2001年11月18日(日)
12:00 本当にいい天気である。シシ座流星群……また騙されるかもしれないが、近場ではなく、どこか遠くへ行ってみようかと考え始めていた。車のガソリンが少なくなっていたのでスタンドで給油をして、デジカメの操作マニュアルを読んで、内蔵時計の時間を合わせたり、バルブ撮影を設定して試し撮りなどしてみる。どこで見るかはまだ決めていない。
20:00 NHKの大河ドラマ「北条時宗」を見てから出かけるつもりで見ていたが、星空のシーンが数秒あった。反転したクエスチョンマークと三角形……シシ座ではないか! 期待度が大幅にアップする。
23:00 夜中の徘徊は実に久しぶりでウキウキ気分だった。この時点でもまだどこで見るかは決めていなかった。一昨年は《輝北》に出かけたが、それこそ祭のような人出で、帰りも渋滞・渋滞・渋滞だったので人があまりいない場所にしようと考えていた。鹿児島北インターから高速に乗ったので、とりあえず《霧島》に行くことにした。
加治木インターで降りて、すぐ左へ曲がった。コンビニを探しながら北上する。視界に入ってきた標識を見ると《栗野》とあった。しかしどうも道を外したようで、しだいに寂しくなってきたので引き返すことにした。《隼人》道路に乗り換える際にもういちど脇道に入って迷いそうだったので、再び引き返し《国分》から《霧島》へ車を走らせた。
23:45 とにかく飲食物は確保したかったので見つけた最初のコンビニに入った。Family Mart隼人町見次店で、カリカリ梅の六個入りを一袋(登山にはこれが自分なりの定番)、ヌガー菓子SNICKERSを一本、旨茶のホット350mlを一本、菓子パンをひとつ購入。この先もう見つからないかもしれないと思ったコンビニであったが、さすがは《国分》この後コンビニはいくつも見つかった。一番最後は《丸尾》の三叉路のところにあるコンビニだったか?
温泉街を通るころ、窓を開けていたので車内はイオウの匂いが入り込んできた。FMラジオ(TV-CH3)はNHKアーカイブという番組で、「タイムトラベラー」の最終回をやっていたが受信状態が悪かったので切った。自然に出てくる歌は、アン・ルイスと尾崎豊。歌詞のほとんどはでたらめ……まあ気分はよかったようだ。
もうこの頃にはシシ座流星群は《韓国岳》の頂上で見よう!というイメージが出来上がっていた。屋久島の宮之浦岳に次ぐ標高を誇る《韓国岳》はその昔、よく登っていたがここ六年は登っていない。《韓国岳》の麓の《えびの》は意外と遠かった。
《えびの》に着いてから頂上まで一時間半ほどはかかる。流星のピークは二時半と予想されているので、少なくとも午前一時までに《えびの》に着いていないとピーク時に頂上に到達できない……時計を見るとなんとか間に合う感じであった。
2001年11月19日(月)
00:40 《大浪池》の横を走っていた頃、右の窓越しに白い線が走り抜けて行った。流星だ。音はもちろん聞こえないが、聞こえたような気がした。今年のシシ座流星群は本物なのかもと……いう思いがますます強くなった。
00:50 《えびの》に着いた。道路沿いの駐車帯には車が何台も止まっていた。反射望遠鏡を据えて覗いている人たちもいた。車を止めるスペースがなく、道路際は気がひけたので、そのまましばらく走っているうちに《えびの》を通り過ぎてしまった。
空が気になったので上をちらっと見た瞬間にハンドルがわずかに切れたのか、危うく道路左側の側溝に車輪を落としそうになった。ここはその風景が似ているということで《賽の河原》と呼ばれているところ。クワバラ、クワバラ! すぐさまUターンをして引き返した。
01:00 《不動池》の駐車場にスペースを見つけて駐車した。すぐに消灯。《韓国岳》登山口はここから百メートルほど先にある。外に出ると満天の星空。とたんに流星・流星・流星! 寒さは全然感じない。天の川もよく見えた。風はなく、月明かりもなし。流星が出るたびに「おー」という声がそこかしこから聞こえる。みんなでわいわいとここで見てもいいかもしれないが、たまに通る車のライトはわずらわしいので身仕度をして《韓国岳》へ足を向けた。
下着は二枚重ね、厚手の靴下、ジーパン、シャツ、セーター、ジャンパー、ストッキングキャップ、軍手といういでたち。コンパクトながら光量のあるライトAは前方用、光量はそれほどないがクリップのついたライトBを腰に挿して足下用として登りはじめた。夜露が凍ってしまったのか、地面がきらきらと輝いていた。滑りやすい。夜の登山は非常に危険である。何年も前に大隅山系を歩いたとき以来だ。
しばらく登ると喬木の中から「ピー」という鳴き声と足音が聞こえた。シカだろう。
丸太が地面に打ちつけられている階段を登った。普段、スポーツをやるわけでもなく、歩くことも少なくなっていているので「よっこいしょ」や「どっこいしょ」の連発となった。かなりハイペース。しかしここは急がなければならず少々無理をして登っていった。なぜか「カミオカンデ」という言葉を呪文のようにつぶやいていた。
喬木の中を進む。下から「おー」という声がたまに聞こえてくる。大きな流星が見えたのに違いない。いまのところ頭上は樹の葉が覆っているので見えない。わずかに夜空が見える程度だ。早く見たい気持ちを抑え、がまんして登る。
息が切れる。二合目の標識が見えたところで明かりを消して一休みする。
『これはえらいところに来てしまった』と思い始めてはみたものの、なんとか落ち着いた頃、ライトを点けて先を照らしつつ、足下を照らしつつ、一歩ずつ、掛け声とともに登った。
人影はないので当然歌が出て来る。三合目を過ぎたころから喬木も少なくなりほぼ平坦な所に出た。楽ちんである。階段がないとこんなにも歩き易いものかと思った。
途中何回か腰に差していたライトBが落ちた。一度は接触がおかしくなり点かなくなり足下が見えにくくなった。その後、接触が戻ってホッとした。夜の登山では明かりは大事。ライトBは単三電池を四本使っている。交換用の電池も用意してきた。しかしライトAは単四電池を四本で、こちらは予備を準備していない……これがのちのち困ることになった。
01:50 六合目を過ぎた頃、休憩をとっていると下に明かりが見えた。誰かが登って来ているようだった。その足取りは早くあっと言う間に追いつかれた。
「こんばんは」
「こんばんは」
フル装備の登山者だった。早い足取りでどんどん登ってく。すこし遅れながらも付いて行こうとしたがいつの間にか見えなくなってしまった。強者。
このあたりになるともう下からの声は聞こえない。流星が明るく、長く、流れて行いる。凄い数である。こんな流星は見た事がない。
02:20 標高1700m。《韓国岳》頂上へ着いた。流星のピークになんとか間に合った。天文マニアが何人かいるだろうと思っていたが誰もいない。周辺の市町村の町明かりに浮かぶ全周の星空。投影機のないプラネタリウムの中心にいるような感じだった。リュックからカリカリ梅を取り出し一個食べた。あまりの酸っぱさにむせた。そしてほのかに暖かい旨茶をひと飲みした。旨い!
シシ座の首のあたりを中心に流星がぼんぼん出ている。たまに大きい奴が流れる。瞬間的に色がオレンジから青く変化する流星。大きな流星の後に残る流星痕は三分たっても消えることはなく、その形をゆるやかに変えて行っている。素晴らしい、素晴らしい。最高だ。
FMラジオは東京の空の様子を伝えていた。このピークは見ることに徹した。
下の方にまた明かりが見えた。誰かが登って来るようだったが、しばらく待っても誰も来なかった。
03:00 二回目のピークが近づいていたので三脚とデジカメを取り出してシャッターを何回も押した。(3時4分から3時44分の間に34回撮影していた)
04:00 流星はまだまだ間断なく流れているが、体も冷えてきたので下山することにした。少し降りると下に明かりが見えた。先ほど登ってくるかなと思った人の明かりか? どうもその明かりを目指して降りていったようで、これが間違いの始まり。
(この時点では気にしなかったが《大浪池》への道しるべが倒れていた)
04:30 なんとなく道が違うのではないか……足下は登ってきたときにはないような岩場が続いていた。下りつつ右に進路を変えてみた。気がついたころには大きな岩やクマザサの潅木の中に立っているではないか。しだいに焦ってきて、足も速くなりがちで、転びやすくなっていた。「ちょっと、待った、待った」自分で自分に言い聞かせても足はしばらく止まらない。
《韓国岳》登山ルートの頂上付近は丸太の柵沿いに道がある。それがまったく見当たらない。
遭難……そんな言葉が頭をよぎる。とにかくできるだけ右に進んだがクマザサが生い茂っているので進むのを断念して下へ、そして右へ、また下へ。
『これはえらいところに来てしまった』という思いはこの時点で確実なものになった。
下の方で明かりが動いているのが見えた。明かりは二つで、その二つの明かりはそれぞれ右に動いたかと思うと左に動いていた。どうも向こうも迷っているようだ。
このまま下に降りても《韓国岳》登山ルートには戻れないので上を目指した。一度降りたところは登りたくないが、致し方ない。しかし登ると行く手を遮られ、右に行くしかなく、上に、右にという感じで登っていった。クマザサは50センチ程度の高さだが密集しているので歩きにくいこと甚だしい限りだった。
このころからライトAの光量が急に落ち前方が見えにくくなった。アルカリ電池の特徴だが、切れかかると急に暗くなる。スイッチを切ってしばらく時間がたつと回復するがそれも長く続かない。
このドタバタの間も頭上を流星は明るく長く飛んでいた。ライトBの光量では足下しか見えないのでそれ以上進めない。困った。
05:00 これ以上進むことはできないので歩き回るのは諦める。『生きて還ろう』と真面目に思い直すことにした。食べ物や飲み物は少しあるし、夜明けをここで待つことにした。
カリカリ梅とヌガー菓子SNICKERS。SNICKERSは半分だけ食べるつもりが結局、もぐもぐと全部食べてしまった。そして冷えた旨茶。空はまだ暗く、夜明けまではあと一時間以上あった。流星はまだまだ元気でビュンビュン飛んでいる。そういう状況で非常に困っていたにもかかわらず、悠々たる大自然とせこせこしている自分を比べてしまい、可笑しくてしょうがなかった。
上空には流星の観測なのか?東から西へ、間隔をとったジェット機が同じスピードで飛んで行った。このころの流星はわりと大きいものが見えたような感じだった。少し眠くなったので軽い運動をしたり、軽いステップを踏んで時間をつぶした。
06:00 待つこと一時間。空も白々と明るくなり稜線もしだいにはっきりしてきてたころ、ライトBを点けて行動開始。登りつつ左に移動し《韓国岳》登山ルートに入る作戦。
06:05 足下を確認しながら強行でズンズン行くと、何とものの五分で例の丸太の柵が見え《韓国岳》登山ルートに行きあたった。拍子抜け。こんなに近かったのか……この二時間は何だったのか? 狐につままれた感じであった。
しかしまあ取り敢えずこれで遭難はなくなった。足下の階段は霜が降りたものが融けだしていて滑りやすくなっていた。少し急いでいたためか左足をくじきそうになった。そしてそれをかばうようにしばらく降りた為か今度は右足のひざあたりが痛くなった。急な登りを行った事がいけなかったのかもしれない。しばらく休憩して、ころを見て下山。この繰り返し。杖があれば杖に頼っただろう。
見晴らしのいい五合目でカリカリ梅、冷え切った旨茶を飲み干した。下の方に駐車中の自分の車が見えたが、かなり、かなり遠い気がした。
07:10 三合目ごろ、下から登ってくる二人組のおばちゃんに出会った。
「おはようございます」
「おはようございます」
07:30 足かけ三時間半、実際は一時間半でようやく下山できた。(何もなければ一時間程度で下山できるだろう)アスファルトの平坦な道、万歳。なぜかお腹が「ぐ〜」と鳴った。
07:40 駐車場の車のフロントガラスには薄く霜が降りていた。霜を取る適当なものが見当たらなかったので軍手やらティッシュペーパーを使って落とした。思ったよりやわらかい霜だった。ある程度取れたところで内側から暖気を当てた。ワイパーの水を出してみた。うまくすると早く解けるから……これは意に反してかえって水が凍ってしまい、再氷結となった。使っていない給油カードを見つけたので、このカードでフロントガラスの霜を落とした。
08:30 《霧島》から《国分》までは、遅いバスや軽トラックや工事車両がここぞとばかりにいて、思ったように走れなかった。国道223号線の霧島路の街路樹は紅葉が見ごろだった。FMラジオ(TV-CH3)はシシ座流星群のニュースを伝えていた。北海道では「ピーク時に一時間で5000個見えた」とか。
そのニュースを聞いて《韓国岳》ではどうだったのかを午前二時半から三時半までの一時間を思い出してみた。一分で20個程度で、視界の外も同じだとして、まあ三倍で60個。60倍して時間当り3600個。目に見えない暗い流星も考えると時間5000個もうなずける数字だった。そうこうしているうちに《隼人》に着き、そこから高速に乗り《鹿児島北インター》で降りた。
09:00 無事帰宅。
登っている途中で出会った強者はどこに行ったのだろう? 下山の際に遥か下の方で迷っていた人はどうなったんだろ? 地図とコンパスは必需品だと再認識した。それと夜間は予備の電池!
韓国岳登山口標高:1,255m
韓国岳頂上標高:1,700m
韓国岳コース:4.2km(往復)
走行距離:160km
デジカメで撮った画像は真っ暗で何も映ってなかったのでがっかりだったが、Photoshopで調整してみたところ星が現れ、流星の軌跡は短いながらも写っていた(ようだ)。
おわり