多動性・衝動性の加齢による改善

Biederman J, et al. Age-dependent decline of symptoms of attention deficit hyperactivity disorder: impact of remission definition and symptom type. Am J Psychiatry 157: 816-818, 2000.

訳者コメント:

2000年の論文ですが,ADHDにおける多動性・衝動性が加齢に伴って改善してくることに関する重要な論文なのでご紹介します.かなり意訳してある部分がありますので,興味のある方は原文をお読みください.

(概訳)

(目的)ADHDにおける症候の減衰を,寛解に関する異なる定義で検討する.(方法)128人の男児の症候は4年間にわたって5回評価された.症候群的寛解(syndromatic remission:症候が全部はそろわなくなる),症候的寛解(symptomatic remission:診断にはいたらない状態以下への改善),機能的寛解(完全な寛解)の頻度(prevalences)は,多変量ロジスティック回帰(multivariate logistic regression)法で年齢別の関数として評価された.(結果)ADHDの全症候に関しても,多動性(hyperactivity)に関しても,衝動性(impulsivity)に関しても,注意欠陥(inattention)に関しても,年齢は有意にその減衰と関連していた.注意欠陥における症候の寛解は,多動性や衝動性に比較すると,より少なかった.寛解を経験している対象者の割合は,使われた定義によってかなり異なっており,症候群的寛解で最も高く,機能的寛解で最も低かった.(結論)これらの結果は,報告されている寛解率の多様性が,使われた定義によるものであることを示唆する.またこれらの結果は,多動性や衝動性が注意欠陥症候よりもより高率に減衰するという,臨床的な観察を体系的に支持するものである.

イントロ

ADHDが青年期および成人期まで続くことは,いくつかのフォローアップ研究が一致して結論していることであるが,持続性のレベル(症候が遷延する率)は研究間で一致していない.このような矛盾する結果の,ひとつの可能性のある説明は,研究間で使っている寛解の定義が異なっているからというものである.最近Keckらが提唱したように,異なる寛解タイプの差異が複雑な改善プロセスの構成成分を明らかにするかもしれない.症候群的寛解は,症候が全部はそろわなくなることを指し,症候的寛解は部分的な診断状態以下への改善で,機能的寛解は部分的な診断状態からの改善プラス機能的な回復(完全な回復)を意味する.この報告の目的は,慎重に診断し経時的にフォローした我々のADHDサンプルを使い,この3つの異なる寛解パターンをADHD症候に関して検討することである.

方法

オリジナルのサンプルは,140人のADHDと120人の正常コントロールで,精神科診療および非精神科診療から集められたCaucasianの少年たちである.初診時に加え,1年後,4年後とフォローアップ評価を行った.精神科的評価はSchedule for Affective Disorders and Schizophrenia for School-Age Children-Epidemiologic versionを使い,母親および対象者からの直接の聞き取り(12歳以下の小児では本人からの聞き取りはなし:診断は母親の報告にのみ基づく)に基づいている.本解析には,4年目のフォローアップ評価ができた例だけを使用した(128例).他の論文で記載しているように,4年間フォローできた群と,フォローできなかった群の間には,ADHDの重症度,精神科的合併症,精神社会的状態,認知機能などにおいて有意差はなかった.それぞれのADHD児は,次の5つの時点での症候を観察した.1)初診時の評価で過去にさかのぼって聴取された初発症候.2)初診時に実際みられた症候.3)1年後のフォローアップの時に実際にみられた症候.4)4年目のフォローアップ時に回顧して最初の2年でみられた症候.5)最後の評価時に最近1ヶ月で実際にみられた症候.

DSM-III-Rに記載された14のADHD症候は,そのタイプによりクラスター分けされた.注意欠陥が6症候,多動性が4症候,衝動性が4症候.それぞれのクラスターでの症候の数は,それぞれの対象者で同定した.Keckらの分類を基盤として,我々は,症候群的寛解をADHDの症候が全てはそろわなくなったこと[つまり,possible症候の14のうち8つ(57%)を満たさなくなったこと]とした.症候的寛解は,障害(Global Assessment of Functioning Scale:GAFSが60を超えるか以下か)にかかわらず,対象者において診断にはいたらない状態よりさらに症候数が減ること(subthreshold以下での改善)(つまり,症候数が5つ以下,または症候数が36%以下)とした.また,機能的寛解は対象者においてADHDの症候数が36%以下になりかつ障害がGAFSで60を超えた場合とした.ADHD症候クラスターのそれぞれにおいても,同様のカテゴリーを設定した.

症候の減衰はそれぞれの評価時点で年齢の関数としてモデル化した.我々サンプルの128人のADHD者で繰り返し行った評価は,それぞれ独立したものではないため,統計的有意差のためのモデルを基盤とした検定は正確とはいえない.このバイアスを説明するために,我々は我々の解析を一般化評価方程式を使うことで適合させ,それぞれのロジスティック回帰モデルにおける確固たる統計検定を行うことができた.全ての統計検定は両側検定で行い有意レベルを0.05とした.

結果

それぞれの寛解タイプの率(prevalences)は,全てのADHD症候およびそれぞれの症候クラスターで検討し,年齢カテゴリー(6歳未満,6-8歳,9-11歳,12-14歳,15-17歳,18-20歳)の関数としてモデル化された.年齢は,ADHD(全体)でも3つの症候クラスターのそれぞれでも,全ての寛解形態と有意に関連していた(p<0.02)が,寛解の率はかなり多様であった.例えば,最年長グループ(18-20歳)では,症候群的ADHD寛解の率は60%以上であり,一方機能的ADHD寛解率はたったの10%であった.注意欠陥の寛解率は,多動性または衝動性それぞれの寛解率と比べると,より低かった.この傾向は,症候群的寛解と症候的寛解において最も明らかで,機能的寛解ではそれほどでもなかった.

考察

我々の結果は,ADHDの寛解のパターンが,寛解の定義に高度に依存していることを示し,報告された寛解率が論文により異なるのは,使用された寛解の定義がさまざまであったことを意味していることを示唆する.我々が使った症候学的寛解の率(60%)は,HillとSchoenerが報告した症候学的寛解率(65-70%)に酷似しているが,我々の結果はまた,20歳までには症候学的寛解の率はかなりであるにもかかわらず,対象者の多くがかなりの数のADHD症候と引き続き格闘し,高度の機能障害と戦っていかねばならないことも示している.

寛解の定義は,ADHDのコア症候タイプにおける症候の減衰の率に栄養しているけれども,注意欠陥は多動性や衝動性に比べると,それぞれの寛解定義において,より減衰しにくい.これらの結果は,多動性と衝動性は注意欠陥に比べると,より高い率で,より早期の年齢で減衰する傾向があるとしていた臨床的印象を系統的に支持する.

ここに報告された所見は,方法論的限界を考慮して評価されるべきである.我々のサンプルは臨床的に集められたものであり,Caucasianの少年だけを対象としているので,その結果は一般集団内のADHDに一般化することはできず,またADHD女児例や他の民族のADHD例にも一般化できない.我々はまた,社会的なクラスで対象を階層化しておらず,ゆえに,社会的な環境というこのおそらく重要であろう予後決定因子についても説明できない.このような考慮にもかかわらず,我々の結果はADHDの小児および青年の経時的経過の評価における寛解定義の差が重要であることを強調する.これらの結果はまた,DSM-IVのADHDサブタイプによって指摘されているように,症候クラスターが別個に考慮されるべきことをも示唆する.


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