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苦闘』 Struggle,1935.

翻訳・編集・装丁 田原正三 電子書籍

1930年代。ユーゴ独裁政権下、コミュニストの逮捕と凄まじい拷問を扱った古典的名作。「ニュー・リパブリック」「ニュー・マッセズ」誌に掲載され、ロサンゼルスのアーティスト・イーゼル氏の小出版社ホイップル社から限定350部の豪華版で出版される。さらにその後、トゥモロー・パブリッシャーズ社から出版されて、国際的な反響をもたらした。原作のスロヴェニア語版は本書ノンフィクションノベルの主人公でもあるエドヴァルド・カルデリ(旧ユーゴ副大統領)他。

英語版はルイス・アダミック。

日本語版の解説/論文はヘンリーA・クリスチャン。

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    目次

    序文  ルイス・アダミック 

    抗議文 ベオグラード政府の政治犯に対する抗議文、署名〔米作家等48名〕

          ――国際人権擁護委員会代表 ロジャー・N・ボードウィン

    本文  苦 闘 

    解説  ヘンリーA・クリスチャン(ラトガーズ大学)

         「ルイス・アダミックの『苦闘』について―或る「ラディカル」冊子の国際史」

    写真  アダミック、カルデリ、グラヴィンヤッチャ[特別高等警察所]

    木版画 アーサー・ホイップル社版使用

     ………………………

    

  抗議文

 以下の抗議文は、一九三三年十一月二四日、ニューヨーク市五番街七○、四一二号室、国際政治犯人権擁護委員会議長 ロジャー・N・ボールドウィンによって組織された米知識人特別委員会が、(本書ブックレットに含まれている資料に基づき)、ワシントン駐在ユーゴスラヴィア大使レオニド・ピタミッチ博士宛、送付したものである。

駐米ユーゴスラヴィア大使 レオニド・ピタミッチ博士 殿

 

 拝啓

 ここ数年、内外の新聞の特電は、ユーゴスラヴィアにおける政治犯が非人道的扱いを受けていると報じています。当委員会は、その報告に注目し、世界中の多くの機関個人が政治的主張と活動に対する迫害の調査に関心を示してきたように、これまでも一部の特別政治犯のために時折調停を行なってきました。

 ごく最近私たちは、グッゲンハイム財団特別研究生として一年間の故国滞在から帰国したばかりの、私たちの準委員の一人でもあるユーゴスラヴィア生まれのアメリカ作家、ルイス・アダミック氏から、ドキュメンタリー資料を入手いたしました。アダミック氏の誠実さと正確さを備えた作家としての資格は、疑う余地もございません。私たちは、彼の以前の補強報告をもたらした題材の真実性を、納得いくまで立証したわけです。

 これらの報告と、またアダミック氏の確かな情報を受けて、私たちは、今日のユーゴスラヴィア体制を特徴づけ、政治的迫害を行なっている全ての組織に対し、とりわけ現体制下で政治犯に加えられている信じがたい拷問に対し、貴下を通じて、貴下の政府に抗議を申し入れたいのです。これらの報告は、各地の州刑務所においてばかりでなく、ベルグラード、ザグレブ、リュブリャーナ、サライェヴォなど、その他の都市の刑務所においても正式に報告された拷問をも含んでおります。それらの拷問は、現政府の政策に反対するさまざまな集団にも及んでいます。例えば、クロアチアやスロヴェニア、ムスリム、マケドニアの国家主義者、社会主義者、農地改革者、共産主義者などがそうであります。

 これらの報告は、数百はまだしも数千の政治犯が刑を執行される前に、殴打され拷問を加えられていることを、紛れもなく明らかにさせています。報告によれば、約百二十名の者が直接殺害されたか、あるいは拷問を受けて獄死したとされています。いわゆる尋問中に行われたこのような残虐極まるやり方は、政治犯の指の爪に針を突き刺し、脇の下に燃える石炭を挟ませ、足の裏を休まず鞭で叩きつけ、あるいは鋭利な器具を突き刺し、さらには性器に暴行を加えるなどの形で描かれています。このようなやり方が、罪に陥れようとして、自白を強要する目的で行なわれているがために、他の仲間から活発な反対運動が展開されています。

 しかしここに描かれている尋問は、予備尋問中に限るものではありません。刑務所に入れられてからも続いています。抵抗文学を配布したり、反政府組織に属し軽犯罪に問われた者でさえ、組織的に殴打され、餓死しています。なかには病原菌に冒され、数ヶ月にわたり頭を鉄のベルトで固定されている者もいる、という信憑性のある報告も寄せられています。刑務所の環境があまりに非人間的なため、囚人たちの多くは暖房のない湿った牢の地べたに寝らざるを得ません。このような耐えがたい環境に対し、スレムスカ・ミトロビッツァ刑務所の二四八名の男女は、大規模なハンガーストライキを決行していると言われています。

 政治犯の独房監禁と長期間の刑期は、私たちが抗議を向けたもう一つの理由でもあります。私たちに寄せられたある信頼すべき報告では、ベオグラード大学教授の著名な政治経済学者で、ユーゴ農民運動の指導者でもあるヨバノビッチ博士は、つい最近まで、数ヶ月間独房に監禁されていたといいます。いや、現在でも監禁されているといいます。さらにまた、現在重病を患っているクロアチア農民党の指導者V・マチェク博士が、死にいたるような非衛生的環境の下で投獄されている、との報告も受けています。

 更に私たちは、特に知識人の囚人数十名が、マケドニアのマラリア多発地帯に追放され、そこでは昼夜数時間ごとに、地元の警察の許に出頭するように命じられている、という話も聞いております。

 貴下の政府は、このような事態が文明世界の憤りをもたらす野蛮な行為であることに気付かねばなりません。政敵に対するように、残忍な行為に反対する一部のアメリカ世論に代わって、私たちは、貴下の政府の政策とやり方に抗議を申し入れたいのです。二千百名もの反対者が、このような非衛生的な環境に置かれている限り、貴下の政府に対する告発は永久に続くでしょう。

 私たちは、自国の刑務所の環境が非難すべき事態であったり、他国と同様、政治犯に対する虐待が行なわれていることに気付いた場合は、即座に告発します。それにしても近年、私たちの許に届いたあらゆる報告のうちで、ユーゴからのものは極めて野蛮かつ残酷な類のものです。                                               敬具

                   国際政治犯人権委員会代表 ロジャー・N・ボードウィン

 

 

 署名

ウィリアム・アレン・ホワイト 作家・「ガセット」誌(カンザス)エンプロリア編集・発行人/セオドア・ドライサー 小説家・詩人・劇作家ニューヨーク在/アーサー・フィールド・ヘイズ 作家・弁護士・ニューヨーク在/オズワルド・ガリソン・ヴィラード 編集者・作家・ニューヨーク在/メアリー・オースティン 作家・ニューメキシコ在/シャーウッド・アンダスン 小説家・詩人・ニューヨーク在/ジョン・ドス・パソス 小説家・劇作家・ニューヨーク在/ノーマン・トマス 作家・政治家・市民運動家・ニューヨーク在/ハリー・エルマー・バーンズ 歴史家・国際法学者・ニューヨーク在/W・E・ウッドワード 小説家・伝記作家・ニューヨーク在/バートン・ラスコー 作家・批評家・ニューヨーク在/アーネスト・ボイド 作家・批評家・編集者・ニューヨーク在/キリー・クライトン 作家・編集者・ニューヨーク在/エドマンド・ウィルソン 作家・編集者・ニューヨーク在/アプトン・シンクレア 小説家その他・ロサンゼルス在/ブルース・ブリベン 作家・編集者ニューヨーク在/ジョージ・ソウレ 作家・編集者・ニューヨーク在/ルイス・B・ボウディン 作家・歴史家・弁護士・ニューヨーク在/ベンジャミン・ストルバーグ 作家・批評家・ニューヨーク在/パクストン・ヒベン女史 作家・ユーゴスラヴィア故ペータル王の親友の寡婦/ジョン・ハインズ・ホームズ 牧師・国際法学者・市民運動家・ニューヨーク在/アースキン・コールドウェル 小説家・メイン州在/ホレース・グレゴリー 詩人・批評家・ニューヨーク在/グレース・ランプキン 小説家・ニューヨーク在/クリフトン・ファディマン 批評家・編集者・ニューヨーク在/リチャード・L・サイモン 出版人・ニューヨーク在/リンカン・シュルター 出版人・ニューヨーク在/エリオット・ホワイト 牧師・ニュージャージー在/レノール・G・マーシャル 編集者・ニューヨーク在/カールトン・バール 著述家・ニューヨーク在/ニュートン・アービン 批評家・教授・マサチューセッツ州ノザンプトン在/ジョージ・レイトン 作家・編集者・ニューヨーク在/ケアリー・マックウィリアムズ 作家・批評家・弁護士・ロサンゼルス在/V・F・カルバートン 作家・編集者・批評家・ニューヨーク在/アルフレッド・M・ビンガム 編集者・ニューヨーク在/ジェームズ・ウォルトン・ジョンソン作家・詩人・コネチカット在/マーガレット・リーズ ソーシャル・ワーカー・ニューヨーク在/ネメス・アンダースン 社会学者・コロンビア大学/ エドワード・J・アレン 経済学者・コロンビア大学/フローレンス・L・ボリッチ 図書館員・セツロウジュニア大学/ジョン・M・ブレスター 教授・セツロウジュニア大学/ポール・C・クリフォード 教授・セツロウジュニア大学/マチュー・N・チャペル教授・セツロウジュニア大学 (すべて委任済み)

 

………………………………………………

 ブラツァノヴィッチのような拷問を経験したものは、人間の歴史で誰もいなかったと思う。彼は二メートル近い巨人で、しかも均整のとれた体躯の持ち主だった。セルビア人のまさしく正真正銘の巨人であった。手錠と足枷のチェーンを引きちぎり、一六人の秘密諜報員と官憲を相手に一時間余りにわたり大格闘劇を演じた。そのときブラツァノヴィッチを殺さなかったのは、彼から情報を吐き出させると思っていたからだ。彼はバルカンのコミンテルン・メンバーであり、ロシアで訓練を受けた、ユーゴ共産党の指導者であった。ようやく取り押さえられたブラツァノヴィッチは、その後、想像しがたいほどの拷問を加えられたが、その超人的なスタミナを消耗させることはなかった。堅いゴムの棍棒で足の裏を叩かれ、真っ赤に燃える石炭を脇に挟ませられ、石炭が冷たくなるまで腕をぎゅうぎゅうに縛られた。爪のなかに針を突き刺し、睾丸を押し潰された。そしてしまいには、指の関節を一本残らずへし折ったのだ。それでも彼は吐かなかった。あらゆる尋問に、ブラツァノヴィッチはセルビア人特有の激しい口調で相手を罵倒し、殴られて、石炭が脇の下じゅうじゅう肌を焼いているときでさえ意識を失うことなく嘲笑いを浮かべ、革命の嵐がいまにお前たちの上に襲うだろう、と逆に胴喝をかけた。彼は独房に戻され床に横になったが、そこは彼の巨体には狭すぎて身動きができなかった。だが頭ははっきりしていたので、自分の身に起きたことを房仲間に何とか話すことができたのだ。他の囚人たちが出され、彼一人残されたとき、憲兵らに向かってこう云った。「それにしても、今夜は闇が俺を包む感じがする」と。彼の感覚はまともだった。その夜、特高本部で射撃音が聞かれたからだ。数日後新聞は、ユーゴにおけるスターリンの個人的スパイで、第一級の犯罪者たるブラツァン・ブラツァノヴィッチが、官憲の取り調べ中に特別高等警察所から「逃亡を企てた」ために射殺された、と公式にコミュニケを発表した。…‥毎年、彼の墓には真っ赤な薔薇の花が咲いている。…‥  

                                      ――本文から 

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