健康手帳 「めまい」
鹿児島建設新聞、私の健康手帳第83-86回 
 耳鼻咽喉科からみた「めまい」@〜C
  企画・取材 ライター 内村玲子様
  監修 清田耳鼻咽喉科院長 清田隆二

@耳の病気が原因で起こる「めまい」

 ひどい「めまい」が起きますと、つい脳の病気ではないかと心配してしまいますが、耳の病気から来る「めまい」も少なくありません。脳に異常がなかったら、耳の病気が原因ではないかも調べることが大切です。
 今から150年ほど前、パリの生理学者が鳩の耳を壊すと、鳩がふらふらして飛べなくなることを発見。耳の異常からふらつきや「めまい」が起こることがわかりました。
 また、メニエールという医師がめまいを訴えた患者さんの多くは耳が悪かったのではないかと気づき、そこから耳の病気が原因で起きる「めまい」の研究が始まったのです。
 「めまい」とは実際には自分や周囲が動いていないのに、動いているように感じる現象のことで、「回転性めまい」(頭がぐるぐる回る)、「浮動性めまい」(からだがふらふらする)、などの症状があります。特殊なものとして、「眼前暗黒感」(目の前がぼうっとなり、意識が遠くなる)を感じる患者さんもおいでです。
 耳鼻咽喉科に「めまい」のみで受診する患者さんはそれほど多くはありません。しかし、中には、耳鳴りや難聴・耳閉塞感などの耳症状がなくても、「めまい」の患者さんの聴力を調べてみると軽度の難聴が認められることがあります。この難聴は放置していると悪化することもありますので、軽い立ちくらみ程度の「めまい」でも注意しなければなりません。脳外科や内科で異常がなくても、一度、耳鼻咽喉科専門医を受診することをおすすめします。

A「めまい」に伴う症状に注意

 人の体は、視覚と、内耳にある三半規管や耳石器による前庭迷路感覚、体の筋肉や関節にあるセンサーから伝わってくる体性感覚という三つのアンテナによって、平衡に関する情報をキャッチします。
 これらの情報をもとに、脳は身体のバランスを保つための命令を出しているのですが、この平衡系のトラブルによって、「めまい」は起きます。その他、血液循環やエネルギー代謝など、言うまでもなく重要で、高血圧や糖尿病などにも注意が必要です。
 脳血管障害など脳の病気が原因である「めまい」と区別するには、「めまい」に伴う症状に気をつけることが大切です。脳の病気の場合は、激しい頭痛や手足・口周囲のしびれなどを伴っていることがあります。一方、耳の病気の特徴は次のとおりです。
【吐き気・嘔吐】
 「めまい」が起きるときに、吐き気や嘔吐、冷感、動悸などの自律神経症状がよくみられます。
【難聴・耳鳴り・耳閉塞感】
 「めまい」とともに「耳が遠くなる」「耳鳴りがする」「耳が詰まった感じがする」などの症状がある場合はメニエール病などが疑われます。
 また、耳の病気から来る「めまい」には、リストラや介護などの問題を抱えた大人や、友人関係に悩む子供たちなど、生活上のストレスが背景に起きることが最近は多くなっているようです。

B「めまい」を起こす病気の特徴

 「めまい」を起こす代表的な耳の病気と、それぞれの特徴をご紹介します。
【メニエール病】
 典型的な場合、回転性の「めまい」を繰り返し、「めまい」以外に耳鳴りや難聴を伴います。吐き気や嘔吐、冷や汗、血圧の変動などの自律神経症状も起きます。「めまい」を放置していると、次第に聴力が悪くなります。
【良性発作性頭位めまい症】
 頭をある特定の位置に動かしたときや、寝返りを打ったときなどに、回転性のめまいが起きます。吐き気を伴うことがありますが、耳鳴りや難聴は一緒に起こりません。運動不足や長時間のパソコン作業など、頭部の動きが少ないとき起きやすいようです。
【めまいを伴う突発性難聴】
 ある日突然、耳が聞こえなくなり、激しい回転性のめまいを伴う場合があります。内耳のウイルス感染や血流障害が原因として考えられています。めまいは治まりますが、聴力は早く治療しないと戻らないことがあるので注意が必要です。
【前庭神経炎】
 ある日突然、激しい回転性のめまいが起きますが、通常、耳鳴りや難聴は伴いません。風邪のあとに起きることが多いようです。
そのほか、横になった状態や座った姿勢から急に立ち上がったときに「めまい」が起きる、「起立性調節障害によるめまい」などがあります。

C「めまい」の原因を知るには

 耳の病気が原因で起きる「めまい」の検査には、詳細な問診や専門の機械を使うものなど、幅広いものがあります。
 あなたの「めまい」の症状は、ぐるぐる回るものでしょうか?ふらふらしていますか?それとも目の前が真っ暗になりますか?また、「めまい」は安静にしているときにも起きますか?動いた拍子などのきっかけがありますか?そのほか、「めまい」に伴って起きる症状や、自律神経失調や神経質かどうかについての細かい問診も診断にとても役立つ情報です。
 ふらふらする「めまい」であっても、耳の病気が原因であることも少なくありません。耳鼻咽喉科では「聴力検査」のほか、目玉の揺れを調べる「眼振検査」や、全身のバランスをみる「足踏み検査」、寝た状態から立ったときへの血圧変化を計る検査など、さまざまな角度から「めまい」の原因を探ります。
 「めまい」で内科を受診したら、血圧は正常で貧血などもない。脳神経外科では脳に異常がない。そう言われてもめまいが続くしどうしよう。そんな時、一度、耳鼻咽喉科専門医を訪ねてみてはいかがでしょうか。
 加齢による難聴と耳の病気による難聴が重なり、ことばの聞き取りが悪くなった場合、補聴器で聴力を補うことが難しくなります。難聴や耳閉塞感、耳鳴りなどの耳の症状がある場合はもちろん、ふらふらする「めまい」だけの時でも、ほったらかしにしないことが大切です。