アクエル防衛戦 #1


 
 惑星アクエル。惑星改造が完了し、正式に植民惑星として登録されたばかりの辺境域の星である。
 
 今から一月ほど前、最後の移民船が消息を絶ち、さらにアクエル太陽系を監視する宇宙ステーションが消滅するという事件が起きた。直ちに調査のために連邦軍が派遣されたが、残骸からは原因に関する情報は何も得られなかった。
 これらの事件について公式には、移民船はワープアウト時の事故、宇宙ステーションは融合炉の暴走と推定される事が伝えられ、たまたま同じ日に起こったに過ぎないとされた。
 もちろん連邦軍内部では攻撃を受けた可能性について様々なパターンが検討されたのだが、いずれも調査時点の状況とは異なる結果となる事が判り、原因不明の事故として処理された。
 
 そしてあの事件から10日後、突如として未知の敵がアクエルに攻撃を開始した。不意をつかれたアクエル駐留軍は敵を惑星上から撤退させる事は出来たが、もはやこれ以上の戦闘は不可能だった。
 今のところ、敵は駐留軍の反撃によるダメージを回復することを優先しているらしく、彼らが次の攻撃を開始するまでにはまだ余裕があるように思われる。だが、この星を居住可能な状態に維持している気象コントロールセンターが次の攻撃目標に含まれいる事は間違いない。もしセンターが破壊されるような事になれば、まだ環境が安定していないアクエルは短期間で居住不可能な惑星に戻ってしまう。
 この事態に連邦軍は特殊部隊“Black Lightning”をアクエルへ向かわせ、敵がアクエルに再び降下する前に撃退する事を命じた。
 
 しかし・・・
 
 
 
 
 
 
GXST-MW 3025:02:26:10:04
Planet AQUELL, LANER city.
被弾
 
ズン!
グリフ:
ぐっ!
この野郎ぉ!
 

 反射的にHMDに表示された弾道の先に攻撃を加えると、命中を示すマークが表示された。だが、どれだけのダメージを与えられたかは解らない。
 
グリフ:
(何だ、今のは!?)
 

 被弾した時点でシールドに異常は無かった。今も敵の攻撃を防御できている以上、シールドを消されているわけでもない。
 記録されているスキャンデータを見ると、シールドの影響を受けていない事が読みとれた。
 
グリフ:
シールドを貫通するのか・・・?
Ant 2:
隊長、これ以上もちません!
 

 モニターに全員の状況を表示させると、Ant2については赤く点滅する枠が危険な状態にあることを示していた。他にもかなりダメージを受けている戦車がある。
 
グリフ:
(新兵器か・・・このままではまずいな。)
前方にシールドを集中しろ、応戦しつつセンターまで後退する!
やばい奴は後ろに廻ってバリアを張れ!
 

 連邦ではシールドを貫通する兵器は知られていない。もちろんアイデアとしては存在していたが、開発は非常に困難だとされていた。
 この攻撃に対してはバリアが有効な防御手段だろうが、それではこちらからも攻撃出来ない。バリアは内側からの攻撃も遮断してしまう上、頻繁にシールドと切り替えられるようには出来ていないからだ。今はダメージを回復させられる場所まで移動し、体勢を立て直すしかなかった。
 
グリフ:
「クリスタルグリフォン」、こちら「アント」。気象コントロールセンターまで下がる。
メーベル:
了解しました。センター周辺空域には「ドラゴンフライ」がいます。
ドラゴンフライとのリンクはパターンA−7−Cを使用して下さい。
グリフ:
了解。
・・・よし、リンクした。こちらアント、ドラゴンフライ聞こえるか?
ニーナ:
こちらからもリンクを確認。現在そちらに向かっている。
グリフ:
急いでくれ。
 

 
 
 
 
 
 
GXST-MW 3025:02:26:10:28
Aquell space.
戦闘情報確認
宗司:
なぜこれだけの戦力が惑星上に展開している?
 

 敵の降下が予想より早かったとはいえ、既に大部分を撃退出来ているはずだった。ところが敵は時間の経過と共にその数を増し、今では苦戦を強いられている。
 しかも、敵の構成が駐留軍との戦闘が行われた際とは大幅に異なっていた。
 
渚:
報告では、敵が新兵器を投入してきたとの事です。
宗司:
新兵器?
渚:
シールドを貫通するらしいのですが・・・
 

 転送されたスキャンデータの分析結果が表示されたが、シールド貫通手段については[判別不能]となっていた。
 
宗司:
厄介だな。破壊力がそれほど無いのが救いか。
宇宙(こちら)の敵はどうなっている?
渚:
当宙域から撤退を開始した模様ですが、輸送艦と思われる艦が残っています。
 

 3Dプロジェクタで位置情報が立体化され、方向と速度が示される。
殆どの敵艦は戦域からの撤退を開始していたが、3隻が軌道上にそのまま残っていた。
 
宗司:
惑星上の戦力だけでセンターを破壊出来るとふんだか? しかし、妙な動きだな。
渚:
惑星上に撤退の動きはありませんし、軌道上から砲撃するという訳でも無い様ですね。
宗司:
敵艦の監視を強化しろ。 重力弾とクォークビーム砲をいつでも撃てるようにしておけ。
 

 本来なら光子魚雷で攻撃を行うのだが、今回のような状況では問題がある。たとえ破壊力を(敵艦を沈めうる)最小値に設定しても、爆発に伴って発生する猛烈な電磁波は地上の電子機器を破壊してしまう。もちろん電磁パルス等への対策がなされていれば話は別だが、よほど重要な物でもない限り民間の機材にそういった対策が施されている事は無い。
 その点、重力弾ならば設定範囲外にそのような影響が及ぶことは無い。それに、クォークビームの高エネルギーでシールドを消耗させてから使えば、威力を絞り込んで敵の動力部だけを破壊するような事も出来る。
 
宗司:
直ちに降下可能な隊は?
メーベル:
「モスキート」と「レディバグ」です。どちらも軌道上で待機中。
宗司:
よし、レディバグをサアム、モスキートをラウト南部の気象コントロールセンターへ降下させろ。
メーベル:
クリスタルグリフォンよりモスキート。
Rydel:
こちらモスキート。
メーベル:
ラウト南部の気象コントロールセンターに降下して下さい。現在センター付近でドラゴンフライとアントが交戦中。リンクパターンはA−7−C。
Rydel:
了解。
行くぞ! 全機エアバリア展開、目標に向かって急速下降!
 

 
 
 
 
 
 
GXST-MW 3025:02:26:10:52
Planet Aquell, RAUTO weather control center.
接近不能
Dragonfly 4:
これ以上はシールドが保ちません!
ニーナ:
D7へ退避!
 

 アントの支援を開始した時点では、敵の攻撃は無視しても問題無い程度の命中率だったが、今では極めて正確に攻撃を加えてくるようになっていた。しかも複数の敵から同時に攻撃を受けるため、急激にシールドを消耗してしまう。
 
Ant 3:
連中は対空が得意なんですかね。
グリフ:
そうらしい。地上(こっち)は正面から撃ち合っても大してダメージを受けないしな。
例の弾さえなければ押し返せるんだが・・・
Ant 2:
全員渡り終えたら橋を落としますか?
グリフ:
いや、連中も海を渡る位の事は出来るはずだ。やめておこう。
なぜ対岸に張り付いたままでいるのかは解らないがな。
 

 洋上に建設されたこのセンターの破壊を目的としているのなら、海を渡り、シールドを貫通する例の弾で攻撃しようとするはず。ところが、彼らは対岸に留まったまま動こうとはしなかった。
 
Dragonfly 4:
対岸に近づこうとすると、えらい勢いで撃ってきますね。
ニーナ:
あれじゃ近づけないわね。でも、どこかに穴があるはず。
 

 敵の位置情報を確認し、接近できる方向を見つけようとしたその時、警報と共にレーダー上に無数の光点が現れた。
 
Dragonfly 4:
リーダー、ミサイルです!
ニーナ:
な?! 一体どこから!
 

 突然空中に出現したミサイルはあらゆる方向からドラゴンフライに襲いかかったが、その殆どは撃ち墜とされた。シールドを貫通する攻撃の可能性があるため、ビーム系以外の攻撃は可能な限りシールドで受けない事になっている。当然、生き残ったミサイルにかなり厳しい追尾を受ける事になったが、これも何とか振り切れそうだった。
 やがて、振り切られたミサイルがセンターのシールドを突き抜け、そのままアント達の目前の海へ落ちていった。
 
グリフ:
(やっぱりか!)
ドラゴンフライがやばいぞ、あのミサイルを墜とせ!
Ant 4:
了解!
待ってろよ、つきまとってるアブナイ奴を退治してやるからな。
 

 地上からの攻撃で第一波のミサイルは全て撃ち墜とされたが、既にレーダー上には第二波のミサイルが出現していた。今度のミサイルは数こそ少なかったが、回避先を先読みしているような動きを見せた。
 
Dragonfly 3:
ちくしょう、逃げ切れない!
Ant 2:
たのむ、少しでいいから真っ直ぐ飛んでくれ。そっちに当てちまう。
ニーナ:
早くバリアへ・・・
え!?
 

 Dragonfly 3 へバリアでの防御を指示しようとした時、上空からの光線が次々にミサイルを墜としていった。
 
降下中
Rydel:
こちらモスキート、もうすぐそちらへ着く。それまで頑張れるか?
ニーナ:
急いで。こっちはあまり持ちそうにない。
グリフ:
こりゃ凄い、遠距離用を持ってるのか。
とにかく急いでくれ、連中はセンターよりも俺達に興味があるらしい。
 

 だが、その頃宇宙では敵が新たな動きを始めていた。
 
メーベル:
敵の輸送艦が降下を始めました!

(続く)

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