GABRB3遺伝子
Duke大学の最新報告

Shao Y, et al. Fine mapping of autistic disorder to chromosome 15q11-q13 by use of phenotypic subtypes. Am J Hum Genet 72: 539-548, 2003.

訳者コメント:

Am J Hum GenetのサマリーとDuke大学からのインタネットニュースの概訳です.GABA受容体ベータ3サブユニット(GABRB3)をコードする遺伝子の部位に自閉症易罹患性遺伝子が存在することを示唆しています.Duke大学のホームページではおもしろいタイトルで報じています.今回の方法でのLODスコアは4.71で,連鎖があることが考えられる基準を3.00とすればかなり有望な結論です.行動ドメインでサブグループをしぼりこんでもこの程度かという印象もあります.こだわりが強い自閉症とこだわりがない自閉症の二つのグループがあるという説はあまり一般的ではありませんので,結果的にはこだわりが評価上結果に出やすいグループと評価ではこだわりをつかみにくいグループに分けたことになると思います.したがって本質的なしぼりこみでができていないのかもしれません.

(概訳)

自閉性障害は複雑な遺伝性疾患である.入手可能なエビデンスは自閉性障害の発症の背景となっている遺伝性リスクに,いくつかの遺伝子が寄与していることを示唆している.しかし,病因的非単一性と遺伝的非単一性があり自閉性障害の易罹患性遺伝子の発見の障壁となっている.染色体上の15q11-q13は,この部分に起こる染色体異常の頻度が高いことと,連鎖研究・関連研究の多くが示唆する所見から,候補領域として有力である.Ordered-subset解析(OSA)は新しい統計的な方法であり,特定の染色体領域での全般的連鎖に寄与している均一サブセットを同定する方法である.従って,ある染色体領域の易罹患性遺伝子の詳細なマッピングにおいて補助となる可能性がある.今回の解析では,OSAにおける共変数(covariate)として同一性に対するこだわり因子を使った.同一性に対するこだわりは,自閉症診断インタビュー(ADI)の改訂版における反復性行動/お決まりパターンドメインを使って,自閉性障害221人に関するデータの一次成分因子解析から得られた.同一性へのこだわり因子に関するスコアが高いことを共有している家族の解析は,GABRB3遺伝子座のある15q11-q13領域における連鎖エビデンスを増強し,LODスコアは1.45から4.71となった.これらの結果は第15染色体上にある我々が注目する遺伝子領域を絞り込み,GABA受容体サブユニット遺伝子の周辺に特定する.また,これらの結果は表現型が均一なサブタイプの解析が複雑な形質における疾患易罹患性遺伝子のマッピングのために強力な手段となる可能性を示唆する.

 

(Duke大学のホームページに出たニュース)http://www.dukenews.duke.edu/news/newsrelease.asp?id=1408&catid=2&cpg=newsrelease.asp

新しい遺伝学の“魚網”が,なかなか捕まらない自閉症遺伝子を捕獲

Duke大学の研究者たちが自閉症児のひとつのサブグループにおいて自閉症発症に主要な役割を担っているかもしれないひとつの遺伝子を同定した.

2003年2月10日(月曜日)Duke大学医科センターの研究者たちは,新しい統計学的遺伝子の“魚網”を開発した.この“魚網”はななかな捕まらない自閉症遺伝子のひとつを捕獲するために,自閉症児に関する複雑な遺伝子データの海に投げ入れられた.

さらに,この研究者たちは,「このアプローチの成功は,例えば高血圧や糖尿病や多発性硬化症などの複雑な他の遺伝性疾患における遺伝性リスクファクター研究に広汎に応用することができるであろう」と述べた.

今回の場合の遺伝子は以前自閉症に関連することが示唆された遺伝子GABRB3である.しかしこの遺伝子部位はこれまでに自閉症に陽性リンクが証明されたことはない.彼らの発見はAm J Hum Genetの2003年3月号で発表される.

「多くの研究グループが懸命に自閉症の遺伝リスク因子を探しているが,あまり成果は上がっていない.」とMargaret Pericak-Vance博士は述べる.彼女はヒト遺伝学のためのDukeセンターのディレクターで今回の研究の指揮を取っている.

自閉症は複雑に重複する発達障害の一群に対する共通診断名である.3歳以下の小児1000人あたり約1名がこの状態と診断される.それぞれの自閉症児は特異な一連の特徴を有しており,行動,コミュニケーションスキル,そして他人との相互関係能力に障害がある.自閉症は非常にはばがあり,複雑な性質を有しているので,明瞭な遺伝リスクファクターの場所を同定するのは非常に難しいとPericak-Vanceは語る.

いくつかの遺伝子研究がたった2−3個のはっきりしない遺伝子の手がかりだけをつかまえた後,Duke大学の研究チームは新しいアプローチが必要であると結論した.Pericak-Vanceは,同じような形質を持つ患者をグループにしてまとめれば,科学者が関連遺伝リスクファクターを区別する能力を統計的に高めるのではと仮説を立てた.科学者たちは,自閉症の診断と治療に関し経験が豊富なDuke大学の臨床小児心理学者Michael Cuccaro博士のところに行き相談した.Cuccaroは自閉症児全員ではないが,何人かは反復性の衝動性と日々のルーチンが変化することをひどくいやがることを指摘した.Cuccaroによって“同一性に対する固執”と定義されたこの行動形質は,研究チームが詳細に検討すべき自閉症家族のサブセットについてのデータを同定する助けとなった.

Duke大学の遺伝疫学者であるYujun Shaoを筆頭著者とする研究者たちは,複数の自閉症児のいる家族から集められたデータを再検討し,変化に対するこだわりを持つ自閉症児の家族をグループにして検討した.

自閉症児が少なくとも二つのサブグループに分かれるとするCuccaroの理論は,Duke大学と南カリフォルニア大学の科学者チームに,“ordered subset解析”と呼ばれる新しい統計的方法を使う機会を与えた.この方法はDuke大学の内科研究助教授であるElizabeth Hauser博士が開発したものである.この新しい遺伝子魚網は,科学者が複雑な遺伝データをシフトさせ,いくつかのグループだけに影響している遺伝リスクファクターを抽出することを可能にする.

今回,この新しいテストを研究者たちが同一性固執カテゴリーにおいて高いスコアの自閉症児家族だけに適応させた時,彼らはこれまでにそのような強い連鎖が確認されていない第15染色体長腕上のGABRB3遺伝子に強力な連鎖を発見したのである.

「ordered subset解析の適応が始めてうまくいって,より大規模な群での検討では見逃されていたであろう遺伝子リスクファクターを我々が同定することができた.」とPericak-Vanceは語った.

研究者達はこの発見がGABRB3遺伝子あるいは同じ部位にある他の遺伝子がどのように自閉症に関連しているのかを理解するための第一段階に過ぎないと強調している.以前の研究は第15染色体上の同じ領域がAngelman症候群とPrader-Willi症候群の原因遺伝子部位であることを示しており,もう一つのヒントにもなっている.この2つの遺伝性疾患は罹患児の一部が反復性行動を呈する.GABRB3遺伝子のいかなる欠質が自閉性障害に寄与しているのか,また他の遺伝子や環境因子がどのような役割を果たしているのかを理解するためには,さらなる研究が必要である.

「しかし,この結果から我々がすべきことは,自閉症児に関与する臨床家や研究者たちが,自閉症が異なるタイプあるいは異なるサブグループで成り立っており,ひとつの連続体としての状態ではないものとして自閉症を考えるように啓蒙することである.」とCuccaroは語った.「サブグループに分けて考えていけば,そのうちに自閉症者それぞれの治療法をより理解できるようになるであろう」と述べた.

Cuccaroは,臨床観察を基盤に患者のサブセットを同定することが有意義な神経生物学的所見を発見することにつながったのだと言う.また,おそらく複雑な遺伝的問題に臨床観察を関連させる道を示唆しているだろうと述べた.

「ゲノムに関する革命は疾患遺伝子を見つける道筋とマーカーに関して莫大な利益を我々に与えた.」Pericak-Vanceは言う.「今,我々は複雑な臨床情報をみることができなければならない.そして複数のリスクファクターを持つ疾患を詳細に吟味することができる方法を見つける必要がある.この新しい統計的テストは我々が意味がある遺伝性リスクファクターを見つけることを助けてくれる.そのような遺伝性リスクファクターはより大きな非単一性のグループの部分としてテストされた時には薄まってしまって検出されない.」と述べた.


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