(概訳)12人の小児(平均6歳,3〜10歳)が,一旦は正常に発達していた能力(言語を含む)の喪失と,下痢・腹痛などの消化器(腸)症状を合併していた.8例が麻疹,流行性耳下腺炎,風疹の予防接種(MMR)後の発症(5例が接種直後に紅斑,発熱,意識混濁を,3例が痙攣を呈し,接種後平均6.3日/1〜14日で行動異常が出現)であり,1例は麻疹罹患後の発症,他の1例が中耳炎後の発症であった.行動異常発現は1〜4.5歳,腸症状の発現時期は5例で不明.1例(症例4)は15ヶ月の時,麻疹の予防接種を受け,その後発達遅滞を指摘され,4.5歳の時MMR接種翌日より行動異常が明らかに出現した.症例9は16ヶ月の時にMMRを受け,2ヶ月後,抗生物質の効かない再発性の中耳炎に罹患し,その時から行動異常(兄弟と遊ばなくなる)が出現.全例で何らかの腸異常(リンパ様結節性過形成やアフタ性潰瘍)を認め,11例で大腸の組織学的非連続性の慢性炎症,7例で反応性回腸リンパ様過形成があり,肉芽腫性病変はなかった.9例が自閉症,1例がdisintegrative psychosisと診断され,2例でウイルス感染後あるいは予防接種後の脳炎が疑われた.局在性の神経学的異常所見はなく,MRIや脳波検査・髄液検査も正常.脆弱X症候群の症例は含まれていなかった.尿中のメチルマロン酸が有意に増加しており,4例で貧血,4例で血清IgAの低下を認めた.これらの症例における腸管異常所見の一致と,以前から言われている自閉症関連疾患と消化管異常の関連性から,これらの症例において行動異常と消化管病変を関連づける特殊な病態が存在することが示唆される.
(解説)追記で,この12例以外に39例の同様な症例を確認したと記載しています.消化管病変が行動変化の原因となる可能性の傍証として以下の点を考察しています.
- Aspergerが1961年にセリアック病(coeliac)とbehavioural psychosesの合併例を報告.
- Walker-Smithらは,自閉症者においてα-1 antitrypsin濃度が低いことを報告.
- D'Eufemiaらは消化管症状のない自閉症児の43%に,腸管吸収異常(小腸のenteropathy)の存在を報告.
- 自閉症の「過剰オピオイド説」:オオムギ/ライ麦/オート麦/ミルクや乳製品中のcaesinなどに由来するペプチドの分解不全/過剰吸収が自閉症の原因とする説.このペプチドは直接的に中枢神経でのオピオイド効果を発揮したり,中枢神経系の内因性オピオイドの分解過程を競合して間接的にオピオイド効果が出現.外因性ペプチドの過剰吸収のプロセスと腸管の炎症の病態の両方に,phenyl-sulphur-transferaseシステムの破壊が関与している.ドーパミンやチラミンやセロトニンなどのphenolicアミンの腸管での硫酸化とそれによる解毒作用も考慮する必要がある.このような抗原を食物中から除去することで自閉症の行動異常が改善したという報告もある.
また,予防接種との関連については,disintegrative psychosisが麻疹脳炎の後遺症として知られていること,ウイルス性脳炎後の自閉症の報告があること,風疹ウイルスと自閉症との関連やMMRと自閉症との関連,麻疹ウイルスや麻疹予防接種とクローン病や自己免疫性肝炎との関連,などの過去の報告を紹介して考察しています.また,Warrenらが報告している自閉症児とMHCクラスV領域のC4B遺伝子のタイプとの関連を紹介し,遺伝的素因が易感染性に関与している可能性を指摘しています.尿中メチルマロン酸の増加は,ビタミンB12欠乏状態の指標であり,クローン病では胆汁酸の再吸収障害により同様の状態が報告されていることを記載してB12欠乏と発達障害の関連性を示唆しています.
Rapin先生は,N Engl J Medの総説の中では,自閉症に関連して報告された病態の中に腸管病変を例示していません(文献1).また,予防接種の話題にも触れていません.Wing先生は総論の中で,予防接種については,肯定する科学的証拠も否定する科学的証拠も報告されていないと述べています(文献2).過剰オピオイド説についても,現時点ではたくさんある仮説の中の一つにすぎないようです.MMRと自閉症の関連については,否定的な意見の方をよく目にします(文献3).予防接種/消化管疾患/自閉症の組み合わせについては,さらに慎重な検討が必要と思われます.