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無脳梁マウスとADHD

Magara F, et al. The acallosal mouse strain I/LnJ: a putative model of ADHD? Neuroscience and Biobehavioral Reviews 24: 45-50, 2000.

訳者コメント:

左右の大脳半球を連絡する脳梁の機能と自閉症との関連も以前から議論がありますが,この論文はADHD症候と脳梁低形成の関連を示唆する動物実験による考察です.

(概訳)

(要旨)ADHDは,時に,脳梁の低形成による大脳半球間の相互連絡障害に関連する.同系交配マウスであるI/LnJは,脳梁無形成の浸透率(次世代に発現する率)が100%であり,ADHD類似の行動特徴を有する.自発行動同様,調整された学習課題においても,I/LnJマウスは,その他の同系交配マウスに比較して,低い学習スコア,衝動性,そして有意に過度な移動活動性を示した(個々のマウス間のかなりの差は存在した).脳梁無形成の影響から,遺伝的背景の影響を探り出すために,我々は,I/LnJマウスとC57BL/6マウスの交配研究を行い,脳梁のないハイブリッドマウスを作成した.正常のC57BL/6マウスと比較すると,脳梁欠損ハイブリッドマウスは,新しいオープンフィールド環境下に入れてやると,異なる移動活動パターンを示した.この移動活動パターンでは,短時間の静止がより少なく,一回の試行の初期の時間帯での中心部横断が多かった.代謝マッピング研究では,脳梁欠損ハイブリッドマウスが,壁際にとどまっておれない傾向は,左線条体と大脳皮質の2-deoxyglucose吸収の低下と関連することが判明した.また,短時間の静止の数は,前頭葉皮質と後頭葉皮質(両側)の2-deoxyglucose吸収レベルと相関していた.この結果は,脳梁による半球間連結の欠損が助長する衝動性や多動性における,右大脳半球優位性(右半球の関与)に関して示唆的である.

(イントロ)

奇形的脳の不対称の原因となる神経発達欠損は,しばしはADHDの原因として提唱されている.同時に,特に吻側(あるいはsplenial)部における脳梁サイズの減少もまた,注意欠陥障害を伴った読書障害児同様,ADHD児においても報告されている.ADHDが脳梁による半球間連結の障害によって起こるのではとする考えは,ADHDが女児に少ないという事実からも支持される.男性に比べると女性の脳梁は通常はより大きいのである.しかし,脳梁が注意の維持に関与しているという証拠がある一方,半球間連結の減少とADHD症候との直接的な因果関係はまだ証明されていない.人においては,脳梁低形成は通常その他の発達障害と関連しているため,半球間連結減少の影響がマスクされる可能性がある.マウスの場合は,脳梁無形成はいろいろな浸透率でいくつかの同系交配マウスに起こることが知られており,また,その他の主な神経学的障害を伴っていないため,考えやすい実験対象である.同系交配マウスであるI/LnJは,浸透率が100%の脳梁無形成があり,ADHDに類似した行動特徴を呈する.

I/LnJマウスの行動研究に加え,I/LnJマウスとC57BL/6マウスを交配させ,次世代のメスを繰り返しI/LnJオスと交配して得られた,脳梁を大きく欠損したハイブリッドマウス(BX)の行動を我々は研究した.

我々はここに,I/LnJマウスにおける,自発活動と調節された学習の行動解析の結果を報告する.また,オープンフィールドでの行動と脳の局所的2-deoxyglucose吸収との間のいくつかの相関に関する,完全脳梁無形成を伴ったハイブリッドマウスの小規模サンプルでの結果を呈示する.全てのマウスは成人オスを使用した.

(方法・結果)省略

(結論)

オープンフィールド研究では,I/LnJマウスの対立遺伝子(アレル)の87.5%以上を持つマウスの多くが,多動を示した.しかし,個々のマウス間の差はかなり大きかった.それにもかかわらず,I/LnJマウスでは,two-way回避における活動依存性反応と同様に,不自然な状況におけるコンスタントな反応があり,また,オープンフィールドにおける広場恐怖的反応がコンスタントに低いことなどがみられ,これらの所見は,新奇な刺激的な状況での,移動活動の抑制制御の欠落が存在することを強く示唆する.

このような行動パターンにおける脳梁無形成の原因的役割については,脳梁のサイズがいろいろなマウスを使ったさらなる研究を行う必要があり,また,異なる遺伝的背景を有する無脳梁動物を使った実験も待たれる.しかし,C57BL/6マウスに関しては,無脳梁マウスにみられた脳代謝の明らかな不対称が,ともかく半球間の脳梁による連結の欠落によるものであると考えることはもっともらしい見解である.また,代謝における著明な不対称は,オープンフィールドにおける中心部横断行動の過剰に関連している.ADHDにおける右大脳半球の機能障害に関する報告とは異なり,オープンフィールドでの中心部を横切る移動行動を抑制できないことと,右の線条体と右前頭葉皮質の高活性との間の関係は,衝動性と多動における右大脳半球優位性の可能性を示唆する.そしてこの可能性は,ADHDにおいて報告された,左尾状核と右前前頭/前頭サーキットの障害,および(かつあるいは),左尾状核と右後部後頭サーキットの障害の所見と一致する.


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