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第7染色体と自閉症

Ashley-Koch A, et al. Genetic studies of autistic disorders and chromoseome 7. Genomics 61: 227-236, 1999.
(概訳)

ゲノム全長にわたる他の研究により,第7染色体長腕上の遺伝子座が自閉症の病態に関与していることが示唆された.我々は,母親からから遺伝した第7染色体の候補部位の傍動原体逆位(inv(7)(q22-q31.2))を持つ兄弟3人の例を経験した.臨床的には,3人のうち男子の2人が自閉症で,もう一人の女子は表出言語障害を呈した.母親は同じ染色体異常を持ちながら自閉症ではなく,家系内の遺伝子ハプロタイプ解析では,問題の逆位異常は母親の父(児のおじいさん)に由来することが示唆された.これらのデータから,我々は,76家系の複数発症家族(自閉症者が2人以上いる家族)を対象とし,第7染色体長腕のこの部分をマーカーにより検討した.2点連鎖解析では,最大混交ロッドスコア(maximum heterogeneity lod score)は1.77で,MLS(muximum lod score)はマーカーD7S495の部位で1.03であった.複数ポイントMLSおよびNPL解析では,D7S2527の部位で1.77,そしてD7S640の部位で2.01であった.自閉症兄弟ペアの解析で,D7S640の部位での家系同一性(identity-by-descent)共有率は,母親由来ではなく(p=0.75),有意な父親由来であった(p=0.007).複数発症家族で,核家族の例におけるD7S1824での連鎖不均衡解析でも,母親由来ではなく(p=0.15),父親由来であった(p=0.02).また,自閉症者のいない家族に比べ,自閉症者のいる家族は,D7S1817からD7S1824の部位での組み換えの頻度が増加している証拠も得られた(男女平均でp=0.03,男女別でp=0.01).これらの結果は,自閉症関連遺伝子座が第7染色体長腕上に存在するさらなる証拠を提供し,同時に,この遺伝子座は父親から受け継いで自閉症に関連することを示唆する.

(イントロ)
自閉症の原因は不明であり,強力で複雑な遺伝素因が関連することが知られている.遺伝性は,自閉症の発現型多型の90%以上を占めると計算されている.いくつかの双生児研究が,2卵性双生児一致率に対する1卵性双生児一致率が高いことを示し,自閉症の遺伝素因の重要性を支持している.自閉症者の兄弟における発生率も自閉症の遺伝素因の存在を支持する(一般集団の発生率の100倍〜150倍).この兄弟内発生率は,精神分裂病やアルツハイマー病と比較するとかなり高い.

自閉症における遺伝素因の関与は明らかであるにもかかわらず,その遺伝形式は相変わらず不明である.男性は女性の3倍から4倍多く,このことは自閉症がX染色体に関連するのではという仮説につながる.しかし,最近の研究ではX染色体に関連した遺伝では多くの自閉症ケースの遺伝形式を説明できないことが示されている.従って,より複雑な遺伝パターンが,自閉症の性比を説明するには必要である.さらに,一卵性双生児の一致率と二卵性双生児の一致率は,メンデルの遺伝の法則に従っておらず,ある研究結果は自閉症の遺伝が複数遺伝子遺伝を含む,複数因子閾値モデルに最も一致することを示唆している.発端者からの血族距離が離れると急に発生率が低下する現象から,複数の関連遺伝子がお互いに影響しあうモデル(epistaticモデル)や複数の関連遺伝子が相乗効果を有するモデル(multiplicativeモデル)などが考えられる.

自閉症の遺伝素因が強力で複雑であることの証拠を元に,いくつかの研究グループが遺伝素因を同定すべくゲノムスクリーンを行い,これらの結果のいくつかが第7染色体長腕上の遺伝子座に関連遺伝子が存在することを示唆した.加えて,Fisherらは,大規模な家族研究で重度会話および言語障害に関連する第7染色体上の遺伝子座SPCH1を報告した.自閉症には言語の問題もあるため,この遺伝子座SPCH1は自閉症にも関連しているかもしれない.Tomblinらは,会話や言語の障害がある児童とない児童を調査し,この遺伝子座SPCH1が言語の発達に幅広く影響している可能性を指摘した.我々は,また,自閉症複数発生家系の一家系が,第7染色体長腕に遺伝子異常を有することを発見した.この家系における第7染色体異常は自閉症の関連遺伝子に影響していると我々は仮説する.ゲノムスクリーンの結果,言語能力との関係,染色体異常の3者が,第7染色体と自閉症の関連を示唆している.ここでは,第7染色体異常の家系の臨床的所見および染色体所見に加え,第7染色体の連鎖解析の結果を紹介する.

(方法):省略
(結果):省略

(考察)
自閉症においては,いくつかの染色体異常が報告されている.自閉症で最も頻回にみられるのは,第15染色体,X染色体,Y染色体の遺伝子異常である.我々の知る範囲では,自閉症に関連した第7染色体異常の家系報告はこれが初めてであり,連鎖解析の結果が第7染色体上に関連遺伝子を示唆していることからすると興味深い.家系報告でない核家族における自閉症と第7染色体の関連は他にもみられる.第1,第7,第21染色体を含む複雑な再配列異常を呈した自閉症男児や,その他の論文になっていない症例も知られている.第7染色体長腕の同部位での傍動原体逆位は,いろいろな奇形に関連して報告されているが,これらの報告例で自閉症に関連したものはみられず,1例だけが発達遅滞があったと記載されている.

ここで報告した家系は,家系報告で最初という意義の他に,次のような意義を持つ.ひとつは,家系内での形質発現が性の影響を受けている点である.二人の男児が染色体異常を持つ自閉症で,同じ染色体異常を持つ女児は自閉症の診断基準を満たさなかった(ADI-Rの3つのドメインのうち2つは満たした).この傾向は,自閉症が男児に多い事実と関連して興味深い.

2つめは,この家系における染色体逆位の部位に関してである.正確な逆位部位の同定は研究過程にあるが,染色体バンドからの検討では,逆位の両端(7q22.1と7q31.2)はそれぞれ染色体上の脆弱部位FARA7EとFRA7Gに一致している.脆弱部位は染色体内あるいは染色体間の再配列の際の切断部位になると言われており,このような脆弱部位の不安定性が,本家系における染色体内染色体異常の発生に重要であるように思われる.興味あることに,連鎖解析に使われた他の複数発生家系においても,この遺伝子部位での不安定性がみられた.このことは,自閉症の家系とコントロールを比較した時に組み換えの増加として立証される.自閉症家系における組み換えの増加は第15染色体にも報告されている.これは,不安定性の同じメカニズムが自閉症家系において第7染色体と第15染色体の両方に影響することを示唆している.

この領域における連鎖解析のための複数解析アプローチは,それぞれの解析が,自閉症家系におけるこの領域の役割に関する新たな視点を供給してくれるので意義がある.最大2点スコアは,遺伝的非単一性(genetic heterogeneity)の様相を呈し,自閉症家系の一部が第7染色体長腕領域の変異を呈していることを示唆する.自閉症の(臨床的)非単一性を考えると,この結果は矛盾しない.我々の解析では,この遺伝子座に関連する家族の比率(α)は0.05〜1.0である.しかし,最高ロッドスコアを呈したD7S495とD7S1824においては,α値は0.25と0.40の間であり,自閉症者の25%〜40%の家族が第7染色体上の遺伝素因に関連していることが示唆される.

非パラメータ解析からの複数ポイントスコアは,領域全体で陽性であり,マーカーD7S2527とD7S640の部位で最も高値であった.このことから,第7染色体候補領域のこの部位(D7S2527〜D7S640)に関連遺伝子座がある可能性が示唆される.連鎖に関する我々の結果と,自閉症国際分子遺伝子研究会議の結果は,Philippeらの連鎖ピークより少し遠位側へずれがあり,また,我々の染色体逆位症例の遠位部よりも遠位側である.しかし我々はこれらの結果は同じ遺伝子座に由来するものであると信じる.結果のずれは,連鎖シグナルの不正確性に由来するものであろう.自閉症の遺伝は複雑で,遺伝的非単一性を特徴とするため,関連遺伝子座の位置を正確に検出することは困難である.従って,第7染色体長腕の自閉症関連遺伝子座を特定するためには,連鎖解析だけでなく染色体検査(cytogenetic studies)などの他の検査法を加えるべきであろう.

おそらく,最も興味ある結果は,連鎖不均衡と家系内同一性(IBD)共有解析の結果であろう.これらの解析は共に,我々の連鎖解析結果と家族研究結果を支持し,第7染色体上の候補遺伝素因が,原則的には父親から伝わっていることが示唆された.染色体逆位症例は,母親から逆位異常が息子二人に伝わっており,一致しないが,その理由は不明である.おそらく,この染色体逆位家系における傍動原体逆位は,自閉症関連遺伝子を逆位の切れ目かそれより下位の部位で直接障害するか,あるいは顕微鏡では検出できない遺伝子欠損が存在しているのかもしれない.加えて,染色体逆位による位置効果多様化現象や,正常のimprintingパターン(父親あるいは母親から受け継いで初めて発現する遺伝素因)が障害されてる可能性もある.興味あることに,逆位家系でのハプロタイプ解析では,母親の逆位異常はその父親に由来することが示唆された.現時点では,この家系での形質発現パターンは,発現形質父親由来説を支持しない.しかし,また,その可能性を否定するものでもない.この家系における逆位異常の切断点の完全な把握と,自閉症関連遺伝子座の候補部位の理解のためには,これらの現象を完全に解釈する必要がある.

自閉症の病態に由来依存性遺伝素因(父親あるいは母親から受け継いで初めて発現する遺伝素因)が関与することを示す証拠が存在する.いくつかの報告は,自閉症と第15染色体異常に母親由来依存性があることを示唆している.これは驚くべきことではなく,由来依存性はPrader-Willi/Angelman症候群の染色体異常部位にも観察される.加えて,第7染色体長腕における父親由来依存性を支持する証拠もいくつか存在する.一つは,マウスの第6染色体近位部はヒトの第7染色体に匹敵するが,父親由来依存性があることが報告されている.この部位にPEG1/MEST遺伝子が存在し,マウスにおいてもヒトにおいてもその発現の父親由来依存性が示されている.二つめは,この部位には,自閉症家系においてもコントロール家系においても性-依存性組み換えが観察されている.性-依存性組み換えは以前,由来依存性部位に関連して報告されている.

全てのロッドスコアと危険率は,今回の検討では統計学的には有意なものではなかった.我々が行った検討の多くは密接に関連しており,有意レベルの解釈を論文の読者にゆだねるために生データを提示した.

まとめると,いくつかの証拠が,自閉症に第7染色体長腕の遺伝子座が関与していることを支持している.今回の解析で,連鎖解析の結果と染色体異常家系(1家系)における所見が矛盾せず,第7染色体長腕に自閉症関連遺伝子が存在することがさらに示唆された.また,この候補部位は父親から受け継いで発現することも示された.


(コメント)
第7染色体長腕上の候補遺伝子座に関するこれまでの結果は以下のようになり,4つの報告のうち,3つが有意と判断しています.

文献対象第7染色体長腕におけるロッドスコア最大値評価
自閉症国際分子遺伝子研究会議(文献1)87家系(英・欧)2.53(MLS)ゲノム全体で最大
Philippeら(文献2)51家系(欧・米)0.83(MLS)有意(p=0.0401)
Rischら(文献3)139家系(米:全国から)0.93(MLS)あるとしても効果少
この論文76家系(米:ノースカロライナなど)2.01(MLS & NPL)父親由来


(文献)
1. IMGSAC. A full genome screen for autism with evidence for linkage to a region on chromosome 7q. Hum Mol Genet 7: 571-578, 1998.
2. Philippe A, et al. Genome-wide scan for autism susceptibility genes. Hum Mol Genet 8: 805-812, 1999.
3. Risch N, et al. A Genomic screen of autism: evidence for a multilocus etiology. Am J Hum Genet 65: 493-507, 1999.

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