7q32.3-q33部分のPAC・BACコレクション

Kim S, et al. Construction of a physical map of an autism susceptibility region in 7q32.3-q33. Gene 272: 85-91, 2001.

訳者コメント:

自閉症で注目されている遺伝子部分のひとつである7q32.3-q33の詳細な検討のための予備的な情報です.自閉症に関する遺伝学的研究の内容は,より分子レベルに広がっております.その内容をフォローしていくためには,数多くの専門分野の知識が必要になるため,今後の展開を考え,敢えてこの予備的な内容の論文も訳すことにしました.STSとはsequence tag siteのことで,PCRのあるプライマーペアで増幅される遺伝子部分という意味です.従ってマイクロサテライトマーカーもSTSに含まれます.クローンがどのSTSを持つかによって,各クローンの順番や位置が同定されます.注目されている7q32.3-q33部分に存在する遺伝子座の中から自閉症に影響している遺伝子座を同定しその変化が何なのかを突き止めるために,この部分の連続する(位置の判明した)断片(一部オーバーラップして連続)のクローン(PAC・BAC)をコレクションとして大量に作っておいて今後の研究につなげるのが目的です.

(概訳)

(概要)人ゲノムの遺伝子地図作成作業は急速に進んでおり,遺伝子配列解明への努力は複雑な形質に関してさえも関連遺伝子の同定を促進している.我々は,広汎性発達障害のプロトタイプである自閉症の易罹患性遺伝子座を同定することを目標としている.これまでのところ5つのゲノムスクリーニングがいくつかの易罹患性遺伝子の候補部位を同定しており,最も共通しているのは第7染色体長腕である.自閉症の新しい候補遺伝子を同定するために,人工的染色体クローン(BAC,P1-ベクタークローン:PAC,YAC)の位置関係を示す物理的地図を作成した.これらのクローンはD7S1575とD7S500の間の3Mbの領域で,自閉症との最も優位な関連結果が知られているD7S2533の周辺の1.2Mb部分を含んでいる.我々は16個の新しいSTS(sequence tag site)を明らかにし,この領域の23個のETS(expressed sequence tag)の地図を作成した.この地図は自閉症の候補遺伝子座を含んでいるので,この統合された物理地図および転写地図は,候補遺伝子の同定のための価値ある情報源となる.

(1.イントロ)幼児自閉症は,シビアな発達障害で社会的相互関係の障害,コミュニケーションの障害,制限され反復性の行動パターンで特徴づけられる.家族研究と双生児研究は,この複雑な状態に遺伝学的背景があることを示唆している.これまでに独立した5つのゲノムスクリーニングが行われ,異なる候補部位が報告されている.ほとんどの報告で一致する易罹患性部位は第7染色体長腕上にある.独立した対象群での関連研究は,この領域で優位な伝播歪曲を伴った3つのマーカーを明らかにしている(D7S1804,D7S2437,D7S2533).

人ゲノムの遺伝子配列は近年ドラフトバージョンが完結しており,特に第7染色体は終了したシークエンスを含む最もはかどっている部分に属することが示されている.しかし,CFTR遺伝子座(7q31.2)の遠位側領域の主な部分はこれまでのところ,シークエンス不明なギャップ部分と順番が不明な断片を伴った検討中の部分である.我々は自閉症の候補遺伝子の同定を促進する目的で,より簡明なBAC遺伝子地図を構築した.これはこの領域にリンクする自閉症以外の疾患の関連遺伝子の同定にも役立つ.

2.対象と方法

2.1. YACクローンの同定と特徴
CEPH YACライブラリーから7つ,第7染色体の統合YACクローンマップから6つが解析のために選ばれた.これらのクローンは異なるデータベースにおいて7q32.3-33にあることが以前から判っているマーカーを有している.CEPH YACクローンは,ドイツ,ベルリンのthe German Human Genome ProjectのRZPDから得られた.YACはさらに,STS(sequence tag site)の有無に関してPCRで解析された.

2.2. BACクローンの分離
分離されたYAC DNAのPCR産物は,標識され(random hexamer priming)プローブとした.人の反復シークエンス(BACクローン?)は,プローブ200マイクロリットルあたり,30マイクログラムのCOT-1 DNAと100マイクログラムの人胎盤DNAとpre-annealされた(ハイブリダイゼーションに先立ち2-3時間).ハイブリダイゼーションは,7%SDSハイブリダイゼーションバッファーで16時間行った.非特異的に結合したブローべは65℃1%SDS洗浄バッファーで30分2回洗浄.ベクターpBACe3.6でクローニングした人BACライブラリーであるRPCI-11はRZPDから供給された.

2.3. PACクローンの分離
ベクターpCYPAC-2でクローニングされた人PACライブラリー(RPCI−1, 3-5)からのPACプールはRZPDから供給され,それぞれD7S1804,D7S2347,D7S2533を含むクローンをPCRにより選別した.

2.4. BACクローンとPACクローンの特徴
BACクローンとPACクローンからDNAを分離し,挿入配列のサイズを調べるために制限酵素NotIで切断しフィールド逆転ゲル電気泳動(FIGE)にかけた.BACクローンのためには,NotIとSalIでの二重酵素切断を追加施行した.アガロースゲルは1%,スイッチの時間傾斜は0.4-3.5秒,前向きが180ボルト,逆向きが120ボルトで泳動時間は20時間であった.

2.5. PCRによるSTS(sequence tag site)マッピング
STSマッピングのためのPCRは,ボリューム25マイクロリットル,テンプレートDNA 10-30ng,35サイクルで行った.PCR産物は1.5-4%のアガロースゲルに泳動した.以前より確認されているSTS用のプライマーの塩基配列とPCR条件は,ジョン・ホプキンス大学GDBより得られた.PACおよびBACの両端部のシークエンスから新しく作られたSTSは14個であった.

2.6. BACおよびPAC週末部のシークエンシング
BACおよびPACクローンの両端部のシークエンシングは,Perkin-Elmer社のBig-Dye Terminator Kitを使い,プライマーSp6とT7で行われた(ABI 377シークエンサー).

3. 結果と考察

異なるデータベースから7q32.3-q33に特異的なSTSを含むことが報告されている7つのCEPHメガYACクローンと,第7染色体の統合YACクローンマップから6つのYACクローンを元にマッピングを行った.まず最初に,D7S2533周辺の領域をカバーするYACクローンのPCR産物をプロ‐べとして使い,人BACライブラリーのスクリーニングを行った.この領域の近位側の付加的YACマッピングは,BACクローンの連続を拡大するために使われた.トータルで,147個のBACクローンにおいて,PCRで同定したSTSから地図上の位置付けがなされた.また,各クローンの大きさも同定した.BACクローンの両端のシークエンシングにより新しく作ったSTSも,スクリーニングに使用した.加えて,自閉症との関連が報告されているD7S1804,D7S2437,D7S2533を持っているPACクローンを,PACクローンのプールをPCRでスクリーニングすることで同定した.(その結果),YACとPACと27個の代表BACクローンの位置関係を7つの連続断片として図式化できた.またマーカーの順番は解析した全てのクローンにおいて同定された.マーカーA006F06とD7S1563の間の12個のBACクローンは,最も長い連続した断片として同定でき,マーカーD7S2533も含まれている(長さは1.2Mb以上).Marshfieldマップによると,この2つのマーカーの間の遺伝子距離は2.2 cMである.

我々は,地図上で94個のSTSの場所を同定した.これには16個の新しいSTSが含まれており,それらのうちの14個はPACおよびBACクローンの両端部のシークエンシングにより作られた.また16個のうち2個は既知の遺伝子から作られた.さらに,16個のEST(expressed sequence tag)と8個の既知の遺伝子もこの連続断片の上での位置を同定した.我々の地図上のSTSの順番は,異なる地図における異なるマーカーの使用が直接的な比較をより難しくしているにもかかわらず,インターネット上で公開されている最も最新のドラフトシークエンス情報(Human Genome Browser)やNCBI(GeneBank)の情報と一致している.ドラフトシークエンスではギャップになっているいくつかの部分も,我々のマップでは連続しており,特にWI-17694からD7S1563の間は連続している.我々のマップでギャップになっている部分は,例えばBAC 207F23とBAC 643E1の部分であるが,現在入手可能なシークエンス情報ではこのギャップは埋めることができない.我々の地図に使われたBACライブラリーと,human genome sequencing projectで使われたBACライブラリーは同じであるので,全てのBACに関する情報がNCBIから入手可能である.

まとめると,我々は物理的および転写マップを,マーカーD7S1575からD7S500の間の3Mbに渡って作成した.この連続クローンは,Hayashidaが報告した1Mbの連続クローンの遠位側に連続して位置している.人ゲノムのドラフトシークエンスは既に公表されているが,シークエンシング完結のためにいくつかの不明確な部分をはっきりさせるには,この領域でのゲノムクローンの順番を連続性を持って広範囲に同定できることの実験的証拠を提供する必要性があると思われる.我々のマップは,包括的な形でのクローン,マーカーおよび既知のシークエンス情報を提供することにより,疾患遺伝子の同定のための価値ある道具となる.

以前の連鎖解析によると,このゲノム領域に関しては,自閉症の候補遺伝子だけでなく,D7S3061とD7S1804間にリンクした前立腺癌の悪性度や,D7S1804とD7S500の間にリンクした2型糖尿病のPimaインディアンにおける微小血管合併症などが報告されている.このマップ情報を使った,新しい遺伝子の同定の試みや自閉症に関連する遺伝子多型に関する最も重要な解析が進行中である.

4. 結論

1. マーカーD7S1575とD7S500の間の3Mbの部分に関して統合的物理的および転写マップを作成した.この部分は7q32.3-q33のマーカーD7S2533の周辺の1.2Mbの完全な連続クローンを含んでいる.

2. トータルで,16個の新しいSTSを含む94個のSTSと,16個のESTおよび8つの既知の遺伝子の位置が同定され,ひとつのSTSは平均して32kbをカバーすることになる.

3. この統合マップは,この領域にリンクすることが既に報告されている自閉症やその他の疾患の易罹患性遺伝子座の同定のための価値ある道具を提供する.

 


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