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フロントフォークのオーバーホール(準備)

フォークから出た汚れオイル

バイクに乗っていて、いつのまにかフロントフォークの継ぎ目からオイルがにじみ出て、汚れの輪が出来ていたのに気付いた・・なんて経験は誰しもあると思います。

これはインナーチューブが出入りする部分にあるオイルシールが劣化して、フォーク内部のサスペンションオイルが外に漏れだしているもので、そのまま放置するとサスペンションがうまく動かなくなるばかりか、タイヤやブレーキにオイルがかかって非常に危険。発見したらなるべく早く修理すべきですが、ここの作業には交換パーツ以外に少なくとも2種類の特殊工具が必要。そんなめったに使わないような工具をわざわざ高いお金出して揃えるくらいなら、最初からバイク屋さんに持ち込んだ方がずっと賢いでしょう。


でも「バイク屋さんに頼みましょう」とか「専用の特殊工具を買いましょう」などとわかりきった事をこういう個人サイトに書くのも芸がないし、ここはなんとか自力で解決する道を探ってみましょう。

もしツーリング先でフォークオイルが漏れはじめたら?
少々滲むくらいならいいですが、フォーク外側に流れ出すようではヤバイです。まずダストシール(いちばん上にはまっている黒いキャップ)を車載工具のマイナスドライバーなどでこじ開け、ポケットティッシュをよじったものを何本か作って中に詰め込み、上からダストシールでギュッと押さえて閉めます。これで多少の距離なら持つはず。また漏れてきたらティッシュをどんどん新しいのと詰め替えながら、なんとか自宅まで持たせましょう。

この他、オイルシールの接触部に上からグリスを薄く塗り込み、フォークを上下させて馴染ませると、少量の漏れなら短期間は持ちこたえてくれる場合があります。

オイルシリンダー(中子)の回り止め

特殊工具が必要とされる部分は、まず中子の回り止め

フロントフォークの内部にあるオイルシリンダー(中子)は、フォークアウターの外側先端からキャップボルトで締め付けて固定してあります。フロントフォークを分解するにはまずこれを外す必要がありますが、このオイルシリンダーはフォークの中で自由に回転してしまうので、ボルトを抜くにはオイルシリンダーが動かないよう固定する回り止めが必要になります。スプリングのテンションをかけた状態でインパクトレンチ等でダダダッと勢いよく回せば外れる事もありますが、年数を経たものは固くなっているのが多いです。それに前回作業した人が手抜きして、手締めでなくインパクトレンチで無茶な締め込みをしていた場合、相当固く締まっているので間違いなく空回りします。

マニュアルではスズキ純正の特殊工具「アタッチメントG」と呼ばれる臼状の六角金具を汎用T字ハンドルの先端に取り付け、これでオイルシリンダーを固定したうえでボルトを抜くように指示されています。このアタッチメントGは特殊工具の中では安い方で2千円少々、長めのT字ハンドルと合わせて買っても4千円前後で、これくらいなら自前で持っておいてもいいかなと思えるレベルですが、当のスズキもその都度製造を外注に依頼するらしく、たまたま在庫があった場合を除いて、バイク屋さんで注文して数日でポンと届くわけには行かないようです。

実はバイク屋さんでもこのスズキ純正工具アタッチメントGを持っている所は少ないんだそうで、作者のなじみのバイク屋でもつい最近まで置いていませんでした。なぜなら前述の通りインパクトレンチでダダダっと回せばたいてい外れてくれるし、他のメーカーの工具でもけっこうフィットする事が多いからわざわざスズキ用を買う必要性がないのです。このアタッチメントGも他の車種の各サイズに対応出来るよう、六角部分の大きさをいくつかに分けて階段のような構造にしてあります。

オイルシリンダー パイプ類 ソケットの六角部

BanditオーナーズクラブBands!からの情報によると、二面幅(六角形の平行な面どうしの間隔)が28ミリの六角ボルトがあれば代用可能とありました。オイルシリンダー上部は上の写真のようにメガネレンチ的なギザギザ状になっており、六角ナットがちょうどフィットするようになっているのです。
しかし、このサイズの六角ボルトやナットはホームセンターにもなかなか置いてありませんし、フォークの奥まで差し込むには何らかの方法で延長してやる必要があります。ナット類を金属棒の先端に溶接して回り止め工具を自作するという手法は個人サイトでも時々見ますが、近所にその手の板金工場等がある人はともかく、一般家庭レベルで溶接機を持ってる人なんかほとんどいません。リクツはわかるけど、そんな事気易く書かれても困るよナ〜って思っちゃいますよね・・。

そこで、ちょうど同じような六角形の断面を持つ水道配管用のパーツを使って自作する事にします。ただしこれは二面幅がわずかに大きい29ミリ規格なのですが、加工しやすい塩ビならヤスリ等で削ればなんとかなるでしょう。前述のBands!での情報提供者によれば、この塩ビパイプでも規定の締め付けトルクを十分クリア出来る強度が出せるそうです。

全体図 加工後の六角部 オイルシリンダーに接続

というわけで、さっそく作ってみました。塩ビ管パーツはホームセンターや工務店に行けば簡単に入手出来ます。

VP16というサイズ規格の塩ビパイプを長さ1メートルほどにカットし、片方にはT字ジョイント(チーズ)、もう片方に六角パーツ(ソケット)。ジョイント部分に接着剤を均一に塗って、コンコンと叩き込めばOK。接着は塩ビ専用の接着剤がホームセンターの塩ビパイプと同じコーナーに置いてあると思いますが、なければGクリアやG-17などのボンドでも大丈夫。
この自作工具のキモである六角部分はヤスリやナイフを使ってゴリゴリ削り、不要な先端のネジ部分はノコギリで切り飛ばします。
そして作業開始後約30分で完成、材料費はわずか500円で済みました。

必要なもの

(すべてホームセンターや工務店等で入手出来ます)

水道配管用のVP16塩ビパイプ
柄の部分として使います。長さ1.8メートルで300円ほど。実際に使うのは1メートル程度です。
同・VP16用ソケット
六角ネジ部のあるジョイントパーツです。50円くらい。
同・VP16用T字ジョイント
現場用語ではチーズとも呼ばれます。100円くらい。
塩ビパイプ用接着剤
小瓶で150円くらい。Gクリアなどのゴム系ボンドでもOK。
その他
カッターやヤスリ、塩ビパイプを切るノコギリなど。

塩ビパイプじゃなんだか不安だなぁという人は、金属配管パーツでも同様のものは作れるようですので、トライしてみてください。

オイルシールの打ち込み工具

もうひとつ特殊工具が必要な作業がオイルシールの打ち込みです。

リング状のオイルシールはフロントフォークアウター上部に圧入されていますが、外径がかなりタイトで、手で押し込んだくらいでは入ってくれません。それにシール部分はデリケートですから全周にわたって均一にまっすぐ打ち込まないと、すぐ傷んでしまいます。最初の頃にマイナスドライバーで無理やり叩き込んだ事がありましたが、やはり1ヶ月くらいでダメになり、またオイルが漏れてきてしまいました。

ここは通常オイルシール・インストーラー/ハンマーと呼ばれる、内径が自在に変えられる筒状の特殊工具を使って打ち込みます。

この手の話題をネットで検索すると「塩ビパイプや節を抜いた竹を差し込み、上から木槌で叩き込む」などとあります。しかし塩ビパイプは規格品なのでサイズ(太さ)が決まっており、残念ながらBandit250のインナー外径41ミリに合う太さの塩ビパイプはありませんでした。
じゃあ自然に生えている竹ならばと、メジャーとノコギリを持って竹ヤブに入り、内径41ミリ強で反りのない真っ直ぐな竹を探し歩いてみました。作者の住む鹿児島県には竹林が豊富にあり、竹材そのものはいくらでも手に入るのですが、きちんとしたサイズの竹となるとそう簡単には見つかりません。東北や北海道など竹林が少ない地方の人もおられるでしょうし、こんな再現性の乏しい手法では困ります・・。

足場用パイプ インナーチューブにぴったり オイルシールとも合う

メジャー片手に工務店やホームセンターをあちこち回って探した結果、工事現場で仮設の足場を組むのに使われる単管パイプがどうにか使えそうでしたので、さっそく1本買って帰り、Bandit250のお古のインナーチューブに差し込んでみました。

するとこれがじつにピッタリ! インナーが余裕をもって入れられる内径があって、オイルシールに当ててみても内縁部の軟らかいリップには干渉せず外側の固いリング部分にピタリとはまるので、代用品として申し分ないサイズです。しかもこのパイプなら全国どこでも同じ物が入手出来るはず。長さも1メートルものならかなり重く、ハンマーのようにシールを打ち込むには十分かと思われます。

問題があるとすれば、何しろ強度優先のガテンな足場パイプなので内壁は何も面取りされていないザラザラ金属地肌のままですから、このままインナーチューブへ差し込むと表面がキズだらけになりかねません。対策として、作業前にウエスか何かでインナーチューブを巻いて保護しておく必要があるでしょう。

必要なもの

(ホームセンターや工務店等で入手出来ます)

足場用パイプ
工事現場で仮設足場を組むときに使われる外径5センチ弱の亜鉛メッキの鉄パイプで、正式名称は単管パイプ48.6φ1メートルもので数百円程度。端に連結用のピンが入っていない素のタイプを使います。
くれぐれも工事現場や資材置き場などからギッて来ないように(^^;)

本作業開始

これで特殊工具の準備は整いました。自作でも純正購入でも、これらの道具を持てば「これでいつでも俺のバイクをバラせるぞ!」という自由さを感じる事が出来ますね。自家作業にはある程度のリスクも伴いますが、それ以上にこの自由な気持ちこそバイク趣味に不可欠な要素であると思います。

さて、準備が整ったらいよいよ本作業にかかりましょう。