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セロトニントランスポーター遺伝子と自閉症
(Persicoら:サブグループ化の必要性)

Persico AM, et al. Lack of association between serotonin transporter gene promoter variants and autistic disorder in two ethnically distinct samples. Am J Med Genet 96: 123-127, 2000.
(概訳)

これまでに行われた家族研究の結果では,自閉症とセロトニントランスポーター遺伝子プロモーター部の連鎖/関連については対立する結論がでている.Cookらはこの遺伝子部位の対立遺伝子型の一つであるショートタイプが自閉症と連鎖していると報告し,Klauckらは逆にロングタイプが自閉症と関連していると報告した.このプロモーター部位は,セロトニントランスポーター遺伝子の発現に影響することが知られている.今回の研究では,二つの異なる地域の自閉症者家族サンプルにおいて,この対立遺伝子タイプと自閉症の連鎖および連鎖不均衡を評価した.イタリアで集められた54例の自閉症者家族と,アメリカで集められた32例の自閉症者家族および5例の自閉症複数発生家族を対象とし,対立遺伝子型を検討した(総計98家系).対立遺伝子型と自閉症の連鎖/関連は,伝搬/不均衡テスト(TDT)および,ハプロタイプ相対危険率(haplotype-based haplotype relative risk: HHRR)により評価した.イタリアでのサンプルでもアメリカでのサンプルでも,複数発生家系を含み,このプロモーター部の対立遺伝子型と自閉症との連鎖や関連を示す証拠は得られなかった.我々の結果は,特発性自閉症の病態におけるセロトニントランスポーター遺伝子の多様性が果たす優位な役割を支持するものではなかった.自閉症の背景となる病態メカニズムが単一でないために,連鎖/関連研究は,セロトニンの血中レベルなどの特別な生化学的マーカーにより抽出したサブグループにおいて行わなければ意味がないのかもしれない.

イントロ:自閉症における遺伝素因の関与は,家族研究や双生児研究の結果から強く支持されている.自閉症は遺伝的にも臨床的にも単一なものではないにもかかわらず,自閉症になり易さに関連する主な遺伝子座の数は,潜在クラス解析や最近の自閉症分子遺伝研究会議の報告(第7染色体長腕に連鎖)からも,比較的少ない数であることが予想されている.

自閉症患者の30〜50%は,末梢血のセロトニンレベルが増加しており,このことが家族性自閉症のマーカーとなることが示唆されている.面白いことに,自閉症にみられる高セロトニン血症は,血小板のセロトニン吸収増加によることが明らかとなっており,血漿中のフリーなセロトニンは正常であることが報告されている.血小板でセロトニン吸収を行っているセロトニントランスポーターは,セロトニン系神経細胞で表出しているものと遺伝子配列が同じものであることが知られており,両者は第17染色体長腕(17q12)に位置する単一の遺伝子から作られる.この遺伝子は,そのプロモーター部位に蛋白合成能に影響する遺伝子の多様性(VNTR)が存在する.セロトニンは,無脊椎動物においても哺乳類においても,能の発達や可塑性に関与しており,小児自閉症におけるセロトニントランスポーター遺伝子の関与は最近注目を集めている.

自閉症と連鎖/関連するVNTR遺伝子型がショートタイプ(Cookら)なのかロングタイプ(Klauckら)なのか意見が分かれており,我々はここに家族研究に基づく連鎖/関連研究の結果を報告する.

対象と方法

サンプル:異なる二つの地域のサンプルを検討した.イタリアサンプルは,54家系の家系内単一症例家系.アメリカサンプルは,32家系の単一症例家系と5家系の複数発症家系.診断基準はDSM-IV.次のステップで,MRI,脳波,聴力検査,尿中アミノ酸,尿中有機酸,染色体検査,Southern blotting法による脆弱X染色体検査などにより,他の遺伝性疾患や神経疾患を除外した.染色体異常がなくても奇形などがある症例は除外した.単発のけいれん歴がある症例は含み,頻回のけいれんや神経学的に局所病変を示唆する症状を有する症例は除外した.最終的に自閉症的行動パターンは,小児自閉症スケール,Vineland適応行動スケールで評価し,加えてイタリアサンプルの発端者はGriffiths精神発達スケールと自閉症行動チェックリストで評価し,アメリカサンプルの発端者はLeiter国際能力スケールで評価した.全ての親から書類にてインフォームドコンセントを得,この書式はI.R.B.(L.U.C.B.M.)により認可された.アメリカサンプルの5家系の複数発症家系は,自閉症者と両親の3人の組み合わせで,一家系から複数のサンプルを設定し,結局アメリカサンプルは44例,イタリアサンプルは46例で両親のデータがそろった.イタリアサンプルではこの他に8例の親のデータが不完全なサンプルがあり,総計98トリオを対象とした.

遺伝子型:血液からゲノムDNAを抽出.PCR法によりセロトニントランスポーター遺伝子のプロモーター部のVNTR多型領域を増幅した.プライマーstpr5とstpr3では,ショートタイプ(484 bp)とロングタイプ(528 bp)および日本人やユダヤ人にみられるめずらしいタイプである超ロングタイプ(572 bp)の3タイプに分類でき,今回は一人の父親とその息子で超ロングタイプを検出した.プライマーHTTp2AとHTTp2Bを使うと,それぞれのタイプの長さは,406bp,450bp,494bpとなる.ショートタイプは14回,ロングタイプは16回,超ロングタイプは18回繰り返しのVNTR多型である.一部のサンプルは,HTTp2A/HTTp2Bプライマーでのみバンドを検出した.

遺伝子解析:連鎖/関連解析は,伝搬/不均衡テスト(TDT)を応用した.ヘテロ型の親から自閉症児への優位な対立遺伝子伝搬は,(b-c)(b-c)/(b+c)統計値とかい二乗値(McNemarテスト)を使用した.関連はハプロタイプ相対危険率(haplotype-based haplotype relative risk: HHRR)を使い,この方法は連鎖不均衡の検出感度がTDTより優れていると言われている.HHRRでは,親の遺伝子型が不明なサンプルでも解析でき(イタリアサンプル4例,アメリカサンプル6例),その場合の統計的有意差はFisher正確テストで検定した(超ロングタイプはロングタイプに含んだ).健常な兄弟はアメリカサンプルに含まれているが,サンプルサイズが小さいため統計解析は行っていない.過去の報告では相反する結果であったので(Cookら/Klauchら),両側P検定も行った.

結果

272名(98トリオ)および28人の健常兄弟(アメリカサンプル)の全例でセロトニントランスポータープロモーター遺伝子部位のVNTR多型が検出された.結果は過去に報告されたCaucasian Americanコントロールの頻度と同じであった.アメリカサンプルにおける,親,自閉症児,健常兄弟の各グループでの遺伝子型頻度は,推定値にほぼ一致しており有意な差はなかった.推定値と実際の値とを比較すると,イタリアサンプルにおいてもアメリカサンプルにおいても,よく一致しており,おもしろいことに,自閉症児においても推定値と実際の値は一致している.TDTでもHHRRでも,イタリアサンプル(54トリオ)でもアメリカサンプル(44トリオ)でも両者を合わせても,連鎖や連鎖不均衡は自閉症に関して存在しなかった.データは示していないが,parent-of-origin解析でも同様な結果であった.

考察

セロトニントランスポーター遺伝子のプロモーター部位における多型と自閉症との間の連鎖/関連は,今回の検討では否定的であった.これまでの報告と異なり,我々のサンプルは,VNTR多型のショートタイプとロングタイプのいずれも優位には自閉症児に伝搬していなかった.相反する結果の原因は統計的なパワーが不十分であるだけではないようである.我々のサンプルでは,二つの対立遺伝子タイプのどちらかとの関連を検出できる公算は約94%である.さらに,過去の論文の結果と合わせると,自閉症児への伝搬はショートタイプが119,ロングタイプが111で,かい二乗値は0.28,P=0.60で有意差はない.これまでの報告でみられた連鎖/関連は,サンプルサイズが小さいことによる偽陽性である可能性が高い.

小児自閉症の背景にある病態メカニズムの多様性が,このような相反する報告のより魅力的な説明なのかもしれない.遺伝的により単一なサブグループ化を可能にするのは,臨床的側面よりも,生化学的パラメーターに基ずく検討であろう.セロトニンの血中濃度はこの点では,有益な方法かもしれない.自閉症者の一部でみられれる高セロトニン血症は,血小板セロトニントランスポーターのKm値ではなくVmax値の増加によることが報告されている.さらに,Vmax値の上昇は遺伝的に規定されており,また,自閉症発端者において血中セロトニン値が300ng/ml以上である人の%は一定である.セロトニントランスポーターのプロモーター部の多型がロングタイプのホモである場合は,他の多型に比べ,培養細胞におけるセロトニントランスポーター遺伝子の発現が50%増加することが報告されており,この部分の多型が注目を集めた.従って,この部分のVNTR多型とセロトニン血中濃度の相関を,健常者と自閉症者において検討することは興味深い.これによって血中セロトニンレベルに一定の傾向を持つ自閉症者の特異サブグループにおいてセロトニントランスポーターのプロモーター部の多型に有意な傾向があるかどうかを確認することができるであろう.また,McDougleらの強迫性障害家系での報告が示唆するように,強迫性障害の症候が優位であることが,ロングタイプの優位な伝搬に関連している可能性もある.


(解説)

Cookらの報告では自閉症者で多いのはショートタイプ(文献1),Klauckらの報告ではロングタイプ(文献2),そしてこの論文では有意差なしという結果です.考察中にあるようにサブグループ化しての検討が待たれます.


(文献)
1. Cook EH, et al. Evidence of linkage between the serotonin transporter and autistic disorder. Mol Psychiat 2: 247-250, 1997.
2. Klauck SM, et al. Serotonin transporter (5-HTT) gene variants associated with autism. Hum Mol Genet 6: 2233-2238, 1997.

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