1929年に米で出版された黒人問題に関する古典。人種問題の先駆的な著作。『ブラック・アメリカ』スコット・ニアリング著/高橋徹訳 40年後に評価される。
Black America by Scott Nearing 1929  目次 

 

 

『ブラック・アメリカ』

 スコット・ニアリング著

Black America by Scott Nearing

 

序 「すべての人は平等に生まれたり」 1929年

 

 世界中でアメリカほど自由だの自決だのと抽象的議論にふけっている国はあるまい。一七七六年七月四日、アメリカ共和国の建国の志士たちは「すべての人は平等に生まれたり」と宣言したし、エイブラム・リンカーンは「人民の人民による人民のための政治」と約束した。そして、アメリカの学童らも「自由の楽天地よ これぞ わが祖国!」と歌っている。もしもこういう宣言や公約などが自由、あるいは自決を与えることができるとすれば、アメリカこそ自由の国であるはずである。

 しかしながら、各国の政策は道徳律によってはつくられていない。ただ経済的必要性のみが羅針盤であり、それによって地主と営利的なお先棒をかつぐ徒輩が帝国軍艦の舵を操縦しているのだ。

 現代の幾多の大帝国にあって、ただアメリカだけが母国内に従属民族をもっている。イギリス帝国はエジプトやインドに、オランダ帝国はジャワ(インドネシア)に、フランス、ベルギー、イタリアの諸帝国はアフリカに、そして日本帝国は朝鮮に、それぞれ従属民族をもっている。一方、アメリカ帝国の場合は、フィリピンやキューバに従属民族をもっているのみならず、自国内にも一二〇〇万を越えるアメリカン・ニグロの従属民族をもっているのである。

 このことは、アメリカにおいてさえ、こういった視点からまったく論じられていないものだ。国外においても、ほとんどそれについては知られていない。それどころか、アメリカ合衆国総人口の一割を占める黒人たちは、これまで三〇〇年以上にもわたって、《ホワイト・アメリカ》の地主や資本家の下で、奴隷、ピオン(借金の代わりに奴隷として労働する者)、従属者、召使、小作人、賃金奴隷であった。今日、彼らは、アメリカにおける大衆労働力の唯一最大の予備軍である。

 問題は次の四つの実際的なありようがある。

  1. 黒人自身、経済的、文化的な機会均等を要求している。しかし、合衆国の支配階級は彼らにこの均等を与えるだろうか。
  2. フィリピン人やプエルトリコ人たちは憐憫を乞うてアメリカの支配階級に「自由」と「正義」を求めている。彼らの運命はどうなるだろうか。
  3. 合衆国の経済的関心はラテン・アメリカに浸透しつつあり、しかも合衆国の政治的、軍事的支配は急速にカリブ人の上にのびつつある。合衆国の政治家たち -- たとえば一九二七年から二八年のハバナ会議におけるヒューズやクーリッジ -- はラテン・アメリカの人びとに対して「諸君は慈悲深きアンクル・サムを恐れる必要はない」と得心させている。果たして、ラテン・アメリカ人民はこのような声明を信じてよいだろうか。
  4. アフリカや南米、中米、北米の搾取された一億五〇〇〇万以上の黒人たちは、搾取しつつある白人の支配から逃れようとたたかっている。合衆国のような民主主義共和国の白人支配階級は、ベルギーやイギリス帝国のような立憲君主政体の白人支配階級よりもはやく黒人を解放するだろうか。

 アメリカ合衆国の支配階級は、アメリカン・インディアンとアメリカン・ニグロという二つの"異なった″民族と密接な関係を持つようになった。アメリカン・インディアンの文化は実際上根絶やしにされてきた。その過程に抵抗したインディアンは、亡びた。

 それでは、三世紀以上もアメリカの経済的、社会的生活に組み込まれてきた黒人の場合はどうだろうか。彼らの経験は、合衆国の搾取階級が大いに喧伝している、いわゆる正義とかフェアプレーの精神に希望を託しているフィリピン人やラテン・アメリカ人、その他いかなる"外国人"たちにとっても教訓的な興味ある事柄であるにちがいない。

 本書は南部の農業地帯と北部の工業地帯の《ブラック・アメリカ》の生活と労働を描くのが目的である。本文中に書かれた事実は、最近の「アメリカの人種問題」の議論に明るい人には少しも奇異なものではない。しかしながら、事実の整理の仕方は、アメリカにおける一般の黒人生活の研究とは異なっている。

 『ブラック・アメリカ』はアメリカン・ニグロを、「社会的な問題(現象)」としてではなく、被圧迫民族として扱っている。

 黒人大衆がいかに勤勉で、いかに法律を守ろうとも、また、黒人の指導者たちがいかに優れた才能を有していようとも、黒人たちが現状に甘んじているかぎりは、アメリカの白人搾取階級は黒人たちを奴隷的地位にとどめておくであろう。本文ではこういう仮定のもとに論旨をすすめる。

 現代の帝国主義史の過程に関心を持っている読者は、本書が依拠している議論をよく検証しうるであろう。本書が仮定しているように、もし白人による黒人の服従と搾取が根本において経済的現象であるとすれば、問題の解決は経済的改革の分野に見出されるべきであろう。また、解放のためのたたかいが黒人自ら起らないとすれば、彼らが自らの理論的同調者を見つけ、科学的な運動方法をつくり出すことが早ければ早いほど、彼らは自ら求める解放をより早くかちとるだろう。フィリピン人や、プエルトリコ人、ニカラグア人、ハイチ人、キューバ人、メキシコ人たちは、大いに注意してこの書を読まれたい。本書の中に、アメリカの支配階級が他の従属民族を取り扱うさいに辿ると思われる先例の記述を見出すことができるであろう。

 帝国主義のために働き、戦い、そして代償をはらっているアメリカや、ヨーロッパ、アジア、アフリカの大衆 -- 白人、黄色人種、黒人 -- は、合衆国の所有階級の気質の一例として、また、アメリカン・ホワイトの搾取的活動を有利にしている被搾取階級の土地や労働に対する帝国主義的政策の一例として、『ブラック・アメリカ』から好資料を得るであろう。

 アメリカ黒人労働評議会、全米都市連盟。『クライシス』誌、NAACP、『レイバー・ディフェンダー』誌、ならびに写真・資料などを提供し、ご助言をくださった多くの両人種の黒人問題研究者諸氏に対し感謝したい。また、原稿をタイプし、校正し、索引をつくり、写真配列の労をとられたグレース・モウル女史に感謝の意を表する。

 

著者 スコット・ニアリング Scott Nearing 1883-1983

世界的に著名な経済学者、思想家、文明批評家。トルストイアン、米環境保全運動のパイオニア。1905年ペンシルバニア大学助教授の職を急進的思想の故に解任され、直ちに社会党に入党。1917年「平和と民主主義のための人民会議」議長。以後、一貫して反戦・反帝・社会主義運動に奔走し続けた。農園での自給自足生活を営みながら社会科学協会を設立、百冊近い著作を遺した。

解任したペンシルバニア大学は大学自身の過ちを認め、ニアリング氏には名誉教授の地位が与えられた。解任からすでに約60年後、90歳の1973年4月のこと。長生きはしてみるものである。

 

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