エビデンスに基づく療育を(オーストラリア)

Couper JJ, Sampson AJ. Children with autism deserve evidence-based intervention. MJA 178: 424-425, 2003.

訳者コメント:

以前もオーストラリアから似たような意見論文がありましたが,オーストラリアも療育に関しては一枚岩ではないようです.応用行動分析プログラムの費用が家族負担になってしまうために,希望者がなかなか受けられないことは世界的な課題です.聴覚統合療法については,著者は否定的すぎる立場のようです.

(概訳)

行動療法に関するエビデンス

自閉症は発達障害であり,コミュニケーション障害,社会的相互関係障害,そしてお決まりの制限された行動パターンで特徴づけられる.自閉症児は正常の言語の発達が障害され,想像的遊びができない.自閉症(あるいは自閉性障害)は,1000人の小児中1人存在しており,より広いスペクトルである広汎性発達障害のコア障害である.オーストラリアの小児科医たちは自閉症を臨床におけるより難しい領域の1つとみなしている.自閉症における児の発達の休止をうまく説明できる原因は同定されておらず,数多くの治療法が存在する.

診断は,学際的チームによってなされる必要がある.その後,親はたくさんの治療法リストを見せられることになる.通常はまず言語病理学者(言語療法士?)のところへ行かされるであろう.感覚運動統合療法(視覚,聴覚,聴覚を刺激したり鈍感にしたりする)と食事介入(カゼインとグルテンの入っていない食事)はオーストラリアでは広く行われているが,これらの効果についてのデータは不十分である.聴覚統合療法(患者は極度に敏感な周波数の音をコンピューターで除去した音楽を聞かされる)の対照試験では効果が示されなかったが,現在でも治療として聴覚統合療法が提供され続けている.無効な治療が有害である可能性もあり,彼らは親のお金を浪費させ,児の貴重な治療のための時間をむだに使わせている.さらに,効果的な治療を行うのが遅れてしまい,児のアウトカムを悪くしているかもしれない.

絵やシンボルやサインのような視覚的モードを使ってコミュニケーションを増大することは,重度のコミュニケーション障害や乏しい言語模倣能力を持つ児において,コミュニケーションや言語を促進させる.しかし,最も厳密な評価を受けた早期介入は,行動学的介入である.行動学的介入が認知,コミュニケーション,適応,そして社会的スキルを自閉症児おいて改善することについての決定的なエビデンスが存在する.1987年,Lovaasは,適応的行動を再強化し,非適応行動を減らすための科学的方法である応用行動分析に基づく集中的な家庭での介入を受けた19人の小児の中で,9人において明らかな改善を報告し,その効果は青年期まで持続したことを示した.その後の研究もまた,行動学的介入が,いくらかその効果は少ないものの,有意な改善につながることを示した.この結果は,児閉症が常に重篤で一生続く障害であるとするオーソドックスな考えを変化させた.これらの研究のデザインと感度の妥当性に関しては,多施設でのLovaas法再現に関する早期自閉症プロジェクトが評価を行っている.最初のアメリカのサイトが,既にデータを公表した(Wisconsin早期自閉症プロジェクト).小学校入学前の自閉症児の約半数が,集中的応用行動分析介入の3-4年後に,言語,パフォーマンスIQ,および適応性において健常児に近い機能を獲得していた.介入事例の92%で,児はある程度言語能力を獲得していた.特殊教育を受けたコントロールの自閉症児は,IQにおいても適応性においても進歩していなかった.

集中的応用行動解析介入は,自閉症児に対する特殊教育よりもより効果があるのはなぜなのだろうか.この疑問はこれらのプログラムの集中度(1週間に30-40時間)で簡単に説明することはできない.学校単位で行われたScandinavian研究で行動学的介入を受けた対象児は,介入の一年目で言語性IQが平均で25ポイント増加し,パフォーマンスIQ,コミュニケーション,そして適応性においても改善がみられた.全てのスコアにおいて,彼らはコントロールをしのいだ.コントロール児は,自閉症のための最高の実践マニュアルに従い,同じ程度の集中度で,時間数も同じで,また監督者もついた状態の特殊教育を受けた.

行動学的介入から得られるこの優れたアウトカムは,学習,模倣,注意,モチベーション,迎合性,そして相互関係の開始を妨げる自閉症における特殊な障害を介入目標としている結果であると思われる.各スキルは小さなステップに分けられて教えられ,それができるようになると次は一般化される.集中的な個人に合わせた一対一の療育が通常,学生や行動療法士または親によって提供され,行動学の専門家が指導監督する.遊びや学習のより自然な設定を行い,コミュニケーション支援を最大にし,そしてビデオモデリングなど他の強力な視覚的学習手法などが使用される.親は主要な調整の役割を担っており,児が学んだスキルを一般化するためのトレーニングを受け,付随的な指導を供給する.陽性の再強化だけが子供を教えるために使われる.

アメリカとイギリスにおけるいくつかの小学校入学前プログラムは,家を基盤にする行動学的プログラムに匹敵する成功を報告している.これらのプログラムでは,子供に対するスタッフの割合が低く,詳細な行動学的データを収集し,一般的には健常児と一緒に統合指導を行い,行動学的方法に関して親を集中的に訓練する.

しかし,オーストラリアに住む自閉症児の多くは,集中的行動学的介入プログラムを受けていない.これは,部分的にはそのようなプログラムが多くの専門家に推奨されていないからであり,また部分的には,家族にとってその費用が莫大であるためである.唯一,西オーストラリアでは,西オーストラリアの障害サービス委員会のレビューがその正当性を認めたので,小学校前の行動学的プログラムのための部分的自治体補助金がもらえる.西オーストラリア州はまた,前向きの自閉症登録制度を最初に導入し,オーストラリアのアウトカムデータにおいてユニークな位置を占めている.

我々は,包括的なオーストラリアのアウトカムデータについては知らない.包括的なデータは自閉症のための特殊幼稚園や特殊学校から得られるもので,それによって応用行動解析プログラムのアウトカムを比較することができる.自閉症児の親にとっては,このデータは早急に必要なものに思える.アメリカにおいては,親は,専門家の発表を使い,エビデンスに基づく介入を効果的にサポートしている.もし,自閉症小児における集中的行動学的プログラムが,児の半分においてその後の特殊教育や他の費用のかかる介入を必要でないようにするとしたら,そのような効果的なプログラムに対して政府が補助金を出すことは,長期的には経済的見返りが期待できる.そのようなプログラムで効果のあった児本人や家族に対する見返りも,もちろん経済効果を伴う.


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