自閉症の才能開発 

自閉症と天才をつなぐ環

Thinking in Pictures


テンプル・グランディン著 カニングハム久子訳  学習研究社

ISBN4−05−400779−1 


文責:樺山八千代

自閉症者である著者が自閉症について書いた前作「我自閉症に生まれて」から、約10年を経て書かれたものです。

前作から時を経ることにより、著者は経験を積み、自閉症者の特性、分類、才能、社会生活における困難や治療、教育、また自分自身の精神世界などについて思索は更に深められている。

幼少時のことは前作に詳しいが、著者はさまざまな困難を乗り越えて大学を卒業し、その独特の才能を活かして農業機器の設計家になり、実業家としても活躍している。

したがって自閉症者の教育や療育、仕事にたいするアドバイスも具体的で的確である。

欠点ばかりに目を向けず、長所を伸ばし、社会生活に適応できるように励ます事を勧めており、自閉症者の特性に向いた職業などへのアドバイスもある。

著者によると自閉症者は何かを考えるときの特徴として、頭の中にビデオや写真のように具体的な映像を描いて考えたり、物を理解したりするという。特に著者はその視覚的認知能力が優れていたため、自分が設計する農業機械を実際にあるもののように思い浮かべて、設計図を引く事ができるのだという。逆に抽象的な概念を言葉で理解するのに苦労したり、目に見えない人間の感情なども理解しづらいという。しかし著者は家畜の屠殺にかかわる自分の仕事を通して、死や死後の世界について考え理解しようとするようになり、本書では宗教的な世界観にも深い洞察が示されている。

自閉症者の感覚も独特である。触覚、聴覚、視覚、味覚、嗅覚などの感覚が過敏であるために強い刺激に常にさらされている状態であり混乱を起こしやすい。そこに一定の規則やパターンを持ち込むと、安心して生活しやすくなる。

著者は視覚的に考えられるという自分の才能を仕事に活かして社会的な成功を収めている。相手の感情を読み取ることやコミュニケーションをとることなど、一般的に自閉症者が苦手なことに関しては学習して学んでいった。

著者は自閉症という特質を自分を自分たらしめているものであると認め、自分の才能を生かし創造力を生み出しているのは自閉症であるいうと誇りを持って生きているのである。


2006年 5月20日 「発達を考える会」勉強会にて紹介