拠であった.


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