Sorry, so far only available in Japanese.
第7染色体長腕7q31部の遺伝子:
自閉症と言語障害に共通する背景?


1. Vincent JB, et al. Identification of a novel gene on chromosome 7q31 that is interrupted by a translocation breakpoint in an autistic individual. Am J Hum Genet 67: 510-514, 2000.
2. Lai CS, et al. The SPCH1 region on human 7q31: genomic characterization of the critical interval and localiztion of translocations assocated with speech and language disorder. Am J Hum Genet 67: 357-368, 2000.
3. Folstein SE & Mankoski RE. Chromosome 7q: Where autism meets language disorder? Am J Hum Genet 67: 278-281, 2000.

訳者コメント:

以前から話題の7q31に関する,Am J Hum Genet誌に載った2つの論文のサマリーと,同号のエディトリアルを紹介します.自閉症と特異的言語障害(specific language disorder)の両者の遺伝素因が共通している可能性が示唆されており,このことは以前Warburtonの論文を紹介した時にまとめました.3番目の論文では,両状態をそれぞれのドメインの極端例としてとらえるような記載もみられ,関連する遺伝素因をQTLとして把握する試みがあることを示唆しています.

(概訳:論文1 by Vincentら)

自閉症の遺伝的連鎖研究の結果は易罹患性遺伝子座が第7染色体長腕(7q)上にあることを示唆した.第7染色体長腕上にブレークポイント(切断点)を有する転座であるt(7;13)(q31.3;q21)が,遺伝子レベルの検討により一人の自閉症者において同定された.RAY1(FAM4A1)と呼ばれる新しい遺伝子の部分に,このケースのブレークポイントが存在することが明らかにされ,この遺伝子は16個のエクソンを有し,7q31.3の部分にスプライシング(mRNAができる過程の一現象)部位の異なる多型(2種類:220kb以上か220kbちょうど)があることが判明した.27人の自閉症者(血族関係なし)において,この遺伝子のコーディング部位の全長にわたって変異の有無を検索したが,特異的な変異は発見されなかった.このことは自閉症の病因にコーディング部位の変異は関係していないことを示唆する.RAY1に相当する遺伝子はマウス,ラット,ブタ,ニワトリ,クダモノミバエ,線虫類においても同定された.人とマウスのRAY1は同様なスプライシングパターンを持っており,蛋白レベルでの相同性は98%であった.


(概訳:論文2 by Laiら)

家族の半数が重度の会話および言語障害に罹患していることで知られているKE家系は,3世代にわたって家系図が検討されており,その遺伝性は常染色体優性の単一遺伝子による.これまでに発表した研究で,我々は責任遺伝子SPCH1の位置をマーカーD7S2459とD7S643の間(7q31部)の5.6cMであることを明らかにした.本論文で,我々は目標遺伝子部位のBAC-/PAC-法での詳細なシークエンスマップ(152カ所のSTSs,20個の既知の遺伝子,7.75Mb以上の完全なゲノム遺伝子シークエンス)を総合してまとめるために生物情報解析を行った.第7染色体上の責任遺伝子のスクリーニング検査として,我々はまず平均間隔が100kb以下である120個のSTSsを使ってKE家系を調査した.しかし,微小欠損の証拠は見いだせなかった.新しい遺伝子多型マーカーをシークエンスデータから作り,KE家系の病態に重要な再配列ブレークポイントを同定するために使用した.その結果SPCH1の部位はさらに詳細に同定され,新しいマーカーである013Aと330Bの間に存在することが示され,この部位は約6.1Mbのシークエンスであることが明らかとなった.加えて,我々は同様な会話と言語の障害を持ったKE家系と血のつながっていない,7q31部を含む新たな転座を有する2人の患者を検査した.シークエンスマップからのBACs/PACsを使った蛍光色素による染色体直接ハイブリダイゼーション(プローブ接着法)解析では,一例(CS)において,転座:t(5;7)(q22;q31.2)のブレークポイントを新しく同定されたSPCH部位内の単一クローンに限定することができた.このクローンはCAGH44遺伝子を含んでおり,CAGH44はグルタミンの多い巨大部位を持つ大脳表出蛋白の一つをコードしている.しかし,もう一人の患者(BRD)における転座ブレークポイント;t(2;7)(p23;q31.3)は,SPCH1部位からはずれており,SPCH1から3.7Mb遠位側のBACクローン部位にあることが判明した.最終的に,CAGH44遺伝子に関しては,KE家系の言語障害者において検討したが,現時点で知られているコーディング部位には変異は発見されなかった.これらの研究は,会話と言語の発達に関与している遺伝子の解明に向けた一歩である.


(概訳:論文3 by Folstein & Mankoski,Am J Hum Genetの招聘エディトリアル)

双生児研究および家族研究からの証拠に基づき,自閉症と発達性言語障害(特異的言語障害:specific language disorder)の両者には遺伝素因の存在が信じられている.しかし関与している遺伝的メカニズムは明らかにされていない.例えば,自閉症の罹患率は現在千人に一人と言われているが,家族内(兄弟)におけるリスクは6%−8%と報告されている.Baileyらのデータ(双生児研究)では,一卵性一致率が〜65%,二卵性一致率が0%となっている.サンプルサイズが100ペア以下なので,二卵性一致率が0%となっているのはタイプ2のエラー(サンプルサイズが小さいことによる)であろう.遺伝性(heritability)は0.90以上と計算され,周産期またはその他の環境リスクファクターが存在する可能性を示す説得力のある証拠は存在しない.これらのデータに基づく遺伝学的モデリング検討では,エピスターシス(遺伝子間の相互作用)を伴った複数遺伝子による(oligogenic)遺伝素因であることが予想されている.

双生児研究および家族研究はまた,特異的言語障害における遺伝素因の存在も示唆している.家族研究では,言語および読書障害の頻度は,特異的言語障害児の1親等家族において一般集団の頻度(〜7%)より明らかに高いことが報告されている.家族歴でなく診察に基づく唯一の家族研究の結果でも,発端者の父親および兄弟の30%,母親および姉妹の12%が特異的言語障害の診断基準を満たすことが報告されている.双生児研究では,二卵性一致率(〜45%)よりも一卵性一致率(〜70%)が高く(遺伝性計算値は0.45で自閉症より低い),単一遺伝子モデルには合致しない.

多くの研究グループが,活発に自閉症と特異的言語障害の関連遺伝子を探している.(上記の)2論文は自閉症と特異的言語障害の遺伝的原因として重要であるかもしれない7q31の遺伝子座に関しての証拠を報告している.この遺伝子部位と自閉症の関連は4つの連鎖研究の結果が示唆しており,この領域に転座異常を有する自閉症者における研究が待たれていた.Vincentら(上記論文1)は7q31にあるRAY1という遺伝子を報告している.この遺伝子上には一人の自閉症者の染色体転座異常のブレークポイントが存在している.残念ながら,彼らの報告では,その他の27人の自閉症者においてはこの遺伝子のコーディング部位には変異が見つかっていない.しかし,この転座の反対側の位置は13q21にあり,この領域は一つの連鎖研究の結果が自閉症との連鎖を示唆した場所である.

Laiら(上記論文2)は,7q31上のSPCH1遺伝子の部位をさらに詳細に検討して候補部位をしぼりこんだ.この遺伝子領域の存在は,KE家系(1998年にFisherらが最初に報告,自閉症傾向のない重度の会話および言語障害が多発する家系)における連鎖解析により予想されていた.常染色体優性遺伝形式で,当初の検討ではLODスコアは6.62であった.Laiらは,この家系における候補遺伝子部位をかなりしぼりこんだ.彼らは候補遺伝子座の周辺マップを集め,遺伝子位置決定のためのクローニング(positional cloning)法を使って,候補部位を〜6−7Mbまでせばめた.また,彼らは,2例の別のケース(KE家系の発病者と同様の会話・言語障害)において,7q31を含む転座のブレークポイントを検討した.一例では,ブレークポイントは彼らがしぼりこんだSPCH1内に存在した.KE家系の発病者においては,第一候補遺伝子CAGH44の既知コーディング部位の変異は存在しなかった.

上記の二つの遺伝子候補部位がかなり重複しているとすると,「7q31上の単一の遺伝子が自閉症と特異的言語障害の両方に関与しているのか?」という疑問がでてくる.これらの二つの臨床症候群は,概念的にも定義的にも異なるものである.自閉症は,社会的な関係の発達障害として定義され,言語の社会的な利用(pragmatics)の異常を伴っている.一方特異的言語障害は,自閉症的側面はなく,言語構造の異常として定義される.言語障害の児は,多くの場合,社会的な相互関係は可能であるとされるが,言語の流暢性,ボキャブラリー,文法,そして音韻(正確に単語を発音する能力)において異常があるための障害を伴っている.自閉症児は言語の流暢性,ボキャブラリー,文法,音韻に関しては完全に正常であり得るが,言語を社会的コミュニケーションのために使うことに興味をもっていない.

このような明らかな診断的差異にもかかわらず,実際には自閉症と特異的言語障害の間にはかなりの重複がみられる.自閉症の診断のためには言語構造の異常は重要ではないが,自閉症児のかなりの人数が言語の流暢性,ボキャブラリー,文法,そして音韻において異常を有している.自閉症の約3分の1は,まったくしゃべらない状態になる.また,自閉症の家族には,言語異常も報告されており,親や兄弟の約25%が発語が遅れたり,読み学習の問題をかかえている(コントロール群では5−10%).そのような経歴を持つ家族メンバーは言語知能スコアが低く,スペリングや難かしい読テストになるとさらにスコアが低い.このことは自閉症者にみられる言語障害と特異的言語障害(SLI)の間の関連を示唆する.

KE家系における言語障害と7q31との間の連鎖が存在し,特異的言語障害のその他のサンプルにおける症候と7q31の関連が陽性であるならばと,自閉症の連鎖大規模研究の一つは,7q22-31に検出された弱い陽性連鎖(自閉症との連鎖)が,この重複サンプル(兄弟内に自閉症者が2人,75家系)における明らかな発語の遅れに関与しているかどうかを検討している.この解析で,発語が遅れたり,読みやスペリングに問題のある親は全て有病として分類された.発端者の自閉症兄弟が二人とも発語が遅かった50家系では,7q31部のシグナルのほとんど全てが説明でき,50家系でのLODスコアはより高値であった(未発表データ).この所見は,7q31に隣接する遺伝子座が自閉症と特異的言語障害の両者の原因の一つである可能性を支持する.しかし,このデータが示唆する遺伝子領域やその他のゲノムスクリーニングデータが示唆する部位は,SPCH1領域に十分に一致しているわけではなく,両候補遺伝子が同じ部位にはない可能性も存在する.

自閉症家系において言語障害の発現頻度が予想値よりも高いように,特異的言語障害者の兄弟においても自閉症の頻度が予想値よりも高くなっている.特異的言語障害児で疫学的に確認されたサンプルにおいて,Tomblinらは発端者の兄弟における自閉症の頻度を評価した.その結果,特異的言語障害の兄弟においては〜3%の自閉症者が存在することが報告された.この結果は,自閉症者の兄弟における頻度とほぼ同じで,一般集団の頻度(〜0.1%)と比較し非常に高い.

両方の障害を持つ別々の児をかかえる家族の数が予想値よりも高いだけでなく,自閉症と発達性言語障害の両者が重複したケースも存在している.自閉症児と発達性言語障害児を比較した先駆的研究の一つにおいて,Rutterらはいくつかのケースが明瞭な診断カテゴリーに分類することができないことを報告している.この研究で検討された子供たちは,最近成人例として再評価され,おもしろいことに自閉症を伴わない言語障害であると小児期にはっきりと診断されたケースが大人になって明らかな社会性の障害を持っていることが明らかにされた(印刷中).

これらのデータのいくつかは状況証拠あるいは予備的なものであるが,自閉症と特異的言語障害は遺伝的に関連していることが明らかとなり,両者は同一家系内に予想値よりも高頻度に出現し,両形質を合併してるケースも存在する(そのようなケースでは両者を明瞭に区別することはできない).従って,両者が共通する遺伝素因を持っていると仮定することは魅力的である.自閉症と特異的言語障害が共通する遺伝素因を持つのではないかという仮説は,自閉症の遺伝素因における複数遺伝子モデルとも矛盾せず,複数の遺伝子がいろいろなコンビネーションで相互関係を持っており,おそらく自閉症や特異的言語障害などのような例を極端例として発現形質の巾を形成している.その他の形質における証拠もまたこのアイデアを支持している.非常に軽度の自閉症者は,最近アスペルガー症候群と呼ばれており,構造的言語に関してはほぼ正常であるが,あきらかに柔軟性がなく,興味が制限され,社会的能力が乏しい.いくつかのケース-コントロール研究において,自閉症の発端者の親や兄弟の中にアスペルガー症候群と同様なより軽度の特質がみれれることが報告されている.これらの特質は「BAP:the Broader Autism Phenotype」と呼ばれている.

自閉症の遺伝に関する研究者たちは,(自閉症のように)巨大家系がまれで兄弟内重複例も少ないような状態の連鎖解析をより厳密に行えるようにするための手段の一つとして,他の障害(言語障害など)に関して明らかとなった情報や自閉症発端者の家族メンバーに見いだされた計測可能な言語やパーソナリティ特質に関する情報を利用したいと考えている.


表紙にもどる。


ご意見やご質問のある方はメールください。

E-mail: shinji@po.synapse.ne.jp