ミニ円柱構造異常と読書障害

Casanova MF, et al. Minicolumnar pathology in dyslexia. Ann Neurol 52: 108-110, 2002.
 
訳者コメント:

症例報告ですが,重要な病理検査技術と所見を報告しています.次に自閉症のミニ円柱構造異常(文献1)を紹介する予定ですが,この読書障害(一例)で示されたミニ円柱の巨大化とは全く反対の所見が自閉症では報告されています.

(概訳)

概要:ミニ円柱は,脳の解剖学的および機能的ユニットであり,その発生は脳の腹側区域における胚細胞の分裂に起因する.ミニ円柱の形態上の違いが,最近自閉症およびダウン症において明らかにされた.我々は読書障害の患者の脳におけるミニ円柱の異常を報告する.付随する発達障害(すなわち大型ミニ円柱)で,読書障害でみられる概念的エラーを説明できるかもしれない.

イントロ:読書障害は言語障害に分類される.有症候者は,読み,スペリング,そして時に数学問題の解答に障害を持つ.この学習障害は通常,小学校において表面化し,一生続く.その慢性の経過に加え,その症候のために,研究者たちは言語に関与する脳部分の変化を主張してきた.シルビウス領域での詳細な異常を研究したMRI研究は,この主張を支持している.残念なことに,読書障害の死亡後の病理研究を行った研究者はほとんどおらず,主張されている側頭平面部の所見も主観的な所見に止まっており,共同研究が必要である.ゆえに,シルビウス領域と他の皮質領域における転位およびmicropolygyriaの存在は,読書障害の発達上のオンセットを支持するが,大脳の優位性に付随する異常は説明されていない.

最近,我々の研究グループは,ヒトの種を特徴づけることができるミニ円柱の大脳半球間の形態変化を記載した.その部位はWernickeの領域の一部であるエリア22であるので,その形態学的違いは,ヒトの言語発達と,その部の障害の両方に役割を果すかもしれない.我々の今回の研究は,一人の読書障害患者の脳のエリア22におけるミニ円柱機構および片側局在性の異常の存在を探すものである.

標準の形態学は,細胞数や領域そしてオリエンテーションなどのような静的情報を供給する.しかし,有意な利益は個々の細胞を検討するよりもむしろミニ円柱構造を検討することで得られる.視野の中でより限定されているのが,ミニ円柱構造の機能性よりも細胞の機能性であるだけでなく,個々の細胞は垂直層構造モデルの周辺に想定されている.この細胞の線状配列は,皮質プレート内でのニューロンの最も早期の解剖学的構造化であり,後に環境の影響が作用する初期状態である.それらの単純性とコンピューター技術による解析の実現により,最新式のコンピューターによる画像化で容易にこの線状構造を解析できる.

症例

患者の病歴および予備的神経病理学的所見は別の論文で報告済みである.患者は20歳の男性で,アクシデントによる落下で死亡した.彼の読書障害は小学校1年生の時に診断され,彼のコミュニケーション能力は彼の知的レベルや社会文化的機会,そして教育経験から予想される程度よりも低かった.彼の兄弟と父親の両方が読みの開始が遅かった.大脳の連続切片では,左側頭部の会話領域にpolymicrogyriaの部分があり,同側大脳半球に皮質の異形成が散見された.本研究のために,Wernicke領域の部分である,エリア22またはエリアTptの後部と,エリア9(コントロール領域として)は両側共Nissl染色処理され,35マイクロメーターの厚さの切片が作られた.

コンピューターによる解析により,画像は前景(細胞体)と閾値を伴った背景(神経網)に分画され,それぞれの画像において自動的に検出された.それぞれの前景対象物はその領域によりさらに分類された.つまり,30平方マイクロメートルより大きい区域を占めるものを大型ニューロン,10から30平方マイクロメートルの領域を占めるものを小型ニューロン,10平方マイクロメートル以下の対象物はその後の計算処理から除かれた.局所の細胞密度は以下のようにして計算された.平均ニューロンスペース(d)は,イメージ領域を大型ニューロンの数で割った値の平方根.画像を2dの高さの水平方向の集合体(バンド)に分割.それぞれの集合体内で,観察された細胞密度を1/2dの巾のガウス中心部のある水平方向の位置の関数としてスムーズ化.局所の細胞密度の最大値はミニ円柱構造のコアを示し,局所の最小値は末梢神経網スペースを示す.どちらかの側の最小値と共に,隣接するスクリプトは神経網の形状に関連する.神経網内に含まれるニューロンと神経網は,ひとつのミニ円柱セグメントを形成する.計算アルゴリズムは他の論文に記載した.

いくつかのタイプの情報を,ミニ円柱セグメントから得ることができる.円柱の巾はそのセグメントの左右境界の平均距離である.神経網空間は円柱コアの両側の細胞の少ないスペースの巾である.平均細胞空間は,隣接するニューロン間の平均距離である.あるニューロンの区域は,最小巾ツリーで定義される.最小幅ツリーは複数の端っこのセットであり,つまり全てのセットの最小全長を持つ全てのニューロンを結合する線状セグメントである.ひとつのニューロンの区域は,最小巾ツリーの端っこを共有する他のニューロンからなる.神経網空間は円柱の末梢における神経網空間を測るけれども,平均細胞空間はミニ円柱コア内の神経網スペースを測る.相対的ばらつき度(RDR)は,セグメントの第二形状モーメントの比率により分割される一つのセグメント内の分布モーメントの比率である.RDRはコンパクト性の計測値である.一つのセグメント内の細胞の一定の分布である,最小コンパクト配列の場合は,RDRは1となる.ニューロンが円柱コアに集積すればするほど,RDR値は大きくなる.

結果

形態的パラメーターの正常域は,3歳から98歳(平均47歳)の38人のコントロールを基にしている.コントロール症例からのサンプルは,左右半球別,皮質エリア別に分けられた(表1).統計的検定としては,診断,半球(右か左か),固定因子としてのエリア,共分散としての年齢などを含む多変数解析も行った.この解析における依存変数として,円柱の巾,平均細胞空間,神経網空間,そしてRDRが含まれる.全体的多変数検定(Wilksラムダ)では,この読書障害症例を正常域から十分に外した(p<0.001).円柱巾,平均細胞空間,末梢神経網空間は全て,読書障害ケースにおいて正常よりも大きかった(全てp<0.001,表2).RDRは正常範囲内であった(p=0.667).皮質エリアの影響は有意で(p<0.001),診断とエリア,診断と半球別とエリア,の間に相互作用があった(共にp<0.001).しかし,皮質エリアの効果と相互作用は,円柱巾,平均細胞空間,神経網空間に関するフォローアップ共通変数検定においては有意でなかった.表2は,半球別,皮質エリア別に結果を区分したものである.年齢への有意な依存はない(p=0.514).この検討では,読書障害ケースにおけるミニ円柱形態の有意な異常が示された.全体として,ミニ円柱は有意に巾がひろく,正常よりも末梢神経網空間がより大きかった.我々の最初の予想と対照的に,一方の半球あるいは脳領域22のどちらによっても所見は限定されなかった.

表1 サンプルサイズ
診断 エリア9左 エリア9右 エリアTpt左 エリアTpt右
正常 17 18 33 28
読書障害

表2 結果,年齢補正,単位はマイクロメーター
診断 パラメーター エリア9左 エリア9右 エリアTpt左 エリアTpt右
正常 円柱巾

平均細胞空間

神経網空間

49.1

28.1

20.4

49.5

28.0

19.7

46.7

20.8

20.0

46.6

22.6

19.0

読書障害 円柱巾

平均細胞空間

神経網空間

63.6

35.8

30.5

72.3

38.2

29.1

67.9

37.9

32.1

63.0

34.3

28.6

考察

ミニ円柱は,いろいろなクラスの哺乳類の全てのメンバーの脳において同じサイズであると一般的には考えられている.しかし,研究者たちは,皮質の類似領域におけるミニ円柱サイズに関しては,種特異性,タスク特異性の証拠を発見した.このことは一次視覚皮質においてよく実証され,一次視覚皮質では,円柱サイズは明らかに機能的要求に関連している.サルの視覚システムは,猫やウサギの視覚システムに比べより高等で,情報を別々に処理している.サルの脳は猫やウサギに比べると大きいが,V1層のミニ円柱はサルの方が猫やウサギよりも小さい(サルが31マイクロメーター,猫やウサギは56マイクロメーター).類似領域におけるミニ円柱サイズのバリエーションはまた,ヒトとヒト以外の霊長類のTptで発見された.ゆえに,同じようなバリエーションが,他の皮質領域においても存在するであろう.

円柱サイズと形状が変化すると,パスウェイと他の円柱との相互関係が変化する.事実上,Seldonはミニ円柱巾の15%の変化は,インプット・アウトプット関係のような脳領域の機能に深刻な影響を与える可能性があることを示した.もしこれが真実であれば,ミニ円柱の数,サイズ,そして成熟度は病態に関連する可能性がある.このことは実際,最近2つの状態において明らかなミニ円柱異常として記載された(ダウン症と自閉症).

ダウン症児の小さい脳においては,ミニ円柱の巾は正常であるが,円柱の放射状構造は正常よりもより早期に成人のミニ円柱サイズに達する.この変化はダウン症において観察される加齢促進と矛盾しない.対照的に,自閉症児の脳には,より小さくよりたくさんのミニ円柱がみられる.自閉症児の脳はまた,一般的に健常児よりも大きいので,この変化はより小さな円柱の存在を増幅する.また,このことは,処理ユニットの相対的および絶対的増加に結びつく.

小さなミニ円柱をコンピューターでモデリングする(シミュレーションする)と,過剰なシグナリングとそれらの構造内での抑制がほとんどない状態が示される.自閉症者の約3分の1が癲癇発作を呈することは驚くに値しない.癲癇発作は,シグナリングと抑制がバランスを崩したもう一つの病態であるからである.実際,痙攣発作のある限られたポピュレーションでの症例報告は,抗痙攣薬がいくつかの自閉症的形質に有効であることを示している.今回の読書障害の症例報告では,自閉症とは異なるタイプの病態が示唆される.この病態は明らかに自閉症で報告されたものと反対で,ミニ円柱の有意な巨大化の存在を示した.ゆえに,特質抽出に関連するシグナルとノイズの比率の微調整を伴った新皮質情報の抑制と興奮のフローを関連付ける表現形質スペクトルの中にミニ円柱構造が位置することが明らかである.この陰-陽現象は,ミニ円柱異常によって特徴づけられるたくさんの状態につながる重要な臨床病態関連を提供するかもしれない.


(文献)
1. Casanova MF, et al. Minicolumnar pathology in autism. Neurology 58: 428-432, 2002.

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