リカルド”Finito”ロペス

まるで感情のない機械と戦ってるようだった。

目つきをはじめ、ロペスの威圧感は尋常なモノじゃなかった。

単にディフェンスが上手いと言うだけじゃなくて、
相手に遠くにいるような印象を持たせる何かがあって、
パンチを打とうとすると、その前によけられてるような気がしてならなかった。

リング上で初めて、今までと違う光景を見る思いがした。

(大橋秀幸/元WBA&WBC世界ストロー級王者)

ボクシング普及委員会がお送りするSo Sweet Boxers/魅力だらけのボクサー達。いちいち書くと長いので、管理人としてはSSB(エスエスビー或いはダブルエスビー)の愛称で親しまれていきたいと思ってます。

そんなSSBのセカンド・インパクト。それがこのリカルド・ロペスです。
ニックネームの”Finito”とは「上質な」「精緻な」といった意味になるそうで、ロペスを表現するにはピッタリの言葉でしょう。 WBC王座を、既に20度も防衛しています。

ロペスは現在46戦無敗35KO。アマチュアでも40戦無敗。
驚くべき事に生まれてから今まで、負けというモノを知らないのです。
どんな名チャンピオンでも、アマチュアでは負けています。ですからプロ、アマを通じて勝ったことしかないという事から、ロペスの尋常ならざる強さは、ある程度ご想像いただけるかと思います。

ハメドのボクシングが異端を極めた悪魔のボクシングなら、ロペスのそれはボクシングが追い求めてきた理想を見せる、言ってみれば神のボクシングです。

ロペスはゴングが鳴る前からガードを上げます。完璧主義なのです。
(常軌を逸して鋭い目つきにも注目です)
距離を保つフットワーク正確無比のブロー
左で確実に相手を突き放し、自分のパンチだけが当たる距離を常にキープします。

良く伸びるロングの左フック。天を突く、美しいほどの左アッパー。
打ち合いになればインサイドアウトサイド、縦横無尽の打ち分け。
相手は何もできません。

究極まで研ぎ澄まされ、一切のムダを切り捨てた動きは機能美という美しさの枠に入れられますが、ロペスのボクシングは正にそれです。

純粋な機能美で構成された、見ていて溜め息が出るほど美しいボクシング。
「機能美」も芸術の範疇に属するというなら、ロペスは歴史に名を残す芸術家。
暴力的な匂いのするそれとは一番遠いところにいる、不思議なボクサーです。

ロペスはストロー級という最軽量級の選手でありながら、ワンパンチで相手をKOしてしまいます。
しかしそのパンチはタイソンのような「破壊する」ものではなく、むしろ「断ち切る」ようなパンチです。
ロペスのKOパンチをもらった相手は、糸が切れたようにぷっつりと動けなくなってしまいます。

15度目のアラ・ビラモアとの防衛戦では、左のロングアッパー一発でKOしました。
手を伸ばしただけのような左でしたが、ビラモアはパンチをもらった後、一拍おいてからストンとその場に崩れ落ち、そのまま仰向けになってしばらく動けませんでした。
セコンドに付いていたジョー小泉氏は「あんなのアリか」と思ったほどのブローだったそうです。
「急所に当たれば一撃で倒せる」という見本のような、絵に描いたようなKOシーン
ここまで鮮やかにやられてしまうと、負けた方も悔しいとすら思えないのではないでしょうか。

これがロペスの宝刀・左アッパー。こんなのをもらったら一たまりもないです。
漫画「はじめの一歩」には、ロペスをモデルにしたリカルド・マルチネスというボクサーが登場します。
普通マンガというのは大げさに表現するモノで、モデルがいたとしてもそれは原型を10倍くらい拡大したような、人間離れしたモノになってしまいがちです。絶対に実物よりマンガの方が強い、というような。
ですからこのマルチネスというのも、人間離れしたパーフェクトなボクサーとして登場します。

しかし、ロペスとマルチネスを戦わせれば絶対にロペスが勝つと断言できます。
それほどにロペスの強さは群を抜いているのです。

強い、というのは的確な表現ではないような感じがします。
「強い」というと何か肉体的な感じがしますが、ロペスのボクシングは「純粋な」とか「綺麗な」という表現がふさわしく、「肉体の臭い」のする範囲を超えた所にいるような気がするのです。

人間の手ではどうしても純粋な直線や円は描けないように、ボクサーもなかなか理想通りの技術は身につきません。人間の肉体の限界が、微妙なズレや不正確さを作ります。
数式や理論のカタマリのようなボクシングの理想。いかにしてそこに近づくか。いわばどこまで人間臭さを捨てるか。それがボクシングを進化させる上でのキーワードだと思います。

そして従来のボクサーが想像していた到達点の限界、それを超えたのがロペスのボクシングなのではないかと。
大橋選手が見た「今までと違う光景」とはそういうモノだったのではないでしょうか。
肉体の限界を越えたところに棲む神々しいスキル、それを操る彼は、つまり神域のボクサー。

日本で大橋秀幸選手からベルトを奪って以来、ロペスは7年以上も王座を守ってきました。
今年で32になります。
ボクシングは限られた期間しかできないスポーツ。
ロペスの披露する神のボクシングを見られる時間も、残りわずかでしょう。

ですからみなさん、ロペスが現役でいるうちに、早くボクシングファンになりましょう。

長〜い距離のボディ。これが入るんですからスゴイです。

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